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2003年03月01日〜31日

S.S☆「栄光の味」☆     あや太郎



 太郎は今日もまた寝ころがってテレビを観ていた。人気絶頂の女優が画面に映って
いた。彼の大好きな女優だった。

「いいなぁ。あんな女を愛人にしたいものだ」 貧乏な独身男がそんな夢みたいな事
を呟いていた。

 続いてテレビには今売出し中の女性アイドルがCFギャルとして登場していた。こ
の子も太郎の好きなタイプだった。

「可愛いなぁ。この子も恋人にしたいもんだ」

 移り気なようだが、その場限りの思いつきでもなかった。毎回テレビで見かけるた
びに心底そう思うのだ。そして彼の部屋には彼女たちの写生画が所狭しと並べられて
いた。彼の卓抜した審美眼が選んだのだから世にも稀なる美女たちに違いなかった。

 日ノ本太郎は画家の卵だった。美大でもその才能を認められ、アマチュアの絵画展
にも何度となく入選した。当然意気揚々と彼はプロの芸術家を目指した。

 しかしプロの世界は甘くなかった。どの業界でもそうであるようにコネとカネと運
が物を言う世界だった。

 自分の実力や個性には並々ならぬ自信を持っていた。時代を先取りした、その先鋭
な画風はいつか必ずや受け入れられるはずだ−−そう信じてはいたが、それがいつか
は分からなかった。

「天才肌の芸術家が広く認められるのは大抵死んでからだ」

 そんな先輩たちの言葉が彼の背筋を薄ら寒く駆け降りた。

太郎には身近にも恋の対象があった。

 美大で同期だったA子である。なかなかにイイ女だった。テレビを通して憧れてい
る女優やアイドルたちに勝るとも劣らない魅力を持っていた。

 学生時代から積極的に口説いてはみたのだが志の高い彼女はなかなか振り向いてく
れない。そうこうする内、絵の勉強のため、ヨーロッパへ留学してしまった。今はも
う年に一二度だけ届く絵はがきが彼女と太郎を結ぶ細い絆だった。

「スターやアイドルどころか、身近な女さえ落とせない」

 太郎はタメ息をついた。

 いや、落とせないのは女ばかりではなかった。

画壇の評論家も街の好事家たちも、彼の自信作でなかなか「落とす」事が出来ないで
いた。

「売れない−−−目が出ない−−栄光を掴めない」

 自分の作品に自信はあるのだ。しかし世間に認められるまでの道のりは余りに長
かった。そして心をよぎるのはまたあの「死んでから認められる」芸術家の定めだっ
た。

「もうイヤだ。こんな日々には耐えられない。じっと売れるのを待っているだけなん
て真っ平だ!」

 よく考えれば、死んでから売れたって喜び様がないではないか。

 そんな「死後の評価」のために、貧苦に喘ぎながらコツコツと作品を描き続けるの
が腹の底からイヤになった。

「神様−−いや、悪魔でも良い−−−誰か俺の芸術家としての結果を見せてくれ。こ
の先、何十年も不遇をかこい、苦労する時間を省略してひとっ飛びに結果だけ見せて
くれ。そうすれば俺はもう命は要らない。何も要らない。あの世でおとなしく結果だ
けを見て満足する!」

「よし−−それなら見せてやろう」

 突然、目の前が暗転し、あろう事か悪魔が現れた。

「お前は類稀なる才能の持ち主だ。それに免じて未来を見せてやろう」

「ほ、ほんとか?」

「但し、未来を見てしまったら、それはもう過去の事になってしまう。つまりお前は
もう後戻りできないし、人生をやり直す事はできないぞ」

「そ、それは覚悟の上だ。俺はもう待つのに疲れた。結果だけを見たいんだ。それが
出来ればもう命も要らない。人生のやり直しができなくても良い」

「よし。いさぎよい決意だ。そこまで言うのなら見せてやろう。ほら−−」

 太郎の目の前に自分自身の姿が幾つも映し出された。マルチ画面を見るように、
様々な年代の出来事が重なり合うように展開してゆく。しかもその一つ一つが、卓抜
した太郎の芸術的な感性には鮮やかに読み取れた。

−−あのあと数年もたたぬ内、太郎の絵は世間に認められ、やがて専門家も後追いな
がら褒めちぎ始める。絵は売れに売れ、太郎は栄耀栄華を極め、財を成し、一家を構
え、留学先から立ち戻った彼女と晴れがましく華燭の典を挙げた。

 いよいよ各界から引っ張りダコとなった太郎は、いつしか芸能界にも出入りし、あ
の憧れの女優やアイドルたちと次々に浮名を流す。そんなこんなで好き勝手し放題の
人生を送った末、百才で天寿を全うした彼を、どんな浮気にも愛想を尽かさなかった
愛妻と子供たちが懐かしく偲ぶ。

「我がままな人だったけど、憎めない人でした」

 世間も同様の評価を与えつつ、偉大な芸術家で自由人だった太郎を追悼した。かく
して彼の名は日本の歴史にサン然と輝き続ける−−−−そんな一部始終を目の当たり
に見ながら、太郎本人はもちろん何一つ、実感する事も体験する事もできなかった。

「チクショー…みすみす栄光を逃してしまったのか!」

 その口惜しがり方を悪魔がカゲから覗き見ていた。

「ケッケッケッ−−実はあれはニセの映像なのさ。あんまり淋しい結果だと可哀相だ
からお情けでウソの良い夢を見せてやったんだ。しかし、やっぱりああいう口惜しが
り方を見てると我々悪魔は血が騒ぐな。最高の健康法だぜ。いやぁ、やっぱり人には
親切にするもんだな…ケケケ」

 しかし悪魔が笑いをかみ殺していると、太郎の表情がいつしか和らいで来た。

「そうか…あれだけの栄光を掴んだのか。よく考えれば、俺も捨てたもんじゃなかっ
たんだな」

 一転、太郎はホクソ笑み、何やら楽しそうに「あの世」の闇の深淵へと消えてし
まった。

「しまった−−−本当に良い思いをさせてしまった。口惜しい〜…あんなもの見せる
んじゃなかったぜ。全く悪魔が仏心を出すとロクな事が無い…」

                      (完)

2003年03月30日22時16分13秒投稿

S.S☆「放送禁止惑星」☆     あや太郎



 地球人が銀河系連邦に加入し、島宇宙内を

手軽に観光旅行するようになって数百年がたった。当然のように今や興味の対象は、
まだ誰も行っていないような「穴場」の星々となっていた。

 折しも銀河系内の「秘境」と呼ばれる宙域の探査が進み、将来観光地として有望な
新発見の惑星が全銀河にテレビ中継される所である。

 そして連邦テレビ局が派遣した中継用宇宙船が今しもその未知の惑星をカメラに捕
らえようとしていた。



「遠くにボンヤリと見えて来たのが、話題の惑星です。気候温暖、風光明媚
地球人を始め大方の知的生


命にとって理想的な観光地、保養地になる事は間違いないでしょう。微かにピンク色
がかった惑星の姿が近づいて参りました。間もなくその全貌が明らかになります−−
−−ザー…」

 ここで何故か地球方面のテレビ放送だけが中断された。

 当然ながら、惑星連邦テレビ局にはヤンヤの抗議が−−−−

「局長−−苦情通信で回線がパンクしそうです」

「視聴者からのクレームだけではありません。国連政府からも、地球だけ中継電波を
切るとは重大な差別だと厳重抗議が…」

「ふむ、弱ったなぁ。別に差別をしてる訳じゃない。むしろこれを放送したら地球が
混乱すると思っての措置なんだが…」

「でも、いまだにそんな事が問題になるんですかねぇ?」

「一部の国々じゃ公序良俗に反するという事になってるんだが−−」

「そんなこと言ってちゃ、いつまでも表現の自由は確立されませんよ。地球人を啓蒙
するためにも、思い切って放送してみてはどうですか」「ふむ、君の意見も一理あ
る。よし、思い切って電波を流してみよう」

 果して突如復旧した中継画面に全地球がどよめいた。

−−−そこにはタテに走る黒ずんだ赤道地帯とその両脇にモヤモヤと立ちのぼる様々
な色のオーロラに縁取られ、ぬめりとしたピンク色に輝く新惑星が映し出されてい
た。

 ひとしきり紛糾したあと、地球連邦は他の知的生命への体裁もあり、この映像の放
映をしぶしぶ許可した。

「致し方ない。地球人が後進種族と思われては困るので、今回は特別に目こぼししよ
う」

 のちにこの星が「おめこぼし」と名付けられたどうかは定かではない。

                      (完)
2003年03月23日23時30分45秒投稿

S.S☆「モンタージュ焼き」☆     あや太郎



「新しい商売を始めようと思うんだ」

「どんな商売だい?」

「特技の似顔絵を活かして−−−食べ物屋を開くつもりなんだよ」

「似顔絵で…食べ物屋?」

「うん。手軽に出来るファーストフードの店なんだけどね」

「何を出すの?」

「鉄板に色々な具を並べて焼き上げて行くんだよ」

「お好み焼きかい?」

「いや、単に焼いて食べるんじゃなくて、食材を利用して鉄板の上に絵を描きながら
食べさせようと思ってるんだ」

「ふーん。新種のピザってとこか?」

「いや、どっちかと言うとモンジャ焼きだな」「何でモンジャ焼きなんだよ。あれだ
とグジャグジャになるから描きにくいだろうが」

「いや、人の顔を描くからモンジャ焼きなんだよ。モンタージュ焼きってね」

「なるほど。こりゃ受けるかも知れない」

 果して、モンタージュ焼きの店は予想通り繁盛し、、詰めかけた客は鉄板の上の
〔福笑い〕を見て大いに楽しんだ。問題は、それが誰のモンタージュかという点なの
だが…。

                      (完)
2003年03月19日23時51分32秒投稿

S.S☆「呪いのダイヤ」☆     あや太郎



「五百万ドルから始めます。五百万…五百万…五百五十…五百八十…六百…六百五
十…七百…八百!…八百あるか?…九百が出た…九百、九百…一千万!…ついに一千
万ドルが出

ました。もうありませんね
落札〜!」


 ついに噂のダイヤが一千万ドルの値を付けた。落札した業者は出資者と手を取り
合ったまま会場の拍手に顔面を紅潮させていた。

 「呪いのダイヤ」−−−それがこの曰く付きのダイヤモンドに付けられたあだ名
だった。なにせこの十年間だけで五回ものオークションに掛けられている。そしてそ
の度に新しい持ち主が急死しているのだ。

 しかし不思議なのはそれほど縁起の悪いダイヤにも関わらず、オークションのたび
に値が上がって行くことだった。それは百カラットという大きさに加え、一つの石で
ありながら、赤・青・黄の淡い光を放つ世界に一つのトリコロール・ダイヤだったか
らだろう。

 今日も世界中から集まった大金持ち、業者、投資家たちの激しい競り合いの末、米
国の一業者がこの「呪いのダイヤ」を手に入れた。そして握手攻めにあうその業者を
遠くから見つめる一人の高名な心理学者がいた。

「先生−−このダイヤの呪いを解明するとおっしゃってましたが、如何ですか?」

 興味津々に取材者が訊く。

「ハッキリ言って−−解けましたな。やはり思った通りだった」

「とおっしゃいますと、何が呪いの原因だったんですか?」

「ストレスだよ。余りにも高額で競り合った際の緊張感と恐怖感が持ち主の寿命を縮
めるんだ。気の毒だが、あの新しい持ち主も早晩命を落としそうだね」

「何て事だ!でもそんな事ぐらいで次々に人が死んだりするんですか?たかがお金の
事ぐらいで…」

「たかが金と言うなかれ。されど金だよ。死亡率は金額に比例する。つまり自分自身
より値打ちのある物を取り引きする時、人間はそのストレスに耐えられなくなって憤
死する……これが私の〔命の値段〕理論だ」

「自分の命より高額の物を扱うとストレスで死ぬという訳ですか…。何だか悲しいよ
うな理に叶っているような…」

「そんな物だよ。人間とは弱いものだ。そう思わんかね、ハハハハハ」

「先生−−−大変です…」

 その時、助手が飛び込んで来た。

「先生の別荘が…全焼してしまいました!」

「何?…十万ドルで新築したばかりの別荘が…!」

 聞くが早いか、学者は心臓発作を起こし、あえなく頓死してしまった。

「やっぱり正しかったんだなぁ、あの理論…」

                  (完)
2003年03月17日23時09分22秒投稿

S.S☆「大型契約」☆     あや太郎



「我が都市は財政赤字に苦しんでおる。何とかして再建策を立てねばならん」

「市長−−いっそ正直に市民に話し、寄付を仰ぐという手はどうでしょう?」

「頼んで寄付してくれるぐらいなら苦労はな

い。正規の税金さえ何のカンの理由を付けて払わんのが市民であり国民なんだから、
とてもそんな見込みはない」

「ならばどうしましょう?超緊縮財政で福祉などの行政サービスは一切廃止するとか
?」

「それでは轟々の非難が起きる。だから民衆は厄介なんだ。第一そんな不評を買うよ
うなことをしたら、次の選挙で我々はボロクズのように捨てられてしまう。あくまで
も愛想よく振る舞いながら、赤字財政を建て直さなければならないんだ」

「そんな都合の良い手だてがあるんですかねぇ。市民も得して、赤字も無くなるなん
て…」

「いや、みんなが得する方法なんてのは無い。ただみんなが得したような〔気にな
る〕方法は無くもない」


「つまり騙し作戦ですね。それはどんな手ですか、市長?」

「市民生命保険だよ」

「市民生命保険?何です、それは?」

「市民全員にまさかの時の為の生命保険を掛けて上げるというサービスだよ。無論、
公費でね」

「公費で?そんな事をしたら余計赤字が増えるじゃないですか」

「実は二重保険なんだよ。万が一の場合の受取人も、表向きは家族の者−−−然して
その裏では市役所と市長。つまり万が一の事があった場合には、市のほうに保険金が
下りる事になる」

「何やらオドロオドロした企画ですが、どっちにしても掛け金を払う市の財政はパン
クすること間違いなしですよ」

「そりゃあ市民全員が無事ならね−−」

 間もなく、この都市では事故、災害が頻繁に起こるようになった。

 その度に市の財政も徐々に好転して行く。

「上手く行った。これでこの都市も安泰だ」



「でも市長
本当にこれで良いんですか?」「他にどんな手がある?行政サービスも福祉
サービスも市民


生活にとっては欠かせないものだろうが」

「それはもちろんですが…」

「ならばこれしか無いしどゃないか。自らの命を以て自らの命を維持する。これが自
然の摂理というものさ。都市はもはや一個の生き物……いや、集合生物なのだから
な」

                      (完)

2003年03月13日22時47分46秒投稿

S.S☆「オヤジ狩り」☆     あや太郎



 酔っぱらいがフラフラと夜道を歩いていた。そこへ近辺の不良グループがどこから
ともなく現れ、取り囲む。

「酔っぱらってやがる。みっともないオヤジだぜ。酒は身体に良くないって教えてや
ろうよ」 ふところの財布が授業料という訳だ。

 不良連中が今しも手を振り上げ、足を蹴り上げようとした刹那、その小柄で一見
弱々しそうな「オヤジ」がドスの利いた声で言った。

「ヤメとけよ、ガキども。怪我するぜ」

 ギョッとして不良が動きを止めた。

「お前らが評判のオヤジ狩りグループか。俺を狙ったのが運の尽きだな。おれが誰だ
か知ってるのか−−ウィ〜」

 酒の勢いもあって力んでいる。

「なにを強がり言ってんだ。お前みたいなチンケなオヤジに何が出来る…」

 気の短いのが二人ばかり殴りかかろうとした時、その腕を誰かが掴んだ。

「イタタ…何しやがる?」

 振り向くと見上げるような大男が二人、チンピラ少年どもを吊り下げる程の怪力で
ねじ上げていた。

「お前らこそ何をしてるんだ。大丈夫ですか、鬼熊組の…」

「あぁ、あんたたちは竜神組の…」

「えっ、このオヤジ、組の人?ヒャ〜…助けて〜…」

 死に物狂いというのは恐ろしいもので、少年たちは必死で手を振りほどき一目散に
逃げてしまった。

「有り難うよ、赤虎組と龍神組の先生がた」

 オヤジは、体操の先生たちに礼を言った。

「あんな札付きの不良どもに啖呵を切ったりしちゃ危ないですよ、鬼熊組の」

「いやぁ、後ろに鬼熊組がついてると思うと、ついつい気が大きくなっちゃってね」

「それにしても、あの連中ビビって逃げて行きましたよ。こういう組の名前にしとい
て良かったですな」

「本当だ。孫をあの幼稚園に入れといて良かったよ」

                      (完)

2003年03月11日22時39分38秒投稿

S.S☆「伝書バト」☆     あや太郎



 ペットが誘拐された。毛並みの良いペルシャ猫一匹−−と言ってもそれほど高価な
物ではなかったので、単なる猫好きの犯行かと思いきや身代金が要求されて来た。

 その額、何と一億円!

 飼い主は大富豪の未亡人で、その猫は子供の居ない夫人がわが子のように可愛がっ
ていた猫なのだった。

「上手い所に目を付けましたねぇ。夫人は身代金を払うつもりですよ」

「ふむ。犯人も、誘拐されたのが猫では警察

も本気で捜査しないだろうと多寡をくくってるな。よし、意地でも犯人を捕まえてや
ろう」

 最初の指示が来た。目印を持って、公園へ来いと言う。

 間もなく黄色いハンカチが送られて来た。未亡人は目印のハンカチを腕に巻き、公
園のベンチへ座った。

 変装し、物陰に隠れた捜査陣だったが、人っこ一人現れない。代わりに犬が一匹ト
コトコ 歩いてきた。鼻をくんくんさせている。未亡人のそばへ来ると、手に持った
ハンカチをもう一度クンクンと嗅ぎ、犬はそのままベンチの側へお座りした。

 ふと見ると首に巻いたリボンに紙切れが結わえてある。外せば、案の定一枚のメモ
が…

「公園の北隅の電話ボックスへ行け」と書いてあった。

 夫人が行ってみると、何と電話ボックスの中に猿の縫いぐるみが一匹−−メッセー
ジは無いがその手と指が斜め上のほうを指している。

「指の先と言うと−−」

 街灯が立っていた。そして中程に鳥籠が一つ−−籠の中には一羽のハトとメッセー
ジが−−−「しばらくこのハトを可愛がってやれ」とだけ書いてある。

「犬、猿、鳥−−桃太郎か」

よく分からないが指示の通りにするほかな

い。未亡人と捜査陣と取り敢えず鳥籠を持って引き揚げた。

 間もなく犯人から電話で指示があった。

「一億円のダイヤを、ハトの足に結びつけて放せ」

 足輪こそ嵌めていないが、伝書バトらしい。 関係者は必死でダイヤを探し回っ
た。不景気な時代、こんな高額なダイヤも滅多に無いものだが、夫人宅に出入りして
いる業者が一個だけ所有している事が分かり、調達した。

「上手い事を考えて来ましたね。こりゃ追いかけるのが大変ですよ」

「感心している場合じゃない。ヘリコプターを用意しろ。それからハングライダーの
出来る警官を一人二人−−」

 ハトを放した途端に大追跡が始まった。しかしハトは結局どこかへ飛び去り、行方
も持ち主も突き止められぬまま、捜査は頓挫した。しかも誘拐された猫はアッサリと
返還され事件そのものが立ち消えの様相を呈してきた。

「一億円もするダイヤなら、簡単には売りさばけないはずだ」

 鑑定書をチェックしていれば必ず売買の関係者が割れる。警察は「裏ルート」も含
めて徹底的にダイヤの行方を探した。しかし待てど暮らせど手掛かりは得られなかっ
た。

「おかしい。犯人はじっと潜伏しているのだろうか?それともダイヤ自体が狙いだっ
たのだろうか?」

「でも、犯人は別にダイヤの種類を指定して来た訳じゃないですからね…」

「そうなんだ。じゃあ一体犯人の目的は何だったんだ?」

「やっぱり一億円を手に入れる事ですよねぇ」「そうだ、一億円が目当ての筈なんだ
が…。とにかく今の手掛かりは伝書バトだけだ。登録名簿を片っ端から当たれ。動物
に詳しい人間もリストに挙げろ。それにしても犯人は今頃どこかで高笑いしてるんだ
ろうなぁ…」

 そしてその頃、一人の男が苦笑していた。

「警察は高笑いするほど儲けたと思ってるんだろうなぁ」

 男は高級スーツに身を包み、何食わぬ顔で店先に立っていた。

「元を取るために、手の込んだ事をする場合もあるのさ」

 それは他でもない−−−売れ残っていたダイヤを処分できて一息ついている宝石商
だった。「こんな伝書バトを見つけたら、早速警察に ご一報−−」

 目の前のテレビ画面には「シャム猫誘拐事件の一部始終と例のハトの写真が長々と
映し出されていた。

「そう思ってくれてる間は捕まらないだろう。ウチへ戻ってくるようなハトじゃな
し」

 公園で捕まえたタダのハトを伝書バトだと思い込んでくれたのだ。

「それからもう一つ−−オレは動物好きでもないからな」

 攪乱戦法は今のところまんまと成功しているようだった。

                      (完)

2003年03月05日23時00分55秒投稿

S.S☆「遺伝子治療」☆     あや太郎



 金はあるが肉体に自信の無いおとこがいた。具体的に言って下半身に自信が無かっ
た。「金を稼ぐことばかり考えて働きすぎた結果だ」

 そんな空しい言い訳で自分を納得させていたが、その面で画期的な治療法が実用化
されたと聞き、矢も楯もたまらず駆けつけた。

「最先端の遺伝子治療でしてね、弱い部分に強い遺伝子を補う、遺伝子組み替えの技
術を駆使しており、効果は絶大です」

「能書きは良いから、試してみてくれ」

「それでは、バイアグラ遺伝子を組み込んでみましょう」

「おぉ、いかにも効きそうだ。でも見かけだけじゃ困るよ。実質が伴わないとな」

「それではタネ馬から抽出した、絶倫遺伝子も組み合わせましょう。これで機能的に
は万全です」

 治療は成功し、男は早速風俗の店へと繰り込んだ。しかし興奮の極で−−

「アッ…」

 心臓発作を起こし、病院へと運びこまれた。

「心臓が少し弱かったのを忘れてた」

「なるほど。それでは激しい興奮には耐えられませんな。しかし大丈夫−−心臓強化
遺伝子を組み込めば、これぐらいの興奮では何ともありません。それでは−−」

 治療も無事終わり、男は再び風俗ギャルのもとへ駆けつけた。しかしまたまた興奮
の極に達すると−−

「アッ…」

 意識を失い病院へ−−−

「軽い卒中でした。血圧が高かったようですね」

「卒中と言うことは、下半身に後遺症が…?」

「いや、それは無さそうです。それに脳の毛細血管を強化する遺伝子を組み込めば
少々の刺激ではビクともしません。ついでに内蔵や免疫機能を強化する遺伝子も組み
込んでおけば安心この上ないですよ」

「ぜひともお願いする」

 男は勇躍、夜の街に繰り出し、その筋の彼女に挑みかかった。そして興奮が極に達
した時−−

「アッ…!」

 背中に激痛が走り、体が動かなくなった。病院に運ばれるまでもなくギックリ腰
だった。

「これはかなり重症のギックリ腰ですね。以前から悪かったんですか?」

「最近出なかったんで忘れてた。もっと早く治しておけば良かったよ」

「本当ですよ。かなりひどい状態ですな」

「それじゃ早速、ギックリ腰矯正遺伝子でも組み込んでくれ」

「そんなもの有りゃしませんよ。怪我や骨折を遺伝子治療したって手遅れですから」

「じゃあ、どうすりゃ良いんだ?」

「そうですねぇ−
腰を無理させないようにするほかないですねぇ」


「ゲッ−−じゃあ−何もせずに余生を送れってのか?」

「そうしないと、またすぐ身動きできない身体になってしまいますよ。あ、それか
ら、思いつく限りの遺伝子治療をしたので、それ以外の健康状態は抜群です。少なく
とも、あと百年は生きられますよ。おめでとうございます」

「ギクッ…」

 身動きもしないのに、男の腰はどうしようもなく疼いていた。

                  (完)

2003年03月03日23時22分24秒投稿

S.S☆「人類救済」☆     あや太郎



 かつてイヤと言うほど映画や小説の中で描かれた「地球滅亡の危機」が本当にやっ
て来た。太陽の核融合反応が異状を来たし、本体が急速に膨張して一時的ではあるが
膨大な光と熱エネルギーを発散する事が判明したのだ。時間的にはせいぜい一時間−
−−そのあと太陽はまた収縮し、活動は沈静化するらしいのだが、その一時間の間、
地球は高エネルギーに晒され燃え上がる。ちょうど電子レンジに一時間ほど入れられ
たと同じほど加熱される計算だ。これではどんな地下深くのシェルターでも蒸し焼き
は免れない。ましてや人類の多数を地球外に避難させる技術はまだ無かった。

「どうすべきか…?一定数の若者をロケットで避難させ、地表が冷えた頃にまた戻っ
てくれば、種の保存は何とかなるが、それにしても人類の99%は見殺しだ。何とも
切ない話ではないか」

「他に地球を救う手だてはないのだろうか?自然界のなすがままになって甚大な犠牲
を甘んじて受けるだなんて…。本当に何か良い方法は無いものか?」

「実は−−−つだけ有るかも知れないんです」

 補佐官の言葉に、各国の首脳たちは色めき立った。

「有るかも知れないだと?それなら早く言いたまえ!」

「それが些かオカルトめいておりまして…」

 ここに一人の超能力者がおり、テレポート…つまり「物質転送」の能力があると言
う。 その男に、地球を転送させ、太陽熱から逃れるという手なのだが、そんな術を
本当に使えるかどうかを議論する前に、この超能力者がとんだ問題児だった。

「ちょっとイカレてると言うか、変人と言うか、まるっきりのパーと言うか…」

 セコいながらも多々犯罪歴のある男だった。

「なるほど−−その転送の能力を使って、何度か犯罪を繰り返したんだな。ところが
精神に異常が認められ、今は警察の病院に隔離中か。それで脱獄はしないのか?」

「ハイ。自分自身は転送できないらしいんです。だから逮捕すれば牢内でおとなしく
してます。但し気に入らない人間がいれば、どんどん獄内から外へ転送してしまいま
すが…」

「何て奴だ…。しかし犯罪者としては厄介だが、超能力があるのが確かなら、これこ
そ正に地球を救う最後の手だ」

 かくして超能力者の能力テストが行われた。

「これは凄い。果して巨大な物が転送できるものかと疑っていたが、大きさには関係
ないようだな」

「ハイ。自分自身以外は本当に何でも、どこへでも、転送できるようです」

「よし−−−それでは地球転送計画を実行に移すとしよう」

「了解しました。やはり太陽の影響を受けないくらい遠くの地点へ転送して、太陽の
異常活動が終息したあと、また元の位置に戻すんですね?」

「いや、転送地点は火星の外側、百万キロの辺りだ。そこで火星に楯になってもら
い、太陽爆発の衝撃を最小限の被害で凌いで、そのあと将来の技術の進歩を待って、
何とか最適の位置に地球を戻す」

「えっ、火星の外側?いくら火星を楯にしても地球の表面の一部は熱照射を浴びてし
まうでしょうし、仮に助かったとしても、公転軌道の関係でずいぶん寒くなってしま
う。なぜそんな危険を敢えて冒すんですか?もっと遠くへ転送して、そのあと戻した
ほうが…」

「いや、それは無理だろう。なにせ転送は一回限りだろうからな」

「えっ、なぜ一回だけなんですか?アッ…!」

 関係者はようやく事の重大さに気がついたが、すべては地球を救うため−−計画は
変更のしようもなかった。

 そしてついにその日その時が来た。太陽熱爆発の直前ぎりぎり、地球転送作戦は世
界中の注視の下、秒読みに入った。

「火星の裏側に隠れられるのは公転速度の関係で一時間少々。正にぎりぎりのタイミ
ングで避難する事になります。皆さん、この転送の成功を祈りましょう」

 今一人の男が国連広場に現れた。マジシャンのような派手な出で立ちで、手を振っ
ている。「エヘエヘ…」

 涎をこぼしているところまでは幸いカメラにも写らない。皆は英雄を見る思いで、
すべてをこの超能力者に託した。

「それじゃ頼んだよ。この大地に…いや、この地ベタに手を付いて、さんざんおさら
いして来た、あの天体図の…いや、あの絵のお星様の所に、飛んで行け!と言ってく
れよ」

「エヘエヘ−−そんな事やったことねぇけど、できるかなぁ…」

「約束どおりやってくれれば、ほら、あの女優と好きな事が出来るぞ」

「あっ、本当に来てくれてらぁ。エヘエヘ…」

 広場の端には事情も知らされてないアイドル女優が愛想笑いで超能力者を見つめて
いた。

 無邪気な超能力者は、言われるまま大地に手の平を当て、大声で叫んだ。

「ミミズもカエルも、みんな飛んでけ!」

 次の瞬間、全世界の人間は何の気配も振動も感じぬ内に地球もろとも、火星の外軌
道へ転送されていた。ただ空の色と日差しだけが多少変わっていた。

 間もなく太陽は一時的な熱爆発を起こし、火星を真っ赤に焼き尽くしながら、計算
通り一時間後、元の穏やかな太陽に戻っていった。

 火星のカゲに収まりきれない地球表面の一部は多少焼け焦げてしまったが、地下壕
やシェルターに避難していた人類は一人の犠牲者も出さず生き延びた。

 そしてその時、人類はようやくあの超能力者が地上から姿を消した事に気がつい
た。

 当初、隠し通そうとした連邦政府も鋭い追求を交わせず、事の次第を公表した。

「なにせ…本人以外の物しか転送できないもので…彼には…尊い犠牲者になってもら
いました」

 今更その決断を責める者はいなかった。そして「彼」は地球の救世主として崇めら
れる事となった。驚いた事に彼は間もなく英雄を通り越して、「神」として崇拝され
るようになって行った。彼がどのような人格の持ち主で、どのようなセコイ犯罪者
だったのか、誰も知らないままに−−

「英雄から、とうとう神様に昇格してしまいましたね。でも彼について、このまま本
当の事を言わなくても良いんでしょうか?」

「今更、言えた義理でもないだろう」

「それにしても忌ま忌ましいじゃないですか−−あんなロクでもない奴が神様扱いだ
なんて」

「いや、彼が地球を救った事実に変わりはない。それに考えてもみたまえ−−これま
での神々の事を」

「これまでの神様と言いますと?」

「かつてこれまで、本当に人類の危機を救った神様が居ただろうかね?」

「……」

 ひょっとしたら、これこそ最初で最後の神様なのかも知れない。

−−−関係者たちは複雑な顔で苦笑した。

                  (完)

2003年03月01日23時41分24秒投稿

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