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2002年10月01日〜15日

S.S☆「名医」☆     あや太郎

 二人の医者が居た。
 医大の同期でライバルで、共に数々の業績を上げ、共に当代随一の名医とうたわれ
ていた。しかし自意識と対抗意識の強い二人は、互いに名医の座を譲り合おうとはし
ない。
「どちらが名医かと聞かれれば、僣越ながら私だと言う外はない。なにせ治療し、命
を助けた患者の数が違うからね」
「いずれが名医かと問われれば−−−やはり私だろうな。なにせ治した病気の難しさ
が違う。患者の数など問題じゃない」
 二人は意地を張り合うばかりだった。
「先生方−−これでは結論が出ません。何か決め手になる事はありませんか?」
「そうじゃなぁ−−−それなら今後どれだけ生きられるかで勝負するのはどうかね。
自分の健康を保ててこそ名医と言えるからな」
「望むところだ。それでは長生き合戦で勝負しよう」
 かくして二人は医師生命を賭け、自らの健康を管理した。そしていつの間にか二人
揃って百才を越していた。
「百才なんて軽い軽い。ワシはまだ元気だが、相手はもう弱ってるんじゃないかな。
どうやらワシの楽勝のようだ」
「何を言う。私のほうこそ衰え知らずだ。どうやら勝負は百二十才ラインだな」
 そしていつしかその百二十才もクリアした。
「しぶとい奴だ。まだついて来ているだけでも褒めてやろう」
「何を言うか。ワシのほうは余裕綽々じゃ。こりゃ百五十才が勝敗の境目かな」
 そして百五十才も越した。
「お二人とも、長寿記録を作った上、まだこの元気ぶりです。いったい長生きの秘訣
は何なんですか?」
「身体に良いという事を実行して、ストレスの溜まるような事はせず、気楽に過ごす
事じゃな。それこそが健康管理の極意じゃよ」
「ご同様じゃ。別に秘訣なんて要らん。ただ自然のままにのんびり暮らす−−これが
出来てこそ名医と言えるだろうな」
「ところでお二人のお仕事ぶりですが−−−あれ以降どのような業績を上げられまし
たか?」「仕事?そんなもの、何もしとらんよ。自分の健康管理で手一杯だった」
「右に同じ」
「どこが…名医だ〜!」
                  (完)

2002年10月15日23時22分55秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

10月13日 国立文楽劇場 「米朝・吉朝の会」

出し物

●「子ほめ」     桂 米吉
●「くっしゃみ講釈」 桂 吉朝
●「算段の平兵衛」  桂 米朝

  中 入

●「あやしい手品」  桂 朝太郎
●「浮かれの屑より」 桂 吉朝

米朝師匠の要望で今年からは一席。
お二人でネタの相談してたところ、
「儂は一席でええやろ。何がええかな。」
で、吉朝さんがリクエストしはったのが「算段の平兵衛」。
流れに澱みが無く声に張りも有りましたな。
となれば言う事なし。
至芸を満喫させていただきました。
師匠のこの噺を最初に観た時からずぅっと気に入ってるが場面あります。
平兵衛が庄屋の遺体を抱えて隣村の盆踊りの稽古に紛れ込みますな。
死人を踊らせながらその冷たい手ぇで側の人の顔を撫でたりします。
その時の操られる庄屋の顔の描写が実にリアル。
端をやや下げ気味に半ば開いた口とか眉間によった皺が、不意に与えられた苦痛と死
を物語ってますな。
その表情のままでの踊りが無気味で笑えます。
師匠のお顔立ちがまたよぉ似合わはるんですなぁ、これが。
ほんまの時もこんな感じかいな…なんて思ぉたりしてね。
出来る事やったら確認してみたいもんです。
もちろんまだまだ先の…二十三世紀頃の話ですよ。

「くっしゃみ講釈」の、とんがらしを焼べる前の後藤一山の講釈は重要ですな。
ここでどれだけ客に聞き入らせる事が出来るか。
それが後の笑い…特にくっしゃみに苦しむ場面に大きく影響します。
「蔵丁稚」で、定吉が判官さんの腹切りを演じる場面も同じですな。
つまり緊張材料。
枝雀さんも上手かったけど、吉朝さんも負けてません。
張りのある声、明瞭な言葉、迫力有る語りと小気味良い叩きのリズム。
誠に結構な軍記もんでした。
私の好きな八百屋前。
どぉしても思い出せん主人公が
「もぉ側まで来てんねん…あぁぁもぉぉ八百屋ぁ、わいお前の頭噛むで!」
ついでに新規のくすぐり。
「例え一時間でも講釈出来んよぉにしてやったら腹の虫がオサマビンラディン…。」
ま、そぉいう事で…。

「浮かれの屑より」は、文枝師匠とか染丸さん、文我さんらがやらはりますな。
ひょっとしたら染丸さんからの仕入れかも知れません。
下座に人手が要るし、三味線のお師匠さんが達者に唄えにゃならん。
何より演者さんが踊れんことには出来んネタです。
筋自体は然して込み入ったもんやありませんな。
踊りとか芝居の所作を高座で再現してその手際を観せるという噺です。
今回がネタ下ろしという事で、まだ独自のくすぐりもほとんど無し。
途中で澤瀉屋の物真似が入った程度でした。
あんまりいちびれる隙間も有りませんけどね。
何にしても踊り好きの吉朝さんには持って来い。
回数を重ねるにつれてもっと良ぉなっていくに違い有りません。

毎度お馴染み、朝太郎さんの「あやしい手品」。
「お笑い手品」の時と内容は一緒でした。
但し、今回風船細工は無し。
何を隠そぉ、現在可朝さん、ざこばさんに次ぐ米朝門下のNo.3という重鎮。
んんん…信じにくいな…。

女性に人気のある米吉さん。
前列に並んだ女の子五〜六人がよぉ笑ぉたはりました。
何がおもろいねん?っちゅうとこでも笑ぉたはりました。
こぉいうええお客さんは大事に育ててあげにゃね。
この人の妙に上手っぽい語り口が嫌味に感じる時があるんですな。
けど、心配は御無用。
若かりし頃の吉朝さんにも一時期そんな印象を持った事が有りました。
それが今ではご覧なさい。
この体たらく…いや、御立派にならはってほんまにおっちゃん喜んでます。
なんせ息の長い仕事ですからね。
お楽しみはずぅぅぅっと先…やったら遅いか…。

吉朝さんの証言。
例のNHKの番組のディレクターはやっぱり無神経やったらしい。
米朝師匠は、付きまとわれてかなり苛立ったはったそぉです。
あの弁当の食べ方はおかしいという声について。
「普段からあの調子なんで、私らは普通やと思ぉてます。」
戦後の食べもんの無い時代を経験してるもんで、目の前に有るもんは今食べておく。
分からんでも有りませんけど、出来たらゆっくり食べ尽くしはったら如何かと…。
「もぉ大ホールではやりません。」
言うておき乍ら今日のこの仕儀はどぉいうこっちゃ…との疑問について。
独演会等、自分一人が全責任を負わにゃならん会…もしアクシデントなんかがあって
も代役が立てられん状況…は辞める、という事なんですな。
「米朝師匠の代わりにあさ吉ではお客さんは怒るでしょぉ。
 その前に師匠が怒るか。」
一門会とか親子会には出はるそぉですから安堵いたしましょ。
高座の量は減らさはっても、すこぶるお元気とのこと。
特に仕事以外では…。
来月六日で七十八歳になられます。

2002年10月15日13時15分17秒投稿

S.S☆「必殺仕掛け業」☆     あや太郎

 法で裁けぬ心の罪、自力で晴らせぬ恨みやつらみを本人に代わって償わせ、晴らそ
うという代行業務が誕生した。
 軽いしっぺ返しから、家庭崩壊、地位失脚まで、ありとあらゆる仕返し復讐をその
レベルに応じた料金で代行しようというのだ。復讐は一応「合法的な範囲」でしか行
わないという建前なので現行の法律では規制できない。一体どんな事になるのかと皆
が見守っている間に、あちこちで それらしい「逆イジメ」や「逆セクハラ」や「報
復的家庭崩壊」が頻発した。−−主な戦術は、ビラまき、噂の流布、いたずら電話エ
トセトラ…。
 そしてついに首相が国民に訴えた。
「まことに遺憾な風潮であります。このままでは社会全体が混乱し、ひどい事になり
ます。政府命令で、この業種の徹底規制と〔仕掛け人〕の監査を行います」
 総理大臣自らが腰を上げ、〔仕掛け家業〕の取り締まりが始まった。しかし巧妙に
も代行員たちは大半が専任ではなく他に仕事を持った人間ばかりだったので、普段は
一般市民に紛れ識別できない。どこかで仕返しや復讐劇が起きたとしても、実際に誰
が手を下しているかが判らないのだ。そんな訳で「闇の仕掛け人」たちの捜索、検挙
は遅々として進まなかった。
「これは由々しき事態であります。いくら法で裁けぬ罪、晴らせぬ恨みがあるとして
も、こんな危険な方法で報復していては世の中が混乱するばかり−−」
 再び会見する総理に、記者の一人が訊いた。
「しかし総理−−仕掛け人たちが登場してから我が国の犯罪件数が減ったというじゃ
ありませんか。自分のすぐ隣に仕掛け人たちがいるかも知れないと思うと、うっかり
他人の恨みを買うような事はできないという緊張感が生まれて、人をイジメたり、迷
惑をかけたりする人が減ったと言われてますよ。これは一種の教育効果があったと
言って良いんじゃないですか?」
「そんな犯罪抑止策は不健全だ。誰に密告されるか、誰に復讐されるか分からないな
んて恐怖社会じゃないかね。そんな危険な事を続けていると、本当にひどい事になっ
てしまう。私は断固〔仕掛け人〕たちを一掃する!」
 総理の号令で〔仕掛け家業〕の取り締まりは一層厳しくなった。そして一組また一
組と仕掛け人組織が検挙され始めたある日、、何と総理官邸の周囲にこれまで受け
取った賄賂・不正献金のリストや、その証拠写真、証拠テープから隠し口座のコピー
までが所狭しと並べられているのが発見された。
−−−巨額賄賂発覚−−−現職総理、逮捕へ!−−
 官邸から連行される総理に取材陣が群がる。突きつけられたマイクに向かい総理が
憮然とした表情で答えた。
「だから言ったじゃないか−−−しまいにはひどい事になるって」
                  (完)

2002年10月15日00時08分07秒投稿

                   『お松さん』    ヘーパイ
                ―短い落語みたいな―

:うえーん、おかみさんちょっと聞いとおくなはれ
:なんや、誰やと思うたらお松さん。どないしたん、おもろい顔して
:うちの熊はんですねがな、ひどいんでっせ。今日は珍しいに早う帰って
 来たと思うたら、明るいうちから飲みださはりましてな。ぼちぼち酔う
 てきたなぁ、と思うたらねちねちと愚痴をこぼし始めて
 「おまえみたいに不細工で頭の悪いおなごを嫁にしたんはワシの一生の
  不覚や」
て、熊はんこない言わはりますねんで
:熊さんがなぁ。あの人はあんたを大事にしてやさかい悪口やなんか言う
 とこ見たことないんやけどなぁ。酔うたはったんやろなあ。
 それでお松さん、あんた辛抱して黙ってたんか
:あほらしい、黙ってますかいな
 「女房の良し悪しは男の器量で決まるもんだす。あんたの甲斐性ではわ
  てみたいな不細工でアホなおなごがせいぜいだす」
 て言い返してやりました。そしたら熊はん怒らはりましてな
 「なまたれるな」
 ていうなり、わてをぼーんと叩かはったんだっせ
:熊さんが叩かはった。あの人は乱暴に見えてもおなごに手を上げるよう
 な人やないんやけどなぁ。やっぱり酔うたはったんやろなあ。
 あの人は、ほんに気の優しい人なんだっせ
:はあ、はあ、ほんまにそうですわ、おかみさん。
 熊はん、わてと所帯を持つ前には、わてのこと可愛いてしょうがない。
 一緒になれなんだら死んでしまう、てそんなこと言うてくれるぐらいや
 ったんでっせ
:へえー、熊さんが。あんたが可愛いてしょうがないって。一緒になれな
 んだら死んでしまうてですかいな…。
そら、その時の熊さんいうたら、よっぽどひどうに…酔うたはりました
 んやろなあ

                     ―しまい―

2002年10月13日20時50分17秒投稿

         『スターウォーズ エピソードIV』     ヘーパイ
         ―ザ・クライマックス 空中戦―

         A long time ago in a galaxy
               far, faraway…

        銀河の征服を企む帝国は遂に最終兵器
       デススターを完成させた。だが、帝国に敢
      然と立ち向かう共和軍のリーダー、レイア・オ
     ーガナ姫はこのデススターの弱点の記された設計図
    を入手し、若きジェダイの騎士ルーク・スカイウォーカ
   ーと宇宙のならず者ハン・ソロのチカラを借り共和軍の秘
  密基地へと帰還した。恐るべき破壊力のデススターを以って共和
 軍を惑星ごと破壊せんとする帝国。今、ルーク・スカイウォーカーと
共和軍による帝国軍との最後の戦いが宇宙空間に繰り広げられるのだ・・


 デススター表面に刻まれた狭い溝、トレンチの中をルーク機を先頭に綺
麗な三角編隊を組んだ共和軍のX(エックス)ウィング機が、目指す排気
口に向けて猛烈な速度で突き進んで行く。しかしその背後からはダース・
ベイダーの駆る帝国のタイファイターが二機の掩護機を従えてルーク達に
肉迫していた。
“コォーパッハー、コォーパッハー”と黒いマスクのダース・ベイダーが
不気味な給排気音を響かせながら機銃発射用のトリッガーに掛けた指に無
造作に力をこめた。と同時にベイダー機に備え付けられた機銃弾射出口か
ら閃光がほとばしった。次の瞬間ルークの右後方をガードしていたXウィ
ングの四発のエンジン中一発が被弾して炎をあげる。

“メーデー!メーデー!こちらレッドトゥー、エンジンに被弾、ついて行
けない”
 ルーク・スカイウォーカーが冠ったヘルメットの中にレッド2が急を告
げる緊張した声を響かせた。
“オーケー、レッド2離脱を許可する!”
 内心の動揺を隠してルークは落ち着いた声で応答した。
“すまん、ルーク!”
 レッド2のパイロット、ウェッジ・アンティリースは情けない声を上げ
ながら操縦桿を手元に引きつけると一気にXウィングの機首を引き起こ
した。
 もたもたと頼りなげに翼を翻しながら戦線を離脱するレッド2のXウィ
ングファイターなどには目も呉れず、ダースベイダーの乗機はなおも加速
を続ける。
 シュン、シュン、シュンと立て続けにベイダーのタイファイターが再び
光を放った。三条の光の矢が、レッド2が離脱した後、健気にも単機でル
ークをガードしているXウィングの胴体中心に吸い込まれるように命中
した。
 眼も眩むかと思える光を放ち、被弾したXウィングは火の玉と化してや
がて消滅した。
 ベイダーの操るタイファイターは鬼神のごとき速さを持っていた。今や
宇宙の塵と成り果てた木っ端微塵のXウィングの残骸をかすめて飛ぶベイ
ダーは、最早ルークの直後を脅かしていた。飛行速度は帝国のタイファイ
ターに及ばぬXウィングであった。だが、このときルークの戦闘機も標的
であるデススターの唯一の弱点、排気熱放出口まであと一歩と迫ってい
た。
 だがタイミングはベイダーに味方した。ルークが標的を捉える前にダー
ス・ベイダー機の照準器がルークの機を完全に捕捉したのだ。
 ベイダーが機銃を発射すればすべてが終わる。勝利を確信しほくそえん
だ悪の化身ベイダーは低く呟いた。
“小僧、強いフォースを感じるぞ。だが、これまでだ!”
   コォーパッハー! コォーパッハー!
 ベイダーが機銃発射用のスウィッチに置いた指に、今まさにチカラを込
めようとしたその刹那であった。ベイダーの後方を掩護していたタイファ
イターの一機が何処からともなく飛来した強烈な光の矢に襲われたのだ。
 まさに雷神の振り下ろす鉄槌の一撃にも似て抗いようもない巨大な破壊
力を内包した必殺弾の攻撃だった。いかずちの怒りに満ちたひかりの鉄拳
制裁をもろに受け止めたタイファイターは、堪らず炎上大爆発を起こして
あたりに炎と破片を撒き散らした。

 爆発の波動はベイダー機を直撃した。

 コォーパッハー! “むむっ、なに奴だ!”
 一瞬、操縦桿の操作を誤ったベイダーの機はバランスを崩し、残った一
機の掩護機もろともキリキリ舞いに回転しながら漆黒の闇が待ち受ける宇
宙空間へと弾き飛ばされて行くのだった。必死に機の安定を取り戻そうと
操縦桿を操作するベーダーの目が操縦席の風防ガラス越しに垣間見たも
のは、自分の戦闘機を攻撃し帝国の野望を打ち砕いた、円形の古びた機体
を持つスペースクラフトの姿だった。そのスペースクラフトこそは共和軍
から賞金だけせしめると、風を食らって遁走したとばかり思われていたハ
ン・ソロの愛機ミレニアムファルコン号だったのだ。
 フォースのチカラを借りて標的に神経を集中するルークの耳に無線機を
通して陽気なキャプテン・ソロの声が響き渡った。
“キャッホー、背中の邪魔ものは排除したぜ小僧。早いとこ終わらせて、
とっととズラかろうぜ”
 ソロは帰って来たのだ。絶妙の瞬間に、いい場面でいい役を一身にかっ
さらうために…

 どうにか態勢を立て直した時、ダースベイダーの背後に巨大な爆発音が
轟き渡った。宇宙の果てにまで響くかと思われるデススターの爆発音にベ
イダーは帝国の断末魔を聞くのであった。

           ―――――――――――――

 巨大要塞デススターの爆発によって恐ろしい破壊力を秘めた衝撃波が宇
宙空間を高速で広がり侵略し続けていた。その歯牙に掛かってはひとたま
りもないとばかりに共和軍の戦闘機部隊とルーク、そしてソロはスロット
ルを全開にして宇宙の果て目指してすっ飛ばしていた。やがてもう大丈夫
と見極めた辺りでルークはスロットルを絞りエンジンの出力を下げた。
 おもむろに無線機のスイッチに手を伸ばしたルークはのんびりした口調
でファルコン号のソロに話し掛けた。

“ねえ、ソロ。この話"おち"はどうしようか”
“そいつは俺様にまかせておいてもらおうか”

 口の端をゆがめ、鼻腔を膨らませたソロは自信たっぷりに答えると小さ
な拍子木の様な物を取り出した。操縦席のメーターパネルをけん台代わり
にしてピシャリッ、と拍子木を打ちつけるとソロは一声高く言い放った。

“わぁーわぁー言うております、おなじみスターウォーズエピソードIV
の一席でございました”

 流石は百戦錬磨のならず者ハン・ソロである。
 物語が《STAR WARS》だけに最後はWAR―WARおちで締め
くくったのであった。

                   ―しまい―

2002年10月12日20時05分47秒投稿

S.S☆「公正なる分配」☆     あや太郎

 大富豪が急死した。青酸ソーダ入りのビールを飲んだ末の中毒死で、状況から殺人
と断定された。
 プレイボーイで独身を謳歌していた富豪には正式の妻も子もおらず、その代わりに
愛人三人を自宅豪邸に住まわせて、ちょっとしたハーレム暮らしを堪能していた。問
題は当然ながら、その莫大な遺産の行方である。
「生前からの遺言通り、百億近い財産の半分は、一番古くからいる愛人にその半分が
相続されます。そして残りのまた半分を二番目の愛人に。最後に残った遺産は一番若
い愛人と社会福祉事業に半分ずつ贈与される事になっています」
「ふむ。つまり、二分の一が第一愛人、四分の一が第二愛人、八分の一が第三愛人と
福祉事業か。そうなると、取り合えず怪しいのは、やはり愛人一号か」
「ハイ。それに愛人一号は、最近富豪の経営する工場の倉庫に出入りしたという情報
があります。倉庫には化学薬品が一通り揃っていて、やはり青酸ソーダの瓶が無く
なっていたそうなんですが…」
「彼女には化学の知識はあるのかね?」
「いや、まるで無さそうです。しかも倉庫の瓶や缶には薬品名は書かれておらず、部
外者には分からない番号だけが打たれてありました」
「ふーむ−−−誰か教えた物がいるという事だな」
 そんな事を言っているうちに、何とその第一愛人が服毒死した。
「死因は青酸カリ。これもまた工場の倉庫から持ち出された物でした。毒を盛ったの
はやはり富豪の邸内に住む者とみられます」
 問題は遺産の行方だ。
「第一相続者が権利を失った場合、その分は第二相続者に回される、か。つまりこれ
で第二愛人は遺産の四分の三を手に入れる事になる訳だな」
「今度は彼女を張ってみますか…」
 そんな事を言った途端に、その第二愛人も殺された。
「砒素を盛られたようです。薬品はやはり例の倉庫から−−−そして財産はほとんど
すべて第三愛人のものになる訳ですから、犯人はやっぱり…?」
「しかし妙だな。三人とも薬品の知識は無いようだし、どうやって薬を見分け持ち出
したんだろう?」
「専門家が背後についているのでは?でも、三人に共通の助言者というのも妙です
ねぇ」「元々、全員が共謀して富豪を殺した。そして後から仲間割れを起こした…と
考えるのが妥当なんだろうが、それにしても妙な展開だ」
「もう一つ重要な証言が得られました。それぞれの事件の直前に、第一、第二愛人の
許へ妙な電話があったそうです。取り次いだメイドや秘書によると、何か作り物のよ
うな、合成音声のような声だったとか…」
「ふ〜む−−−声まで変えているとしたら、これはよほど用意周到な奴だな」
 そうこうするうち、第三愛人も殺されてしまった。
「何と…。これでは犯人探しも動機探しも振り出しに戻ってしまう。いったい誰が何
のためにやってるんでしょう?」
「遺産はすべて例の社会福祉事業に行ってしまう訳だな。そうか、その組織に黒幕が
居たという訳か」
「でも、それがそう簡単には結びつかないようなんです。実はその福祉事業団の予算
運営は人間ではなくコンピューターが独りで仕切っているらしいんですよ」
「コンピューターが仕切ってる?」
「亡くなった富豪自らが開発させたスーパーコンピューターなんですが、これが一切
の資金を全国にいる恵まれない人々に〔公平、公正〕に寄付するようインプットされ
ているんです。人間が介入すると、またどうせ不正や横流しが起きますからね。それ
を防ぐ意味で完全に自動化したらしいんですよ」
「ふーむ じゃあ欲得づくの犯罪には成りえない訳か」
「そしてもう一つ、興味深い事実が判明しました。このコンピューターは富豪の持っ
ていたすべての会社や工場、そして自宅と連動しており、必要とあれば人間と連絡も
取れるそうです」
「例えば…合成音声でも? 何という事だ…」
「薬品の番号を教えるくらいは朝飯前です。そして欲に目が眩んだ人間どもに、殺人
や遺産の横取りを唆す事だって…」
「その場合−−コンピューターの目的は何だったんだろうな?」
「やはり、富の〔公正な分配〕じゃないですか。金に目の眩んだ取り巻きたちより世
の人々に配ったほうが有益だと」
「私利私欲はまるで無しか…。これでは、罪に問う訳にも行かないな」
 かくして謎の合成音声は、天の声として調書に記された。
                  (完)

2002年10月12日00時09分07秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

10月4日 厚生年金会館芸術ホール
「高座50周年 立川談志独演会 極め付き大阪寄席 第五弾」

出し物

●「子ほめ」
●「勘定板」

 中 入

●「居残り佐平次」

「あれは拉致なんかじゃねぇな。誘拐だな。
 数十年前、強制的に朝鮮人を引っ張って来て働かせたのを拉致というんだよ。」
「アメリカなんぞと付き合ってたら、今にえれぇ目に逢うぜ。」
「小米朝は以前の方が良かったね。大袈裟になってしまってね。」
阿弥陀池の触りをこっちの言葉とイントネーションで一語り。
上手いもんです。
方言の話から秋田音頭を、拍手するタイミング外す位たっぷりと。
小咄いっぱいも毎度お馴染み。
耳も脳味噌も真剣に澄ましてないと置いて行かれます。
そこがまた堪らんとこで。

短か目の「子ほめ」。
一杯飲む手段を教えられてから、即赤ん坊が産まれた家を訪れました。
目覚ましの軽いウォーミングアップという処ですか。

大昔に一回だけ聴いた憶えが有る「勘定板」。
便所を指す言葉の一つに〈閑所〉があります。
確かに閑な所ですわな。
これがバックボーン。
ある山奥の村には便所が有りません。
では排泄時にはどぉするのか?
どんどん山に分け入って分け入って分け入って…海に出ます。
誠にシュールな村ですな。
で、砂浜の杭に繋がってる縄を引くと海から板が現われ、その上で用を足します。
後は波が勝手に洗い流してしまうという仕組み。
スケールの大きい水洗トイレですな。
村人はその板を〈勘定板〉と呼んでます。
〈閑所板〉が訛ったんでしょぉな。
その村人が大勢連れ立って江戸見物。
旅籠に上がる早々一人の顔色が悪いのに周りが気付きます。
「初めての土地で様子が分からんもんで勘定我慢してた。」
けどもぉ限界。
どぉしたらええのか聞こうと店の者を呼びます。
上がって来た番頭に
「勘定してぇだがな。」
「お勘定?もぉお発ちでございますか?」
「いやぁ、十日程世話んなるべぇと思ぉとる。」
「それではお発ちの時にまとめていただきますんで…。」
「おら達ぁ一日一遍は勘定するだよ。」
行き違いが続きますな。
番頭は要求された〈勘定板〉を算盤の事やと早合点します。
で、一旦下がって算盤を手に再び部屋へ。
なんでか裏返しに、珠を下にして差し出します。
ここいら演出にかなり無理がある。
昔の算盤は裏に板が打ってありました。
村人はその板を〈勘定板〉やと思いますな。
番頭が降りた後
「なんぼなんでも部屋ん中では…。廊下なら良かろぉ。」
早速一人が着物を捲って…と、裾があたって算盤が滑ってしまいます。
「さぁすがお江戸だぁ。勘定板ぁ車仕掛けになってる。」
お気に入りの噺みたいで、楽しそぉに語ったはりました。
えげつのぉやろぉと思ぉたらなんぼでもやれる尾籠な噺。
この辺りに留めておく方がよろしいよぉで…。

「居残り佐平次」ときたら「幕末太陽傳」。
師匠も途中で
「フランキー堺を思い出す人もいるだろ?」
着物の尻を端折って雑巾掛けやなんかしてるシーンが浮かんで来ますな。
私の手持ちには、六代目三遊亭円生師と三代目春風亭柳好師の分があります。
それぞれ落ちが違ぉてますな。

居残りの身であり乍ら、若い衆顔負けの働きを見せる佐平次。
花魁衆や客の評判も上々で、今ではあちこちの座敷から御指名が掛かる程ですな。
なんせ、気が利いてフットワークが軽快。
しかも、下手な幇間よりはるかに座持ちがええ。
が、その割を喰ぅて貰いの減った店の若い衆連中は面白ぉない。
ある日、苦情を聞いた旦那が佐平次を部屋に呼びます。
大きな店ですから、旦那は直接現場にはタッチしてません。
また、そぉいう方針でもあるんでしょぉ。
従って直に対面するのは初めて。
「払いの方は何時何時迄とは言わないから、少しずつでも持って来ればいい。
 とにかくこのままという訳にはいかないから、一度お帰りなさい。」
「へぇ、ありがとぉございます。
 旦那にそぉ言われちゃぁ穴があったら入りてぇんで。」
殊勝な態度とは裏腹に、達者な口で旦那を騙しに掛かりますな。
自分は人を殺めた事こそ無いが悪行数知れず。
迂闊にここを出たら御用となる身。
それを聞いた旦那。
「そんな事情なら尚更置いておけない。すぐに何処かへ行っておくれ。」
「高飛びでもしろと言われりゃぁいたしますが、先立つものが…。」
一刻も関わりを断ちたい旦那は某かのお金を渡します。
さらに
「金が出来ましても、こんな不様な格好では…。」
「じゃぁ私の物を何かあげよぉ。」
「この間出来てまいりました結城なんか…。」
「よく知っているんだなお前は。
 あぁ、いいよ、あげましょぉ。出してあげとくれ。
 羽織は胡麻柄の唐桟、帯は紺献上がいいだろ。」
すっくり頂いてしまいます。
「いいね?くれぐれもこの店の名は出さないでおくれ。」
「骨が斜里になっても、御迷惑をお掛けするよぉな事ぁございません。
 それでは旦那もどぉぞお達者で…。」
出て行くのを見送った旦那は若い衆を呼んで
「ああいう奴だ。念のために様子を見て来ておくれ。」
分かりました、と付けて行くと、なんと鼻歌なんか唄ぉて上機嫌で歩いてます。
声を掛けられた佐平次。
「お宅の旦那はいい人だねぇ。
 良く言やぁいい人だが、悪く言やぁ馬鹿だ。」
食って掛かろぉとする若い衆に啖呵を切って
「おめぇも若い衆するんなら俺の顔くれぇ覚えておきな。
 居残りを商売にしてる佐平次ってんだ。
 帰って旦那によろしく言っつくんな。」
慌てて店に戻った若い衆が
「旦那、あいつぁとんでもねぇ野郎だ。」
一部始終を聞いた旦那は悔しがるまい事か。
「そぉか!ちくしょぉ、どこまで人を〈おこわ〉に掛けたのか。」
「あなたの頭が胡麻塩でございます。」

円生師の分で、これが本来の形ですな。

柳好師の場合は、若い衆が旦那に報告する処迄は同じ。
但し、本業を一膳飯屋にしてます。
「それで居残りがあいつの商売なのかい?」
「いえ、今聞きましたら一膳飯屋だそぉで。」
「道理で一杯食わせやがった。」

談志師匠は、佐平次が出て行った直後から変えたはりました。
表玄関から出て行く佐平次。
旦那が若い衆に言います。
「お前達、表まで送ってっておやりなさい。」
「やですよ。なんで表から帰すんです?
 あんな奴ぁ裏から帰しゃいいんだ。」
「あんなのに裏ぁ返されちゃぁ堪らない。」
これは自作や無いそぉです。
自嘲気味に
「そんなにいいたぁ思わねぇけど、〈おこわ〉よりゃましだろ。」
因に〈おこわ〉は美人局の事で、〈おぉ怖〉からきてるそぉです。
これは分からん。
落ちに関わる言葉なんで前以て説明出来ません。
旦那の胡麻塩頭も唐突ですな。
変えて正解やと思います。

本来、最初の四人は佐平次の友人として登場します。
師匠は偶々飲み屋で逢ぉたという設定にしたはりました。
退場したら二度と出て来ん四人。
関係が深かろぉが浅かろぉが殆ど影響ありませんからな。
煩わしいだけと思わはったんでしょぉ。

師匠は佐平次という人物が大好き。
目指す生き様を彼に見たはるのかも…。

例年のごとくノックさんについて熱っぽく語らはりました。
「忘れるんじゃないよ。」
と、大阪に対して注意加えたはるみたいですな。
忘れてませんよ、師匠。
特に一部愛好家は…。

2002年10月11日18時03分43秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

10月3日 ワッハ上方演芸ホール 「桂 千朝 独演会」

出し物

●「時うどん」     桂 あさ吉
●「まんじゅうこわい」 桂 千朝
●「うなぎ屋」     桂 喜丸
●「百年目」      桂 千朝

  中 入

●「鹿政談」      桂 千朝

長い・しんどい・難しい。
米朝落語の三重苦…いやいや、三冠王「百年目」。
まだ途中を飛ばす事が無かった頃の米朝師匠を基準にしてるもんで、なかなか満足さ
せてもらえる高座に巡り合えませんな。
私がこの噺の、言わば出来を判断する(生意気な…)場面が二箇所あります。
もちろん全体が良ぉないなんてのは論外ですけどね。
ひとつは、親旦那が治兵衛に話して聞かせる場面。
親旦那の優しく懐の深い、間口の広い人物像を見せたい処です。
ここは一番の聴かせ処なんで当然ですな。
もぉ一箇所は治兵衛が自室でひとり煩悶する場面。
静まり返った夜中、布団の中で寝付けんままにあれこれ思いを巡らせます。
いっそ逃げるか…いや、詫びを入れてこのまま…と、自責の念と後悔に責められ希望
的観測に慰められ、心決め兼ねて思い惑う治兵衛。
人間の弱い部分の表現ですな。
このふたつの場面でどれだけ粘れるか。
特に後者は
「こらやっぱり逃げた方が…そぉやな。それがええな。そぉしよ!」
そそくさと荷作りをする内に
「…せやけど、うちの旦さんええ人やしなぁ…。」
短時間の中に緩急をつけねばなりません。
逸ってしもぉたら、どぉしても均一なリズムに近ぉなってしまいます。
先日のNHKの米朝師匠もそぉでしたけど、この日の千朝さんも
「もぉちょっとじっくり行かはったら?」
という感じでした。
両方の場面共にそんな感触でしたな。
尤もこれは高い次元での話。
数多い登場人物の描き分けも、客の気ぃを離さん淀み無い流れも申し分なかった。
それだけに私としては惜しまれるんですな。
ま、次の機会のお楽しみとしときしょぉ。

「鹿政談」のお白州の場面。
奈良奉行曲渕甲斐守が
「いやなに塚原出雲。
 その方らもお役目大事と心得ての事であろぉ故、粗忽の儀は咎めぬ。
 願書取り下げてよろしかろぉ。」
「恐れ乍ら塚原出雲申し上げまする。
 如何に姿形が犬に似たればとて…云々。」
ここがこの噺の一番のお楽しみ。
物言いがかつての東映映画とかテレビ時代劇の悪役そのものなんですな。
もちろん如何にも悪役然とした表情付き。
それを心得てる客は、ちょっと前から身構えてます。
で、待ってましたの大爆笑。
このパターンは千朝さんの他、南光さんとか吉朝さんもやらはります。
実力充分なりゃこそ、こんないちびりも効果的なんでしょぉな。

「まんじゅうこわい」はほん軽目に。
親っさんの怖い話はカット。
以前聴いた時もそぉでしたな。
時間短縮の故や無しに、これが千朝さんの形なのかも…。

落語中に膝を痛めたとかで、喜丸さんはお尻に支いもんをしての高座。
あの巨体ですからねぇ。
ちょっと動いても負担が大きいんでしょぉねぇ。
膝だけにちゃんと治さにゃいけませんな。
「うなぎ屋」は膝で立ち上がる場面があるんで心配したはりました。
こける事も無く無事終了しましたけど、楽屋へ帰る時にちょっと痛そぉでしたな。
しかし、スポーツでも無いのに体痛めるて…。

あさ吉さんの「時うどん」は師匠の形で、一人ずつ登場する江戸風。
最初の出汁を啜る場面で後ろのおばちゃんが
「美味しそぉな音さして。」
ほんまですな。
うどんも実に旨そぉでした。
帰りに何食べるか、ここで決定したのは私だけや無いでしょぉな。
麺業組合に表彰してもらわにゃいかんね。

2002年10月11日16時09分36秒投稿

S.S☆「エイプリルフール」☆     あや太郎

「こんばんわ、三月三十日のニュースです。米航空宇宙局の発表によりますと、この
地球上にはすでに多くの異星人…エイリアンが侵入しており、その数は何と総人口の
十分の一にも達しているとの事です。−−−どうやら明後日のエイプリルフールに合
わせて、今年はこんなジョークをひねり出したようですね。いつもながらご苦労さ
ま…」
「こんばんわ、三月三十一日のニュースです。米航空宇宙局の発表によりますと、地
球上に満ち溢れる異星人たちは、知らない間にすでに地球社会の中枢部分を押さえ、
事実上地球を支配しているらしいとの事です。但し、歯向かわなければ乱暴な事はし
ないだろうから、おとなしく植民統治を受けておくほうが得策だ…との見解が付け加
えられております。…これも明日に備えての話題作りでしょうが、まぁ手の込んだ事
をするものです。ではお休みなさい…」
「こんばんわ。四月一日のニュースです。エイプリルフールの本日、皆さんがたも
色々なウソで騙したり騙されたりしている事でしょう。さて、米航空宇宙局の三日目
のニュースです。…現在まで地球を支配していた異星人たちを、何と地球防衛軍が撃
退したそうです。皆さん、喜んで下さい。地球には平和と自由が帰って来ました、バ
ンザーイ!…という訳ですが、それにしても妙ですねぇ。よく考えれば、本日、四月
一日だけがエイプリルフールでしょ?と言うことは、今日のニュースだけがウソって
事になっちゃうんですよねぇ…?」
                  (完)

2002年10月11日00時37分23秒投稿

S.S☆「三人の息子」☆     あや太郎

 大富豪と三人の息子がいた。
 六十を過ぎてもいまだに財産を子供に譲ろうとしない父親を見て、息子らはイライ
ラしていた。
「親父も心臓病はかなり進んでいる。酒でも飲めばポックリ行くと医者も言ってる
が、近頃は用心してなかなか飲まないようだな」
 長男が言うと次男が提案した。
「今度の誕生パーティで飲ましてみちゃどうだい?盛り上がった勢いでグイッと行け
ば効き目あるぜ」
「そうだな。…おい、お前も手伝えよ」
 そばに居た三男にも声を掛けた。むしろ父親に近いところに居るのは三男坊だっ
た。
「お前のほうが親父の手伝いで苦労してるし、あんな傲慢な親父、ポックリ逝ってく
れたほうが助かるだろう」
「そう言えばそうだなぁ」
 三男も拒絶はしなかった。
「俺たちが好物のワインを用意して、折りを見計らって取り出すから、お前からも飲
むようにそそのかせ。分かったな」
 かくして誕生パーティの日、宴もたけなわとなった頃−−
「さあ、お父さんの誕生日を祝って、皆こんなに盛り上がってくれてるんだ。久しぶ
りに一杯おやんなさいよ」
 取り出したワインを長男が素早く大振りのグラスに注ぐと、次男が優雅な仕種で父
親の手に渡した。
 父親が掌のグラスを見つめていると、やにわに三男がその手を掴んだ。
「お父さん…やめて下さい。身体に障ります。やはり飲まないほうが良い!」
 意外にも父親の飲酒を咎める一言だった。
 しかし富豪は怒ったように息子の手を振り払った。
「これぐらいの酒、大丈夫だ。みな乾杯しよう!」
−−乾杯!−−とグラスを合わせるや否や、富豪は飛びきりアルコール度数の高いそ
のワインを一気に飲み干した。
 しばらく陽気に皆と歓談していた富豪は、果して心臓発作を起こし、そのまま帰ら
ぬ人となった。呆気ない最期であった。
 遺言状が開かれた。富豪の全財産は親族会議により三人の息子のいずれか一人に譲
られるという内容だった。そして親族会議は当然ながら、三男を後継者に選んだ。
 一文の財産も受け継ぐ事ができなかった長男と次男は無論激怒し、親族の長老に抗
議した。
「伯父上はご存じないだろうが、実は我々兄弟三人で謀議して、あの夜、酒を飲ませ
たんだ。つまり三男坊も同じ穴のムジナってことさ。それでもあいつが後継者にふさ
わしいとおっしゃるのか?」
「たとえそんな謀議があったとしても、三男が酒を飲まないよう引き止めた事実に変
わりは無い。最後の瞬間に心を入れ換えたとすれば殊勝な事ではないか」
 伯父は平然と突っぱねた。
「あいつは点数稼ぎをしてるんだ。実際、酒を飲ませただけで死ぬとは限らないか
ら、その時の事も考えて好印象を与えようと良い子ぶっただけなんですよ」
「点数稼ぎであろうが無かろうが、酒を飲まそうとするよりはマシじゃないかね」
 バツの悪い顔をしながらも、二人はまだ諦めが付かない。
「余りにも偶発的だ!僕等が出した酒を飲んだのも偶発的なら、飲んだ親父が死んだ
のも偶発的だし、結果的に三男が良い子になったのも全く偶発的じゃないか。そんな
事で財閥の後継者を決められちゃ堪らないよ!」
 長男と次男は詰め寄った。しかし伯父は冷やかに、そして幾分悲しげにこう答え
た。
「本当に…偶発的だったと思うのかね」
「えっ…?」
「教えてやろう。−−−三男は父親が根っからのヘソ曲がりだということを知り抜い
ておったんじゃよ」
「そんな事なら僕たちだって知ってますよ」
「それなら、なぜまともに酒を勧めたりしたのかね」
「えっ、何の事です?」
「三男は引き止めた。そうすればヘソ曲がりの父親は意地でも飲むと直感してな」
「ゲッ−−何と…」
「奴はお前ら二人より切れ者だと満場一致で判断した。だから親族一同は三男を後継
者に指名したのさ」
「……」
 すべてを悟った長男と次男は返す言葉もなく、静かに家を出た。
                  (完)

2002年10月09日23時42分14秒投稿

S.S☆「丹頂」☆     あや太郎

 北海道の湿原には今年も丹頂鶴の群れが飛来していた。
 立派に成長した雄鳥はその頭頂部を赤く染め雌鳥の前で求愛の舞を舞う。
 オスの頭部は肉襞が盛り上がっており、発情期ともなると血潮そのものの色がその
部分を赤く染め上げる。丹(ニ)…即ち「赤」の「頂き」を有する鶴なのだ。
 雄鳥の求愛に呼応した雌鳥は間もなく卵を産み、つがいの鶴たちは仲良く雛を育て
る。こうして何万年、何百万年にもわたり鶴たちは子孫を残して来たのだ。
 しかしそんな鶴たちの中に一羽、なかなか子孫を残せないでいる雄鳥がいた。いく
ら情熱的に求愛のダンスを舞ってみても雌鳥は一羽として呼応してくれない。なぜな
のか?
 その雄鳥は頭頂部が赤くないのであった。病気か突然変異か、ともかく彼の頭部は
灰色っぽくて爺くさいゴマ塩頭のような色合いだった。
 身体も大きく、すこぶる元気そうなのだが、その頭部の色のせいで一向に雌鳥が振
り向かない。今年の群れの中にも「彼」が居た。そして産卵のシーズンになっても、
また彼は「彼女」に窮していた。
 今年もやはりカップルを作れないのか−−そう思われた頃、忽然と彼の姿が消え
た。
 何やら、人間の多く住む「街」のほうへ飛んで行ったらしい。
 群れに受け入れられない動物は人間世界に迷い込み、馴染み、暮らそうとするとい
う。 彼も自然界の落伍者だったのだろうか−−もう鶴たちの恋の季節も終わろうか
という頃、しかし「彼」は颯爽と群れに戻って来た。
 そして何と「彼」の頭には見事に雄鳥の象徴が赤く燃え上がっていた。
 求愛の踊りを披露する彼に、雌鳥たちはもうメロメロだ。そのうちの一羽を妻に娶
ると彼は巣を構え、卵を産ませ、夫婦仲良く卵を温めた。
 そして間もなく雛が誕生した。待望の子孫がこの世に現れたのだ。
 涙は歓喜した。何度も甲高い鳴き声を上げながら巣の回りを踊るように飛び跳ねた
−−その弾みで、彼の頭から何かがポロリと落ちた。
 それは赤い糸葛のような塊だった。どこでどう集めたのか、赤い糸やテープや布の
端切れをついばんでは縒り合わせ、それを自分の頭に貼り付けたものらしかった。
 何と彼は丹頂鶴ではなく丹頂ヅラだったのだ。妻の雌鳥は驚いたような仕種をした
が、幸い恋のシーズンは過ぎ去っていた。
−−−彼は頭の代わりに顔を赤くした。
                  (完)

2002年10月08日23時23分11秒投稿

S.S☆「アンケート」☆     あや太郎

「入院患者の皆さんにお願いしているアンケートです。はい、よろしく−−」
 看護婦に用紙を渡された。
 よくある無記名の「好感度調査」みたいなものだ。
「なになに−−−食事は旨いか、やや旨いか、やや不味いか、全く不味いか−−」
 無記名だから遠慮は要らない。迷いなく四番目に丸を付けた。
「次は、看護について、か…」
 医療面に関しては適当に付けておいて、問題は「心象面」である。
「必要な時にはいつでも来てくれるか−−すぐに来る、大体すぐに来る、時には…」
 すぐに来れる訳がない。どこも人員ぎりぎりでやっているのだ。完全看護などとい
う無理をするからこうなるんだと愚痴りながら後半の番号に丸を付ける。
「看護婦は、夜眠れない時など親身になって話し相手に云々−−」
 話し相手になる前に、睡眠薬を飲ませる。たまに話し相手になってくれる時は、暇
で気が向いた時だ。そもそも患者は眠れないものだし、看護婦は眠たいものなのだか
ら相容れないものなのである。これも三番か四番に丸を付けて−−
「次は、医者と事務担当の対応について、か…」
 医者は昔のイメージと違い、ずいぶんと優しくなった。優しくなりすぎて看護婦や
婦長の前で小さくなっているぐらいだ。患者としては誰を頼りにして良いのか分から
ず大いに迷う。続いての項目は、流行りのインフォームド・コンセントについて−−
「あなたは治療に関して充分な説明を受けていますか−−−充分に…かなり充分に…
やや不足…全然無い…」
 面倒くさいので聞き流している…と。そして最終項目は−−−
「病院の印象は…か」
 こんなもんだろう…としか書きようがないので、そう書いた。そして最後の最後に
−−「アンケートに答えて頂き有り難うございました。最後に何かご意見がありまし
たら、次の欄に−−」
 もちろん、私は正直にこう書いた。
「無意味なアンケートは止めるように」と。
                  (完)

2002年10月07日23時27分34秒投稿

 ヘーパイ
               ―短い落語―

:うわーい、おやっさんいてまっか邪魔しまっせ。
:誰やと思うたら、おまはんかいな。相変わらず賑やかやな、
なんぞ異変
 でも起きたんかえ。
:異変という訳やおまへんけどチョットした事件です。うちの
近所に外人
 が越してきましてん。
:ほう、きょうびは国際化時代というてな、日本に住まいする
ガイジンも
 多なったそうなが…そうか、お前らごときの住む近所にもガ
イジンが越
 してくるようになったか。
:そうですねん。それで、わたい折角のチャンスでっさかいね
、なんなと
 尋んねたろと思もたんです。ところが日本に来てまだ日が浅
いらしいて
 言葉がもひとつ頼りない、てなことですねん。それでもなん
とか苦労し
 て何ぼか質問してみたんでっせ。
:ふん、それでおまはん何を尋ねたんやな。
:へえ、わたい尋んねましてん、「好きな食べ物はなんですか
」って。
:もうちょっと気の利いた質問があるように思うがなあ、まあ
ええわ、そ
 れで相手はなんて答えたな。
:へえ、変わった奴でっせ。おなす、なすびが好きやて、こな
い言いまん
 ねん。
:あのな、かたちや大小に違いはあってもなすびてなもんは何
処の国にも
 あるはずやで、なにもなすびが好きやからて変わりもんとは
言えんのや
 ないか。
:ところが違いまんねん、その外人、なすびが好きなだけやな
しに、なす
 っていう字を漢字で書けまんねんで。

―ちょっと待ちや、と言いながらおやっさん指で手の平に字を
書く仕草―

:はあはあ、なすというたら、くさかんむりに加、参加の加、
追加の加、
 つまり加えると書いてその後ろに子供の子、と書くんやな。
茄子かぁ、
 書いてしまうと簡単な字ぃやけど、いざ書いてみぃといわれ
たら日本人
 でも、うっとつまってしまうで。たいしたもんやなあ、その
ガイジン。
 それで、その人はどこの国のひとやねん。

:へえ、中国人ですねん。
               ―しまい―

2002年10月07日21時58分49秒投稿

S.S☆「天然記念物」☆     あや太郎

「ほぉら、これが天然記念物のオオサンショウウオだよ」
「うわぁ、大きくてヘンな恰好」
「こいつは恐竜より古い時代から生き残ってるんだよ」
「じゃあ、人間より古いの?」
「もちろんさ。ずーっと先輩だ。だから悠然としてるだろう?」
「ゆっくり、のろのろ歩いてるね。触ってもイイ?」
「今日は生物研究の時間だから、大きさを計ってみよう。さぁ、そっちのほうを持ち
上げてごらん」
「わぁ…ぬるぬるして気持ち悪い」
「八十センチか。なかなか大物だな」
「でもちっとも暴れないね。怖がって逃げるかと思ったのに」
「何といったって我々より古くから生きてる生き物だからね。落ち着いたもんだな」
「へぇ…さすがは天然記念物だね。ちょっと小突いてやろう…」
「こら、そんな事しちゃイケないよ。人間の大先輩なんだから」
「小突いてもビクともしないや。やっぱり肝っ玉が座ってるんだなぁ…」
 やんちゃな子供たちの前で、オオサンショウウオは粘っこい汗を滲ませながら呟い
た。「国際保護動物にも指定されてるんだぞ。やれるもんなら、やってみろ…」
                  (完)

2002年10月07日00時03分21秒投稿

         『ウパウパチンチンウパウパチン』     ヘーパイ
           ―変な歌唄う変な子供―

 俺はよろず請け負い人だ。ヤクとコロシさえ絡まなけりゃかなりヤバイ
仕事でも引き受ける。また、逆にどんなセコイ仕事だって厭わねえ。やれ
と言われりゃ胡椒ビンの中からハエのクソを摘み出すような仕事だって断
りゃあしねえ。つまりダークサイドを備えた便利屋ってわけだ。
 そんな俺でさえ、こいつぁおかしな依頼だぜ、と思わずにいられねえ依
頼が転がり込んできやがった。依頼主は若い母親なんだ。その女が言うに
は三歳にもならねえそいつの娘が、でんでん虫の歌を間違って覚え込んで
いるので正しく唄えるように歌詞を教えてやってくれってことなのさ。
 全く世間知らずな女でよ、俺が歌の内容を突っ込んで尋ねるとさぁ"歌
詞に男性性器の名称を織り込むんです"なんて、消え入りそうな声で言い
やがった。その年頃にはどこのガキだってやる事だっ、てんだ。だがこの
仕事は金になると俺は直感した。この世間知らずなママからたんまりせし
めてやろうと俺は仕事を引き受ける事にしたんだ。

「それじゃあナナちゃん、おじさん達にでんでん虫の歌、聞かせてくれる
かな」
 翌日、出来るだけ大袈裟に構えて料金をふんだくってやろうと思った俺
は児童心理学の先生と、昆虫や小動物の権威だってぇ大学教授を引き連れ
て依頼主宅を訪問したんだ。母親の膝に抱かれてたナナっていう問題の女
の子は素直に立ち上がると踵を上下させながら早速その歌を唄い始めやが
った。

♪で〜んで〜んむしむし かぁーたつむり お〜まえのキンタマはど〜こ
にあドゥ〜♪

 この程度のことで世間知らずな母親は耳まで真っ赤にしてうつむいてや
がる。たかがキンタマくらいで反応が過剰だぜ。
「この年頃の子供ならなんの問題もない事です。あと二年もすれば美しい
思い出になります」
 歌を聴き終えるや否や児童心理学者が勝手にしゃべり始めやがった。
 俺はあわてて学者の言葉を遮った。なんて事を言いやがる、美しい思い
出なんかにされて堪るか、テメエは俺の儲け話をつぶすつもりかよ。俺は
小動物の権威にチカラを借りようと話をそっちに振った。

「カタツムリというのは雌雄同体なんです、恐らくナナちゃんは知らない
でしょう。カタツムリの正しい生態を教えてナナの間違った歌詞を正す事
にしましょう」ぱんっ、と俺は膝を打った。いいぞ教授、それでこそ銭が
ふんだくりやすいってもんだ。
 教授はカタツムリに関する大量の資料と、プラスチックケースに入れた
生きたカタツムリとを持って来ていた。それら一式をナナちゃんに見せな
がら、キンタマは精嚢、これが陰茎、陰核が、膣前庭が、とそばにいるこ
っちが居心地悪くなるような事柄を教授は二歳児相手にじゅんじゅんと説
いていた。世間知らずなママさんはもう首まで真っ赤だ。ナナという子は
案外利発な子供らしく、全てを理解はできぬまでも教授の話を興味深げに
聴いていた。
「ねっ、だからこの歌詞はキンタマでなくて頭でなくちゃいけないんだ。
次は正しく唄ってみるかい」
 おおむね説明し終わったところで小動物博士はナナちゃんに、もう一度
唄うよう水を向けてみた。ナナちゃんはこっくりうなずくと、さっきと同
じように踵でリズムを刻みながら唄い始めやがったんだ。

♪で〜んで〜んむしむし かぁーたつむり お〜まえのアータマは…♪

 やった成功だ、と俺達三人がガッツポーズをしようとした刹那だった。
ナナちゃんの視線が宙を泳いだかと見ると歌声が途絶えてしまったのだ。
一瞬の後再びナナちゃんは歌い始めた。だが、その歌詞は…

♪キンタマはど〜こにあドゥ〜♪

 と、元通りに戻ってしまっていた。がっかりするより先に何がナナちゃ
んに歌詞を修正させたのかを探ろうと、俺達三人は同時にナナちゃんが視
線を泳がした辺りに目を遣った。するとそこにはサラリーマン然とした三
十歳くらいの男性が立っていた。どうやらナナちゃんの父親が仕事を終え
て帰宅したらしい。さりげなく我々に会釈を送ってきたその男の頭を見た
とき全ての謎が解けた。
 男は髪を七三分けのかたちに整えていた。だが、その髪型が妙に頑なな
印象を見るものに与えるのだ。
 七三に分けたその分け目は決して動かすまいぞ、垂らした毛先はなんと
しても生え際の在りかをうかがわせはしないぞ。そんな頑強な決意めいた
ものをその髪の毛は持っていた。そして窓から差し込む夕暮れの日差しを
受け止めたその髪が醸し出す、やけにつややかなる光沢。
 それは我々が持つ天然にして自前の毛髪の放つ軟らかい輝きとは明らか
に異質なひかり具合なのだ。さらに非常に微妙なのだが、それこそが決定
的な違和感を見るものに感じさせずにはおかない印象がそこにある。つま
り男の髪は男の頭にピタリと着床しておらず、僅かにではあるが浮き上が
り、頭頂から微かに遊離して見えるのである。

 やはり先ほど俺が見抜いたとおりナナちゃんは利発な子だったのだ。
 はっきりとした意味は解からぬまでも父親の頭髪には触れてはならない
重大な秘密が存在すると直感的に察知していたのだ。それ故たとえ童謡の
歌詞であろうとも無意識の内に、頭という単語を口にしないようにしたの
だ。
 健気な心根じゃねえか、それに比べてと、俺はママさんの愚かさを罵っ
た。世間知らずにもほどのあるママさんは、身体まで許した男の頭の秘密
にさえ疑念を持っていないのだ。
 ともすれば視線が張り付きそうになる父親の頭から目をそらした俺は行
き場のない視線を二人の学者に向けた。すると二人ともすでに帰り支度を
整えていて、「私は明日心理学会の集まりがありますので…」「私は近々
カムチャッカへ標本採集に…」といい加減なことを口走りながらそそくさ
と逃げ帰ってしまった。
 儲け話はなかったものとあきらめた俺は世間知らずな奥さんに言ってや
った。
「アリさんの歌でもトンボの歌でもナナちゃんにはほかにお気に入りの歌
を見つけて上げなさい。そうすれば…」
 一旦言葉を区切った俺は旦那の頭に視線を据えてから再び切り出した。
「でんでん虫の頭の在りかなんざぁ、いずれ美しい思い出になっちまいま
すよ」
 それだけ言ってしまうと俺は、まだ何か言いたいげな奥さんの未練な視
線を強引に背中で断ち切っておもてに飛び出した。黄昏の中を足早に歩を
進めたお陰で、あっというまに俺は幸せな家族達から随分遠ざかってしま
った。
 なんとなく歩みを遅くした時、俺の口を突いて出たのは、でたらめなざ
れ歌だった。

♪で〜んでんむしむし かぁーたつむり お〜まえのアータマはど〜こに
ある〜 ズラとれ!むき出せ!アタマ出せー!♪   

                 ―しまい―

2002年10月06日14時28分34秒投稿

S.S☆「密入国」☆     あや太郎

 狭い海を挟んで向かい合うA国とB国があった。政治的に対立し国交も断絶したま
まだ。しかし経済的に豊かなB国に向け、A国から出稼ぎに行きたがる人が後を絶た
ない。
 海峡を渡れば一息なのだが、両国ともお互いの出入国を認めてはいないので「密出
入国」を試みるほか無いのだが、なにせ海岸線の警備が厳しい。漁船や貨物船に忍ん
でいても出船入り船のチェックがキツくて滅多に密入国に成功しない。
 そんな中にあって、高い成功率を誇る「渡し屋」がいた。今日も今日とて、また密
出国規模者がA国の海辺に集っていた。船長は第三国の国籍である。
「本当に成功するのかい?ほとんど捕まってるって言うご時世なのに…」
「任せときなって。俺の漁船を使って失敗したタメシが無い」
「ありふれた漁船だけど、警備艇を巻けるようなスピードでも出るってのか?」
「いや、スピードは普通の船と一緒だが、そこはアイデアさ」
 何人かの密航希望者を乗せて漁船は、海峡を渡っていった。
 船がB国の海岸線に接近した時、やはりB国の警部船が警報を鳴らしながら近づい
てきた。
「やっぱり見つかっちまった!」
 船底で息を潜めていた密航者たちが震え上がる。船は即座にエンジンを切り、警備
員たちを迎え入れた。船長とのやり取りが聞こえて来る。
「どこへ行くんだ?」
「はい、ご覧の通りA国へ」
「何の用事で?」
「向こうは食料不足ですからね。こちらで買った魚を安売りに行こうと思ってね」
「なに、魚の安売り?我が国の産物をA国に売るのは国策上、禁止されている。我が
国の港へ戻って荷を下ろして貰おう」
「えっ、駄目なの?参ったなぁ、大損しちゃうよ…」
 警備員たちが引き揚げると、船長は上機嫌で密航者たちに囁いた。
「堂々と、入国できるぜ」
 訳が分からない密入国者たちを乗せて、漁船は港に入った。
 荷下ろし作業に紛れて無事入国を果たした密航者たちが首を傾げながら振り返る
と、今まで乗っていた漁船がまた港を出ようとしていた。その姿を見て一同は呆気に
取られた。「後ろ前に走ってる…」
 その漁船は船首の下にスクリューを付け、後ろ向きに航行するよう改造された船
だったのだ。つまり警備船に止められた時、漁船は沖合を目指す恰好でウロウロして
いるという訳だ。
「道理で…」
 いつも警備艇に〔呼び戻される〕はずであった。
                  (完)

2002年10月06日00時28分23秒投稿

こんちゃ〜嵐山のレットバトラー14番森田です.

本日、千里会館で葬儀参列の後、ウメダに戻りワルツ堂堂島店へ
行けばぐるり人の列、入場制限しとるではないか.
でもまあ、ワシの見るのはJAZZの他はハワイアン、キュ−バ・ラテンものに
沖縄モノとマイナーな音楽ばかりじゃけん、なんくるないさー、と待つこと約10
分.

なかに入れば、CD棚のジャンルはもうグチャグチャ.
結局はぐるーっと全部見んならん.

戦果品
[ハワイアン] PlaysTheSlackKeyGuitar/YUKIYAM
AUTI
[キューバもん] オマーラ・ポルトゥオンドを2枚
[沖縄もん] ネーネーズの新譜
[JAZZ] WHYNOT/GeorgeCables3 と AllJazzed
Up・・/中村葉子3(2階のピアニスト)
[その他] S&G グレイテストヒット、ザ・タイガース・フィナーレ(タイガース
の解散コンサートライブ盤)

これだけ掴んだところで汗ダクで小1時間経過、疲れたので帰ることにした.
計8枚、財布の中身が心配だったが〆て14,503円也.
うーん、やっぱり3割引は安いわい.

落語のCD,米朝・枝雀他見当たらず、残っていたのは三枝・文珍.
うーん、やっぱり3割引でも手ェ出さんか、三枝・文珍.

2002年10月06日00時13分29秒投稿

S.S☆「強盗の災難」☆     あや太郎

 近頃ここいらでは宅配業者に化けた押し込み強盗が流行っていた。今、目の前に在
る家もそんな連中に狙われやすそうな立地だ。一軒家で庭木や塀に遮られ、玄関が外
から見えにくい。しかも昼間は主婦が一人で留守番と来ては、正に狙い目ではない
か。
 そんな事情を知っている俺は、言うまでもなくそのニセ宅配強盗だ。前もって家周
りの事を調べ、今にも押し入ろうとしている。いや、心配する事は無い。俺はそれほ
ど凶悪ではないのだ。まだ人を傷つけた事はないし、殺した事はもちろん無い。
 そんな強盗に入られるこの家はまだ不幸中の幸いと思ってもらいたいぐらいのもん
だ。−−−ピンポーン−−−
 かくして俺はチャイムを押した。
「ハイ、どなたですか?」
「宅配です。印鑑をお願いしまーす」
 罪の無い声でさり気なく振る舞う。
ドアが開いて気の弱そうな主婦が顔を出した。しかしドアはやはりチェーン付きだっ
た。「あ、すいません。荷物が大きいもので…」
 かねて用意の大型段ボール箱をチラつかせて、チェーンを外すように仕向ける。
「あのぅ…中には入らないでくださいね」
 やはり宅配強盗の噂はこの界隈にも聞こえているらしい。
「ハイハイ、ここでお渡ししますので−−」
 ガチャッとチェーンの外れる音を確かめて、俺は強引に室内へ踏み込んだ。さぁ、
営業開始−−と思った瞬間、身体が宙に浮いた。
 ドスンと落ちたのは数メートル下のコンクリート床だった。
「イテテテ…」
「あら、大丈夫ですか?いえね、床の一部が抜けて、下の地下室へ通じちゃったんで
すよ。今は玄関口は使わないで、お勝手から出入りしてるんですのよ、ホホホホ。だ
から、中へ入らないでって言ったのに」
 それならそうと早く言え。
「何てこったい−−−おっ、痛い!」
 足首を捻挫してしまったらしい。立ち上がるのが辛い。
「あら、怪我なさったのね。救急車を呼びましょうか」
 そんな事をされたら一巻の終わりだ。
「いえいえ−−−結構です。大した事ありません」
 痛みをこらえて、上へ続く階段を上りかけたその時−−
「あっ、その階段…」
 嫌な予感がした時はもう遅かった。メリッという音と共に階段が抜けて崩れ落ち
た。
「危ないんで、私たちも長く使ってなかったんですのよ」
「それを早く…−−いや、ナハハハ、参ったなぁ…」
 そばの梯子を上の出入口に掛け、ようやく登った。
 やれやれ…と立ち上がろうとした時、足の痛みでバランスを崩し、キッチン台に体
当たりしてしまった。ゴツンと何かが頭に当たった。目の前に落ちたのは油と小麦粉
の缶…香ばしい匂いがしてタラタラと液体が流れて来たと思ったら床に置いた手に触
れた。
「アツツツツ!」
「あら、大丈夫ですか。丁度天麩羅を揚げてたんですのよ。まぁ、頭にも血が滲ん
で…救急箱を取って来なくちゃ−−」
 俺をリビングに放り込んで二階へ駆け上がって行く。
「怪我は全部で何箇所だ…」
 もう仕事をする気もなくなってぼんやりしていると、そばの本箱に本能をくすぐる
物が見えた。小型金庫だ。しかも蓋が閉まりきっていない。たちまち意欲を取り戻し
た俺は、金庫の中に手を入れた−−その瞬間−−ビリビリビリ!−−−ギャッ!
 殺生な事をするもんだ。防犯用の電流が流れていたらしい。電気に弾き飛ばされた
俺は絨毯に大の字に倒れた。何とした事かその次の瞬間、俺は溺れかけていた。何と
金魚鉢が顔の上に落ちて来たのだ。倒れた時に台の上の鉢を引っかけたらしい。
「ゴボゴボゴボ…」
 感電で痺れて身体の自由が利かない。俺はこのまま溺死するのか?それとも感電死
なのか?−−そんな悲しみに襲われているとき、あの主婦が戻って来た。
「あら、まぁ、一体どうなすったんですか?…びしょ濡れになっちゃって…。あら、
また金庫の扉が開いてるわ。不用心ったらありませんわね、ホホホホ。泥棒に入られ
ないようもっと気を付けなくちゃ」
 聞いていた俺も引きつる笑顔でこう助言した。
「本当にそうして下さいよ。もう二度とこんな目に遭う奴が出ないように」
                  (完)

2002年10月04日23時29分20秒投稿

S.S☆「あぁ知的所有権」☆     あや太郎

 世は正に知的所有権の時代−−ついにはこの地上のいきとし生ける物すべてが特許
の対象となった。
 あらゆる動植物が遺伝子解析の結果、その原産地を定され、それぞれの国家がその
所有権を獲得すべく、激烈な登録申請合戦が繰り広げられていた。
 焦ったのが、本来すべての物を創造した神様であった。
「あのぅ…知的所有権とやらの申請はここですりゃあ良いのかね?」
「はい、そうですが−−あっ、ちょっと待って−−今、大企業の研究所からの登録申
請があって、立て込んでるから」
「いや、わしはもっと根本的な著作権を申請に来たんだがね」
「お爺さん、何をぐずぐず言ってるの。つまらない発明や本に書いた話なんかは後回
しにしてよ。何せ今は大きな物件が多くて大変なんだから」
「わしのも大きいぞ。なにせ遺伝子構造に関する特許なんじゃから」
「遺伝子?人は見かけによらないねぇ。お爺さんも学者なのかい。それて何の遺伝子
なの?」
「ニンゲンの遺伝子だよ」
「ニンゲンの?それを作ったっていうと…まるで神様みたいだね」
「うん。他でもない…一応神様だからな」
「神様?へぇ…まさか神様が知的所有権を申請しに来るとは思わなかった。でも折角
です
がね、神様 先ず、あなたが神様だという証拠が無い。それにもし本人…いや、本神

としても、特許とか所有権というのはニンゲン世界の約束事ですからね、(ニンゲ
ン)の遺伝子だけは独占できない事になっているんですよ。残念ですが申請は認めら
れません」「じゃあ、わしがこれまで苦労して作ってきた物を遺伝子組み替えで、ど
んどん作り替えられておる一件はどうなるんだ。それを訴える手は無いものかね?」
「それは早い者勝ちですから、しょうがありませんね。…新しく出来る物を禁止する
法律はありませんから」
「ふーむ…それは困ったなぁ。折角長年をかけて作り上げてきた人類の著作権も貰え
ず、好きなように作り替えられても文句も言えず…悲しいもんだなぁ」
「いっそ新しい物を発明されたらどうですか?それなら特許申請も受け付けますよ」
「よし、こうなったら意地だ−−−もっと賢く強く美しい人類を創造して特許申請し
てやるか」
 果して一年後、より優秀な新人類の遺伝子を持って、神様は颯爽と特許庁に現れ
た。
「ついに出来たぞ。これまでの欠点を補った、より強くより賢い人類だ。さぁ、登録
の手続きをしてくれ」
「なるほど、これは凄い。早速申請してみましょう−−−コンピューターから返事が
戻って来ました。あっ、残念ながら登録できません」
「そりゃ何故なんだ?」
「半年程前に、この種の人類がすでに登録されてたんですよ。もう試験管ベビーで実
験が始まっているようですよ」
「そんな馬鹿な…。わしより先に、それを作れる人間がいるなんて…」
「それほど競争が厳しいんですよ。神様が造れる物ならもうほとんど何でも造れるん
じゃないですか」
 何と開発競争は神の領域に到達してしまった。
「参ったなぁ−−では何を造れば特許を取れるのかね?」
「そうですねえ−−神様でも造れないような作品でないと開発競争に遅れてしまうで
しょうねぇ」
「すると−−−もう〔神の遺伝子〕しか残っとらん」
                  (完)

2002年10月02日22時28分56秒投稿

S.S☆「いじめられっ子」☆     あや太郎

 とある学校で、イジメが激減したという噂が流れた。
 マスコミが取材を申し入れても、まだ応じる段階ではないという返事−−しかしイ
ジメ関連のモメ事が減り、父兄も大喜びとあれば世間は放っておかない。
−−何が起きているのか−−
 若き取材者が一人、卒業生を装ってその学校を訪れた。
「いやぁ、先生、お元気で、何よりです」
 初対面の教師たちと白々しい挨拶など交わしておいて、あとは教室や校内をぶらぶ
らして見る。
−−近頃の学校風景−−などと面白くもないタイトルを付け、そんな取材も兼ねなが
ら実は懐かしさに耽っている…というフリをしながら。
 さり気なく授業風景も覗いてみるが、これは本命ではない。イジメの時間帯ではな
いからだ。キンコンとチャイムが鳴って、休み時間だ。これこそイジメが始まる時間
である。 しかし先生が教室から出て行っても、生徒らはここかしこで談笑するばか
り。
「本当に、みんなおとなしくなってしまったのか?」
 それも釈然としない。
−−イジメは無くならない−−というのが彼の仮説だった。一にイジメは人間の本性
に発する。区別識別能力、差別心、警戒心、優越感、劣等感に利害関係まで、凡そ人
間の本能から来る感情が織りまぜられ、イジメは起きるのだと信じている。そして昔
は…いや、階級社会では、この「イジメのエネルギー」が半ば公然と捌け口を持って
いた。それは、「イジメられる階層」の存在である。
 封建時代、階級社会では、半ば公然と認められた差別・イジメがあったはずだ。貧
しいというだけでイジメられたケースも珍しくはなかっただろう。そんな公に認めら
れた「イジメられっ子」たちが、庶民の鬱憤を晴らす「ガス抜き」の役割を果たして
いた。忌まわしき生活の知恵である。何はともあれ人類は長い歴史をそんなやり方で
乗り切って来たのだ。しかし今、世界の大方の国で、それが否定された。そして子供
たちと、もちろん大人の間にも謂われのないイジメが大激増−−−しかしこの学校は
何故かイジメが消滅しかかっているという。一体何が起きたのか…
 その時、教室の中で異変が起きた。
「えーい、面白くねぇなぁ−−この野郎」
 声を潜めて喋っていた一団が、突如立ち上がると一番後ろの席に座るちょっと老け
た男子生徒を殴りつけた。
「ヒェ〜」
 殴られた方は大げさに転げ落ちる。
「本当にオーバーだなぁ、こいつは…」
 他の生徒が何の脈絡もなく蹴飛ばした。
「ホエ〜…」
 また老けた生徒が飛び上がった。ほとんど宙返りしている。
「ほんと、ヘンな恰好−−−」
 何と女生徒まで加わって殴る蹴るの集中攻撃が始まったではないか。
「何が、イジメ・ゼロだ」
 呆れてみていると教師が戻って来た。
「騒がしいなぁ。授業始めるぞ−−」
 すると全員素知らぬ顔で黒板に向き、ノートなど取りはじめる。かくしてまた静か
な授業風景に戻ってしまった。さっき袋叩きにあった老け顔の生徒だけが、救急箱ら
しき物を出して手当てしている。しかし大した怪我も無いらしく、また平然と席につ
いて、いつの間にか居眠りを始めた。
「何だ?何だ、これは…」
 次の休み時間に、記者はあの老けた生徒にインタビューを試みた。それはよく見る
と、他の生徒より一回りは年上に見えた。
「まだ試験段階なんで、口外無用なんですけどね。実は僕…イジメられ屋なんです」
「いじめられ屋?」
「そうです。要するに生徒たちの鬱憤を晴らす〔ガス抜き〕ですね。格闘技全般を
やってますから、まぁ少々やられてもこたえないですけどね。あっ、またイライラし
てる子がいる。ちょっと行って相手してやらなくちゃ…」
 教室に戻って行くいじめられ屋を見ながら、記者はため息をついた。
「問題は、世の中にあれだけ打たれ強い人が何人いるかだな」
                  (完)

2002年10月01日23時55分37秒投稿

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