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2002年11月16日〜30日
今日は、亀虫ぷっぷです。
11月23日 Team火の車稽古場 「第6回ごかいらく落語会」
出し物
●「BIDAN」 桂 歌々志(小佐田定雄 作)
●「修羅の群れ」 桂 九雀(くまざわあかね 作)
●「対談:義太夫ばなし」 豊竹 英太夫/桂 九雀
中 入
●「放し亀」 笑福亭 鶴瓶(小佐田定雄 作)
くまざわあかね嬢の著書〈落語的生活ことはじめ〉が、NHKラヂオ〈私の本棚〉での
朗読に続いて、な、なんと!〈NEWS23〉の新企画スローライフ特集28日放送分で紹介
されました。
この日、会場にテレビカメラがスタンバイ。
但し、ソデからの映像なんで客席は映ってませんでしたな。
がしかし!
官憲の目を盗み太陽を避け地下の密室に群れ集う邪教集団のサバトのごときこの会の
模様がちらっとでも全国ネットで流れたんですからね。
九雀さんなんか妙に緊張してましたな。
けどそこは噺家さん。
「私もいつも見てます。ニュースステーション。」
なんてギャグ飛ばしたりしてね。
筑紫氏、ちょっとむかついたはったんやないでしょぉかね。
その九雀さんの出し物は嫁姑の関係を描いた作品「修羅の群れ」。
雀松さんが一度だけ演らはってお蔵入りになってた噺やそぉです。
プログラムには「ひとりでは多すぎる」とありましたが差し換えられました。
作者の都合で…ま、早い話原稿が間に合わなんだという事。
それだけ多忙になったんですな。
いや、結構結構。
姑の留守中、嫁に友達から電話が掛かって来ます。
結婚して相手の親と同居するという話。
そこで先輩として色々アドバイス…と言うより不平不満のオンパレード。
同居の経験的ディメリットを披露しますな。
姑は姑で、隣家に腰を据えて嫁に対する愚痴文句たらたら。
同じ出来事についてのそれぞれの言動が交互に描かれて同時進行します。
これでスローモーションやったらサム・ペキンパー張りですな。
まだ見ぬ子供についても然り。
嫁は女の子、姑は跡取り息子を願ぉてます。
その夜、帰宅した亭主…息子を挟んで尚も角突き合わす二人。
と、突然嫁は吐き気を催してトイレへ駆け込みます。
お察しの通り御懐妊ですな。
さぁそれからというもの、双方とも人が変わったかのよぉに和やかな関係に。
姑は嫁の体を気遣い、嫁は姑の言う事にはいはいと良い返事。
亭主はひとり置いてけ堀になってますな。
そして嫁は男の子が欲しいと言い出します。
「あれだけ女の子がええと言うてたのになんでや?」
訝る亭主に
「男の子産んで今度は私が嫁いびりしたるねん。」
とまぁほぼこんな落ちやったかと。
ちょっと空憶えで陳謝。
客に嫁姑関係の定型パターンの下地があるもんで入り易いですな。
中には身につまされる人もあったりしてね。
ただ、あまりにパターン通りなんでインパクトに欠ける嫌いは否めませんな。
まとまり過ぎと言いますかね。
もっと弾けてもええやろぉし、仕掛け処は多々あると思いましたけどね。
「放し亀」は小佐田センセが鶴瓶さんのために書かはった噺。
過去一度だけ高座に掛かったそぉです。
なんにもええ事がないとぼやく男。
知人は浦島太郎の昔話を例に引いて、善行を施せば身に帰って来ると諭します。
帰りの道すがら立ち寄った彼岸中の天王寺さん。
境内の模様は天王寺詣りをしつこいくらいそのままパクってました。
亀の池の側で「放し亀」を見付けますな。
知人に言われた事を思い出した男は、二銭出して亀を一匹放してやります。
ただし、よぉぉぉく言い聞かせて。
「なんも御利益なかったら、毎日ここへしょんべんしに来るぞ。」
放された亀は池の中の友達にこの事を話します。
自分達では妙案も浮かばんと思い、兄貴に相談しよぉ、と決まりますな。
その夜中、男の家に一匹の青海亀が訪ねて来ます。
これが兄貴。
男は海亀の背に乗って竜宮城に到着します。
が、案内されたのは暗い殺風景な部屋。
鯛や鮃の舞踊りはおろか豪華な料理もありません。
しかも応対するのは乙姫やなしにおこぜの婆さんひとり。
文句を言うと
「二銭やったらこんなもんやがな。」
腹立ち紛れにテーブルの上の器をひっくり返す男。
婆さんが奥に向かって大声を出すと蛸の用心棒が出て来て
「お客さん、騒いでもろぉたら困りまんなぁ。」
殆ど暴力キャバレーですな。
蛸は腹いせに暴れ始めた男を力づくで追い出します。
翌日、最初の知人を訪れた男。
経緯を話し、夢でない証拠に吸盤の跡やなんかを見せますな。
そして小さな玉手箱を取り出します。
開けてみるとほんわずかな白い煙が吹出して鼻毛だけが白くなります。
それを見て知人は言いますな。
「二銭やったらこんなもんやがな。」
もぉ少々テンポ良ぉいかんもんかな。
確かに鶴瓶さん流の語り口でしたけどね。
本編より、お得意の一門の人達を扱ぉた枕の方が面白かったですな。
特に福笑さん。
代々松鶴の墓参りに家族全員で行き、それぞれの墓に向かって般若心経を三回ずつ。
あーちゃんの墓にも同様に唱える。
六代目との死闘。
三代目の家に電話を掛けて訳の分からん雄叫びをあげてすぐ切る。
米朝師匠の家に石を投げる。
子供やがな。
けど、爆笑もんでした。
この辺りの喋りがラヂオテレビで鍛え育んだ味なんでしょぉかね。
「BIDAN」は故歌之助さんの持ちネタ。
歌々志さんがしっかり受け継いだはります。
大仰に感動したがる家族の罠に掛かって、売れ残りの不細工な娘を押し付けられる男
の悲劇。
一種のホラーですな。
落ちを忘れたんでこの辺で御勘弁を。
国立文楽劇場出演中の豊竹 英太夫さんを招いての「対談:義太夫ばなし」。
流石、あのスペースと距離で聴いたらえらい声ですな。
で、義太夫の発声法の基礎をお勉強。
まず、姿勢を鳩胸出っ尻にします。
テキストは〈傾城阿波の鳴門〉の名台詞。
「ととさんの名は十郎兵衛 かかさんはお弓と申します」
照れも無く客全員大きな声が出てました。
次に〈絵本太功記〉から
「さすがの久吉 よく言ったァァり」
「言った」の「言っ」と「た」の間に鼻で大きく息を吸ぅのがテクニック。
良かったらお試し下さい。
最後に、前回の茂山 逸平さんの狂言式に続いて義太夫式〈大笑い〉を一発。
例の梅田の駅前でやったら救急車が飛んで来るっちゅう奴ですな。
迫力ありました。
小佐田センセの新刊が平凡社から発売中。
〈落語大坂弁高座〉1600円。
キャッチフレーズが「今すぐ使える!」…て、何処で使うねん。
中入りが妙に長いと思ぉたら、持参した分が完売するまで延ばしたはったらしい。
当日に限り師弟の著書合わせて消費税抜きの3000円ポッキリ。
これはお買得…かどぉかは読んでみてのお楽しみ。
たぶん苦情は受け付けてもらえんのでしょぉなぁ。
2002年11月30日17時47分13秒投稿
S.S☆「ツルの恩返し」☆ あや太郎
動物保護区を見物していた老夫婦は、森の中でバサバサという羽音を聞いた。
当地に飛来する鶴が見られるかもと分け入ってみると、案の定美しい鶴の姿。しか
しその鶴は酷いことに違法な罠に掛かり藻掻いていた。
「何て可哀想な事を…。罠を外してやろう」
優しい夫婦は慎重に罠を取り外し、鶴を放してやった。
次の日、保護区のそばに住む老夫婦のもとに一人の美しい女性がやって来た。
「二十一世紀の御世に信じてもらえないかも知れませんが、私は昨日助けていただい
た鶴です。見ればお年よりだけの生活で不自由な事もございましょう。いつまでもと
は参りませんが、大陸へ渡っていくその日まで、お二人の身の周りの世話などさせて
いただき恩返しをしたいと思います」
「ほほぉ、鶴の恩返しですか…」
どこかで、あの場面を見かけたのだろう。老夫婦にとっては人手があるのもありが
たいが、プライバシーも妨げられるし、そう安易に受け入れるわけにも・・・
「昔話のように泊り込みというのは却ってご迷惑でしょうから、朝にお伺いして、御
用事があれば夕刻までヘルパーとして働かせて頂きます」
「ははーん、人材派遣会社の人か。介護保険の施行以来、手の込んだ売込みがあると
聞いたけど・・・」
「とんでもない。お金なんか戴くわけもありませんし、使い道もありませんわ。だっ
て私は鶴の化身なんですから」
「鶴の化身ねぇ…」
上品で、とても悪人とは思えない。第一騙し取られるような金もないしと…と考え
ているうちに断る潮時を失って、結局来てもらう羽目になった。
見た目どおり、女は誠実な働き者で、家の仕事、身の回りの世話をせっせとこなし
てくれた。隣り近所でも評判となり、特に若い男連中は用も無いのに立ち寄って来
る。挙句の果てには地元のマスコミまで取材に立ち寄った。
「周囲が勝手に立てた噂だと思うんですが・・鶴の化身…なんて事はないですよね」
「いえ、私は本当に鶴の化身なんです。こうして皆さん方の前にいるときは緊張して
人間の姿を保てますが、独りっきりの時はリラックスして本来の鶴に戻ってしまうん
です。だから決して、独りの所を覗かないでくださいね。皆さんを…特に恩あるご夫
婦を驚かせたくないもので」
「ほほぉ・・・自ら鶴であると告白するのは珍しいパターンですね」
「はい。ご先祖様が、それで悲しい別れをする破目に陥りましたから、後の世代は最
初から正直に身元を明かす事にしています」
どこまでも浮世離れした美女であった。しかしそれがまた男心をくすぐる。
近所の若い連中は、たまたま独りで留守番をしていた女に、覗きを敢行した。
しかし女の姿は人間のままだった、
「何だ・・・やっぱり人間のままじゃないか」
「あら、また覗きに来てらっしゃるの?もう悪戯はヤメて下さいませ」
「それより、鶴の化身って話はどうなってるのさ?」
「皆さん、毎日のように覗きに来られるんで、緊張感が抜けません。だからこの家で
は滅多に鶴の姿に戻れないんですの」
「ほんとかなぁ…。かと言って無理やりレントゲン検査も出来ないし…」
その後も風呂場を覗いたり、泊まった夜に寝込みを覗いたりする不埒者が現れれ、
警察も出動したが、やはり女の正体を暴くのはプライバシーに触れると、核心は不明
のままだった。かくして話題性に付け込みマスコミが割って入った。
「もう事をはっきりさせないと皆が迷惑します。単なる恩返しや律儀な娘さんの話で
はなくなって来ました。そこで、どうでしょう?…今回は何とか、このテレビカメラ
の前で、本来の鶴の姿に変身してもらえないでしょうか。そうすれば、興味本位で覗
きに来る不届き者もいなくなるはずです!」
実際には、不届き者が増えるに決まっているのだが、純真な女は、騒動に巻き込ま
れて弱っている老夫婦へ気遣い、この実験に協力を申し出た。
野次馬を締め出し、静かなスタジオの中で、目一杯彼女が落ち着ける環境を用意し
て、カメラは回り続けた。全国ネットでは一時間ごとに、地元局では二十四時間体制
で生放送が続く。しかし世間注視の的というプレッシャーには勝てなかったものか、
ついに彼女は鶴に変身する事は無かった。
「なーんだ、やっぱり駄目だった」
「どっかの超能力者とおんなじだね。たまたま実験の日だけは体調が悪くなるってパ
ターンだ」
「あぁ、『現代の御伽噺』もやはり夢物語にすぎなかったなぁ」
みんなが三々五々立ち去って行く。
「やっぱりウソだったのか。良い子だと思ってたのに」
老夫婦に、これ以上騙されなくて良かったね、と嫌味を言いながら。
「いいじゃないか。プレッシャーに勝てないことだってあるさ」
老夫婦だけは慰めてくれた。
この二人に信じてもらえたら、それで良いではないか。彼女もそう思い直した。
途端にあらゆる手かせ足かせが外れた。
驚く老夫婦の目の前で、見事な鶴に変身すると、娘は大きく羽ばたき華麗に夕焼け空
へと飛び立った。
季節はもうシベリアの大地へ向かう頃へと移っていた。
――――――完―――――
2002年11月28日22時40分22秒投稿
S.S☆「手乗りオウム」☆ あや太郎
「コンニチワ、コンニチワ。お姉さん、ダイスキ」
「あーら、可愛いオウム。とっても愛嬌良しね」
「いいえ、このオウムは人見知りしましてね・・・美人にしか話かけないんですよ」
「まぁ、心をくすぐるオウムちゃん。餌を上げたくなっちゃった。このピーナツくだ
さいな」
「毎度ありい・・・」
行ってしまうと、今度は歩いてきた恰幅のいいオバサンに話し掛けた。
「お姉さん。コンニチワ。大好きだよー」
「あらまぁ、感じの良いオウム。ハイ、餌のピーナツを上げましょうね」
「毎度ありい〜〜」
オバサンも上機嫌で行ってしまう。
すると今度は男か女か分からない風体の客が歩いてきた。
「コンニチワ、お姉さん。だーい好き」
「んまぁ、可愛いオウムだこと。私がオカマだって知ってるのかしら」
「このオウムは綺麗な人にだけ話しかけるんですよ」
「なんて、感じの良いオウムちゃん!好物のピーナツを上げようね」
「毎度あり〜〜」
そして男が通り過ぎた時には何も喋ろうとはしなかった。それを見ていた露天商が
感心して言った。
「賢いオウムだねぇ。人によって喋り分けるだなんて下手な人間より利口だよ』
「いや、不器用なオウムでネ。お姉さん、大好き…しか言えないんだ。でも台詞なん
て一つで充分さ。人が喜ぶ台詞なんて決まってるからな」
「でも男が来たって喋らなかったよ。見分けてるんだろ?」
「それだげがコイツの取り得さ。あとは同じ台詞で餌のピーナツを売りつけるって寸
法よ」
「何だ、そうか。聞いてみれば簡単な手口だな」
「でも、下手な人間より役に立つってのは本当だぜ。少なくとも邪魔には成らない
よ。なにせ他に喋れる言葉は無いんだからな」
不器用なオウムは、待遇への不満も口にせず、食べ飽きたピーナツだけを黙々と口
にしていた。
――――――完――――――
2002年11月27日23時46分23秒投稿
今日は、亀虫ぷっぷです。
11月22日 太融寺「千朝落語を聴く会」
出し物
●「鉄砲勇助」 桂 ひろば
●「八五郎坊主」 桂 千朝
●「悋気の独楽」 桂 米左
●「三十石〜夢の通い路」 桂 千朝
「八五郎坊主」は、どなたが演らはっても枝雀さんの香りがします。
聴き手の方に忘れ得ぬイメージが残ってる所以なのは勿論なんですけどね。
なんせ、ぴったり身に合ぉてはまったはりましたからな。
それ故に完成度も高い。
従ってそこから全く外れたもんには成り難いんですな。
現行、この噺のプロトタイプと言うてもよろしいかと。
尽念寺(こんな字ぃか?)のお住持が小坊主を呼ぶ場面。
「智延(こんな字ぃか?て…)や。あぁ智延や。」
「あぁ二円や。三円や。」
が一般的?な形で、千朝さんもこれでした。
枝雀さんは
「智延や。あぁ智延や。」
「あぁ自転車の?」
こちらの方がインパクトがあってタイト。
どなたか取り入れてくださらぬか?
雀五郎さん辺り…。
御存じ「三十石〜夢の通い路」は、三条大橋の袂から始まるフルコース。
そのラストのシーン。
早朝の農村風景の中を静かに進む船。
寝入ってる客と漕ぎ続ける船頭達。
「三十石は夢の通い路でございます。」
で、しゅっと終わるのが普通。
千朝さんの場合はここで一波瀾ありました。
別にとちったとかやありませんよ。
枚方で一人の男がいきなり岸辺に飛び下ります。
実際こんな事もあったでしょぉな。
八軒家まで行ったら遠回りになる人もいたはるやろぉしね。
船賃は前払いなんで船頭も咎めなんだんでしょぉ。
実はこの男、付け狙ぉてた獲物と共に乗り込んでたスリ。
船中での仕事で手にした五十両を懐に、犯行現場から逃走したという訳ですな。
スリはここで上り船を待って拾ぉてもらい、京で散財する腹積もり。
と、怪しい匂いを嗅ぎ付けたか、その辺りの野良犬が寄って来て吠え掛かります。
やがてそこいら中から共啼きの声。
年寄りの犬なんか歯ぁが抜けてファンファンファォォォォンてなもんですな。
その啼き声に目を覚ました被害者が犯行に気付きます。
飛び下りた男に思い当たった船頭の勘六。
「さてはあいつが!妙なとこで降りよったとは思ぉたが…。」
で、一計を巡らして
「おそらく京へ引き返すに違いない。
この船を上り船に見せ掛けて捕まえてやろぉ。」
直ぐさま180度転回で舳先を上に向けさせ、漕ぎ手を陸に下ろして引かせます。
下りは川の流れに沿ぉて進むけど、上りは人間が綱で引いたそぉですな。
で、きっちり計略に掛かったスリは御用となり一件落着。
「三十石は夢の通い路でございます。」
デンデ〜ン。
この一連の場面は昔聴いたよぉな憶えがあるんですけどね。
はて、どなたのであったか。
米朝師匠やったかな?
ひょっとしたら、聴いた憶えがある気ぃがしてるだけなんかも知れませんが…。
まぁ、どんな形の幕引きであっても東の旅の大団円。
もぉひとつ。
千朝さんはこの噺を江戸時代に設定したはりました。
五十両という金の単位でも分かりますな。
船中でお女中についての妄想を膨らませる人物の話。
八軒家に到着してそれぞれが家路に付こぉとしてますな。
同じ方向なんで一緒に帰りまひょ、となります。
普通ここで人力に相乗りするんですけど、駕篭が登場。
お女中だけが乗って男は歩きます。
二人で乗ったら蜘蛛駕篭になりかねん。
この時代設定には何か根拠があるんでしょぉかね。
機会があったら聞いてみたいもんですな。
「悋気の独楽」の枕。
11月22日は〈いい夫婦の日〉。
色んな日を勝手に決めてええんですな。
5月6日が〈五郎の日〉とかね。
復帰しはったそぉで…至極残念そぉな米左さんでした。
2002年11月27日16時45分52秒投稿
S.S☆「神の領域展示館」☆ あや太郎
「神の領域展示会か…・大層な看板だが何を展示してるって言うんだ。…ちょっと見
学させてもらいますよ」
「いらっしゃいませ。人間と神様の長い歴史を目に見えるか形で展示したこの一大イ
ベントにようこそ」
「なかなかの心意気ですな。それに匹敵するような濃い〜内容を期待してますよ。…
さて、先ずは太古の世界ですな。人間と神様の出会いと銘打ってある。人と神が初め
て関わり出したころかな・・・」
「ハイ。人が神を意識し始めた頃。人間と神の境界線はどこにあったのか…という
テーマです。先ずは現物をご覧ください」
「ほぉ・・・こりゃ貴重なものだ。太古の昔からある神の領域の象徴か・・・なんだ
?焚き火じゃないか」
「要するに『火』ですな。落雷や火山噴火で自然発生した火を、まだ人類は、恐ろし
いもの、触れるべからざるものとして畏れおののいていたというわけです」
「なるほど。確かに大昔は、火も神の領域か。まだ動物のケがのこってた時代だもん
な」
「続いてはビジュアル的展示物をどうぞ」
「何だ・・・ただの写真じゃないか。山や海や、木や動物や風景写真がどうかしたの
かね?」
「古代の人びとには、足を踏み入れてはイケない山や海や、そういう聖域がたくさん
ありました。あるいは神聖なる木や動物もまたしかりです。今はほとんど無くなった
聖域も昔は神の領域だったわけですね」
「そう考えると、時代によってずいぶん変わってくるもんなんだな。それから有史時
代のコーナーか。色んな祈祷や御まじない関連の道具が並んでるねぇ。目ぼしい宗教
から、陰陽道、占い、オカルトの類まで、雑然と置いてあるが?」
「ここらは十把一絡げです。きちんと整理するとキリがありませんから。みんな、あ
るときは流行り,あるときは廃れ、また新しいものが生まれては消えていくというお
決まりのパターンです」
「懲りずにやって来たもんだ。しかし生き残りも少なくはないな。現にそういう所の
神の領域はいまだに影響力を持ってるんだから」
「おっしゃるとおりです。またそんな流行り廃りとは違う人間の本能や直感に基づく
神の領域・・つまりタブーと言うのも更に根強いものです。そんな領域から人間の領
域に脱出してきた一連の展示天使物のコーナーです」
「ふむふむ。薬、注射器、メス等々……。なるほど、人間の身体に薬物を入れたり、
針をさしたりメスを入れたりしてはいけないという時代もあったっけ」
「そんな時代も過ぎて、今はこれですよ」
何やら原子モデルのようなオブジェが置いてある。隣にあるのは遺伝子の模型か。
「原子力や遺伝子操作はまだ神の領域と人間世界との境界線上にあるな。そう言え
ば、少し前のコーナーには心臓や内臓と人体モデルがあったっけ。臓器移植はほとん
ど人間の領域に入ってる」
「すでに神の領域にあらず…というところですかね」
「原子力と遺伝子工学も時間の問題なんだろうな」
「それはメリットの有る無し次第ですよ。……特に危険な事も起きず、得する人が多
ければ、いつの間にか人間の領域に取り込んでるでしょうし、得にならないと見限っ
たら、また神の領域に押し戻されるでしょう」
「確かに、メリットを度外視して神の領域に送り返す義理は無さそうだ。
…おや、これで展示物は終わりかと思ったら、まだ一つある。垂れ幕が掛かってるけ
ど、何故だね?」
「あれはまだ公開の時期ではなさそうなので保留中といったところです。まぁ、二十
一世紀中には結論を出すことになると思うんですがね」
「ほほぉ、どんな展示物かな。隠してると余計見たくなる。ちょっと覗いても良いだ
ろう?」
「いや、本人が嫌がるのではないかと…。まだ心の準備が出来てないそうなのだ」
「本人?人が入ってるのかね?」
「いや、それが人なのか、そうでないのか・・・果たして、どちらに所属する事にな
るのやら」
「やけに微妙な存在だな。あまりメリットの無い人物なのかな?」
「メリットがあるとしても、人間の領域に引き込むと本人の立場がないし、かといっ
て、神の領域に入れると忘れらてしまうという微妙な立場でもありましてね…」
「ますます訳の分からない存在だ。ジレったいや、シートをめくっちまえ・・・エ
イッ!」
そこには目を真っ赤にして悩み続ける神様の姿があった。
「メリットが無いと言うのなら・・・いっそ神の領域で、そっとしておいてくれぬ
か」
―――――完―――――――
2002年11月27日00時15分42秒投稿
S.S☆「熱い涙」☆ あや太郎
「皆さん、有り難う!皆さんの寄付金のお蔭で、またたくさんの恵まれない人たちが
救われます。この…二百四十時間チャリティ・マラソンを続けてきて良かった。本当
に感激しています。僕はたくさんの人々の幸せそうな顔が見られて、本当に幸せです
!」
涙、涙のフィナーレは今年もまた国内最大のチャリティ企画が終了した。
「いやぁ、さすがは『力村熱男』さんの名司会だ。あの気迫と熱気と溢れる涙の前に
は、かなう者なしだね。誰だって趣旨に賛同しちゃうもんなぁ」
「正に日本一熱い男。熱き涙の勝利だなぁ」
すると、その横を一人の男が足早に横切った。
「次の仕事は?あぁ、関連ラジオ局のインタビューか。じゃあ、それは手短に切り上
げて、年末番組の録画を二本ほどやっとこう。早い目に休みを取ってハワイに行かな
いと、たっぷり遊べないからな」
冷めた口調に振り向くと、何としたことか、それはあの力村氏であった。
「あっ、力村さん。あんた、さっきまであんなに泣いてたのに。あれは全部お芝居
だったのか?」
「失敬な。僕はそんなウソつきじゃない。誠心誠意、精魂込めてみんなに募金を呼び
かけてるんだ。ギャラだって一銭も貰っちゃいないぜ」
それは事実であるらしかった。
「でも、余りにも変り方が激しいからさぁ。……ねえねえ、本当にあの泪はウソ泣き
じゃないんだろうね」
「まだ言ってる。気障なようだが心の中から、腹の中から溢れ出た熱い泪だ。
言いながら出したハンカチを見て、一同驚いた。何と湯気が立ち上っている。まる
でお湯に浸したように。
「こ、こんなに熱い泪は初めて見た。でもそれだけに今の冷静さが信じられない」
「逆だよ。熱い泪を流したから、そのあとは冷静になれるのさ。何てったって泪は僕
の…ラジエターだからね」
―――――完――――
2002年11月25日23時31分57秒投稿
S.S☆「介護犬」☆ あや太郎
「先進諸国では、高齢化に伴い、訓練を受けた介護犬が老人や身障者を手助けしてい
ます。本日は、その中でも最も進んだ介護犬と共に暮らしている山田さんのお宅にお
伺いしました。山田さん、先ず愛犬のお名前は?」
「ズル…といいます」
「ズル?それはまたユニークな名前ですが・・・さて、それではズル君の活躍ぶりを
見せていただきましょう。…部屋の中が取り散らかってしまいました。山田さんがズ
ル君を呼びます。さぁ、ズル君はどうするでしょう?…おや?急に外へ飛び出してい
きました。どうしたんでしょう。…おっ、すぐに誰かを連れて帰ってきましたよ…」
「家政婦協会の田中です。まぁこんなに散らかってる。ホウキ、ホウキ。掃除機、
モップ…」
「おっ、ズル君が裏手へ回りました。これからお手伝いしてくれるのかな?」
「モップ交換でーす。ドーナツも如何ですか?」
「これは手回しの良い。ズル君はドーナツが大好物だそうです」
「わしも腹が減ったなぁ」
「そんな山田さんの一言に、ズル君が素早く反応します。裏手の台所へ行って…無裏
口から飛び出して…間も無く割烹着姿のオシ゜サンをつれてきました」
「毎度。今夜は何を捌きましょう」
「近所の板前さんです。こりゃ旨いでしょうが高く付きそうだ」
「あぁあ。寝る前に風呂に入りたい」
「体が不自由な山田さんが入浴するのはなかなか大変なのです。さぁ、どうするズル
君?・・おおっ、何と器用に電話のボタンをプッシュした・・・」
「ハイハイ。○○屋デイ・サービスですが?」
「ワンワン、ワワンのワン」
「ハイ、承りました。早速参ります」
「…何と、これだけでヘルパーさんが駆けつけて入浴介助してくれるそうです。それ
にしても犬の声を聞き分けるとは凄いですね、山田さん」
「常連ですから」
「なるほど。さて、入浴の際、果たしてズル君はどのように介助してくれるのでしょ
うか?・・・ありゃ、姿が見えない・・・と思ったら奥の間で寝そべってテレビを見
てる!
名前の通り正にズルいワンコです。いったいどこが、進んだ介護犬なんだ?就職難の
このご時世に何でこんなズボラな犬を使ってるんだろう……」
スタッフ一同、首をヒネっていると、当のズル君が腹の中で・・・
「就職難の時代だから、人を使ってやってるんじゃないか。失業者対策できる犬だか
ら、進んだ介護犬だと気付かないかねぇ。……自分達が人間の仕事を全部横取りした
ら困るのはキミらのほうだろう?」
―――完――――
2002年11月24日22時40分22秒投稿
S.S☆「空海の休憩」☆ あや太郎
空海は超能力者だったのか?
二十三世紀になってもこのテーマは古代史の謎のままだった。
しかし他の歴史の謎と同様、空海の実像も間もなく明らかにされるはずであった。
タイムマシン――――やはりこの発明が歴史学の研究を根底から変えた。
二十三世紀半ば、開発された時間旅行船で、ついに弘法大師空海を実地調査する許
可が下りたのだ。
無論タイムマシンが出来たと言っても、誰もが勝手に時間旅行できる訳ではない。
「歴史を変えるべからず」
何より重いこの規約にのっとり、時間を超えての調査行は、ごくごく限られた期間
と地域のみに、極々厳選された専門研究員だけが派遣された。
我々古代史研究チームも十年近い準備と待機期間の後、ようやく、八世紀の空海をナ
マで観察する許認可を得た。
勇み立つ心を抑えながら、研究班は水陸空を自在に移動し、完璧なカムフラージュ
機能を備えた小型時間旅行船に乗り、勇躍十五世紀昔の日本へ飛び立った。
空海が居た。所は四国八十八箇所の山道。
彼が長く暮らした京都や高野山の寺ではなく、四国の山中を選んだのは、他でもない
・・・彼が起こしたと伝えられる数々の奇跡を検証するためであった。
「この日時、この地域なら、恐らく旱魃から農民を救うために、岩山から水を湧き出
させることになるはずだ。
果たして、住人達は「旅の僧」に向かい苦境を訴えている真っ最中であった。
しかし曖昧な返事をするだけで、空海は待てど暮らせど何もしようとしない。
「これでは現地調査の意味がないよ」
「それどころか水が出たと言う歴史が変ってしまう
痺れを切らした我々はついに意を決し、村人に扮装して空海と接触した。
「お坊様。どうか水を掘り当てて下さい。そうでないと、この土地の者はみんな干上
がってしまいます」
「面倒くさい。今わしは休憩の行に入っておる。仕事はせん」
「休憩の行?そんなモノがあるんですか。しかしそれでは飢饉が起きてしまいます
ぞ」
「止むを得ん。それも天命じゃろうて、ダハハハハ」
困ったことになった。古文書によると、空海の奇跡のお蔭でこの一帯の農民は飢饉
を逃れたある。これでは歴史どおりに行かないではないか。
「いじらないほうが良いのか、それともいじったほうが良いのか?」
悲惨な村々の様子を目の当たりにし、我々のチームは苦慮の末に、空海に代わって
水源を探す決定を下した。
目立たぬよう夜陰に乗じ、探査船は地質調査センサーを作動させつつ、地域一帯を
飛んだ。幸い水脈はすぐ見つかった。但しかなり厚い岩盤の下である。今度は炎天
下、騒音の少ないレーザー掘削機で水脈直前まで穴を掘り、弘法大師からの書面を模
して村長達に水を呼ぶ儀式を挙行させた。
神事の後、幼い子供が深い井戸に法力の石を投げ入れると、底に仕込んだ小型の爆
破装置が作動して、地下水は見事噴水の勢いで地上を潤した。
「神業じゃ・・・法力じゃあ・・・」
村人達の歓声の中、空海は大きな用事を片付けたあとのようなサッパリした顔で次
の土地へ向かった。
「ここでは、温泉を湧き出させて、多くの病人を癒した事になっている。なるほど、
後に温泉で有名になるこの土地に、まだ湯の煙は立ち上ってはいなかった。しかし・
・・
「億劫じゃ」
またしても空海は動こうとしない。奇跡を信じて集まってくる病人達にも、一通り
話を聞くだけで、一向に腰を上げようとはしなかった。
「ものぐさな坊さんだなぁ。伝説とは違うよ」
「また、尻を叩いてみようか」
遠くからやって来た病人に扮して目一杯同情を引いては見たが・・・
「まことに気の毒な事じゃ。しかしわしは生憎医者ではないからのぉ」
ゴロゴロしているばかりである。
「まだ休憩の行を続けてるのかな」
「こりゃ単なる怠け者じゃないの」
今度は四国の大温泉地が歴史から消えかねない。結局、我々がまた骨折りする事に
なった。
要領は同じだ、夜、空からスキャンをかけると湯脈を発見、それを空海経由で土地
の人に伝え、劇的な演出で掘り当てさせる。
「手柄を横取りされてるみたいな感じ」
チーム内の不平も知らず、空海はまた感謝の嵐に送られて土地を去った。
次は辺鄙な山間にやって来た。確かな古文書によると、ここで水銀の鉱脈を発見
し、薬、塗料などを産出して大きな産業を興したとある。
「いわば、活動資金を得る訳だ。今度は自分から動くだろう」
そんな推測も外れ、空海はまたのんびりと山道を散策したり、庵で昼寝したりして
いる。
「和尚様、よくぞ休憩に精が出ますね。この辺りは生活の糧が無いところでね。何か
一肌脱いで上げたら如何ですか?」
もうジレッたくなってきて、こちらから誘い水を掛けてみた。
「ふむ。わしもそうしたいところなんじゃがな。山という山を掘り尽くす訳にも行か
ず…」
再再度、古代史探査船は夜に飛ぶ。
「陸海空と飛び回る我々のほうが空海よりは上手かな」
「文句を言うなよ。歴史に首を突っ込んでしまった報いさ」
かくして水銀の大鉱脈は間もなく見つかり、お大師様は土地の恩人と奉られた上、
莫大な利権を手に入れて四国の地を後にする事となった。。
「何だかねぇ…。本当にこれで良かったのかい?我々が空海の肩代わりをして色んな
奇跡を実現させるだなんて」
「まるで、我々が歴史をつくったようなもんじゃないか、後で大きなしっぺ返しでも
あるんじゃないだろうな」
「いや、それだけは大丈夫そうだ。現に我々メンバーらは何の異状もないし、空海に
関するデータも全然変化や消失は見られない」
「ふーむ。逆にそれも不思議な話だな。これだけ過去をいじくったのに何の変化も凪
いだなんて…」
「それぐらいでなきゃ、おだいし
お大師様は務まらない、か」
全員不思議な面持ちで海辺に立っていると、これから淡路へ渡ろうという空海が現
れた。
「おぉ、あんたがたも自分の国へ帰るところかね」
言われてギョッとした。空海に会う時には変装を凝らし、同じ風体は見せていな
かったはずなのだ。
「あのぅ・・・ひょっとして我々のことに気づいていたのでは」
「あぁ、何となく感づいておったよ。どこか遠い国から・・・いや、遠い時代から来
たのではないかとな」
「えっ、そこまで…。いや、故あって正体は明かせませんが・・・」
「わしも別に聞きとうはない。恐らく酔狂な連中が、わしの行状を調べに来たのであ
ろう」。
「はい、実は・・・。でもそれなら何故怠け者を装ったんです?これでは、我々とし
ても、大師様の事を、怠け者としか書けないじゃないですか」
「ほほほ。怠けられるときは怠けて大いに結構。特に色々と進歩した技を持ってる未
来からの参詣人が来られたときは、任せておいたら慌てて穴埋めをしてくれる。先の
世界で辻褄が合わんようになっては困るからのぉ、ムハハハハ」
何と、こちらの手の内はみんな見透かされていたらしい。もう単刀直入に聞くほか
無い。
「伝説のとおり、やはりあなたは特別な方なのですか?」
「さて、どんな伝説になっておるのか、わしにはまだ分からんではないか。なにせ先
の事だからな。しかし、先の見通しがまるで立たんようでは、伝説上の人物には成れ
まいて、ダハハハハ」
正体の知れない人だ・・・と、チームのメンバーが肩をすくめて顔を見合わせた瞬
間、パッと煙が立ち昇り、空海の姿は消えていた。
キツネにつままれたようん顔で未来人たちが呆然としていると……
「空海和尚の存在を淡路島南端に確認…」
追跡センサーが告げた。
今度は驚愕の面持ちで皆が顔を見合わせた。
「やっぱり本物・・・?」
どれほどの能力を有するのか、短い調査では判定できなかった。しかし如何な超能
力の持ち主でも倦怠期はあるのだろう。
今回の「奇跡の肩代わり」も案外空海にとって良い休憩になったのかも知れなかっ
た。
―――――――完―――――
2002年11月23日23時54分44秒投稿
S.S☆「サルの惑星」☆ あや太郎
20世紀半ば、初の有人探査船を火星へ送り込んだ人類は、そこに驚くべき足跡と
予期せぬ歴史を発見した。それは、人類より何歩も先んじて刻まれた「猿の足跡」で
あった。
「最初、小さな靴跡が発見され、間もなく違う地域で無数の裸足の足跡が発見されま
した。大きさと形状はちょうどチンパンジーぐらい。しかも裸足で歩いていたと言う
事は、かつて火星に空気があったという証拠です。水も緑も当然存在したはずです。
つまり生命不在と見られていた火星は、何と猿の惑星だったのです。遥か太古に火星
がどのような環境にあったのか、急ぎ調査が進められております!・・・」
「へぇ・・・。こいつぁ驚いた」
ニュースを聞きながら、飼育係たちは、横手の檻の中で毛づくろいし合うチンパン
ジーたちをマジマジと見た。
「火星にはお前達の仲間が居たんだとさ。ひょっとすると、お前達も火星から来たの
かもしれんなぁ」
「かなりの文明の遺跡も見つかってるらしいぜ。それなら火星から地球まで飛んでき
たって不思議はないな」
「でもそれにしちゃ、こいつらは芸が無いぜ。高等生物なら言葉ぐらい喋れるだろう
さ。やっぱり別な種族だろうよ」
「そうだろうな。なにせ、こちらと向こうじゃ環境が大違いなんし、それに適応しよ
うと思ったら文明を捨てるわけにはイカンだろうし。第一、遺伝子を比べたら我々人
間とほとんど変らないんだから、エイリアンって事はありえんな」
「何処まで行っても、地球のナンバーツーって訳か。まぁ、人類の後継者になれるか
どうかは別にして・・・」
会話を聞いたあと、チンパンジーたちが肩をすくめ唇を剥いて囁いた。
「地球生まれのチンパンジーが火星に行ったとは考えつかないのかねぇ」
「そこらがニンゲンの想像力の限界さ」
年長猿が代々受け継いできたチンパンの歴史を振り仰いだ。
「何百万年か昔、我々の先祖は高度な文明を築き、ついに火星探検を果たした。しか
も環境を変え、住めるまでに改造した。そこを足がかりに、いよいよ大宇宙に乗り出
そうとしたとき、突然あの悪夢が襲った。神の怒りに触れたのか、宇宙の法則に障っ
たのか、我々猿族は一瞬にして言語を失ったのだ」
「一部の猿族はこうやってテレパシーで会話できるものの、やっぱり共通の言葉を
失ったのは大きな痛手だったんだろうなぁ」
「その通りじゃ。その顛末は後に人間が勝手に借用し、バベルの塔の逸話として語り
継いでおる。あれは正に猿族文明の崩壊を象徴する悲劇だったのじゃ」
「火星に渡った仲間は帰る事も出来ず、向こうで野垂れ死に・・・地球に残った我ら
の先祖も、ジリジリと追い上げてきたNo.2のニンゲンどもに天下を取られて、今や悲
しき保護動物扱いって訳か」
「しかし人間どもも間もなく言葉や文明を失うんじゃないかな。我々と同じように
ね。きっと太陽系の外へ出ようとする頃にな」
「長老・・・どうして、大宇宙へ乗り出そうとすると、我々は文明を失うんですか?
当時、撤退した先祖達はそれを知らなかったんでしょうか?」
「無論、感づいいたさ。人間よりも三万本、毛の多い我々のご先祖様だもの。その理
由というのはな・・・おっと、イカン」
見ると、飼育係たちが檻の見回りに来ていた。
「何が心配なんです?人間には分からないテレパシーで話してるのに」
「いや、ずる賢い人間のことだ。テレパシーだって、どんな手で盗聴するか知れたも
んじゃない」
「なるほど。じゃあ、事の真相は・・・」
「教えてやーらない!」
さて、もし将来、人間が宇宙に飛び出せる技術力を持ったとたんに、突然「言葉」
を失ったら、何と言うだろう?
正解はーーー喋れないのに何も言えるか!…であった。
―――完―――
2002年11月23日00時07分58秒投稿
S.S☆「ないない尽くし」☆ あや太郎
「俺は酔ってない!」
酔っ払いは必ずそう言う。
「私は狂ってない!」
狂ってる人も良くそう言う。
「僕は犯人じゃない!」
真犯人がそう訴えるのは常のことだ。
「要するに・・・否定したほうが疑われ易いという訳か」
とある事件の容疑者として逮捕された男は聴取室で担当官を待ちながら、そんな事
を考えていた。
「よし・・・それなら裏をかいて、煙に巻いてやろう。最後には阿多のがオカしいフ
リをして責任逃れする手もあるしな」
もちろん実際には彼が犯人なのだが、逮捕されたぐらいでおめおめと罪を認めてい
ては沽券に関わる。他でもない、男はプロ意識を持った筋金入りの犯罪者であった。
今回もまた周到に策を練り、刑罰を逃れるための努力を誓うのであった。
「私が担当の嬉野です。単刀直入に言いますが…犯人はあなたですね。これまでにも
同様の犯罪に何度となく関与しているようですし、裏の世界ではもう一流のプロと言
われているらしい。これだけの証拠があるんですから、潔く認めたらどうです。…あ
なたが、真犯人ですよね?」
口をへの字に結び、ゆっくり表を上げると、取調官を睨みつけながら、渋い声で容
疑者が答えた。
「私は・・・犯人だ!」
ギョッとしたカオで居合わせた者が振り返った。
・ ・・先ず意表を衝く事だ。あとは、いざと言う時の為に、不信な言動や態度を織
り込んでおく・・・
「ずいぶんアッサリと認めましたね。まさか誰かを庇うためじゃないでしょうな」
そう勘違いしてくれると尚更ありがたい。男は唇を尖らせ、一転トボケた目線で繰
り返した。
「私は・・・犯人だ」
これでますます迷うだろう。上手く行けば別な真犯人を求めて捜査方針が変わるか
も…などと思っていると・・・
「あなたが…犯人っと。早く調書が出来上がって、手間が省けましたよ。それじゃ取
り調べはこれにて・・・」
「おい、待てよ…!」
あまりの物分りの良さに慌てて制止する。
「わ、わたしの、言い分も聞いて欲しい」
「まだ何かあるんですか?ではどうぞ」
「私は・・・庇っている」
「庇うような人は居ないでしょう。一匹狼の犯罪のプロなんだから。じゃあ終わりに
しましょうか」
「待てったら…。もう一つ聞け。…私は、狂ってない」
「分かってますよ。冷静そうだもん。責任能力を疑ったりはしません。じゃ、これ
で…」
「ままま、待て〜〜!恥を忍んで告白します。実を言うと私は…狂ってるんです」
「ふむ。あんたみたいなプライドの高そうな人が打ち明けるんだから、本当なのかも
知れない。一度、鑑定を受けてもらいましょうか」
「そうしてくれ。あぁ、かなり、状態が悪くなってるようだ…」
「それほ冷静に分析できるんだから立派なもんだ。たとえ精神に異状が見つかって
も、知性と判断力と責任能力だけは損なわれていない事を明記しておきます」
「いや、そりゃ困る。あのぅ、何と言うか、世間体も良くないだろうし・・・」
「それじゃ、精神鑑定は拒否しますか?責任能力も無しという形に?」
「いやいや、それでは社会復帰のチャンすら失う」
「ならば、異状も無いのに異状を装う無責任男、なら?」
「うーん、キツいなぁ。それだと誰にも信用して貰えんしなぁ」
「じゃあ、丸っきりの異常者で完全にイカレてる、とか?」
「それだと、誰も近づいて来ないじゃないか」
「注文が多いなぁ。どうすりゃ良いんです?」
「たとえば・・・犯罪を犯す時だけ少し異状になるが普段はノーマルで、裁判では責
任能力が無いが、日常では責任感の強い信頼できる人格…というのはどうだろう」
「厚かましい…。少なくとも、あなたの計算高い事だけは分かりましたよ。これでい
よいよ、責任能力は疑う余地、無しですな」
「いや、実は私はハラホロヒレ〜〜・・・ほら、こんなにオカシイ」
「頭がおかしいフリをするとは、ますます計算高い。こりゃ、かなり悪質な知能犯
だ」
「いや、犯罪を犯すときは知能犯なんだが普段は全くの大間抜けでね、ナハハハハ」
「くさい芝居を・・・」
「いやいや、ほんとなんだったら。誰か信じてくれ!」
「もう誰も信じやしませんよ」
「しまった・・・信じろと言ったから信じないんだな。じゃあ、信じるな!」
「だから信じてないったら」
「もう一度言わせてくれ。…私は犯人で…犯人ではない。私は異常者で…異常者では
ない。そして私には責任能力がありそうで…実は責任能力が無い。よってお咎め無し
!…これで手を打たないか?」
「そこまで粘るか。書き改めよう。・・・粘りのある知能犯っと」
「あぁ、待て。私は…私は…私は、狂ってる…責任能力のある…知能犯の真犯人だ
!…
どうだ、こんな自虐的な真犯人がどこにいる?」
「ここに居るじゃないか」
「えーい、ああ言やこう言う・・・!」
「まだ策を弄してるよ。これだけしつこい偽証も珍しい。前代稀なる悪質な虚偽だ
な。みんなにも気をつけるように言っとこう」
「俺は…ほんとにオカシイんだ〜〜!」
「ハイハイ。最後まで粘り強く熱演する…見事な知能犯ですな。受け合いますよ・・
・それだけの知力と根性があれば責任と重い刑罰を負う能力が有る事は疑い無しだ」
「疑ってくれ〜〜!」
―――完―――
2002年11月21日22時50分31秒投稿
S.S☆『更生の可能性』☆ あや太郎
「…被告が起こした罪は重大で許し難い。しかし被告は若く、将来更生する可能性が
無いとは言えない。よって、極刑から罪一等を減じ、懲役十年とする…」
あの悪名高い「迷判決」が下された。
傍聴席がどよめき、怒号が飛び交う。
「裁判長、なぜなんです?あの犯人には極刑しか無いはずだ!」
遺族の一人が詰め寄った。
「いや、罪を憎んで人を憎まず…と言うとおり、被告にはまだ更生する可能性が無い
とは言えず………」
「じゃあ、あの残虐、身勝手な性格が完全に無くなると言うんですか?」
「可能性が無いとは言えない」
「でも、あいつは全然反省してないんですよ。…今の法律じゃ俺を極刑には出来な
い。すぐに出所して、また面白おかしく暮らしてやる…と嘯いてるんですよ」
「しかし・・・心の中で反省していないとは言い切れない」
「そかんこと言い出したら、悪人、犯罪者はみんなそうじゃないですか。誰だって反
省.更生の可能性が無いとは言えないのでは?」
「なるほど、そうだな。じゃあ、世の中の犯罪者はみーんな社会復帰」
「本当だな?…それじゃ、犯罪者をあんたが預かって面倒みろ!」
「それは困る」
「じゃあ、どうかるって言うの?」
「凶悪犯罪を犯した者は全員・・・やつぱり極刑」
かくして、この国の裁判はようやく更生し始めた。
―――完―――
2002年11月20日23時15分11秒投稿
S.S☆「あぁ、放送禁止用語」☆ あや太郎
「近頃は公に使えない言葉が増えて、放送してても気を使いますねぇ」
「ホントですわ。例えば、危ない人の事を曖昧に…アブナイ人って言ったり、頭が痛
そうな人のことを…イタイ人って言ったり」
「そのまんまじゃないですか。しかしこれは人権への配慮から来るものなんですが、
逆の見方をすると、口にしたり、話題に採り上げたり出来ない人がドンドン増えて行
くということに成りますから、かえって人権の無視に繋がるんではないでしょうか」
「つまり、ちゃんとしたニンゲンとして認めてないという事ね。ちょうど裁判の判決
の『責任能力なし』に似てますよねぇ」
「まぁ中には、そっとしておいて欲しい…無視してくれたほうがマシだというケース
もあるようです」
「特に私たちマスメディアに携わるものは、何かと厳しいご意見を頂戴しますからら
ね」
「無論、個人のプライバシーは重々注意を払わねば成らないのですが、かといって、
特定の、一部の方々について全く話題にしてはイケないとなると、これは実に不自然
極まる話になってしまいます」
「まるで、存在しないかのように扱う訳ですからね」
「実際には居る人を居ないかのごとくに扱うことこそ人権無視…いや、いや、ニンゲ
ン無視の姿勢ですからね」
「そこで私達は敢えて言わせて頂きます。アブフナイ人、イタイ人たちにも『責任能
力』を認めよと。イタイ、アダナイ人間を一人前の人間扱いせよと」
「皆様がかたら、ご意見の電話、FAX、メールをお待ちしております」
「あっ、早速お電話があったそうです」
「ほぉ、どのような内容ですか?賛成とか反対とか?」
「賛成なのか反対なのか・・・とにかく抗議のお電話だそうです」
「どんな方からですか?」
「それがどうも、アブナイ、イタイ人からのようでして・・・」
「ひょっとしたら、その方面の代表かも知れませんね。これは珍しい。謹んで拝聴せ
ねば…。そして、抗議の内容は?」
「それが・・・何を言ってるのか分からなかったそうです」
「・・・それでも、皆様方からのご意見ご反論をお待ちしております!」
――――完――――
2002年11月19日23時49分26秒投稿
S.S☆「モルモット」☆ あや太郎
製薬業界において新薬の研究開発はひきも切らない。
そんな中で又一つの新薬が好結果を出し、実用化のメドが立った。
色めき立った取材者が研究所に詰めかけると、臨床テストを受けたという人物が紹
介された。
「いかがでしたか、あの薬の効用と副作用の具合は?」
「ハイ、効き目は抜群で、副作用もありませんでした。全く素晴らしい薬が出来たも
んです」 インタビューの一部始終は朗報として早速マスコミに流された。
間もなく別の病気で、また期待の新薬が開発された。早速取材に詰めかけると−−
「いやぁ、効き目も早くて、副作用もほとんど有りませんでした」
また同じ治験者が出てきた。
取材陣は首を傾げながらも、また福音としてこのニュースを流した。
しばらくして、全く違う分野で画期的な新薬の完成が発表された。果して取材に駆
けつけると、またしても−−−
「効果は顕著です。効き目が劇的な分だけ副作用も強いですが、最初の数週間を乗り
切れば大丈夫」
同じ治験者であった。さすがに取材陣も見過ごしには出来ない。
「あなた、同じ人物でしょう?一体いくつの薬を治験してるんです?」
「前の薬が抜けるのに一週間もあれば大丈夫です。大体、二ヵ月に一種類のペースで
新薬を試すことができます。なにせプロですから」
「プロ!プロの被験者がいるとは知らなかった。でもたまたまそんなに色々な病気を
持ってるとは考えにくいですけどね…?」
当然、治験のやり方への疑惑が湧き上がる。
「いや、それは大丈夫。そのたびに色々なビールスを注射して、発病したのを確かめ
ながら試薬テストをしますから」
「人為的に病気を植えつけるだって!−−そんな…そんな無茶な事、人道的に許され
る事なんですか?」
「いやぁ、治験者もなかなか人手不足らしくって、ついつい手軽な私らプロのほうへ
仕事が回って来るんですわ、ハハハハハ」
「笑ってる場合じゃないでしょう。こんな事が罷り通っているとは知らなかった。本
当にそんな事で良いんですか?」
「良いんじゃないですか。いや、むしろ本当の病人を実験台にするほうが危険で残酷
な事かも知れませんよ。他に選択肢の無い難病患者を実験台にするんだから。…実際
お金で割り切ってやるほうが気楽ですよ−−どうせモルモットになるのならね」
(完)
2002年11月17日23時18分30秒投稿
S.S☆「ゴミ収集」☆ あや太郎
選挙運動たけなわの時期、有権者にアピールしようと候補者は頭をひねっていた。
「とにかく親近感の時代です。いくら有能でもお高く止まっていたら票は取れませ
ん」
「分かった。よし、市民生活に溶け込んだ選挙運動を展開しよう」
そこで候補者は自宅から黒いポリ袋を担ぎだし、ゴミ出しがてら、市民に演説をぶ
つ事にした。しかし道すがら、どこかで袋を引っかけたらしく、穴を空けてしまっ
た。そこからは、またよりによって汚いゴミやら、余り見られたくないゴミやらがボ
ロボロと−−
「えい、くそっ−−いつもこうだ。何でゴミ袋が破れると、こんな風に汚い物や、出
てきて欲しくないない物から順に飛び出て来るんだ!」
すると同じくゴミ袋を出しに来ていた近所の住人が面白くもなさそうに言った。
「そんなもん、決まってる事じゃないか。先ず世の中へ出てくるのは汚いモンだよ」
「なぜだい?」
「他人を押し退けて我先に表に出ようなんて奴、ロクなもんじゃないだろう?」
「なるほど、そう言えばそうだ。そもそも目立とうとか、人の前に出ようとか、人の
上に立とうなんて奴、ロクなもんじゃない。皆さん−−そんな候補者に投票してはイ
ケませんぞ。来るべき投票日には、ぜひ私に清き一票を−−」
すると、待ってましたと言うようにゴミ収集車がやって来て、候補者を回収して
行った。
(完)
2002年11月16日14時11分18秒投稿
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