
過去のドンドコ掲示板
2003年02月01日〜28日
S.S☆「どっちにしても」☆ あや太郎
教室の一隅に、ちっとも授業を聞かない面々がいた。
「おい、お前ら
聞く気ないのか?それでなくても成績悪いのに、そんな事じゃとても
大学受験は無理だぞ」
「大学行く気なんか無いもーん。だって、勉強なんかしたって何の役にも立ちそうに
ないもの」
「何だ、その白け方は。確かに学歴がすべてじゃないけれど、知識や情報を身につけ
ておいたほうが、生活しやすいと先生は思うがねぇ」
「そりゃ、この世界がずーっと続いてくんならそうだけどさ…、どうせ世紀末に滅亡
してしまうんでしょ?」
「絶滅?キミら、何とかの予言の事を言ってるのか?」
「そうよ。どうせもうすぐ地球の最期が来るんなら、勉強なんかしたって無駄だと
思ったから、私たちみんな、成るべく勉強しないようにしてきたのよ」
「呆れた奴らだ。あんな馬鹿馬鹿しい予言が当たる訳ないだろう。単なる迷信だよ。
イヤでも何でも、この世界はまだ当分続くだろうさ。だからもっと将来に希望を持っ
て生きなさい」
「本当なの、先生?ヤだぁ−−−じゃあ私たち損しちゃったわねぇ。勉強できたの
に、しなかったんだから」
「でも、世界が続いて私たちがもっと長生きできるんなら、勉強だって後から出来る
んじゃないの?」
「あ、そうか−−後からでも出来るんだ」
「勉強ぐらい年取ってからでもできるかもしれないわよ」
「なーんだ、そうか。じゃあ今は別に勉強しなくたって良いんだ。もっと好きな事し
て暮らそうっと−−」
気楽な一団は授業も終わらないうちに教室を出て、どこかへ遊びに行ってしまっ
た。
「何だ、あいつら?−−先生、あんな事で良いんですか?」
クラス委員の生徒が呆れていると、教師は驚きもせずに答えた。
「人類が滅亡しようと、すまいと−−どっちにしてもやらないタイプさ…あいつら
は」
(完)
2003年02月28日00時26分37秒投稿
S.S☆「持てる魔法」☆ あや太郎
どうにも持てない男が居た。
見かけが悪い事もあるし、金が無い事も事実で、体力もイマイチの上に、性格が悪
いと来ている。おおよそイイ女は見向きもしない。いや、かなり焦っているブスでさ
え、滅多に寄りつかない程の「持てなさぶり」だった。
そんな男に奇跡が起きた。突如「持てる」ようになったのだ。
厳密に言うと、ひょんな事から「持てる魔法」を身につけたのである。
少し前、世をはかなんで自殺の名所の崖っぷちから飛び下りようとしていた時、や
はり魔界をはかなんで、あの世で自殺しようとしていた悪魔と出会ったのだ。
このまま単に自殺したのではお互い余りに惨めだ。何とか世間と魔界を見返してや
る手は無いものか−−−そんな意見の一致を見た両者は、何とか自分らの境遇をリサ
イクルする方法は無いかと協議した。その結果、二人はお互いの長所と短所を交換す
る事を思いついたのであった。
不幸な境遇で性格も悪い−−そんな男の経歴を悪魔は獲得した。これで魔界でもか
なりタチの悪い悪魔として生きて行けるだけの箔が付いた。その見返りとして、男は
魔法を一つ教えてもらう事にした。それが女に持てるという魔法だった。
これさえ使えば、どんな高嶺の花でも、どんな気位の高いお嬢様でも男に靡いてし
まう。男は早速、街行く美女たちに試してみた。
すると持てるわ持てるわ…つぎつぎに女たちが自分のものになる。無論、男の懐具
合や風貌には何の変化もない。まるっきりスカンピンで風采の上がらない男がつぎつ
ぎとイイ女を物にして行く−−世にもめずらしい光景がここに展開した。
何十人か、より取り見取りの美女たちをモノにしたあと、男はいよいよ本当の良い
女に狙いを付けた。以前から思いを寄せていた憧れの女性だ。無論、ハナをかけられ
た事も無い。まるで無視されて来た高値の花だ。しかし首尾は上々だった。一瞬、警
戒心を見せた彼女の態度が、何度か会ううちにたちまち軟化し、間もなく男の花嫁に
なってしまった。 ついに男は長年来の見果てぬ夢を今、実現したのである。
しかし男は物足りないものを感じていた。
それは容易に推測できるように、自分の力で彼女をモノにしたのではないという負
い目であった。
「本当に魔法の力だけで彼女を落としたのだろうか?ひょっとしたら自分の魅力で彼
女を引きつけたのではないだろうか?」
当然張りたくなる男の見栄である。
「魔法を捨ててみよう。そうして彼女の気持ちが変わらない所を見届けられたら…」
切なくも狂おしい願望にせき立てられ、男は思い切りよく魔法を捨てた。
これでもう二度とあの「持てる魔法」と使えないのだが…。
「あら、わたしどうしてこんな暮らしをしてたのかしら?あなたと結婚したですって
?冗談じゃないわ、こんなダサイ男と。結婚詐欺で訴えるわよ。出ていきなさい!」
財産権も家の名義も無い男は、花嫁に逃げられるはおろか、あっさりと追い出され
てしまった。
「トホホホ…。案の定の結果だと笑われるかも知れないが、それでも彼女の真意を知
りたかったんだ」
一文無しの身で冬の寒空に放り出された男は、しかし妙にサバサバした気分で凍り
つきそうな星空を見上げていた。
「負け惜しみに聞こえるだろうが−−これで良かったのさ。本当は好いてくれてない
女と死ぬまで一緒に暮らすなんて空しい限りだ。それじゃ俺の人生は無かったも同然
じゃないか。ウソの人生って事になっちまう。それだけじゃない−−憧れの彼女だっ
て不幸な一生になっちまうわけだからな」
それにしても何故この期に及んで、そんなに冷静な潔い行動を取れたのだろう?
「たぶん、悪魔に心を売り渡したからじゃないかな。俺の心のイヤな部分をね」
悪魔に魂を売り渡して「得」をした…と男は改めて思った。
(完)
2003年02月26日01時26分01秒投稿
S.S☆「先手必勝・先回り」☆ あや太郎
とある病院のとある病棟に、まぁ評判の悪い看護婦がいた。
患者に対して無愛想、冷淡は未だしも、気に入らない患者が居れば詰め所でその患
者をある事ない事、誹謗中傷する。そうしておけば、その患者から何かクレームがつ
いても、「あれは気難しい我がままな患者だから」という予防線が張れる。看護婦自
身には類が及ばないのだ。だから患者の間では極めて評判が悪い。それなのに彼女が
クビになる事はなかった。それは詰め所での「受け」が良いからだ。先輩、上司は元
より、同僚、後輩にも至って愛想が良い。そして病院側のマニュアルやガイダンスに
は極めて忠実である。病院側にとってはむしろ重宝で都合のよい人材なのだった。
そんな訳で、患者たちの怨嗟の的となりながらも看護婦は無事ノルマを果たし、仲
間うちの信任を集め、それなりに出世していた。
しかしある年、したたかな彼女も少々のボロを出した。
余りに扱いの悪かった患者から、上司へ「直訴」されたのだ。そもそも患者は介護
される身の弱さで滅多に医療者、看護者に楯突く勇気が出ない。しかしこの豪胆な患
者は、筋をとおし、看護婦の行為、態度、行状を病棟の婦長に訴え出た。
「わたし、何もしていません。こう言っては何ですが、あの患者さんは以前から事あ
るごとに看護婦に因縁を付けるタチの悪い患者さんなんです。ねぇ、皆さん?」
詰め所の同僚も一人二人頷く。こんな風に「世論」は形成されて行くのだろう。
「あなた−−今までもそう言って来たけど…他の患者さんからもこういう訴えが来て
るのよ」
アンケート形式の直訴状がそこにあった。
「まぁ…心外ですわ。わたしたちはこんなに患者さんのために尽くしてきたのに」
また同僚を引き込む。これが作戦だ。
「ところが、こんな証拠まであるのよ。テープなんだけど−−−」
ラジカセから聞こえてきた会話の中では、被告看護婦の荒々しい声が、老人患者た
ちをキツく罵倒していた。
「こ、これは、たまたま…行儀の悪いお爺さんがいらして…」
丁寧な言い回しが似合わないような罵声がまたテープから漏れてくる。
「この時も…他の患者さんに迷惑がかかるもんだから、つい…」
次の録音は押し殺した冷やかな声だった。買い物を頼まれた患者に強い口調で断り
を入れている。
「ハイ…あの…買い物はあくまでも手の空いた時だけって…ハッキリ伝えたかったも
ので…」
その次に出てきた声は笑いながら、しかし嫌味たっぷりの断り方だった。
「どうも感じの好い説明じゃないわよね?」
婦長が不機嫌にコメントする。
「ハイ…いえ…あんまり何度も頼まれるものですから…ちょっと呆れちゃって」
「その買い物も、ほとんど補助婦さんに任せてるんでしょ」
「ハイ…手が空いてる時には頼んで良い事になってますので」
「それなら、どっちもどっちねぇ」
「でも補助婦さんも大変だと思って、なるべく断るようにしてるんです。お気の毒な
んですけどね」
「誰がお気の毒なの?」
「詰め所の者が−−−いえ、患者さんが」
「大体あなたの心構えは分かったわ。院長さんや事務長さんの裁量を仰ぎましょう」
しかしこのくらいの事ではこの看護婦もヘコたれない。
「上」のほうにもそれなりの根回しをしているのだ。
「院長先生−−ウチの婦長さん、ヘンなんです」
「ほぉ、これは穏やかじゃない。何がヘンなのかね?」
「ハイ−−患者さんからクレームが来ると、みんな我々看護婦のせいにしてしまうん
です。また何か若い看護婦の悪口がお耳に届くかも知れませんが、その時はまた自分
に都合の悪いことがあった時ですわ。だから余り相手になさらないほうが良いと思い
ますわ」
「ふむ。貴重なご意見、拝聴しておこう。しかし残念な事に君の噂はもう我々管理者
のほうにも届いているんだよ」
「あら、まぁ…」
「だから、婦長の話と君の話を天秤に掛けた場合…」
「待って下さい、院長。本当なんです。本当にあの婦長さんは対応が悪いんです。そ
して患者たちはもっと意地が悪いんです。看護婦たちはみんな困っています。信じて
ください…本当に患者と婦長が悪いんです!」
「婦長が悪いんじゃなくって…君の根性が悪いじゃないのかね」
「心外ですわ。厚生省に訴えます!」
かくして厚生省での事情聴取となった。
「患者も婦長も院長もひどいんです。自分たちの都合ばかりで私たちを犠牲にし
て…」
「言い分は分かりましたが、こちらの調査によりますと…どうもあなたはこの仕事に
向いてないようですな」
「いえ、私が悪いんじゃありません。病院の幹部に問題が…」
「あなたの人間性にも問題がありそうだが…?」
「心外だわ。総理に直訴します!」
その時、一陣の風が巻き起こり、看護婦は天高く巻き上げられた。
目を覚ますと、周囲には一目でそれと分かる神々しさに包まれた神様が鎮座ましま
していた。
「人間世界のセコイいさかい事に口を挟むのも口幅ったいが、お前はどうも病院の仕
事に向いておらんようじゃな」
「いえ、私が悪いんじゃなくて、厚生省が悪いんです」
「いや、厚生省より相性と根性のほうが悪いと思うんじゃが…どうだ、もう看護婦は
ヤメたらどうじゃな?」
「いえ、看護婦は私の天職です」
「それでは、どうあっても看護婦を続けるというのか?」
「はい。私はプライドと自信を持って仕事をしていますから」
「そこまで言うのなら、また元の職場へ戻してやろう。しかし本当に大丈夫かのぉ
?」
目が覚めると看護婦は又元の病院で働いていた。
「えーい、この看護婦だけは愛想の悪い。口の聞き方も知らん」
「頼み事をしても、ちっとも聞いてくれん。要領ばかりかましおって」
そんな患者の不満にも涼しい顔で、例の看護婦は言った。
「神様が悪いのよ。ぜんぶ神様が決めた事なんだから。文句はあの世へ行ってから
言ってちょうだい」
(完)
2003年02月23日23時50分40秒投稿
今日は、亀虫ぷっぷです。
2月15日 Team火の車稽古場 「第7回ごかいらく落語会」
出し物
●「ニュース小噺名作選」 桂 九雀(くまざわあかね 作)
●「さくら」 桂 小春團治(小佐田定雄 作)
●「対談:SFばなし」 かんべむさし/桂 九雀
中 入
●「長尾さん」 桂 吉朝(くまざわあかね 作)
前回に続いて開演前、小佐田くまざわ両氏が登場。
くまざわあかね嬢平成十四年度〈咲くやこの花賞〉受賞の報告でした。
おめでとさん。
そのくまざわ氏の手になる「ニュース小噺名作選」は、ラジオ大阪〈桂 九雀のわい
わいじゃーなる〉木曜日〈ニュース小噺〉のコーナーで発表された作品群からのピッ
クアップ。
「一本の長篇を覚える方がずぅっと楽やった。」
と、九雀さん。
短ぉても一つ一つが落語ですからな。
その所為ですかね。
ミレニアム騒動を扱ぉたもんで落ちに関わる言葉を先に言うてしもぉた。
落ちそのものや無かったんで、まぁ事無きを得ましたけどね。
他に盗聴法、ダイエー優勝、誘拐事件、ワールドカップに宗男ちゃん。
さすが選りすぐりの傑作揃いでした。
因に、九雀さんはこの春で番組を降ろされ…いやいや、降りはります。
本業に力入れにゃならんと思わはったんやそぉです。
改心して更正の道を歩むっちゅうとこですか?
確かこの番組はドンドコ最終の年に始まったんやなかったですかね。
お後のパーソナリティはこごろうさんで、装いも新たにスタートするとの事です。
小春團治さんの「さくら」。
前半が日本昔ばなしで後半がプロジェクトXとの前置きがありました。
時は江戸時代、季節は春。
とある村に樹齢数百年の枝垂れ桜がありましたとさ。
まことに立派な桜で、土地の領主が根こそぎ城に移そぉとした事があった程。
ここまで花見に来れば…と、そこはそれ、我が儘な殿様ですからね。
城は海に面してるが為に潮風で樹木が満足に育たん。
其れ故尚更なんとしても城内に桜を咲かせたいと言う訳。
家臣総出で事に掛かりますが結果は失敗。
桜はびくとも動きません。
しかも、切られた根や折られた枝はすぐ元通りになってしまいます。
それもその筈、この桜は山の神が加護してるんですな。
ここいらが昔ばなし風。
で、ついに諦めた…と、思いきや。
今度は賞金を出して領民からアイデア及び実行者を募ります。
が、元より人々は移植に反対ですし、また、神に守られてる樹を動かす方法も分かろ
ぉ筈が無いと言うんで誰一人手を挙げるもんはありません。
さて、今年も例年のごとく村人はその樹下での花見を楽しんでおりますな。
その中に権太というひとりの男がおりました。
貧しい悲惨な過去を持つ故に、金以外信用せん守銭奴となった人物。
友達の一人もおらん孤独な村の嫌われもんですな。
その権太、周囲に散々悪態付いた挙げ句酔っ払ぉて寝込んでしまいます。
そのうちぽつぽつと落ちてきた雨に慌てて引き上げる村人達。
けど、誰も権太を起こそぉとしません。
一人放ったらかしになった彼が目を覚ますと、雨は本降りですな。
「こりゃ適わん。何処かで雨宿りを…。」
と、見付けたのが桜の根元にある虚。
入り込んでほっとしたもんか、またまた寝入ってしまいます。
やがて上の方で山桜と彼岸桜の会話が聞こえてきますな。
ここで山桜は左腕を彼岸桜は右腕を上げて、個体の違いを視覚的に表現。
疲れるもんですぐ止めはりましたが…。
人間の所行をあれこれ喋ってる処へ来たのが例の枝垂れ桜の親父っさん。
領主の移植計画挫折の話題から彼岸桜が訊ねます。
「親父っさんを動かす方法はおまへんのでっか?」
「一つ有る。鶏の糞と煙草の脂を根元に蒔いて絹で編んだ縄で引っ張るんや。」
ここでお詫び。
〈絹で編んだ縄〉はうろ覚えです。陳謝。
はっと目覚めた権太。
今のは夢か?現か?いや、夢や無い。
賞金は貰ぉた、と城に駆け込みますな。
そして城の連中が動き出します。
大量の鶏の糞と煙草の脂を集め、絹で縄を編み、権太の指揮の許に事を進めます。
ここで下座が〈地上の星〉を演奏。
プロジェクトXさながらの決死の作業風景を所作だけで表現。
そして遂に動いた。
城に向かって移動する桜…但し、山も共に…物凄い勢いで。
山津波に襲われ流された城は、敢え無く背後の海に没してしまいます。
その直後到着した枝垂れ桜。
「なぁんや、折角来てやったのに、海に流されてしもぉて城があらへん。
しゃぁないなぁ。ほな儂も一緒に…。」
海へ入って行った桜は鯨になった。
ここで客席から笑い声ちらほら。
「そしてシロナガスクジラと呼ばれました…とさ。」
ま、落語ですから…。
作品さえしっかりしてたらこんなに面白い小春團治さん。
独特の語り口が活きますな。
ステップアップの時も近いかも…。
SF作家かんべむさしさん。
上方落語とは関わりの深い人で、過去に自らも噺を書いたはります。
会場からお題を貰ぉて三題噺を作らはったんですけど、各々の客がその言葉を挙げた
理由の分析から落とし処へ持って行くプロセスを起承転結の基本に沿ぉて解説しはり
ました。
手法がきちっと確立してて、なんや、熟練工の技を見る思いでしたな。
プロやから当たり前ですけどね。
なんとスーツ姿で登場の吉朝さん。
けど扇子と手拭いは忘れずに。
この格好で扇子持ってたら、なんや怪し気。
「長尾さん」は、これと言うて大したストーリーはありません。
長尾さんとは主人公でも何でも無い人物で、台詞は無いし実際には登場しません。
言うたら別に長尾さんで無ぉても、鷲尾さんでも藤尾さんでもええんですな。
ならば何故タイトルになってるのか。
それは、ポイントポイントでその存在が効いて来るからなんですな。
なんや、ホラー小説を思わせて無気味ですね。
居酒屋で待ち合わせた二人のサラリーマン。
呼び出した方(仮にAとします。必然的に相手はB。)が遅れてきますな。
「いやぁすまん。えらい混んでてなぁ。」
「なんや、タクシーで来たんか?」
「いや、地下鉄で。」
「相変わらずやなぁお前は。
学校でもそぉや。遅刻の言い訳に、何回母親危篤にした?」
高校の同級生なんですな。
Aが言うには、同窓会を開きたいんで一緒に幹事をやってくれ。
渋るBを説得して引き受けさせます。
二人で名簿を見乍らあれこれ話してる処へAの携帯電話が鳴りますな。
会社からで、クレームが入ったとの連絡。
その得意先の担当が長尾さん。
「分かってる分かってる。あの件やろ?
請求書のゼロ二つ多かったっちゅう…。
明日例のカステラ持って謝りに行って来る。」
声が大きいもんで周りに丸聞こえ。
「なんや問題起こったみたいやな。」
「いやぁ些細な事や。」
「そら些細な事やないで。」
Aは万事この調子ですな。
さぁその後電話が掛かって来るわ来るわ。
再び会社から長尾さんの件。
奥さんから、晩御飯は?
要らんて言うた言わんの水掛け論。
今日は何?え?蟹?あの蟹か?あれは食うな。おいとけ。
続いて幼児言葉で子供の相手。
奥さんに替わって、あの蟹は絶対食うな。
またまた会社から、長尾さんが来社された、との連絡。
電話の向こうに平謝り。
そらうるさいの何の。
更に、来たメールに返信。
Bとの会話も上の空。
遂に周囲の他の客に怒られてしまいます。
が、謝り乍ら尚も電話の会話を続けますな。
そしてまた呼び出し音が…。
出てみると向かいに座ってるB。
訝し気に切ろぉとするのを
「切るな。お前と話しょぉと思ぉたらこれしかないわ。
呼び出したのはお前やぞ。何考えとんねん。」
友達の剣幕にさすがのAも怯んで
「い、いや…母親が危篤で…。」
吉朝さんならではの軽妙な小技とリアリティがよぉ活かされてますな。
好むと好まざるとに関わらず、大なり小なり周りに迷惑を掛けざるを得ん携帯電話。
便利を使いこなす事とそれに振り回される事の境が曖昧になってしまいがちな現代に
鋭く切り込んだ意欲作…ちゅう程大層なもんや無いや無いかぁちゅうてねぇ。
けど、これをホラーとする事は強ち外れて無いと言えるかも。
小佐田センセとはまた違う、くまざわ色がよぉ出てる作品やと思いますな。
さぁすが受賞者。
2003年02月21日13時35分47秒投稿
S.S☆「呪いのダイヤ」☆ あや太郎
「五百万ドルから始めます。五百万…五百万…五百五十…五百八十…六百…六百五
十…七百…八百!…八百あるか?…九百が出た…九百、九百…一千万!…ついに一千
万ドルが出
ました。もうありませんね
落札〜!」
ついに噂のダイヤが一千万ドルの値を付けた。落札した業者は出資者と手を取り
合ったまま会場の拍手に顔面を紅潮させていた。
「呪いのダイヤ」−−−それがこの曰く付きのダイヤモンドに付けられたあだ名
だった。なにせこの十年間だけで五回ものオークションに掛けられている。そしてそ
の度に新しい持ち主が急死しているのだ。
しかし不思議なのはそれほど縁起の悪いダイヤにも関わらず、オークションのたび
に値が上がって行くことだった。それは百カラットという大きさに加え、一つの石で
ありながら、赤・青・黄の淡い光を放つ世界に一つのトリコロール・ダイヤだったか
らだろう。
今日も世界中から集まった大金持ち、業者、投資家たちの激しい競り合いの末、米
国の一業者がこの「呪いのダイヤ」を手に入れた。そして握手攻めにあうその業者を
遠くから見つめる一人の高名な心理学者がいた。
「先生−−このダイヤの呪いを解明するとおっしゃってましたが、如何ですか?」
興味津々に取材者が訊く。
「ハッキリ言って−−解けましたな。やはり思った通りだった」
「とおっしゃいますと、何が呪いの原因だったんですか?」
「ストレスだよ。余りにも高額で競り合った際の緊張感と恐怖感が持ち主の寿命を縮
めるんだ。気の毒だが、あの新しい持ち主も早晩命を落としそうだね」
「何て事だ!でもそんな事ぐらいで次々に人が死んだりするんですか?たかがお金の
事ぐらいで…」
「たかが金と言うなかれ。されど金だよ。死亡率は金額に比例する。つまり自分自身
より値打ちのある物を取り引きする時、人間はそのストレスに耐えられなくなって憤
死する……これが私の〔命の値段〕理論だ」
「自分の命より高額の物を扱うとストレスで死ぬという訳ですか…。何だか悲しいよ
うな理に叶っているような…」
「そんな物だよ。人間とは弱いものだ。そう思わんかね、ハハハハハ」
「先生−−−大変です…」
その時、助手が飛び込んで来た。
「先生の別荘が…全焼してしまいました!」
「何?…十万ドルで新築したばかりの別荘が…!」
聞くが早いか、学者は心臓発作を起こし、あえなく頓死してしまった。
「やっぱり正しかったんだなぁ、あの理論…」
(完)
2003年02月20日22時48分42秒投稿
S.S☆「演技力」☆ あや太郎
女優は試写会の席上にいた。自分が主演した映画だ。初主演ではないが、初めて
ハードなラブシーンがある作品だった。イメージを一新するつもりで体当たりの演技
をしたつもりだが、果して観客や評論家の反応はどうだろうか。
「いやぁ、驚きましたよ、あの大胆な演技。これまでのお嬢さんっぽいイメージとは
まるで違ってたね。勇気が要ったでしょう?」
「いえ、役者はどんな役でも同じ気持ちで演じるものだと思ってますので、殊更イ
メージチェンジしたつもりはないんです」
「それにしても大胆なベッドシーンだった。まるで本番みたいでしたよ」
「まぁ、とんでもありませんわ」
照れる女優に、また別な芸能記者が際どく突っ込んだ。
「いやいや、本当に気合が入ってた−−というより本気で興奮してたように見えまし
たよ。どうやって勉強したんですか?」
「まぁ、勉強しただなんて…」
「やはり、そういう映画を何本も見て?」
「ええ、少しは」
「じゃあ、そういう場面を集中的にリプレイして?」
「そんな事ばかりしてた訳じゃありませんわ」
少しムッとした彼女に、今度は風俗系の記者が食い下がる。
「それにしても、あのベッドシーンは真に迫ってたなあ。どう見ても相手役の彼と本
気でやってるとしか思えない。ねぇねぇ、本当に本番じゃなかったの?」
「そんな事する訳ないでしょ。演技に決まってるじゃないですか。実際にはしていな
くても演技力でそう見せるのが女優の仕事です」
毅然とそう言い放った女優に会場から拍手が沸いた。下卑た質問をした記者はバツ
の悪そうな顔で俯いてしまった。
「見上げた役者根性だ。良い女優さんに成長したものですな。あの濃厚なシーンを演
じきった彼女の熱演に乾杯!」
参加者一同祝杯に付き合う。しかしここでまたしぶとく、さっきの風俗記者が小声
で訊いた。「ねぇねぇ…本当に、本番じゃないの?」
「うるさいわね。女優のプライドに賭けて言わせてもらうけど、あれは演技です。本
番は撮影前に済ませたわ」
(完)
2003年02月19日23時12分18秒投稿
今日は、亀虫ぷっぷです。
2月12日 TORII HALL「第四次 雀三郎みなみ亭」
出し物
●「兵庫船」 桂 雀太
●「宿替え」 桂 雀五郎
●「不動坊」 桂 雀三郎
中入
●「うなぎ屋」 桂 雀喜
●「鬼の面」 桂 雀三郎
オーソドックスな型の「不動坊」でした。
従って落ちは幽霊稼ぎ人。
勿論、遊芸稼ぎ人について枕で振らはったのは言うまでもありません。
これを忘れたらなんのこっちゃ分かりませんからな。
演者さんによっては落ちを変える人もいたはります。
米朝師匠とかざこばさんは上記の通り。
「お前ら講釈師やない。横着しっちゅうんじゃ。」
「いいえ、幽霊稼ぎ人でございます。」
デンデ〜ン。
仁鶴さんは少々違ぉて
「講釈師が幽霊の恰好して金取ったりするのか。」
「へぇ、幽霊稼ぎ人でおます。」
デンデ〜ン。
枝雀さんは
「嘘でも他人から先生先生言われてるお人がこんなしょぉもない事…。
あんたもあんまりしっかりしたお人やおまへんな。」
「へぇ、最前まで宙に浮いてました。」
若しくは
「へぇ、最前まで宙でぶらぶらしてました。」
デンデ〜ン。
南光さんは師匠の雰囲気を継承して
「他人から先生先生言われてるお人が、よぉこんな幽霊てな役引き受けましたな。」
「ものが幽霊だけに随分迷いました。」
デンデ〜ン。
軽田胴斎が井戸の中に落ちるパターンもあります。
吉朝さん。
「こんな事したら却って仏は浮かばれんやろ。」
「仏どころか私が沈みそぉです。」
デンデ〜ン。
九雀さんは
「お滝さん、芸人ちゅうのは浮き沈みの激しいもんだんなぁ。」
デンデ〜ン。
それぞれがそれぞれらしぃあれこれですな。
〈幽霊稼ぎ人〉の分は前で一言説明したら半永久的に通用すると思いますけどね。
語感的にも決まりますしね。
ただ、時代を経るに従って使い難ぅはなりますわな。
演者さんは枕も含めてネタとしては喋れても、身近なリアリティーという点からしっ
くり来んよぉになるでしょぉな。
客もまた然り。
若い噺家さんから
「昔は芸人を遊芸稼ぎ人と申しまして…。」
なんて言われてもねぇ。
因に米朝師匠に拠りますと、遊芸稼ぎ人が技芸師になったのが大正の末やそぉです。
まぁ、ええ落ちが出来るよぉぼちぼち努力して頂きましょ。
「鬼の面」は雀さんが上方講談から移して来はったそぉです。
時々若い人が演ったはるのを聴きますな。
八天さんとかね。
手頃なボリュームやし、笑いありちょっとほろっとさせられる場面ありのストーリー
展開を楽しめます。
後々まで残っていきそぉな噺ですな。
貧乏神タイプの風貌が独特の雰囲気を醸し出す雀五郎さん。
将来これがほんまもんの味に繋がったら面白い存在になりますな。
「宿替え」もそぉですけど、長屋の噺は得意分野に育ちつつあります。
これも偏に見た目のなせる業。
両親に感謝せねばなりませんな。
大きな手ぇを持て余してる感じの雀太さん。
数少ない所作で噺一本乗り切るのは無理でっせ。
まぁ、今の処は元気と勢いだけで良しとせにゃならんか。
2003年02月18日17時35分36秒投稿
S.S☆「減らず口」☆ あや太郎
「日本チーム、負けちゃったぁ。くやしいわ−−本当に残念よねぇ、おじさん」
「相手が強いんだからしょうがないよ」
「でも、あんなに頑張ったんだから勝たして上げたい」
「頑張るのと勝つのとはまた別だ。弱いものは負ける事になってる」
「憎たらしいこと言うのね。でもミッドフィルダーのあの選手、カッコいいんだも
の。外国の一流チームで活躍して欲しいわ」
「カッコよさと実力は別だ。通用するかどうかなんて分からない」
「また憎まれ口。プレーは下手でもカッコ良ければイイじゃない!」
「良くないねぇ。チームや選手の実力と勝ち負けと格好良さをゴッチャにして、その
時の都合で喋る−−−そういうのを論理のすり替えと言うんだ」
「あ〜ん…理屈っぽい!そんな減らず口ばかり叩いてるから友達少ないのよ」
「どこが減らず口だ。わしは筋の通らん話が嫌いなんだ。友達の数まで心配してもら
う筋合いは無い」
「ああ言えばこういう可愛くないオヤジ…。あら、おじさん、サラダを残してる。
どうして食べないの?」
「こういう西洋野菜は嫌いなんだ」
「オヤジらしいわねぇ。たまには新しい物も食べなさいよ」
「食べた事はあるが、わしの口には合わん」
「そんなことないわよ。美味しいわよ」
「口に合わんと言っただろ。論理のすり替えをするな」
「でも栄養があるのよ」
「栄養の事など聞いとらん!」
「減らず口ねぇ」
「減らず口はお前だ。わしは論理的に発言しておる」
「論理的な人が何故〔減らず口〕なんて理屈に合わないこと言うの?」
「なぜ理屈に合わないんだ?」
「口なんて減る物じゃないでしょう?なのに減らず口なんて、おかしいわ」
「減らないから〔減らず口〕と言ってるんだ。減るなら〔減る口〕だろうが!」
「絶句…」
(完)
2003年02月18日01時44分01秒投稿
S.S☆「心配性」☆ あや太郎
男は焦っていた。電話連絡が取れないのだ。
ちゃちな用件ではなかった。…大金の懸かった児童誘拐の身代金要求だった。
−−−プルルルル…プルルルル−−−
やはり子供の親は出てこない。電話は通じているはずなのに−−
「おかしい−−子供が誘拐されてるのに心配じゃないのか?」
それも妙な見解だ。そもそも向こうはまだ子供の誘拐を知らないのだから。
「そうは言っても、ひと晩、家に返してないんだから、ぼちぼち気づいてるはずだろ
うがなぁ…」
隣の部屋で、無邪気にテレビゲームをしている子供の声を聞きながら、犯人の男は
腕組みした。
一時間後、また電話してみた。
−−プルルルル…プルルルル−−−
依然出ない。これでは話の進めようが無いではないか。
「ひょっとして、もう警察に…?」
先手を打たれたのかもしれない。警察関係者が家に張りつき、脅迫電話が掛かって
くるのを息をひそめて待っているのかも−−
「でも、それなら、取り敢えず受話器は取るだろうさ」
すると、やはり警察にはまだ知らせていないのだろうか。そして家族だけでジッと
電話を待っている。
「怖くて受話器を取れないのかも知れないな」
しかしそれでは困るのだ。先ず電話で「誘拐の件」を知らせない事には話が始まら
ない。身代金の事も早々に伝えねば金策の都合もあるだろうし。
犯人は誘拐した子供にマンガとオヤツをあてがい、厳重に戸締りして、子供の家へ
と出向いた。家の窓々にはカーテンが掛かり人けが無い。息をひそめているようにも
見えるし留守のようにも見える。幸い警察が出入りしている気配はなかった。
「どうも頼りないなぁ」
至近距離から携帯電話を掛けてみた。
−−トルルル…トルルル…トルルル−−
コール音が鳴っている。番号違いでなかった事だけは確認できた。
しかし電話に出る様子は無い。やはり留守なのだろうか?
「それも妙な話だ。子供が行方知れずになってる時に、家族旅行という事もないだろ
う」 誰か留守番ぐらいは居そうなものではないか。
しばらく考えて、犯人は極めて悩ましい推測に到達した。
「誰か一人が留守番していたんだが…たまたま急病で倒れて−−意識がなくなってい
るのか−−身動きが取れず電話も出来ないのか−−あるいはもう死んでるのか−−」
いずれにしても拙い時に拙いハプニングだ。これではおちおち身代金の交渉も始め
られない。
「一度覗いてみるか?−−やっぱり拙いか?」
状況を知らず待つ身は辛い。犯人はやきもきしながら、子供の家のすぐ前で打開策
を練っていた。半日がたった。もう日暮れ時である。こうなると隠れ家に残してきた
子供のほうが心配だ。そろそろ引き換えそうかと思っていた矢先、目の前の、家の窓
が少し開いた「やっぱり居たんだよ」
しかし窓から出てきたのは一本の腕だけ−−それも力なくダラリと窓の外へ垂れて
いる。異常な事態に思わず窓辺へ忍び寄った。すると屋内から呻き声が−−
「く、くるしい−−助けてくれ〜…」
プーンとガス臭い空気が漏れている。ガス中毒だ。救急車を呼んだ。もちろん匿名
で。 慌てて現場を去った誘拐犯がテレビを付けると「一家心中未遂」のニュースが
流れていた。子供だけが見つからないと言う。やはりあの家族だった。
「どうしよう…」
家族はこれまでにも何度か心中を試みた事があるらしい。
もし誘拐した子を連れて帰れば、いつ何時心中の巻き添えになるかも知れない。
「この子の将来が心配だ…」
結局誘拐犯は子供を連れてトンずらした。
(完)
2003年02月17日01時13分28秒投稿
S.S「人命救助」☆ あや太郎
借金地獄に喘ぐ男がいた。まともに働いていたのではとても返せそうにない。
そこで思いついたのは例の如く「保険金」だった。身分不相応な高額の保険を何と
かカンとかゴマかして契約した。しかし掛けた途端に上手く死ねる訳でもない。自殺
して保険金が下りるのは契約後一年以上たってからだ。それを待っていたら金利が膨
れ上がるし家族も干上がってしまう。そこで男は自殺の「完全犯罪」を思いついた。
それは横断歩道の信号のそばで「待つ」事であった。
何を待つかと言えば、他でもない−−車にハネられそうな人を探すのである。
何のために、そんな事をするのか?−−男は、決して疑われる恐れのない「人命救
助」を装った自殺を目指したのである。
信号が青になって横断歩道を渡り始めたのは良いが、ボンヤリしていて車にぶつか
りそうになったり、突如進入してきた暴走車にハネられそうになったりする人間は少
なくない。信号が黄や赤で渡りだしたら尚更チャンスだ。ボンヤリしている年寄りあ
たりが信号もよく確かめずに渡りだし、運悪く車にハネられそうになった時、颯爽と
飛びだして年寄りを突き飛ばし、命を救って自分自身は尊い犠牲になるのだ。
なにせ究極の善行である。一命を賭して人命救助をしたのだから後ろ指を差す者は
いないだろうし、保険会社だって、うっかり疑惑を口には出来ないはずだ。
「これで心置きなく死ねる。家族は潤うし、友人にも偲んでもらえる。今まで散々悪
さもして来たが、これで何とか天国へ行けるだろう」
変わった決心をしたものだが、そう思い立ったのだからしょうがない。男は計画を
実行すべく、連日信号機の傍らに佇み続けた。
ある日、ついにそのチャンスがやって来た。男の目の前を、酒でも飲んでいるのだ
ろう、赤い顔でフラフラしている老人が歩き過ぎた。行方違わず横断歩道に踏み込ん
でゆく。 しかも信号は黄色で、おあつらえ向きに交通量の多い時間帯だ。忙しそう
な雑踏が他人の事など構っていられないとばかりに通りすぎてゆく。誰も老人の足取
りなどに注意していない。老人が横断歩道の真ん中まで来た正にその時、運悪くと言
うべきか運良くと言うべきか、一台の車がスピードも落とさずに突っ込んできた。こ
れぞ千載一遇の好機!
見ていた男は一世一代の度胸を奮い起こし、老人の後を追ってダッシュしていた。
「爺さん、危ない−−」
その声を掻き消すようにブレーキ音が鳴った。幸か不幸か、とても間に合いそうに
ない。 男は老人に急接近し、手順通り突き飛ばそうとした−−その刹那…
「エヤ〜!」
男の身体が宙に舞った。
…ハネられた…
と男は信じた。この人助けで目出度く天国へ召される自分の姿が夢想された。
しかし次の瞬間−−ドサッと何か途轍もなく重い物がアスファルトの歩道に落ち
た。そしてそれは途轍もなく痛かった。−−−それもそのはずだ…歩道に叩きつけら
れたのは自分の身体だったのだ。そして横断歩道の上では、さっきの老人が群衆に取
り囲まれていた。
「大丈夫ですか?−−それにしても凄い反射神経だ−−とっさにあの男性を投げ飛ば
して−−交通事故から救うだなんて−−何かスポーツの心得でも?−−えっ、柔道八
段!−−これは驚いた−−これは美談だ−−あっ、マスコミが駆けつけた−−−これ
は話題になるぞ…」
やがて「命を救われた」男の元へもインタビュワーが群れ集まった。
「幸運な人だ−−あの老人がいなかったら助かってませんよ−−それにしても凄い人
命救助だ−−どうですか、間一髪で救われた気分は…?」
あちこちを打撲、骨折したらしい男は、引き攣る笑顔で意識を失った。
男が目を覚ました時には、きっとどこかの病院で手厚い看護を受けている事だろ
う。
そして全身の怪我が癒える頃には、またちゃんと治療費と借金の山が出来上がって
いるに違いなかった。
(完)
2003年02月13日03時05分52秒投稿
S.S☆「水際作戦」☆ あや太郎
ある時、気がつくと地球の周りを巨大な宇宙船が取り囲み、あちこちの都市を攻撃
し始めていた。
「何だ?また映画の撮影か?」
そんな大がかりなセットを組んでも元が取れるはずはない。正真正銘、エイリアン
による侵略攻撃だった。
「水ノ惑星ノ種族ヨ。オマエタチハ、尊イ水を浪費シ汚染シ粗末ニシテキタ。我々ハ
生命ノ源…尊イ水ヲ守ルタメニヤッテ来タノダ。コレヨリ、オマエタチカラ地球上ノ
水ヲスベテ取リ上ゲル−−」
コチコチの自然主義者なのか、それとも単なる因縁付けなのか、ともかく地球人類
は突然やって来たエイリアンたちの攻撃に晒される羽目となった。
「あらゆる兵器で反撃せよ」
核ミサイルから最新鋭のレーザー砲、磁力爆弾、細菌兵器まで繰り出したが、敵は
怯む様子もない。
「ならば…各種バリアーを張れ」
地球上の各都市を磁力線、レーザー、超音波などのバリアーで囲ってみるが、敵の
兵器や宇宙船は楽々とそれを破ってしまう。しかもエイリアン軍はこちらの軍事施設
や都会の一部以外は破壊しない。
「我々ハ自然環境ヲ破壊シナイ。ソンナ事ヲシタラ地球人モ同然ダ」
憎たらしい能書きを垂れながら余裕で攻撃を続ける。どう見ても技術的に一段、二
段上回っているようだった。
「敵の弱点を探れ!」
と言ってもまるで手掛かりが無い。
世界中の人間が、まだ姿すら見せぬエイリアンの恐怖におののき、すくんだ。
そうこうする間にも人類とその文明はつぎつぎ打ち砕かれ、何分の一かに減ってし
まった生き残りも、今やチベット高原の地下に掘られたシェルターの中に潜んで絶滅
の日を待つばかりとなった。
そしてそのシェルターもついに侵略軍に発見されたようだ。最後の総攻撃が始まる
のも時間の問題となった今、防衛軍の指揮官がついに「生き残り人類」に因果を含め
た。
「手は尽くした。あらゆる防衛システムを配したが、破られるのは時間の問題だろ
う。この上は各自好きなようにマジナイでも祈祷でも何でもやって頂きたい」
最後が近づいた事を悟った面々は、それぞれ祈り祀り御祓いし魔除けをし、エキソ
シストを呼び、超能力者に念じさせ、各人各様の気休めに没頭した。
そんな中で、アジアの島国から来たいかにも不信心そうな一団だけが、祈る様子も
なく何やらヘンな物を持ち出して、シェルターの入口近辺をうろうろしていた。
「何だ、水の入ったペットボトルじゃないか。そんなもの持ち出して何をするんだ
?」
「ハイ。我が国では猫や虫よけに家の周囲にこれを並べれば良いという言い伝えがあ
りましてね」
「猫よけに虫よけか−−−まぁ、たまたま猫科で昆虫類のエイリアンなら効くかもし
れんなぁ」
そうこうするうち、ついに攻撃隊の第一陣がやって来た。無数の宇宙船がシェル
ターの入口である洞窟のそばへ着陸した。昇降口が開き、兵士たちが続々と降り立
つ。洞窟の奥に身を潜めた人類たちに聞こえるのは足音ばかり−−−それが尚更不気
味さと不安感を募らせた。
ところが足音は洞窟の入口近くでピタリと止まった。
「○×△■▲●◇×…!」
何やら喧ましい声で言い合っている。自動翻訳機を通してみると−−−
「隊長−−コンナモノガ並ベテアリマス」
「コ、コレハ…尊キ水ノ神ノシンボルデハナイカ。ト言ウコトハ、コノ洞窟ハ…聖ナ
ル神殿!?」
「ソレデハ手ヲ出セマセン」
「ソウダ
我々ニハ手出シデキン。仕方ガナイ。侵略ハ中止ダ。全軍、撤退セヨ」
何とエイリアン部隊がすごすごと引き揚げてゆく。
「どうなってるんだ…?」
物見だかい人類代表が驚いて洞窟の外を覗き見ると、宇宙船に向かってヒョコヒョ
コ駆けて行くペットボトルのような後ろ姿が見えた。
「猫でも虫でもなかったが、体型が似て訳か…」
かくして人類は大いに反省した。
今後は、ペットボトル一杯の清浄な水ぐらいは確保して行くことだろう。
(完)
2003年02月09日23時21分29秒投稿
今日は、亀虫ぷっぷです。
2月3日 ワッハ上方レッスンルーム 「第13回 桂 吉弥のお仕事です。」
出し物
●「鷺取り」 桂 しん吉
●「看板の一」 桂 吉弥
●「くっしゃみ講釈」 桂 米二
中 入
●「河豚鍋」 桂 吉弥
〈クイズミリオネア〉の二次予選を通過しはった吉弥さん。
2月9日に自費で東京まで出向いての最終選考やそぉです。
その結果は次回の当会で報告の運びとなります。
果たして本人の思惑通り、日常に大きな変化が訪れるのでしょぉか。
他人事乍ら楽しみですねぇ。
「看板の一」で、若いもんに誘われて博打に入った親父っさんが言います。
「目ぇも疎ぉなったし耳も遠ぉなったがまだまだお前らに引けは取らん。」
この台詞が無かったんですな。
あれ?と思ぉたんです。
親父っさんにこれを言わさんという事は後半の笑い処を一つ抜かすのか?
それは惜しい。
で、別の賭場で看板の賽子を使う手口を真似た若いもんが
「さぁなんぼでも張って来いよ。
目ぇも疎ぉなったし耳も遠ぉなったが、まだまだお前らに…。」
「年寄りみたいな事言うてるで、こいつ。お前この中で一番若いやないか。」
またまた、あれ?と思ぉたんです。
それやったら何故前半の振りを抜かはったのか。
これでは効果がおまへんがな。
飛ばしてしまいはったのか?
まさかねぇ、大師匠やあるまいし…。
時間の関係やったら他に短縮出来る部分はありますもんね。
あぁ〜あ勿体無い勿体無い。
「河豚鍋」は師匠の得意ネタという事もあって、100%吉朝流。
この噺聴いて何時も思うんですけどね。
二人が鍋の前に座った時点で既に食べ頃なんですな。
それだけ躊躇してたら煮詰まってしまうがな。
これまた、あぁ〜あ勿体無い勿体無い。
米二さんの「くっしゃみ講釈」。
言葉とくしゃみの馴染み方が自然でした。
往々にして両者の境がはっきりしがちなんですけどね。
いきなり出てしもぉたくしゃみに、戸惑い乍らも体裁を繕ぉとする厳めしい表情が何
とも言えませんな。
弟弟子しん吉さんの「鷺取り」。
この人の言葉を放り投げるよぉな語り口は面白ぉなるかも…。
今の処、それが乱雑に聴こえる時がありますけどね。
吉弥さんは先日の〈ごめんやす〉のイベントに続いて〈ありがとう〉にも出演。
が、15分程のゲストコーナーはほとんど浜村さんの独壇場で
「1〜2分しか喋れんかった。」
と、ぼやくぼやく。
以前にこごろうさんもそんな事言うたはりました。
内容は別にして、スピードと言葉の量ではかなわんでしょぉな。
まぁここは相手が悪かったという事で…。
2003年02月08日17時51分46秒投稿
S.S☆「幽霊愛人」☆ あや太郎
雨のしとしと降る夜、タクシーを流していると、人けのない道端にフッと人影が現
れ、手を上げた。車を停めると、中年男と若い女の二人連れが乗り込んできた。 見
るからに訳ありのカップルである。
「どこまでっスか?」
純朴そうな声で運転手が訊いた。
「すぐ近くで申し訳ないね。チップははずむから、頼むよ」
行き先を告げた。なるほどワン・メーターの距離だ。
「ご心配なく。こう見えても優良運転手ですっから」
気を遣わさぬようヒョウキンに答えてみたが、カップルは暗い顔でもう二人だけの
会話を始めていた。
「やっぱり別れなくちゃいけないのね」
女が囁いた。
「あぁ。最初から無理な付き合いだったんだ」
男も囁くように答えた。
「やっぱり二人は、この世では結ばれないのね」
「そうだ。この世では一緒になれない身の上なのさ」
「あなた…」
「うん」
別れを惜しむように身体を寄せあう。
ずいぶんと気になる展開だが、これ以上関わると目の毒、耳の毒だ。運転手はラジ
オのイヤホンを耳に突っ込み、前方だけに注意して車を走らせた。
すぐに目的地へ着いた。後ろを振り返って、運転手はギョッとした。
客が一人だけしかいない。女のほうが消えていたのだ。
「あれ?あの女性は…?」
「ご覧の通り
消えたんだよ」
「き、消えたって言うと…?」
「話を聞いてたんじゃないのかい?−−−この世では一緒になれない女なんだよ」
「じゃあ、ひょっとすると…?」
どうやらこの世のモノではないらしかった。
「心配するなよ。僕のほうは生身だから」
淋しげな微笑を浮かべながら、男の客が千円札を差し出した。
受け取ると、その手は幽霊よりも冷たかった。
そりゃあそうだろう−−幽霊だと言うだけで愛人を捨てた男の手なのだから…。
(完)
2003年02月07日08時05分54秒投稿
S.S☆「憧れの留学」☆ あや太郎
山田夫人が歩いていると、町内の奥様連中が井戸端会議にいそしんでいた。
ちょっと見栄っ張りの多い町内の事とて、会話に加わるのも如何なものかと、こっ
そり道を変えようとしたら−−
「あ〜ら、山田さんの奥様!お久しぶりじゃございませんこと?」
無理やり引き入れられた。
「まぁ、皆さん、お楽しそうに…どんな話に花を咲かせてらっしゃるのかしら…」
「子供たちの大学生活について話してたんざますのよ。みんなたまたま遠くの大学へ
行ってる子供を持ってるもので」
間の悪い事に山田夫人にも大学生の子がいた。
「山田さんの息子さんは都内の大学で良かったでわねぇ。羨ましいですわぁ。私ども
なんかパリ郊外に留学してるもんで、様子が分からず心配させられますの、ホホホホ
ホ」
「うちもリスボンですから、言わば地球の裏側でございましょ?電話も滅多にくれな
いし、何だか心配でしょうがないんですわよ」
「私の娘も中国の大学でしょ通信事情が悪くてハラハラさせられますわ」
「うちはアメリカのボストンですけど、やっぱり簡単に行き来できる場所じゃないで
すし、気がもめますわ、本当に」
「その点、山田さんの奥様はよろしいですわねぇ。息子さんが東京にいらっして」
「いいえ、皆さん方こそ羨ましいですわぁ−−生活費が安い所ばかりで」
(完)
2003年02月04日23時12分41秒投稿
S.S☆「不運な家族」☆ あや太郎
一組の老夫婦がいた。共にもう八十近かった。
ずっと二人きりで細ぼそと暮らして来たらしい。
二人には子供がいた。いや、居たはずなのだ。
しかし今は生きているのかどうかさえ分からない。幼い頃に別れたきりなのだ。
五十年ほど前、夫婦は外国に住んでいた。一人娘と共に三人仲良く暮らしていた。
しかしそんな幸せも戦争に破壊された。大混乱の中、夫婦は母国へ引き揚げようとし
た。そこで悲劇が起きた。どうしても幼い子供を連れては逃げられない状況に追い込
まれたのだ。そして二人は泣く泣く一人娘を知り合いに預け、帰国する事になった。
戦争は間もなく終わった。しかし不幸な事に、その国と二人の母国は国交を回復で
きなかった。離れ離れの子供と何の連絡も付かないまま数十年が過ぎた。
何年か前、ようやく二つの国は国交を回復した。二人は手を尽くし、昔の知人へ連
絡を取った。知人は亡くなっていたが、一人娘は生きているらしいという。二人は飛
んで行きたい気持ちで一杯だったが、年を取っている上、貧しい暮らしでは海外旅行
をするカネもない。二人にはツテを頼って手紙を書くくらいしか方法がなかった。
また何年かたち、その国に残された同胞の子供たちが一同に集って、この国へ里帰
りして来た。そしてその中に、二人の娘も確認された。
間もなく親子は再会した。実に三十年ぶりの再会だった。
死ぬ前に一目会えただけでもこの上ない幸せに思えた。
しかし両親の心には複雑な思いがあった。三十年ぶりに会った娘を自分たちの家に
連れてゆく時の事だった。二人は何故か消極的だった。ホテルでの再会だけで済まそ
うとしたのだ。しかし娘は両親の暮らす家に行きたがった。当然の思いだったろう。
それでも最後まで年老いた親たちは躊躇した。実は粗末な家で、二人は屑屋を営んで
いたのだった。
娘にこんな生活を見せたくなかった。そしてその家を見た娘も戸惑いの表情だっ
た。
それでも両親は娘を精一杯もてなした。そして滞在期限一杯まで親子水入らずで過
ごす覚悟を決めた。しかし娘は予想外の反応を示した。滞在を切り上げ急遽帰国する
と言うのだ。親が止めるのも聞かず娘は早々に帰途に着いた。
両親は嘆いた。やはり見せるのではなかったと。娘が育った国は自分たちの国より
貧しい国であった。多くの人はこちらの生活に憧れている。そんな国で育った娘に両
親の貧しい暮らしぶりは失望以外の何物でもなかったはずだ。老夫婦は毎日を泣き暮
らした。
間もなく、娘から手紙が来た。封を切るのが怖かった。しかし封筒の中には何と現
金が入っていた。
一瞬、手切れ金のようなものではないかと怯えた。
確かに、この国ならひと月分の生活費ぐらいにしかならない額だった。
しかしそれは、まさかの時の為に、娘が今まで貯めておいたお金らしかった。そし
て生活に喘いでいるらしい両親へのせめてもの贈り物だと認められてあった。
両親の国では、当座の小遣いぐらいにしかならないこの金額を、娘が貯めるのに何
年の年月を要したことだろう。
そして手紙はこう締めくくられていた。
−−急いで移住手続きを済まし、そちらへ行く−−−もう安心して良いと。
両親はまた涙にくれた。もちろん嬉し涙の毎日であった。
親も子も思った事だろう−−−自分たちは不運な家族だった。しかし決して不幸な
家族ではなかったのだと。
(完)
2003年02月02日22時19分21秒投稿
【end of file】