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2003年01月01日〜31日

S.S☆「出火原因」☆     あや太郎



 原因不明の火事が起きた。

 燃えやすい物を扱わない商売で、特に火元も見当たらないというのに−−

「なぜこんなエステで火事が起きたんでしょう?発火しやすい薬品でも使ってるんで
すか?」

「いえ、うちは薬草やハーブを使ったエステでして、化学合成の香料やオイルはほと
んど使いません。火や電熱関係も一か所に集めて厳重に管理してありますから、今回
も火元になった形跡は無いと聞きました」

「なるほど。じゃあ一体何が原因なんだろう?」

 ここで鑑識課員が答えた。

「一種の自然発火としか考えられません。例えば山積みした石炭などが燃えだすよう
な…」

「商売柄、石炭には無縁だろうが…」

「油類も火元になるんです。例えば肉屋の場合なんかでも、肉類の脂分を吸い込んだ
布巾やペーパーを無造作にごみ箱などへ放り込んでおくと、空気に触れて酸化して熱
を出し、時には燃えだすほど温度が上がる事があるんです」

「何と…。それでこのエステではそんなに大量の油を使っていたのかね?」

「早速聞いてみましょう。−−−どうなんですか、店長?」

「営業用には使っておりません。ただその…」

 何やら煮え切らない。

「ただ…何なんですか?」

「ただ…心当たりが無くもないんです」

「どんな心当たりなんです?」

「油のしみ込んだマットを窓辺で干していた事は確かです」

「やっぱり。それで、それはどんな油なんですか?」

「いや、それは申し上げられません。秘密なもので…」

「事が事ですからね。原因は突き止めねばなりません。たとえ企業秘密でも言っても
らわねば困りますな」

「いえ、企業秘密ではなく…お客様の秘密なんです」

「客の秘密?プライバシーに触れるとおっしゃるんですか?」

「はい。火事の前日に来られたお客様の秘密がバレてしまう恐れがありますんで…」

「それでも言ってもらわないと困ります。それはどんな秘密なんですか?…特殊なオ
イルを使ってるとか…?」

「いえ、オイルは普通の物です」

「じゃあ、分量が多いとか?」

「いえ、使用量は普通です」

「それじゃ一体何が特別なんですか?」

「ハイ、お客様は特別に…あぶら性だったんです」

 かくして出火原因はうやむやの内に処理された。

                  (完)

2003年01月29日22時45分22秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

1月22日 TORII HALL「第四次 雀三郎みなみ亭」

出し物

●「池田の猪買い」 桂 雀太
●「黄金の大黒」  桂 雀五郎
●「二番煎じ」   桂 雀三郎

 中入

●「初天神」    桂 雀喜
●「蔵丁稚」    桂 雀三郎

至る処にサービス精神満載の「二番煎じ」。
この噺にしょっちゅう登場する宗助さん。
なんぞ事があったら
「宗助は〜ん宗助は〜ん。」
と名指しされる町内の人気者ですな。
しかも流れの中でアクセントになる重要人物。
其れ故か、雀さんは汗拭くのに一門の宗助さんの手拭いを使ぉたはりました。
より一層印象づけよぉとの魂胆ですかね。
夜回りの場面。
宗助さんの江戸流
「火のぉ用ぉぉ心 さっしゃりやしょぉぉぉ。」
に続いて八卦見の先生が源氏節風。
普通はここまでなんですけど、その後に謡曲と浄瑠璃を持って来たはりました。
お得意のパターンですな。
飲酒禁止の番小屋で風邪薬と称して二三人が酒を持ち込みますな。
これまた口直しと偽って、それぞれ猪の味噌煮に焼き豆腐と葱の煮物。
雀さんはもぉ一品プラスして麩の炊いたやつ。
これは別に無ぉても噺自体には何の差し障りも有りません。
けど、各々を食べる時の仕草の違いにバリエーションが増えて面白い。
一人が酔っぱろぉて大声を発します。
それを聞き付けて入って来た役人に言い訳。
「眠気覚ましに宗助はんが落とし噺をして…。」
ここでまたまた趣向が有ります。
役人のリクエストに応えて宗助さんが小咄を披露するんですな。
寒風の中、二人連れの町人が
「寒いなぁ。」
「ほんまやな。
 けど見てみぃ、向うから来るお侍。
 背中丸めてる我々と違ぉて胸はって堂々と歩いたはる。
 さすが、えらいもんや。
 もしお侍様、寒い事ございまへんか?」
「うむ、さぶらい。」
お後と交代…んな事はない。
加えてもぉ一箇所。
飲酒が発覚して
「これは風邪薬でございまして…。」
と更に苦しい言い訳。
役人はそれと知り乍ら
「身共も少々風邪気味でな。一杯振舞わんか?」
従来は一杯だけ飲む処を立て続けに二杯飲みます。
次いで鍋の口直しを食べ乍らもぉ一杯。
如何にも飲まれてしもぉたっちゅう感じがしますな。
只々見てるしかしょぉが無い夜回り連の顔が浮かんで来ます。
酒飲みの雀さんらしい演出ですな。
ほんま、よぉ遊んだはる一席でありました。

雀喜さんの「初天神」。
生意気で元気なトラちゃん。
可愛らしい処も見えたらもっと良ぉなるでしょぉけどね。
その辺りよぉ現われてるのが最後の凧上げですな。
おそらく時間の関係やとは思いますけど、そこまで行かんかったのは残念。

小佐田センセ曰く。
雀三郎一門のお家芸〈プロレタリア落語〉の一つ「黄金の大黒」の冒頭場面。
家主さんの突然の召集に長家の連中が色々憶測しますな。
飼い犬を食べてしもぉた一件かも…。
それと無ぉ探りを入れてみた人が、違うみたいでっせ。
そしたら飼い猫を食べてしもぉた一件か?
それでもないらしい。
雀五郎さんはここで事の真相を明らかします。
が、このパターンで演らはるのやったら小鳥も食べてしまわにゃなりません。
三つ揃ぉたらより一層の破壊力。
こちらも時間が無かったのかも知れませんな。

兄弟子二人の時間を食うたのは雀太さんかも。
「池田の猪買い」はノーカット。
まだ語る機会の少ない末弟にええ形で場数を踏ましてやろぉという心尽くしですな。
一門会ならではの温かさが感じられます。
ええ方にとったらの話ですけどね。
ほんまは腹の中でムカムカして…ん〜…強ち無いこっちゃおまへんな。

2003年01月29日17時43分56秒投稿

S.S☆「二人手品」☆     あや太郎



 引っ越して来たばかりの町で恒例の親睦宴会が開かれ招待を受けた。

「素人の芸達者が自慢の芸を見せるという趣向なんですよ」

 お互い鑑賞したり酒を飲んだりという訳だ。

「わたしは無芸なんで、弱りましたねぇ」

「いやいや、ご心配なく。芸を披露する義務はありませんから。見て飲んで、楽しん
でもらったら結構なんですよ。近頃は見せたがりのほうが多いですからな」

 それで安心した。

 例の如くのカラオケや民謡踊りが出たあとに「二人手品」という初耳の出し物が掛
かった。

「ふたり・てじな…ですか?」

「そうですよ。二人がかりでやる手品ですわ。この町の名物でね。アマチュアながら
見事なもんですよ。何てったって、二人でやるというのが珍しい」

 二人組の手品師なんて珍しくないと思うのだが、アマチュアでは珍しいのだろうか
と舞台を見ていると、よくあるマジシャンの恰好をした二人の男性が出て来た。先ず
トランプ手品を始めたのだが、それがいきなり二人ががりの手品だったので驚いた。

 二人がほぼ正面を向いて並び立ち、一人の男の右手と、もう一人の左手でトランプ
を繰ったり切ったり飛ばしたりするのである。

「なるほど、こりゃ珍しいや…」

 と感心しながら二人を観察しなおして、もう一度驚いた。

−−何と一人は左手が無く、もう一人は右手が無い。つまり片腕の人間同士が共同作
業でトランプを扱っているのだ。

「どうです、鮮やかなもんでしょう?」

「こりゃ本当に珍しい…」

 呆気に取られている内にも、目まぐるしく出し物が変わり、ハンカチや帽子や縄や
ステッキを使った手品が次々に披露されてゆく。やがて、やんやの拍手に送られて二
人は舞台を下りて来た。

 観客に混じって一杯やっている二人に、私は興味津々で思わず話しかけた。

「見事なものですねぇ。ずいぶん練習したんでしょう?」

「いやいや、日頃の生活で息は合ってますから」

「日頃の生活と言いますと?」

「寿司屋をやってるんですよ−−−二人力を合わせてね」

「お二人で寿司屋をやってるって、まさか握り寿司なんかも…?」

「もちろん、二人で握ってるんですよ」

「へぇ…。これはまた凄いコンビだ。よくこんな巡り合わせがあったものですね。と
ても偶然とは思えない」

「偶然でもないんですよ。最初の出会いからしてイキがピッタリでしたからね」

「出会いと言いますと?」

「交通事故なんですよ。ほら、たまにあるでしょう−−−車の窓から手を出してボン
ヤリ運転してたら、他の車とすれ違って、気がついたら腕を無くしてたって話」

「ほぉ…そんな目に遭われたんですか」

「しかも二人とも運転席から手を出してましてね−−−すれ違ったとき、同時に無く
しちゃったんですよ。いやぁ、迂闊な話でお恥ずかしい」

「いや、それは大変でしたね。しかし…」

 ここでようやく私も辻褄の合わない点に気がついた。

「そちらの方は左手を無くしてらっしゃるんですよね?正面からすれ違ったとした
ら、どちらも右手を無くすんじゃないんですか?」

「いやぁ、彼のほうは…外車に乗ってましてね、左腕のほうを出してたんですよ。そ
れでそれぞれ右手と左手を失ったという訳です、ハハハハハ」

「あ、そうか。いや、それで分かりました。それにしてもそんな不幸にも挫けず、こ
うして頑張ってらっしゃる。素晴らしいものだ。今日は良い話を聞けて得をしまし
た。有り難うございます」

 それなりに感動して立ち去る私の背後で、二人の含み笑いとこんな囁きが聞こえ
た。

「どっちの窓から手を出したって、対向車なら違う腕を無くす訳ないのにな…!」

                  (完)

2003年01月28日23時26分42秒投稿

S.S☆「プラシーボ効果」☆     あや太郎



「あいつら…毒殺してやる!」

 物騒な事を決意した男がいた。

 どこにでも居そうな平凡なサラリーマンだった彼は、家庭内のゴタゴタ、仕事のし
くじり、職場の人間関係のこじれなどが続き、特別短気な性格ではなかったのだが、
ある日とうとうキレてしまった。特にギクシャクしていた仕事仲間数人と上司を一気
に葬ってやろうと大胆な事を考えた彼は、劇薬指定の化学薬品を職場で飲むお茶に混
入し、一挙殲滅を図った。

 しかし単に毒物を混入したのでは、いずれ自分が犯人だと知れてしまう。完全犯罪
を目指すには−−彼は自分も犠牲者の一人になる事を思いついた。

 無論、死んでしまったのではしょうがない。致死量よりも少ない毒物を飲み、一応
入院、治療を受けた末、助かるように計算するのだ。あとは中毒症状をひどく見せる
演技力しだいだ。

 彼はかつて化学を専攻していた知識を活かし、関連工場で使用している化学薬品を
ちょろまかして来ると、社員全員が使う湯飲みに薬品を薄くコーティングし、お湯の
熱で溶けるように細工した。自分のコップと、その他いくつかのコップには少なめの
量を塗布した。助かる者もいれば、運悪く死ぬ者もいる−−芸の細かい偽装工作だ。

 そしてついに運命のティータイムが来た。

「今日は冷えるなぁ。ここらで一服して熱いお茶でも貰おうか」

 上司の音頭で、計画通り、社員全員にお茶が配られる。それぞれ愛用のコップがあ
る者はそれに注ぎ、そうでない者は適当に入れてもらう。一通り皆がお茶に口を付け
たのを確かめてから、彼も思い切ってお茶を飲み下した。

 苦い薬品の味に顔が歪んだ。ほんの微量なのに、やはり毒の喉越しはイヤなもの
だ。

 みんなもお茶を飲んだあと、渋い顔をしたり首を傾げたりしている。妙な味に気づ
いたのだ。しかしそれが毒である事にはまだ気づいていないようだった。

…フフフフ…みんな可哀相に…

 思った途端に腹や胸が苦しくなって来た。少なめに入れたとは言え、毒薬の効果は
並大抵のものではない。

「く、苦しい…」

 他でもない−−張本人の彼が先ず倒れた。胸を掻きむしる。意識が薄れて来た。社
内は大騒ぎになっていた。救急車を呼ぶ声を聞きながら彼は気を失った。

 気がつくと病院の一室だった。

 ベッドの周りには心配そうな同僚たちの顔が全員そろっていた。

−−−全員?なぜみんな無事なのだ!?

 そしてその同僚の背後には警官の制服が出たり入ったり−−

「気がつきましたか。それでは早速尋問させて貰いましょうか」

「じ、尋問?」

 言葉が穏やかでない。

「な、何の尋問です?」

「言うまでもなく、毒物混入の容疑についてですよ」

「容疑?なぜだ?…私は被害者ですよ。みんなと同じように毒を飲まされたんです
よ」

「いえ、他の皆さんは…毒など飲んでません」

「えっ、飲んでない?」

「それどころか、あなたも毒は飲んでないんですよ」

「えっ、まさか…?」

「あなたが、毒物だと思って持ち出した化学薬品の缶には、実は研磨用の磨き砂が
入っていただけなんです」

「なんてこった…」

「だから、みんなヘンな味だとは思ったが、身体には影響なかったんですよ」

「で、でも、現に僕は中毒して倒れたじゃないですか」

「それは…毒が入っていると固く信じ込んだから−−−つまりプラシーボ効果という
ヤツですな」

「ゲッ…」

「ただ、あなたの反応から、だた一つハッキリした事があります。それは未遂であれ
何であれ、あなたが皆の毒殺を謀ったという事実ですよ」

 周囲を見回すと、今度は同僚たちのこの上なく冷たい視線が降り注いでいた。

                  (完)

2003年01月26日23時07分21秒投稿

S.S☆「天井裏」☆     あや太郎



 天井裏でごそごそと物音がする。天井板を下から叩くと、上でもゴソゴソと反応し
ている気配。これは何か居るに相違ないと業者を呼んだ。

「スズメ蜂やヘビなら、あんな音は立てないはずです。あの物音だと、もう少し大き
な……恐らく猫か大きなネズミが巣をつくってるんじゃないですかねぇ」

 動物や昆虫の巣を除去する専門家が天井板を叩きながら言った。何はともあれ板を
外して天井裏を覗いて見る事になった。

「ふーむ−−入り組んだ造りで見えにくいんだが−−−あっ、何かが動いた。奥のほ
うへ走り込んでったけど−−奥には何があるんですか?」

「空気抜きの隙間がある筈です」

「なるほど。そこが出入口になってるんだな…。じゃあ、こちらから追い出しますか
ら、何が飛びだして来るか、外で見ていて下さい」

 家族が裏庭で見ていると−−−何か黒っぽい猫ぐらいの大きさの生き物が出てき
て、屋根の上をトコトコと走った。

「やっぱり猫かなぁ…?」

 尚も見ていると、屋根の切れる所へ来て、それがフワリと宙を飛んだ。

「何だ、ありゃ?空を飛んだぞ」

「飛ぶときに何か膜みたいなものを広げてヒラヒラさせてた…」

「ふーむ−−−どうやらムササビの仲間らしいですな。しかし今時珍しい。こんな街
の真ん中に現れるだなんてね」

「へぇ、そんなに珍しい物ですか。それならいっぺん捕まえてみたいもんだ」

 翌日、家族と業者総掛かりで、その天井裏の侵入者の捕獲作業が始まった。

「屋根の上へ出てきた!−−あっちへ逃げたぞ−−隣の屋根に移った−−−あっ、飛
んだ…!」

 また裏手の緑地帯へと姿を消した。

 珍しい動物の事とて、隣近所の子供らも見物に詰めかける。数十人の観客に見守ら
れながら、その翌晩もまた捕獲作戦は続いた。

「あっちへ逃げた−−−こっちへ逃げた−−暗くて良く見えない−−ライトを点けろ
−−いや、怖がって逃げるぞ−−」

 この夜も、捕獲は空振りだったが、翌晩になると観客はまた増えていた。

 見物人の期待に応えるため、ついに捕獲係と所帯主が屋根へ登って網を振るう事に
なった。

「落ちるなよ〜−−足を滑らすな〜…」

 おっかなびっくりで「獲物」の登場を待つ。そのうち定刻通り屋根裏部屋の隙間か
ら、「獲物」が現れた。かなりのスピードでスタスタスタと屋根の上を走っている。

「おや?−−何だか二本足で走ってたような…」

「慌てて後足だけで立ち上がったんだろう。怯えると良くそんな走り方をする」

「エリマキトカゲみたいだなぁ…」

「あれは空なんか飛べないよ」

−−そっちだ…捕まえろ…と大騒ぎだ。

 挟み打ちで追いかけるが、謎の生き物は予想どおりの身の軽さで、ひょいひょいと
網をかわす。ついには引っ掛かった網を破ってしまった。

「ゼーゼー…。あと一歩なんだがなぁ…」

「思ったより力の強いムササビだ」

 それでも頑張る捕獲係たちはついに「獲物」を屋根の隅へ追い込んだ。向こうには
緑地帯も公園もない。代わりに幅の広い川があるだけだ。

「もう逃げられんぞ…。一、二の三…!」

 二人が挟み打ちで網を振り下ろした瞬間、獲物は勢いを付けるように猛然と走りだ
し、見事に空宙へと飛びだした。

「おい、どこへ飛ぶ気だ?−−そっちは川だぞ…」

「落ちたら溺れるんじゃないの?」

 見物客たちが安否を気づかって身を固くしていると、不思議な事にその獲物は川の
上空をどこまでもどこまでも力強く飛びつづけているではないか。膜のような物をヒ
ラヒラさせながら、やがてその姿は街の明かりに紛れて消えた。

「あれぇ?−−あんなに飛べるムササビなんているの?」

「おかしいなぁ…。それにヒラヒラしてるのは皮膜かと思ったら…何だか布きれみた
いだったよ」

「まるでマントだっね。何か文字みたいな物も書いてあったし…」

「それじゃ、ひょっとするとムササビじゃなくって…?」

「小柄なスーパーマンか?」

 一瞬、顔を見合わせたあと、誰かがタメ息をつきながら言った。

「なーんだ−−−屋根裏部屋を着替えに使ってただけか…」

 見物客たちはがっかりして引き揚げていった。

                  (完)

2003年01月25日23時05分02秒投稿

S.S☆「ビデオ教育」☆     あや太郎



 A氏には彼女が居た。

 好き者のA氏には似つかわしからぬ純情で素朴な彼女であった。実はまだベッドイ
ンもしていない。

「ウブな所がタマらんなぁあ」

 今回ばかりは生涯の伴侶にしようと結構真剣なA氏であった。

「しかし、あまりウブでも困る。いざ本番と言う時に、ショックを受けて、逃げ出す
恐れも無きにしも非ず」

 そこで彼女に、その手のHビデオを与え、男女の心得事を学ばせることにした。

「しっかり勉強するように」

 幸せな家庭を築くため……という理由だけでは、さすがに洒落っ気が無い。

「外国の男優が多いから参考になるよ。サイズは僕と同じぐらいだから……ナハナハ
ナハ」

 ちょっと悪乗りして彼女を赤面させてみる。

実際それ以上に濃厚な教材を恭しく贈呈した。

 そうこうしている内、A氏が交通事故にあった。

 命に別状は無かったが、あちこちに外傷を負い、彼女が見舞いに駆けつけた時にも
血の滲む包帯姿で大いに心配させるほどだった。

 間もなく退院し、久しぶりに彼女とのデートに臨んで、さすがにA氏も待ちきれな
くなった。

「今夜は……良いかな?」

「ええ」

 全快祝いと言う雰囲気も手伝ってか、二人はついに晴れて一夜を供にする運びと合
い成った。

 シャワーを浴び、準備万端整え、いよいよカップルがお互いの生まれたままの姿を
目の当たりにしたとき、彼女が、ギョッとした表情で、こわごわA氏に聞いた。

「あなた、あの事故で・・・半分ちぎれてたのね!」

  ――――完―――――

2003年01月22日22時50分47秒投稿

S.S☆「見てるだけ」☆     あや太郎



「きゃああああ!……ヨシオったら、これは何なの?ベッドの下に、いやらしいビデ
オが一杯。な、なんて破廉恥な……。お母さん、大ショック!」

「何を驚いてるのさ、母さん。単なるHビデオじゃないか」

「そ、そんなヤらしいモノを見て恥ずかしくないの、あんた?」

「ビデオ見るだけで、何で恥ずかしいのさ。それなら、恋人や夫婦で、しょっちゅう
本番のHしてる人なんか、恥ずかしくて外を歩けないじゃないか」

「あら?……そう言われてみれば、そうなのかしら……?」

「そうだよ。ビデオ見るぐらい何でもないよ。本番を覗いた事も二三度しかないし
さ」

「覗いた!あなた、覗きをやった事があるの?それは絶対に許しません。もし見つ
かって警察に突き出されたらドウする気なの?」

「たぶん、突き出したりはしないと思うよ。……母さんと父さんの、だけだから」

「きゃあああああああああ!」

    ―――――完―――――

2003年01月20日22時26分29秒投稿

S.S☆「サル顔」☆     あや太郎



  ♪チャカチャンリン・・・デンデン。

「ようこそいらっしゃいました。犬山ワン吉です」

「サル山モン吉でーす」

「いきなり何ですけどね。キミはつくづく得なキャラクターだなぁ」

「ほほぉ、どうして?」

「実に立派なおサル顔をしてる。顔に特徴があるから、すぐ覚えてもらえるじゃない
ですか」

「そう言やそうかなぁ。自慢じゃないけど、町を歩いてても、すぐに分かるみたいだ
ね」

「あの人はニンゲンじゃない。エテコだって」

「そうそう。ニンゲン扱いされちゃ片腹痛い・・・何でだよ!」

「動物園に行くときも得するらしいね」

「なぜ?」

「裏の、関係者用出入り口からタダで入れる」

「うん。親戚との面会は無料だから・・・パン!失敬にも程がある」

「パンダ観るときにも、そのパスは使えるの?」

「いいや、半額になるだけ・・・違うったら。そんな優待券、無いの!」

「それにしても良いなぁ、キミは。みんなに愛されてるから」

「照れちゃうなぁ。僕ってそんなに好かれてる?」

「色んな愛称があるじゃないか。エテ吉くんとか、森野ゴリ平さんとか、チンパン君
とか、マント・ヒヒ男くんとか」

「誰だよ、そんなこと言ってるのは?無茶言うなよ」

「愛されてるからだよ。その点、僕なんか淋しいもんさ。芸名は犬みたいだけど、あ
まり犬に間違えられない。ポチとか、シロとか、クロとか、ボスとか、呼んでくれな
い」

「まぁまぁね」

「せいぜい呼ばれても、ジョンとかジローとか、サムとかボブぐらいだ。あぁ、人
間っぽくって詰まんないなぁ」

「そのほうが良いだろうが」

「その点、キミは猿飛びエテ公とか、物まねウータンとか、類人猿太郎君とか、猿山
ボス吉とか、夕焼け尻は真っ赤っか〜とか……」

「言われたくない!」

「何より、羨ましいのは、僕なんか芸名と違って全然イヌに似てないのに、キミは
堂々とエテコに似てることだ。いや、世間では本当の猿かも知れないと、敬意を表し
てくれるぐらいのもんだ。あ〜〜、地味なキャラクターの僕は妬ましい!」

「ちっとも嬉しくないなぁ。僕が滅多に人間扱いしてもらえないのも、キミが影で勝
手にそういうイメージを宣伝してるからじゃないのか?裏でごちゃごちゃ言わずに、
僕の前でハッキリ言えるもんなら言ってみろ」

「サルサルサルサルサルサル・・・!」

「よくもまぁ、面と向かって……」

「あっ、サルのお面!」

「もう良いったら……。まぁ、舞台で言うのはまだ我慢する。しかし無闇やたらにサ
ルサルと言ってくれるな。僕にも妻子が居るんだからね。特に子供らは感じ易い年頃
なんだ。親がサルサルって呼ばれてたら傷つく。だから今後、僕をサル呼ばわりする
時は、必ず僕の子供の事を思い出してくれたまえ」

「あっ、そうだったね。これからは忘れないよ。……娘も息子も、サルサルサルサル
・・・」

「パーン!!!」

     ――――――完――――――

2003年01月18日23時08分44秒投稿

S.S☆「ケイタイ殺人事件」☆     あや太郎



 とある中堅実業家が交通事故を起こし、親子三人が死亡した。

 彼岸の墓参りに行く両親を送り迎えした車中での事だった。

 事故原因は、前方不注意によるものと見られ、信号の見難い交差点で、横からきた
大型トラックを避けきれず、小型車は大破、家族三人ともほぼ即死という惨事になっ
た。

 もともと運転が得意でなかった実業家が事故の多い交差点で、よくあるタイプの衝
突事故を起こした事については何ら不審な点は見当たらなかった。

 車内から発見された多数の携帯電話に関しても、仕事の虫である本人が常備してい
るものと確認され、車を含めた身辺に何か異常なものが仕込まれていたという形跡も
ない。つまり一見した所、犯罪性のあるものは特に無かったと言う事だ。

 ただ彼が残した莫大な財産を、一文無しの唯一の弟が相続する点と、些か不可解な
通話・着信記録がケイタイのメモリーに残されていたという点を除いては・・・。

「兄貴は働き者で、一時も連絡を欠かさないようにケイタイを何台も持ち歩いてまし
たから」

「ふむふむ、なるほどね」

「節約家で、運転が下手なくせに運転手を雇うなんて勿体無いと、自分でハンドルを
握るのが常でした」

「なるほど、なるほど?」

「あの日も珍しく両親を乗せて墓参りに連れて行ってやるなんて・・・親孝行が仇に
なったんだから皮肉なもんですよ」

「ふむふむ、正にそうですな」

「本当に不幸な事故だった。…それで弟の私に聞きたいというのは、どんな事なんで
すか」

「何故かお兄さんが、事故の多い交差点に差し掛かるたび、絶妙のタイミングでケイ
タイに電話が入ったようなんですが、弟さんからの着信記録もかなりあったようで
ね」

「いや、それは……兄貴が日ごろから電話に出るとき、慌てる癖があるもんでね」

「ほぉ、それはどんな風に?」

「なにせ商売熱心と言うか、貧乏性と言うか、ひと度、電話が鳴れば、取るものも取
りあえず、壊れ物を持ってても放り出して、電話に飛びつくんですよ。いやはや、落
ち着きの無い」

「ほほぉ、それは興味深い話ですなぁ。いや、そういう性質の者は多いですしね」

「親だって放り出しかねない程でね、ナハハハハ」

「じゃあ、不得意な運転の最中に、何度も電話が入れば、危ないですわなぁ」

「そうなんですよ。それが心配でね」

「たまたま行き違った運転者の目撃談が幾つか集まりましてね。複雑な交差点に差し
掛かるたび、ケイタイを取り上げて、ハンドルを切り損ねてたそうですよ」

「いや、正にそれが心配でね」

「それにしてもも交差点に差し掛かるたびに電話が掛かるとは、ずいぶんタイミング
の良い話ですな?」

「いや、実に絶妙のタイミングですね」

「もう一人、目撃者が居ましてね。三人の乗った小型車の後を、赤い外車で付かず離
れず、走ってた人物が居たようなんです。対照的なので印象に残ったそうなんです
が、確か弟さんは、赤いポルシェを愛用なさってるそうですね」

「あ、あぁ、乗る事も有りますよ」

「失礼ながら生活は楽じゃないのに、車は何台も持ってらっしゃるんですな。いや、
羨ましい」

「それで借金が増えて・・・いやはや、弱ってます。ナハハハハ」

「当日は・・・どこで何をなさってましたか?」

「さて、どこに居たのかなぁ・・・?ただ兄貴に電話を入れたのは確かですね。一度
か二度」

「三度か四度?」

「五度か六度か・・・忘れちゃったけどね」

「そもそも一体何のために、そんな何度も電話を入れたんです?」

「だから・・・注意する為ですよ。電話に出るときは気をつけろって」

   ――――完―――――

2003年01月16日22時19分35秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

1月13日 国立文楽小劇場 「第二回 桂 こごろう 独演会」

出し物

●「子ほめ」     桂 歌々志
●「おごろもち盗人」 桂 こごろう
●「稲荷俥」     桂 あさ吉
●「桜の宮」     桂 こごろう

 中 入

●「茶の湯」     桂 こごろう

ポイントを外す事無く反応してよぉ笑う、ええお客でした。
演者さんそれぞれの出来も上々。
なかなか盛り上がった会になりました。

「おごろもち盗人」の枕。
正月の挨拶の為に南光さん宅を訪れたこごろうさん。
黒紋付袴姿に雪駄履きですな。
その後師弟で仕事なんでスーツも持参してました。
が、靴を忘れはった。
スーツに雪駄なんてかなり怪しい恰好ですわな。
それで南光さんに借りたという訳なんですけど、これがええ品もんやったそぉな。
「師匠、ええ靴ですなぁ。柔らかいし疲れへんし、ほんまにええ靴ですわ。」
べんちゃら半分でもこない言われたら
「やろか?」
言わにゃしゃぁない。
ここで南光さんが舞台に登場して
「別にやろぉと思ぉた訳や無いぞ。」
盗人の噺の枕にこれを持って来たという事は少なからず反省を…せんわね。
〈看板の一〉やないが
「こら、ええ手ぇやなぁ。」
なんてね。
こごろうさん、次は裸で行かはるそぉです。

この噺、普通盗人は右手だけ縛られます。
こごろうさんはここをひと工夫。
左手でもぉ一つ穴を掘り、中に差し込んで細引きを解こぉと考えます。
ところがまたも目算を誤って届きません。
しかも寝たと思ぉた家人がまだ起きていて、左も同じ状態に。
同じミスを繰り返す事で、この盗人が如何に頼ん無い人物か分かりますな。
まぁ、片手が自由やったら何か行動しますわな。
無理したら背中の隠しの蝦蟇口に届くかも知れませんしね。
其れ故、徹底的に身動きならん状態にしてしもぉたんでしょぉ。
そこへ通りかかる男は最初から一人に設定。
盗人の両手縛りの後はすっきり落ちまで運びたい、という事やと思われます。

「桜の宮」と「茶の湯」は共に人(にん)に合ぉた噺。
口慣れたネタなんで、噛む事も無く安定してました。
流石、独演会。
勉強会とは気合いの入り方が違います。
岡町ではこぉはいかん…て、これこれ。

あさ吉さんの「稲荷俥」。
梶棒持つ手付きがどぉも頼り無い。
それでは力入りまへんやろぉがな?
ほんでまた、そない全力疾走したら客と喋ってられませんがな。
舌噛みまっせ。
細かい部分に荒さが目についた高座でした。

歌々志さんの「子ほめ」は聴く度に面白ぉなってますな。
独自の工夫もありますし、わざとらしい匂いが徐々に消えてスムースな運び。
地道に進化してまっせ、たぶん地獄にいたはる歌さん。

中入り直後の舞台にスーツ姿の団朝さんが登場。
よぉ演者さん意外の人が出て来る会ですな。
録音準備が整うまでの間を借りて、3月2日の団朝独演会の告知。
昨年一年を通じて〈米朝一門いちおし落語会〉…ピックアップされた4人がこの会場
で一回ずつの独演会を開く、という企画がありました。
こごろうさんもその時が初めての独演会なんですな。
「私団朝とこごろうさんと宗助さん、もぉひとりは嫌いなんで言いませんが…。」
団朝さんがこんな問題発言。
私は行ってないんではっきり知らんのですけど、確か…で○さんやったかと…。
間違ぉてたらごめんなさい。
ま、一門全員仲良しなんてのは却って気色悪い。
まして皆それぞれに我の強い芸人さんですからな。
色々あるんでしょぉ、外からは見えん事がね。
○まるさん…や無かったかな?
滅多な事書きなっちゅうのに。

パンフに載ってた九雀さんの文に因りますと、枝雀さんが独演会で全国を廻る時の前
座は何時もこごろうさんで演目は「動物園」やったそぉです。
日本一「動物園」を演らはった噺家というのはここからきてる訳ですな。
それはこごろうさんがお客さんと仲良くなれる噺家やから。
会場を落語の聴き易い空気にするというのはトップバッターの大事な使命です。
と共に非常に難しい作業でも有りますな。
何処かしらざわついてる客の気を落ち着かせ、尚且つテンションを上げて高座に集中
させねばなりません。
こごろうさんはそれらを極自然にやってのけます。
明るくほのぼのと軽やかな雰囲気でほわっと包み込みつつこっちをその気にさせてし
まうという、言わば生まれ付いての色事師のよぉな持ち味は確かに貴重ですな。
そして、この日も客席はきっちりその気にさせられちゃったのさ。
尤も殆ど中年以上のおっちゃんおばちゃんでしたけどね。
こんだけ目も耳も肥えたベテラン客引付けるやなんて、憎いねほんとに。

2003年01月15日16時29分02秒投稿

S.S☆「生きた教材」☆     あや太郎



「さぁ、きょうは草原に棲む家族思いの動物たちの感動物語ですよ。

アフリカの草原を駆け巡る鹿の一種・トムソンガゼル。乾季になると新鮮な草や水を
求めて群れで移動します。しかしそんなガゼルの家族を、やはり飢えたライオンたち
が狙っています。…誰かが義性に成り誰かが生き残らねば成らない……厳しい厳しい
大自然の掟なんですね。ライオンは先ず子供に目をつけます。やはり弱いものから狙
うんですねぇ。ガゼルの親たちは子供らを包み込むようにして必死で守ります。でも
ジワジワと迫ってくる狩人たちに遠巻きにされ、ガゼルの群れは水を飲む事も出来ま
せん。これでは皆やられてしまいます。そこで親の一頭が思いも寄らぬ行動に出まし
た。群れを飛び出すと、何とライオンの群れに突進し、驚いてバラバラになったライ
オンたちをまた引き寄せるように動きを止め、ライオンたちが追いかけてくると、ま
た全速で逃げ、だんだんと自分の群れから引き離してゆきます。その間に群れのほう
は他の親達が小鹿を誘導して安全そうなところへ逃げていく・・・あぁ、なんて賢
い、勇敢な行動でしょう!」

「先生・・・興奮してないで、結末を見せて」

「やっぱり最初の親は食べられたのかしら。だとすると、悲惨な結末だわ」

「それがどっこい・・・話はそんなに単純じゃないらしいのよ。この記録映像は貴重
な研究資料なので、滅多に見られないから先生も最後までは見てないんだけど、何と
何と、この勇敢な親ガゼルはライオンたちの追撃を振り切ったのです。ほら、御覧な
さい・・・右と思えば左、左と見せては右、森と思えば岩山・・・色んな所を逃げま
わって、とうとうライオンを諦めさせてしまいました」

「わぁ、スゴシ。試合巧者のガゼルだなぁ」「でも、それでメデタシという訳でもな
いのが、この映像の深いところね。必死で逃げ続け、ライオン以上に疲れきったトム
ソンガゼルは、ついに倒れ、家族と再会できないまま、息絶えようとしています。
あぁ、涙無くしては見られない場面だわねぇ」

「あーん、可哀想。家族を助けて力尽きてしまうだなんて」

「エーン。みんなの義性になって泪を誘うだなんて、映画のアルマゲドンみたい。ク
サイけど、泣けるなぁあ」

「ホントに感動的な映像ねぇえ。資料を貸してくださった先生がたアリカトウ。

…あら、ヘンね。倒れてたガゼルが、何故か立ち上がって……何かプラカードを持っ
てるわ…」

「びっくりビデオでーす。いやぁ、どうもどうも」

「きゃああああ。これって、やらせビデオじゃないの!」

「…退屈な授業の合い間…楽しんでいただけましたか?…だってさ」

「作った先生、おっシャレ〜〜」

「どこがおシャレなのよ!折角感動的な話で良い教育になったと思ったのに!こんな
オチが付いてちゃ台無しだわ。折角、仲間のために尊い義性になったんだから、あの
ガゼルは潔く死になさい!」

「へぇ、厳しいんだなぁ。生きてちゃ絵にならないのか」

「そうよ。死んでこそ生きた教材になるの。これが自然界と道徳界の掟よ」

 すると画面の中から、ガゼルが突っ込んだ。

「生き返った教材があってもイイじゃないか!」

  ―――――完―――――

2003年01月14日22時37分16秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

1月7日 太融寺「桂 米二 不定期落語会」

出し物

●「看板の一」     桂 雀喜
●「松鶴@大須演芸場」 桂 米二
●「黄金の大黒」    桂 喜丸
●「たち切れ」     桂 米二

本年最初の落語会です。

「松鶴@大須演芸場」は、昭和60年(1985年)9月名古屋大須演芸場下席出演メンバ
ーの一人として呼ばれはった時の話。
東西合同落語会で、上方からは故六代目松鶴、福笑、故松葉(七代目松鶴)、笑三
(現三喬)の笑福亭勢に一人だけ米朝一門の米二さん。
東京からは落語芸術協会の柳橋、南八、雷蔵、奇術の北見 伸の各師。
お囃子が桂あやめさんの姉で現林家小染夫人の和女さん。
演目は10日間日替わり昼夜2回は同じ出し物。
日曜日などは舞台の上にお客を上げにゃならん程盛況やったそぉです。
さぞ演り難かった事でしょぉな。
特に奇術なんかタネが丸見えでね。
六代目も連日の大入りに御機嫌で、かつての島之内寄席みたいに開場前の呼び込みや
ったりなんかしたはったそぉです。
「崇徳院」「蛸芝居」なんて晩年としては珍しいネタを出さはったっちゅうとこから
も意気込みの程が分かろぉというもんですな。
と、ここまでは米二さんの落語会パンフにもあった内容。
高座で語らはったのは、この期間中の六代目にまつわる体験談。
メンバーに選ばれてからしばらくして、六代目から電話があったんやそぉです。
「10日間に掛けるネタを言うて欲しい。」
あ、そぉそぉ。
松鶴師匠の台詞はあの声と口調でお読み下さい。
臨場感がグッと増しますでな。
つまり、予め10本のネタを提示してくれっちゅうことですな。
過去に演らはったネタを書いた手帳が手元に無かった米二さん。
「すぐお電話します。」
普通やったら
「あぁそぉか。ほな頼む。カチャ。」
ところが相手はいらちの六代目ですわ。
「あかん。」
結局その場で思い出し乍ら言うはめに。
悔やまはったそぉですな。
なんでこんなネタ言うたんかなとか、これよぉ演ってるのにのに入れて無いとかね。
いよいよ出発の日となりまして、新大阪駅に朝9時集合。
気ぃ使いの松葉さんが
「うちの親父っさん早ぉ来るさかい30分前には来ときや。」
米二さんがもぉひとつ念入れて45分前に着いたら、御大はもぉ来たはった。
8時半には一人を除いて全員集合。
「その一人は誰やと思います?顔触れから分かりますわな。」
福笑さんですな。
「遅い!儂は先に入る。」
仕方無しに松葉さん一人をその場に残してあとのメンバーは改札を通りました。
8時45分に到着した福笑さん。
「お前はいつでも遅刻や!」
えらい怒られてぼやいたはったそぉです。
「なんで15分前に来て怒られんならんねん?」
で、現地到着。
松鶴師匠はホテル、4人は楽屋で寝起き。
ここからは相変わりませず毎夜毎夜の飲酒関係の話ですな。
夜中にいきなり近所のスナックから集合が掛かる。
行ってみたら、店の人に露骨に嫌ぁな顔されながらグダグダ言うてる。
十八番の〈後引き酒〉そのものですな。
泥酔状態の六代目を4人で担いでホテルまで送ったり、とえらい事やったそぉな。
同様な事がほぼ毎晩ですからね。
お弟子さんはまだ慣れてるやろぉけど、米二さんは大変やったやろぉと思いますな。
お陰で昼の高座は4人ともボロボロ。
なんせ寝不足でネタ繰る間も無い状態ですからな。
師匠一人元気で、毎朝NHKの連ドラ観てから楽屋入りしたはったそぉです。
さて、ほんまに珍しいというんでお弟子さんも楽しみにしたはった六代目の「崇徳
院」と「蛸芝居」。
そのネタ繰りをしたはった松鶴師匠が
「あぁ米二君。米二君。」
「はい、なんです?なんなと言うてくれはったらしますけど。」
「〈崇徳院〉のここはどぉやったか知ってるか?」
「そこはこぉこぉで…。」
「あぁそぉやったな。おおきに。」
しばらくして
「あかん。昼は〈後引き酒〉にする。」
という事で夜のみ〈崇徳院〉に。
別の日。
「あぁ米二君。米二君。」
「はい、なんです?」
「〈蛸芝居〉の位牌持って芝居するとこ知ってるか?」
「はい、知ってます。」
丁稚が仏壇の掃除してる途中で位牌を手に芝居する場面があります。
鳴りもんが入るんですけど、その切っ掛けの台詞を忘れはった訳ですな。
米二さんが言いますと
「あぁおおきに。」
しばらく繰ってたが
「あかん。昼は〈後引き酒〉にする。」
という事で〈蛸芝居〉も夜のみ。
その夜の高座で、問題の箇所は無事クリアしました。
楽屋一同ホッとしたのも束の間、次の場面で台詞が…。
坊(ぼん)のお守の最中にまたまた芝居を始めた丁稚。
その鳴りもんの切っ掛けとなる
「浮世じゃなぁ。」
が出て来んのですな。
ここいら客席も楽屋内もストップモーション状態。
特に三味線の和女さんは緊張しはった事でしょぉ。
遂に苦し紛れに
「不憫じゃなぁ。」
色々ありましたけど前述のごとく興行は大成功。
もぉひとつエピソード。
ある日、楽屋で
「あぁ米二君。ちょっと来てんか。」
「はい。」
「もっと近くまでおいで。」
ぐっと顔を近付けて
「君は米朝一門やな?」
「はい。」
「米朝はな、下手や。」
そぉですね、とも言えず、然りとて抗弁も出来ず…。
そらあの顔が至近距離に有るんですからね。
米二さんの困った顔が見えるよぉですな。
松鶴師匠が亡くならはったのがその1年後。
七代目の松葉さんも亡くならはりました。
今の内に喋っておかねば…という気にならはったそぉです。
ほんま、貴重なお話でありました。

大物「たち切れ」。
ちょっと気になる箇所が二つ。
勘当と聞いて逆上した若旦那が親戚一同揃ぉてる座敷に飛び込んで来ます。
番頭、その勢いを制するよぉに莨を吸い付けて
「お座りやす。」
と、二回。
米朝師匠は二つ目をやや弱目に言わはります。
それは後の
「座んなはれ!」
の強さを際立たせる為やと思います。
ゆっくりした間で自分のペースに引き込んで行く番頭。
勢いを削がれて筋書き通りに運ばれてしまう若旦那。
ここの緩急は大事ですな。
平板になったらいけません。
もぉ一箇所。
若旦那が仏前に手を合わせてる処へ小いとの朋輩の芸者衆が
「お母ちゃん遅ぉなってごめん。」
この噺の中で一番明るい調子の台詞ですな。
仕舞いまで沈みっぱなしではあまりにも重過ぎる。
ラストシーンへ向かう前に、ちょっと一息つきましょっちゅう場面。
従って場の空気をマイナーからメジャーへ一気に変えにゃいけません。
それにしては少々弱かったですな。
他が上々やっただけに惜しい気がします。

どぉも印象が薄いのか、米朝師匠に名前を思い出してもらえん雀喜さん。
本人を前にしてさえ、門外の一般人の扱い受けた事も…。
大所帯の一門やからしょぉがないとこもあるんでしょぉがね。
ひ孫弟子まで憶えてられんっちゅうんでしょぉか。
それにしたら弟の雀五郎さん雀太さんはすっと出て来るらしい。
まぁ、地味は地味ですけどねぇ。
米朝師匠に告ぐ。
雀喜さんの落語は知らいでもええけど、顔と名前位は憶えておくよぉに。

2003年01月13日17時42分04秒投稿

S.S☆「製造者責任」☆     あや太郎



 世紀の謎と言われた「ミステリーサークル」に製作者と名乗る人物達があらわれ
た。

「あれは悪戯で作ったもんです。いやぁ、どうもどうも」

 ネス湖の恐龍にも製作者が名乗り出た。

「浮いたり潜ったりさせるのに苦労しました。いやぁ、どうもどうも」

 UFOにまで製造主が名乗りを上げた。

「灰皿を投げて写真に撮っただけさ。いや、どうもどうも」

 褒める褒めないは別にして次々と世間の注目を浴び、時の話題と成った。 

そしてついに、負けず嫌いの御仁が一人、真打として登場した。

「何が、ミステリーサークルじゃ。何がネッシーじゃ、何がUFOじゃ。元はと言え
ば、ぜーんぶわしが作ったようなもんじゃ」

「そう言うお宅は?」

「地球の製造主じゃ」

 しかし世間の反応は冷たかった。

「また、こんな大ボラふいてる奴が居るよ。イタイんじゃないの?」

「放り出せ放り出せ。病院へ連れてけ」

「イテテテテ・・・」 

取材の輪の中から放り出された老人が憤りに燃え、今しも神通力を発揮しようかと身
構えたとき、野次馬たちの囁き声が聞こえてきた。

「単なるホラ吹きで良かったよ。もし本物の神様なら、この混乱した世の中を何とか
しろ、戦争を無くせ、不幸や悲劇の責任を取れって吊るし上げられるところだ」

「全くだな。もう昔みたいに。不幸は自分のせい、幸福は神様のお蔭…なんて甘い考
えは通用しないからな。今度こそ本当に磔(はりつけ)の刑だな」

 一旦は出しかけた神通力をそっとフトコロに仕舞い込み、神様は生唾を飲み込む
と、そそくさ引き上げていった。

「薮蛇、薮蛇。こんな殺気立った時代に名乗りを上げたりしたら、命が幾つあっても
足りゃあせん。またその内、穏やかな時代になってから出直すとしよう」

 神様再デビューの日はいつの事か。

 待たれる「復活」!

――――完――――

2003年01月11日22時46分17秒投稿

S.S☆「非破壊的検査」☆     あや太郎



「あなた・・・私の結婚指輪、どこにあるのかしら。ちょっと貸してくれって言われ
てから、もうだいぶん経ってると思うんだけど?」

「あぁ、指輪ね。…いや、あれはだな……金庫にしまってあるんだ。なにせ二人の愛
の印だからね」

「一度見せて下さいな。何だか指が淋しくって」

「えっ、指輪を?困ったなぁ……いや、待ちたまえ。……あ、そうだった、金庫のカ
ギが紛失したままなんだ。また作り直さなきゃ。忘れてたよ、ナハハハハ」

「まぁ、そんな暢気なこと……。他の貴重品はどうするの?」

「いや、幸いカネはほとんど入れてなかったし、当面必要なものも、他所に保管して
ある。今度、事務所室を改装するときにでもカギを作るよ、ナハハハハ」

 すると間もなく……

「え〜〜……物を壊さずに内部を検査する『非破壊的検査マン』です。御用はこの金
庫ですか?」

「な、なんだね、キミは?」

「わたしがお呼びしたのよ。ご近所の奥様方とお話してた時、金庫が開かなくなっ
たって話したら、中の一人が親切に業者さんを紹介して下さって」

「とんだ親切だ。……いや、それで、どうしようって言うんだね?」

「はい。X線、超音波、レーサー・スキャンなどの最新技術で金庫の外から中身を分
析します。それでは早速……」

「おい、そんな勝手な事されたら・・・いや、何でもない。まぁ、やつてみてくれた
まえ」

「モニターをご覧下さい。書類、印鑑、腕時計らしいモノの影が映ってます。指輪
は……えーっと、指輪は……?」

「あなた!まさか売り飛ばしたんじゃないでしょうね?お小遣いを減らしたあと、私
の指輪がどうこうって言うからちょっぴりは疑ってたんだけど。あのダイヤの指輪を
まさかお金に換えたんじゃ?」

「ま、まさか。二人が愛を誓ったあの指輪をそんなセコイ目的で…。たまたま検査機
で検知できないんじゃないのか」

「いや、うちの検査機は高性能ですから、そんなミスは・・・おっ、有りましたよ、
指輪らしきモノが。影だけ見て分かりますか?」

「まぁ、本当だわ。忘れもしません、このデザインよ。間違いないわ。…あなた、ゴ
メンなさいね。疑ったりして」

「ほら、言ったとおりだろう。僕が君を欺くはず無いじゃないか。それにしても精巧
な機械だねぇ。白黒の影だけでも、デザインまでハッキリ見分けられるんだから」

「そりゃ自慢の検査機ですから。もっと精密で実用的な検査も出来ますよ。ほら、ス
ペクトル分析の結果が出ました。…宝石の部分は……ガラス玉」

「あなた!!!」

 金庫は非破壊でも、夫婦仲は完全に破壊されたそうな。

―――――完――――――

2003年01月09日22時29分44秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

昨年暮、書き掛けて怠けた末の積み残しをダイジェストで。

12月13日 ワッハ上方レッスンルーム 「第12回 桂 吉弥のお仕事です。」

出し物

●「いらちの愛宕詣り」 桂 紅雀
●「餅つき」      桂 吉弥

 中 入

●「赤穂義士伝」    旭堂 南湖  
●「蛸芝居」      桂 吉弥

台湾での吉朝さんの会に出演しはった吉弥さん。
マクドナルドで現地限定メニューを注文したら、出て来たのが〈カーリーズーローパ
オ〉…早ぉ言うたら揚げ豚のカレーソースハンバーガー。
とてもやないが口に合わんかったそぉです。
現地のファミリーマート。
日本のおでんみたいなやり方でナンヤラいうもんがレジ横で湯気を立ててる。
香辛料の八角を使ぉてるんですけど、その香りが店内に充満してるそぉです。
そらもぉ気分が悪ぅなる位。
台湾ではそれが普通で、そのナンヤラを置いた事が店舗数拡大に繋がったとか。
で、同行のあさ吉さんと三味線の女性に話したら
「そら、体験せにゃならん。」
結果、両名とも吉弥さんと同じ感想でした。
これを聞いた吉朝さんが、俺も…と出かけて行ったとさ。
ところがファミリーマートでは
「ふ〜ん…俺はこの匂い別に嫌いや無いなぁ。」
マクドナルドでは
「旨いがな。」
師匠が一番変な奴かも。
台湾大学での高座には学生が三百人。
内日本語専攻が百人程。
なんでも米朝落語全集の「軽業」をテキストに使ぉたはるそぉです。
「他にもっと分かりやすいのが有るやろぉに、選りに選ってマニアックなネタを…。
 〈清めのお神楽ぁ〜〉なんか一般の日本人は使わんぞ。」
ほんにごもっとも。
けど考えたらかつて私らが学校で習ぉた英語も同じよぉなもんかも。

ここで訂正とお詫び。
南湖さんの「赤穂義士伝」を聴いていて気付きました。
昨年12月11日投稿分中四十七士の名前を連ねる処で〈潮田又之丞高教〉を〈しおた〉
と読んでしまい順番を間違えました。
正しくは〈うしおだ〉ですな。
従って村松三太夫高直と大石主税良金の間に位置します。
ここに関係各位に対し訂正してお詫び申し上げます。
すまんのぉ〜許せよ潮田。


12月20日 ワッハ上方演芸ホール「年末ジャンボ落語会」

出し物  

●「宿屋町」   桂 雀五郎
●「こぶ弁慶」  桂 吉朝
●「八五郎坊主」 桂 千朝
 
 中 入

●「厄払い」   桂 吉朝
●「三枚起請」  桂 千朝

吉朝さんの「こぶ弁慶」。
大津の宿での自然発生的宴会に突然飛び込んで来た男。
「そこの廊下に化けもんが…。」
話を聞いてみるとそれは普通の蜘蛛なんですな。
一同なぁ〜んや、と言う中で一人の男が
「いやいやそぉやない。誰しも好き嫌いは有るもんや。
 〈饅頭こわい〉っちゅう落語にもありますやろ?」
「どんな落語です?」
「知りまへんか?〈饅頭こわい〉っちゅうたら…。」
ここで上目使いになって、
「ホワホワホワァ〜ン。」
〈饅頭こわい〉の〈二番目が酒〉の件を話中話の形で演らはって、また
「ホワホワホワァ〜ン。
 とまぁこんな噺ですわ。」
このホワホワホワァ〜ンは、ドラマなんかで思い出とか想像の情景を視覚化する時の
古典的場面転換法ですな。
こぉいう遊びの部分は流石。
落ちを変えたはりましたな。
弁慶の乱入で行列を邪魔された大名が成敗しよぉとします。
瘤に取り憑かれた男が事情を話すと
「そぉであったか。いや、実は儂の肩にも瘤が出来ておってな。
 その方の気持ちは分かるに因って許す。このまま帰って良いぞ。」
「帰ってよろしいので?」
「あぁ良いぞ。気持ちは分かる。お互い瘤と瘤じゃ。」
ほんの暫く場内沈黙。
「怒ってる?」
というよぉに目だけで客席を見廻す吉朝さん。
私がプッと吹出したのを切っ掛けに、爆笑と拍手とお囃子の中をやや恥ずかし気に下
がらはりました。
本来の
「夜の瘤は見逃しがならんわい。」
は説明せにゃ分からんし、そぉすると落ちを割ってしまう事になります。
しかも一言では無理ときてる。
ま、他にええのが出来る迄の間に合わせ…やったらええが…。

「三枚起請」。
千朝さんの〈こてる〉は色っぽい。
其れ故、追求され狼狽えた末に太々しゅう開き直る様が余計際立ちます。
何時も乍ら結構な高座でした。


12月21日 豊中市立伝統芸能館「落語本舗 こごろう堂」

出し物

●「宿屋町」  桂 雀五郎
●「動物園」  桂 こごろう
●「べかこ」  桂 宗助
●「かわり目」 桂 こごろう

二日続けて雀五郎さんの「宿屋町」を聴くやなんて誠に辛い…いやいや、なんぞ恨み
でも…そぉやなしに、大概にせにゃいかんで…違うがな…えーとその…勉強になりま
した。
この日の方が伸び伸びとして出来は良かったよぉに思いましたな。
昨日の吉朝さんに拠りますと、楽屋ではほとんど喋らはらへんそぉです。
反して高座では元気。
逆で無ぉて良かった。

こごろうさんは、自称日本で一番「動物園」を演った噺家。
「こごろうさん 今日も何処かで 動物園」
てな川柳が残ってる程。
因に
「む雀さん 今日も何処かで ちりとてちん」
っちゅうのもあるそぉです。
なるほど、このネタよぉ演ったはりますな。
「七段目」でもええと思いますけど、こっちは小米朝さんの方が当てはまるかな?

「かわり目」はキャラクターそのままにカラッと明るく軽い雰囲気。
無理に米朝師匠を追い掛けて無いとこがよろしいな。
あ、宗助さんはそんでええんですよ。
直のお弟子さんですからね。
「べかこ」…ま、そこそこに…あれでした。

2003年01月08日14時08分55秒投稿

S.S☆「とんだ嫌がらせ」☆     あや太郎



 業界人の集まる居酒屋で飲んでいると、山師のヤマちゃんが入ってきた。

「あぁあ、今日はひどい目に遭った」

「何があったのさ、ヤマちゃん」

「特技・珍芸の持ち主を集めてイベントをやったんだよ。世紀の超能力ショーって
ね」

「あぁ、毎年連休にやってる企画だね。あのデパートの屋上だろう」

「そうさ。例の如く前半は軽い一発芸で笑わせて、客をつかむ、後半はベテランの手
品師をオカルト人間に仕立てて、スプーン曲げから読心術、透視術で子供を引き込ん
だ。ところが締めくくりで失敗して、大恥だよ」

「へぇ、どんな失敗?」

「今年は『飛ぶ』のがテーマでね、トリはヨガの行者を装ったベテランのマジシャン
だ。これで見事に締めくくって公演は成功と言う予定だったんだが、その前座を務め
る新入りが来ない。そこで先にヨガ風の空中浮遊をやってもらって、付け足しに遅れ
てきた新人を出しちまった。これが余計だったんだな。失敗してドッちらけだよ」

「よくあるパターンだねぇ。それにしても山ちゃならしくもない。空中浮遊が受けた
ところで、何故お開きにしなかったんだよ。中途半端な新ネタにこだわって尻尾を出
すなんてさ」

「それが、スカウトからの報告じゃ凄い芸だと言うんだ。それなりに調査費も掛かっ
ちゃったしな。金を無駄にするのもなぁ」

「それって、どんな芸なんだ?」

「鳥人間という触れ込みさ。鶴の羽みたいな衣装を付けて、羽ばたくとフワリフワ
リ…宙に浮くだけならいつでも出来るって言うんだ」

「シンプルだけど、本当に浮いたら受けるぜ。でも失敗だったの?』

「宙に浮くどころか、息を切らせて座り込みやがった」

「何だよ、それ」

「しかも中途半端なジョークで逃げるんだよ。

・ ・・車が渋滞したんで、必死で飛んできた。息切れしたから暫く休ませ
ろ…ってさ」

「客の反応は?」

「子供まで白けてたよ。ブーイングのあとに巻き起こる『飛べ飛べコール』!」

「聞くだに冷や汗が出るね」

「ところが、その芸人、ズブの素人らしくって、飛べ飛べコールに責任感を感じち
まった。必死で羽ばたいてみせるんだが、跳んでは落ち、羽ばたいては転び、ステー
ジの上でもがき苦しんでる。とうとうミカンの皮や紙コップが飛び交って、一同逃げ
るように楽屋へ飛び込んだって訳さ。もうあのデパートじゃ余興はもらえないな」

「とんだ目に遭ったねぇ。お気の毒様」

「それで終わりじゃないんだ。最後の最後に、また『とんだ嫌味』を見せられちまっ
た」

「今度は何だい?」

「楽屋でその鳥人間に散々文句を言ってたら、向こうが開き直ったのさ。

……自分は金を貰って飛ぶのではない。頼まれたから善意で飛んでやるのだ。文句を
言われる筋合いは無い…てな次第だ」

「何だ、ノーギャラで来てたのか。中途半端なブッキングするもんだ。そりゃ向こう
も怒るだろうさ」

「とは思ったが、こっちも今更あとには退けない。勢いで『出て行け…!』って怒
鳴っちまった。すると向こうは本当に飛び出して行っちまったんだ。まったく、とん
だ嫌がらせだよ」

「ちょっと待ってくれ。最後のところが良く分からないんだが。何で、それが、とん
だいやがらせになるんだ?」

「だからさ・・・楽屋から飛び出したんだよ・・・八階の窓からさ」

「跳び下りたのか!?」

「いや、バタバタと羽ばたいて,飛んで行っちまったんだ」

「羽ばたいて?じゃあ・・・本物の鳥人間?」

「たぶんね。でも、とんだ嫌がらせだと思わないかい。公演が終わったあとで、飛ん
で見せるだなんて。どうせなら、ステージで飛んでくれれば良かったのに……。全
く、とんでもないヤツだ」

「でも……飛んだんだろう?」

「あとで飛んだってカネにはならない。ホント、とんだ嫌がらせだ」

「でも、飛んだんだよなぁ……」

 飛べる飛べないより、期待通り飛べるかどうかが問題なのだ。

 なるほど、改めてとんでもない業界である。。

  ――――完――――――

2003年01月07日23時32分14秒投稿

S.S☆「ルーレット」☆     あや太郎



  ・・・カラカラカラカラ……

「玉は二十六番へ・・・。何とまた、ソードリー氏、ヒットです!これで五回連続!

元金の三十倍の三十倍の…また三十倍の、そのまた・・・えーっと、幾らになったか
分からないほどの大勝で、今夜もまたルーレット長者です。持ってけ泥棒〜〜!」

 また、また、と言っているとおり、老ギャンブラーのマネー・ソードリー氏は勝ち
続けていた。別にルーレットだけが強いのではなく、どんなゲームでも高額の賭けに
なると負けを知らない。ただ、最近とみに体力が衰え、老い先の短さを悟ったソード
リー氏にとって、簡単に勝負が決まるゲームを選んだというだけの事らしかった。

「昔は、こんな単純なゲームは避けていたものだ」

「単純すぎて面白くないからですか?」

「いや、単純すぎて手の内がバレると・・・おっと、余計なことを言ってしまった、
ハハハハ」

負け知らずで、しかも手に入れた金を世界平和や人道援助にすべて注ぎ込んでいる氏
のインタビューが今日もワイドショーの片隅で流されていた。それを見ていた業界の
面々―――その中の中堅ディーラーが、恰幅の良い紳士に意気込んで話し掛けた。

「支配人、ご覧のとおりです。やはり奴は何かトリックを使ってるんです。それでな
ければ、負け無しで勝ち続けられる訳がありません」

「ふむ。それで、彼の言う『手の内』というのは、どんなトリックなのかね」

「ハイ、それなんですが・・・」

 今度は技術者風の男が静かに説明を始めた。

「やはり……サイコキネシスかと」

「つまり、念力だな」

「ハイ。隠しカメラや、各種測定器をカジノ各所に配置して細密に調査しましたが、
機械に引っかかるような細工や動き、電磁気反応は一切見つかりませんでした」

「やはりな」

「信じがたい事ですが、あのギャンブラーは超能力で勝ってるとしか説明のし様があ
りません。信じて頂けないとは思いますが」

「いや、むしろ信じるに足る調査結果だったよ」

「えっ……それはまた何故……?」

「私は昔からソードリー氏を知ってるんだ。ディーラーとして、カジノ経営者とし
て、彼が常にNo.1・ハスラーであり続けたのをこの目で見てきた。カードゲームであ
れ、何であれ、挑戦者に敗れそうで敗れない。最初は際どい勝ち方の出来る、勝負強
いタイプだと見ていたのだが、ある時、業界人の私にも理解できない事が起きた。う
ちのカジノでポーカー選手権を開き、非常に厳しい条件をつけた。…負けた者は永久
にギャンブラーを辞めるというものだ。強豪の挑戦者と戦わせ、最後の一戦で雌雄を
決するという場面になった。ここで私は、一つの実験を試みた」

「実験ですって?」

「そうだ。カードに細工をし、丸々氏が絶対に勝てないようにした。挑戦者にキング
を四枚配り、ソードリー氏の手元にはエースを三枚配った。そしてもう一枚のエース
は、ディーラーの手から見届け役の私のポケットに入っていた。ソードリー丸々氏に
逆転のチャンスは無かった。

 配られたカードを見て、一瞬険しい顔をした彼だったが、二枚のカードを取り替え
て、彼はすべてのチップを賭けた。

 コールした挑戦者が、自信タップリにキングのフォーカードを見せた。

 そしてソードリー氏も手札を見せた。そこには何とエースのフォーカードがあっ
た。

 私は当然、彼が用意していたエースのカードだと思い、自分のカードをこつそり返
して、カードの調べ直しを要求しようとした。しかしその前に自分のポケットを探っ
て愕然とした。除いたはずのエースがなくなっていたんだ。隠したカードはどこへ
行ったのか?宙を飛んで彼の手元へ行ったのか?何が起きたのかはとうとう分からな
かった。今思えば、あれも一種の超能力だろう」

「テレボーテーション……瞬間移動のようなものかも。確かに不思議な話ですが、そ
れと最近のルーレットの勝ちっぷりとは直接結びつきますか?」

「昔よく、大きな勝負のあと、彼が小銭を賭けてルーレットで遊んでる姿を見
た。……負けたためしが無かった。たぶん彼は幾らでも勝てる能力を持っていたのだ
ろう。それをわざと際どく勝ったように見せかけ、商売を続けていたのだ。ルーレッ
トのように余りにも単純なゲームの場合には露骨にその能力が見えてしまう。だから
敢えて本気ではやらなかったんだろうな」

「科学的な証明は困難ですが、対抗策は一つ有ります。……出入り禁止ですよ。とに
かくソードリー氏の入場は固く断りましょう。それしか有りません」

「世界中にチェーン店を持つ我がカジノが、そんな情けない事がてきるかね。それに
彼はカジノを潰す気は無い。何とか収益の範囲で支払える程度の勝ち方で引き揚げて
いるようだ。むしろ我々を潰したら資金源が無くなる訳だからな」

「じゃあ、どうするんですか?何も手は打たないとでも……?」

「むしろ、彼の話題性を利用して慈善的なイベントでも催すさ。それで一般客を呼び
寄せて、そちらさんたちから今まで以上に巻き上げさせてもらう。そうすれば持ちつ
持たれつ、業界も潤うと言う寸法だ。」

「理屈は分かりましたが、それにしてもディーラーとしては忌々しい気分ですね。超
能力を使われちゃ、ハナから勝負にならない。それを最強のギャンブラーだ、世界を
救う慈善家だって持て囃されてるのを見せ付けられてはねぇ」

「念ずる気持ちをインチキ扱いは出来ないだろう。どんなギャンブラーも、いや、商
売人もすべて、勝ちたい儲けたいという一念で勝負してるんだからな。その「力」が
並外れて強いのなら、やはり立派な勝利者だよ。……それに彼の背後には世界中の弱
者がついている。世界中が彼と供に念じてるんだ。もう年老いて体力も気力も衰えた
老ハスラーに以前のような強い念力があるとは思えない。ひょっとしたら彼にはもう
何の超能力も残ってないかも知れんじゃないか。彼の勝利を支えているのは彼を後押
しする人々の念力だろう。平和を念じ、貧しさを乗り越え、不遇から抜け出し、ささ
やかな幸せを掴みたいと必死に念じる世界市民の一念かも知れん。我々はそれを敵に
回せるかね?」

 ディーラーも従業員も、すでに気持ちを切り替え、「負けて勝つ」ビジネスの展開
に心を馳せていた。

ギャンブラー達もいつの間にか「みんなが勝つ」秘策がどこかにきっとある………そ
んな夢に賭けても良いような気がして来た。

――――――完―――――――

2003年01月05日23時00分12秒投稿

S.S☆「地球明け渡し大作戦」☆     あや太郎



 二十一世紀も末期の頃、一台の巨大宇宙船が地球近辺に出現した。

 光速を遥かに超えるスピードと、桁外れの科学技術を持った宇宙船は何と人類に
「地球の明け渡し」を要求してきた。

 そしてもっと人類を驚かせたのが、その宇宙船を操るのが他でもない地球人だった
ことである。

「我々は十万年前まで、この地球で高度な文明を発展させていた初代・地球人だ。や
がて我々の後輩に当たる種族……つまり君達の祖先が知能を発達させ、人数もかなり
の数に増えてきた。しかしこの星は二つの人種が共生するには狭すぎた。各地で摩擦
や衝突が発生した。当初、可愛い後輩として見守っていた我々初代種も、ついに究極
の選択を迫られることになった。

 一つは、どちらか一方がもう一方を滅ぼすこと。

 二つ目は、どちらか一方が、この地球を離れ、他の星へ移住する事であった。

文明レベルは我々初代種のほうが遥かに進んでいた。武器兵器はおろか、すでに宇宙
進出の技術すら開発していた。

当然、新人類,討つべしの声も出た。

しかし我々は野蛮な殺戮を避ける道を選んだ。

宇宙移住できる我々が、後輩達にこの母なる大地を譲るという極めて理性的で平和的
な方策であった。

我々は、地球型種族の未来の為に、泪を飲んで故郷を離れ旅立つことにした。

しかし決して掛け替えの無い母星を捨てたわけではなかった。

旅立ちに際して、一つの誓いを立てたのだ。

それは、後輩人種……つまり君達が宇宙旅行できるようになった頃、我々は帰郷し、
母なる地球を取り返そうという遠大な計画であった。詳しくは十万年前、世界各地に
埋めた碑文を確認せよ。

そして今、時は熟した。移住可能な星を見つけられるまで、広範囲な宇宙旅行が可能
になるよう我々の進んだ航法も伝授する。さぁ、交代の時が来た。潔く我々に地球を
明け渡したまえ!」

この十万年間、初代人類たちは、様々な不便や困難に耐えながら、後輩である霊長類
ヒト科・第2ホモサピエンス種に進化の機会を与えて来たと言う。なるほど、それを
示す数々の碑文や遺物が南極、シベリア、北米、オーストラリア、そして海底に沈ん
だ古代の大陸跡から発見された。

人情から言っても、我々後輩種が長年独占してきたこの星を先輩に返すのは筋だと思
われた、またそれ以前に、遥か古代から高等文明を発達させてきた先輩種の科学技術
の前には抵抗する術もなかった。

 かくして一年足らずの全世界後輩種人類会議の結果、八十億後輩種たちは潔く地球
を明け渡すことに決定した。

先輩種の技術協力を得て、移住用巨大宇宙船は続々と完成し、月速一光年の超高速
で、現人類は晴れて広大な銀河を飛びまわれる事と成った。

しかし、当然の事ながら、それを心底喜べる人間は少数派だった。

「二度と故郷を見られなくなる」

「体のいいホームレスだ」

「次の十万年後には地球を返してもらえるのか?」

 どちらも存続しているかどうか分からない未来の事を案じる面々はまだ穏やかなほ
うだった。

「生きてる内に帰郷できなければ,死んでも死にきれない」

「いや、闘って取り返えすべし!」

「その為にも宇宙で揉まれて、力をつけよう!」

「初代人類どもを倒すために!」

自然,鷹派も勢いづく。

そんな様々な思いも、こもごもに一切合財を詰め込んで、後輩人類全員を乗せた移住
船はついに飛び立った。

「♪さらば〜〜地球よ〜〜……」

……必ずここへ戻ってくるという執念を満載して。

その巨大船団が火星・土星間の小惑星ベルトを越えた頃、予想外の事件が起きた。

何と、後にしたばかりの故郷・地球が突然赤い光に包まれたのだ。

「何の天体現象だ?」

 皆が望遠鏡や拡大モニターを覗きこみ、囁きあった時、更に驚愕の事態が起きた。

 この世で最も美しい惑星…掛け替えの無い故郷・地球が一瞬閃光を放ち、大爆発を
起こしたのだ。間もなく、初代人類達からの通信が入った。

「あぁ、何とした事か……地球は原因不明の地核崩壊で粉々に砕け散った。辛うじて
逃げ出した我が同胞は僅か十分の一。故郷を失い、我々はまた放浪の旅に戻るほかな
し。また宇宙のどこかで再会しよう。幸運を祈る……」

ノイズと供に通信は途絶えた。

「何てこった。故郷を出た途端に故郷を無くすなんて……。しかし突然の天変地異な
ら我々にも防ぐ手は無い。むしろ地球を離れることになって生き残るチャンとを貰っ
たようなものか」

「今となれば、悲劇の初代地球人たちに感謝、感謝・・・」

 複雑な思いに苛まれつつも、人類はもう振り返ることをヤメ・新天地発見の夢を求
めて太陽系を後にした。

− ― − −

「これで後輩たちも心残りなく、旅立ったろう」

「もう故郷か゛無くなったと思えば、闘って取り返そうという企ても無くなるでしょ
うしね」

「多少手間ヒマが掛かったが、三次元ホログラムの地球大爆発で、連中を送り出して
正解だったようだ」

「あれだけ大掛かりでリアルな立体映像の技術は持ってませんからね。でも、彼ら
だっていずれは気づくでしょう。銀河のどこかに定住して落ち着いた頃には」

「当分は、彼らが傍受できるような通信は控えよう。電波望遠鏡にも掛からないよう
にスクランブルを掛けてな。まぁそれでも何世紀か後にはバレるだろうがね」」

「怒るでしょうねェ、その時は」

「後の祭りさ。その時々の生活に追われて、大昔に住んでた故郷の事までは気が回ら
ないよ。我々だって、懐かしいと思うようになったのは、ほんの一万年ほど前からだ
からな」

「また彼らも帰って来るんでしょうかねぇ。古さとを返せって」

「さぁなぁ。いや、その前に我々が地球に飽きて、もう『空き家』になってるかも
な」

「母なる星ですからねぇ。離れていると恋しいけど、ずっと一緒に暮らしてると色々
鬱陶しい事もありますし」

「いっそ、早い目にトリックを見破って帰ってきてくれるほうが有りがたいかも知れ
ない。

『実は、移住船で飛び立ったのもホログラムでした』…なんてね」

 果たして後輩種たちは遠い未来に帰省するのであろうか?

 むしろそれまでに、地球が荒れ放題の「貸家」になる心配のほうが先に立つので
あった。

  ―――完――――

2003年01月05日00時10分19秒投稿

S.S☆「夢のまた夢」☆     あや太郎



「あぁ、面白くない。何をやってもウダツが上がらないし、もう真面目にやるのが嫌
に成っちゃった。こうなりゃ、悪いことでもして大暴れしてやろうかな」

「ちょっと待った。それはイケない。それでは皆が迷惑する」

「誰だ、あんたは?」

「わしはこの辺りを鎮護しておる氏神さまじゃ。この一帯で暴れ回られては、わしの
面子が立たん」

「そんなこと言ったって、これだけ貧乏籤ばかり引かされてたら、ヤケクソになって
暴れるほかねえだろうさ」

「ふーむ、困ったのぉ。……よし、仕方がない。お前の『ささやかな』望みを聞いて
やろう。これぐらいの境遇なら捨て鉢にならず真っ当に暮らせる…と言う程度の願い
事を言ってみなさい」

「へぇ、それを叶えてくれるって言うのかい。そりゃオモシロイや。そうだなぁ……
それじゃ、小さな家で良いから、一軒自分の家を持たせてくれよ。それが今の俺のさ
さやかな夢なんだ」

「それぐらいなら何とかしてやれるだろう。……ナンジャモンジャ、ソンナコッ
チャ、

ハッパ、パラリのパッ!」

 余り重みのない呪文を聞いた途端、男はパッと目覚めた。

小さな家の小さな部屋で居眠りをしていた。そして他でもない、それが自分の家で

ある事を思い出した」

「何だ、俺には自分の家が有ったんだっけ。それをわざわざ、夢の中で、また氏神様
に頼んじまうだなんて・・・我ながらセコイ根性だねぇ。でも、同じちっぽけな家で
も、少しは新鮮な気分だな」

苦笑しながら、男は顔を洗い、また仕事に出かけていった。

「あぁあ、面白くねえなぁ。こんなウダツの上がらない生活。もっと立派な家に住み
たいもんだ。何かデッカーイ銀行強盗でもやってみるか」

 もう、ささやかな新鮮味も失せてきたらしい。

「これこれ。物騒な事を言いなさんな。そんな事をされては、我々八百万の神が

困る」

「何だ……今度は八百万の神様かい。何でお宅らが困るんだよ」

「この国の天下泰平を、おのおの分担して維持するのが我々のノルマじゃ。それをぶ
ち壊すような事をされると、立場が無い」

「ハハーン・・・さては、あんたお金を担当する神様だな。福の神か何かだろう」

「ギクッ・・・バレましたか。そんな訳で、世間のカネを勝手に動かされては責任問
題になりまして」

「それなら、あんたのポケットマネーで済ませたらドウ?豪邸の一軒ぐらい建ててく
れよ」

「うーん、痛い所を突かれた。仕方ない・・・積立経費から捻出するか。テケレッツ
のパッ!」

 その途端に、またパッと目が覚めた。

 男は豪邸の主であった事を思い出した。

「金持ちの暮らしにも飽きてきた…なんて贅沢な事を言ってたから、あんな夢を見た
んだなぁ。思えば皆が憧れる境遇だ。大切にしよう」

 そう考えると、朝昼晩に供される世界の珍味、旨酒、美しいデザートも新鮮に思え
た。

「あぁ、俺は幸せ者だ。こんな暮らしがいつまでも続けば良いなぁ」

 …と思ったのは、ひと月ほどの事だったか。

「やっぱり駄目だ。飽きるモノは飽きる!中途半端な金持ちの、中途半端な贅沢はヤ
だねえ。何より退屈だ。いっそ戦争でも起こして世の中ひっくり返してやろうか」

 そんな勝手なボヤキに耽っていると、なにやら神々しい光に包まれて現れた人影一
つ・・・

「何と言う乱暴な事を。お前ぐらいの財力があると、戦争の一つや二つ起こしかね
ん。ぜひともそれだけはヤメてもらいたい」

「そうおっしゃるあんたは?」

「ある時は釈迦……またある時はイエス・キリスト、またまたある時はモハメッドか
現人神・・・而してその実体は!……世界の平和を守る地球専属管理人じゃ。お前が
率先して世界の平和を乱してくれると、わしの首が飛ぶ。何とか穏便に、穏便に・・
・」

「だいぶん大物が出てきたねぇ。じゃあ、こうしよう。この世界をもっと面白い幸せ
な世界にしてくれ。そうすれば、皆も俺も楽しく暮らせる。たぶん満足に穏やかに
やっていけるだろうさ」

「し、しかし、一気に理想郷を実現しようとすると、経費が嵩むのじゃ。そこでコツ
コツと理想に向かい、苦労してやりくりしておるんじゃから」

「そんな事だから、埒かあかないんだ。全予算を注ぎ込んで一気にヤラなきゃ。中途
半端は駄目だぜ。男は度胸だ。パーッと行こうぜ、パーッとよ」

「いや、わしも定年間近。そんな冒険は出来んわい」

「それじゃあ、俺を後継者にしろ。俺が神様になって、理想の世界、天国極楽を作っ
てやらあ」

「少々乱暴だが゛・・・案外こんな蛮勇が必要なのかも知れんな。よし、タッチ、交
代。お前が地球担当の神様になれ〜〜……ラリパッパのパッ!」

 パッと目が覚めたら、当然ながら男は神様だった。

 些か薄汚れて来た青い地球を眺めながら、腕組みしたまま居眠りしていたらしい。

 そして、もちろん神様に就任して久しい男はすべてを思い出していた。

『一気にパーッと理想郷を作る度胸が俺に有ったらナァ……』

 滅び行く地球文明を見守りながら、それは全部、夢物語のまま終わりそうであっ
た。

  ―――――完―――――

2003年01月02日22時52分17秒投稿

S.S☆「想像力テスト」☆     あや太郎



「あ〜〜ぁ、つまらん。働いても働いても生活は良くならないし、夢も希望もない」

 ウダツの上がらない男がぼやいていた。すると・・・

「夢を叶えて上げましょうか?」

 何処からともなく女が現れて,そういった。

「夢を叶えるだと?俺をなめてるのか!」

「いいえ。こう見えても私は女神。あなたの夢ぐらい叶えて上げますわよ」

「ふん。イカレた女だ。じゃあ座興に一つ叶えてもらおうか。ウソだったら、ひどい
目に遭わすぞ」

「ぐずぐず言ってないで早く願いなさいよ。何がお望み?」

「家が一軒、欲しい!小さくても良いから、タダで欲しい!」

「まぁ、セコイ夢。じゃあ叶えて上げましょう。チチンプイプイ……」

 男の目の前に家が建っていた。 

 表札も名義も正しく彼のもので、驚いたことにローンも返済済みだった。

「ひゃ〜〜、なんてこった。魔法か何か知らないが俺のモンだ。絶対返さねえぞ」

 セコイ事を言いながらも、ささやかな満足感に浸った。

 しかし何年かすると、そんな小さな幸せにも飽きてきた。

「こんなちっぽけな家じゃ、嫁も来ない。あぁ、つまんねぇ〜〜」

 すると、またあの女神と称する女が現れた。

「セコイ願い事をするからよ。もっと大きな夢をお持ちなさい」

「言うとおりだ。まさか叶えられるとは思わなかったからな。あぁ、惜しいことをし
た。大金持ちにしといて貰えばよかった!」

「そんな事お安い御用だわ。チチンプイプイ……」

 男は大金持ちになっていた。豪邸に召し使いやら執事をいっぱい雇って悠悠自適の
暮らしが始まった。夜の町へ出れば、もちろん女にも持て持てだ。しかし何年かする
と・・・

「あぁ、もう飽き飽きだ。金目当てに近づいてくる友人や愛人はいくらでも出来る
が、油断のならん連中ばかりだ。肩が凝ってしょうがない。もう遊ぶのにも飽きた
ナァ」

 すると、何処からともなく、またあの声が・・・

「そんなものよ。飲み食いするといっても、贅沢すると言っても限度があるもの
ねぇ」

「柄にもなく世のため人のために何かしたくなった。あぁ、俺が地球の王ならば
なぁ……」

「そんなこと簡単よ。チチンプイプイ……」

 呪文は陳腐だが霊験は顕たかだった。

 男は本当に世界の権力と権威をすべて手に入れていた。

「くだらない諍いはやめろ。空しい戦いもやめろ。豊かな国は貧しい国を救え。人
類、みな兄弟!」

 素朴だが分かり易いスローガン通り、改革は実施され、世界は曲がりなりにも平和
で平等で安定した世界になった。

 一躍大英雄に奉り上げられた男だったが、これほどの大仕事も一段落してみると、
実に手持ち無沙汰なものだった。

「あぁあ、やっぱり退屈が戻って来た。今となっては何のために生きているのか分か
らない」

「そりゃ、ニンゲン世界で出来ることと言ったら、こんなものよ」

「おっ、また女神殿か。よく出会うな」

「あなたを観察するのが私の仕事だもの。それよりドウするの?今の暮らしに満足し
てないんでしょ。それならまた願い事をしなさいよ」

「また願い事か……。しかしそれしか無さそうだ。よし、いっそ俺を宇宙の支配
者……つまり神様にしてくれ。無理かな?」

「何の何の。そもそも神様を生めるのは女神だけよ。チチンプイプイ〜〜!」

 さすがに、いつもより余計気合を入れると男の身体は宙に浮き、夜空へと舞い上
がった。星ぼしがきらめいていた。洪水のような星の光と、そこに住む生き物達の声
や思いが自分の中に流れ込んでくる。男は自分が今、広大な宇宙に遍在する事を実感
した。

 思いのままに宇宙旅行をした。宇宙の謎すべてが解けた。

 それだけ知ってしまうと、男はまた退屈を感じ始めた。

「あ〜〜あ、これだけの物か。信じられないほど沢山の事を見聞きしたり実感したり
できたのは良いが、それでも飽きるときと言うのは来るものだな。あーあ、退屈だ」

「つくづく飽き性の人ね。でもまだ不足だと言うのなら、もっと上を目指したらどう


どんな願いでも叶えてあげるわよ」

「よし、叶えてもらおう。元の平凡な人間に戻せと言うんじゃ能がないから、この上
を目指して・・・」

「そうよ。上を目指さないと願いは叶えて上げられないわ。それどころか立派な願い
事が見つからなければ、あんたをこの世からもあの世からも消してやる」

「えっ、そりゃ大変だ。それじゃ、もつと大きな願い事を、と。しかし待てよ。宇宙
の王、神様よりも上のモノって一体何だ?えーっと……えーっと……」

「急ぎにさい。時間がないわよ。十秒・・・五秒・・・三、二、一!」

「うわー、駄目だ、思い浮かばない。待て、助けてくれ〜〜!」

「時間切れよ!」

  ブーーーッ・・・♪ホワンホワンホワン〜〜

 気の抜けるような効果音が鳴ったとき、男の姿は本当にすべての世界から消えうせ
ていた。

「今回の回答者も駄目だったわねぉ。どうしても神様の上…が思いつかない。これが
人間の想像力の限界かもね」

 肩をすくめながら立ち去ろうとした女神が、ちょっと振り向いて、誰にともなく
言った。

「そうそう。もし回答者席に着かされた時の為に、ヒントを残しておくわ。

最後の願い事を聞かれたときに、こう答えればイイのよ。――神様の上は誰か…教え
て下さいってね」

 言うまでもなく神様の上は……神様を尻に敷いている女神に違いなかった。

  ――――完―――――

2003年01月01日23時34分17秒投稿

【end of file】