過去のドンドコ掲示板
2002年09月16日〜30日

S.S☆「何か、おかしい」☆     あや太郎

 笑わない男がいた。
 無口で陰気という訳ではない。結構喋るし冗談も上手い。ところが人を笑わすくせ
に自分は笑わない。どういう性格か分からないが、本人はそれで納得しているそう
だ。
「どうしたんだ−−−面白い顔で面白くなさそうな顔をして」
 その男が例の如く話しかけてきた。「面白い顔で」というのがムカつくが、思わず
笑ってしまった。
「笑ったら負けよ−−あっぷっぷ」
 笑いもせずにそう言いながら立ち去ってしまった。こちらのほうがまた苦笑してし
まう。憎めないと言えば憎めないし、芸人的なサービス精神と言えば言えない事もな
い。
 そんな訳で、憎まれもせず、喜ばれもせず、その男はごく普通に社会生活を続けて
いた。そんなある日、誰かが彼を笑わせてみようと言いだした。
 面白い事を言って皆を笑わせてくれるのだから、たまにはお返しに笑わせて上げよ
うという提案だ。無論その裏には、笑わされてばかりいるのは面白くないという屈折
的な心理がある。つまり「お返し」は「仕返し」を兼ねている訳だ。
 一席設けて、「笑わぬ男」を笑わせる計画が立てられた。
 慰労会という名目で、彼を招き、上座に座らせた。
「VIP待遇だな」 彼も無表情に驚いている。
 一同、趣向を凝らして笑わせるような芸を披露。しかしクスリとも笑わない。
「一体キミはどういう頭の構造をしてるんだ?意地で笑わないのか?」
「いや、腹の底から面白いとか可笑しいとか感じた事がないんだ」
「これぐらいでは、おかしくないのか?」
「いや、一応おかしいとは思うがね」
 とぼけた反応に、また周囲のほうが笑わされてしまった。
「そうか もっと何か芯からおかしい事でないと駄目か…」
 取り巻きの我々としては何とかして一矢むくいたいものだ。そこで誰かが思いもよ
らぬアイデアを出した。
「いいか−−−あいつはいつも人を笑わせて来た。つまり周囲の人間が笑っている姿
を見慣れている訳だ。そこでどうだろう−−今回は、みんなで【くすりとも】笑わな
いようにしてみめというのは?…」
 確かに意表を衝いている。これが窮余の策となるのやら。
 何食わぬ顔で彼の周囲に座った我々全員、必死の思いで無表情を作り、ありとあら
ゆる不幸な事、悲しい事、悔しい事を考えながら、笑わずに耐えた数分間−−−
 果して、笑わぬ男が爆笑した。笑って笑って笑いが止まらなくなった。
 間もなく、彼は呼吸困難で最寄りの病院へ運ばれて行った。
「本当にそんなにおかしかったのかなぁ?」
 心配しながらも一同は好奇心と勝利の余韻に目を輝かせながら囁き合った。
「うん、たぶん彼にとってはおかしかったんだろうなぁ」
 一息おいてから、また誰かが言った。
「あれがおかしかったのか、それとも…彼がおかしくなったかのどちらかだ」
                  (完)

2002年09月30日22時54分06秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

9月28日 豊中市立伝統芸能館「落語本舗 こごろう堂」

出し物

●「三人旅」     笑福亭 たま
●「くっしゃみ講釈」 桂 こごろう
●「天王寺詣り」   桂 米左
●「崇徳院」     桂 こごろう

前回の雪辱を期して再び「くっしゃみ講釈」を掛けはりました。
私は7月29日の「桂 米二MINAMI出張所」での、ぎこちなくも一応O.K.の予行演習を
聴いてるもんで、然程心配してませんでしたけどね。
それでもその場面に掛かったらちょっとドキドキしましたな。
で、今回はどぉやったのかと言いますと…完璧でした。
言葉はスラスラ淀み無く、独自のくすぐりを挟む余裕もありました。
もぉ大丈夫。
更に磨きを掛けていただきましょ。

ネタ下しは「崇徳院」。
「一対の夫婦が出来上がります。」
の方の落ちでした。
その直前の
「うちの本家へ来い。」
「いや、うちの母屋へ来い。」
の処でけつまづいてこけかけて…トントンと運んでシュッと下りにゃならんのに…。
この度は無事立て直して事無きを得ましたけどね。
「くっしゃみ講釈」をクリアしたんでホッとしはったんですかな。
まぁ、らしゅうてええとしときましょ。
後々永遠の課題にならんよぉにね。

米左さんの「天王寺詣り」は短縮版。
前後の噺が長いもんで、こごろうさんが頼まはったんやそぉです。
大概二席三席やる時のネタは時間的なバランスを考えて選びますな。
けど、例の特殊事情があるんで致し方無し。
境内の風景描写は寿司屋と竹独楽屋と亀山のちょんべはんまでで、後はカット。
すぐに引導鐘の場面に移ったんですけど、そこで登場人物が言いましたな。
「これだけかえ?まだ他にもあったのと違うか?乞食とか…。」
ちょっとむかついたはったよぉです。
母子の乞食とか阿呆だら坊主は面白いシーンですもんね。
ここを削らんならんのは実に惜しい。
と言うて、前の物売りを止めてこんなんだけっちゅう訳にもいかん。
何処の風景や分からんよぉになりますからね。
ただ、阿呆だら経は主人公が鐘を突く処に出て来ます。
出来たら残しておきたかった部分ですな。

たまさんの「三人旅」。
他愛無い筋のそこここにくすぐりの要素が見えて軽く楽しめます。
前座噺には打って付けですな。
たまさんは相変わらず迫力充分の語り口。
この噺によぉ合ぉてますな。
特に馬方の物言いにぴったり。
それだけで笑いがとれます。
但し、見台が唾だらけになりますな。
おまけにすぐ後が「くっしゃみ講釈」。
米左さんがぼやくこと。

この会は何時もゆったり空間をとって40席。
それでも満席になる事はそぉありませんでした。
が、この日は椅子を追加せにゃならん程で、今迄で最高の入り。
今年は何処の落語会も客足が伸びてるよぉですな。
いよいよ落語ブームの再来か?
誠に喜ばしい事です。
ええ席に座るのが困難になりゃせんかっちゅう心配はありますがね。

2002年09月30日15時31分27秒投稿

S.S☆「大物の悩み」☆     あや太郎

 小魚たちの前を悠々と鯨が泳いでいた。
 長さが三十メートルを越えようというシロナガス鯨の、その中でも最大とおぼしき
巨鯨だった。その雄姿を眺めつつ小魚たちが囁き合っていた。
「恐らくあのクジラより大きな生き物は、この海に居まい。地上には居るんだろうか
?」 すると一羽のペンギンが泳ぎ寄って、嘆息しながら言った。
「いや、地上にも居ない。人間の話では、大昔にもっと首の長い恐竜やもう一回り大
きなサメが居たというが、今あのクジラより大きな生き物は地球上に居ないそうだ」
「豪気な話だ。みんな自分より小さい訳か。我々小魚には望んでも叶わない」
「さぞかし気持ち好い事だろう。想像がつかないくらいだ」
「一度本人に、どんな気持ちか訊いてみたいものだ。怖いものなど無いのだろうな」
 すると好奇心旺盛なイルカが一頭、シロナガスのほうへと泳ぎ寄り、耳元でそっと
囁いた。
「シロナガスさん−−−世界で一番大きな生き物の気持ちはどんなものですか?あな
たに怖い物なんか無いんでしょうね」
 すると面白くも無さそうにシロナガスが答えた。
「もし自分より大きな奴を見かけたら、心臓が止まるんじゃないかと心配だ」
(完)

2002年09月29日23時31分47秒投稿

下駄屋の喜六

もうすぐ終わる『米朝・美智子のほろよい話』というABCのラジオ番組の中での米朝
師匠の発言。
ちょっと上岡さんの話になって、「今年の6月頃やったか、立川談志が大阪で独演会
をやったんです。その楽屋に姿を現したのが上岡龍太郎、横山ノック、月亭可朝。人
目を避けてるようなやつらばっかりやと大笑いしたことがある」。
さすがに国宝の大師匠、老いてなお舌鋒には鋭いものがありますな。

2002年09月28日19時59分28秒投稿

元姫路市民です。
テントさん、R−1ぐらんぷり準決勝で敗退してしまいました。まあ実際舞台を見ま
したが、私を含め爆笑3割、険しい顔7割では仕方ないと思います。

それとはそないに関係がないのですが、替え歌を作ったので送ります。

♪「テントを知らない子供達」注:「戦争を知らない子供達」の替え歌

テントの弟子入り後僕等は生まれた テントを知らずに僕等は育った

クモの(クモの)決闘(決闘)人間パチンコ

ダララララ(7)ダララララ(7)なっなっななな斜め〜(あ〜)

テントの笑いを分かってほしい テントを知らない子供達にさ

2002年09月28日11時39分23秒投稿

S.S☆「帰って行った恐竜」☆     あや太郎

 ある時、突然恐竜が現れた。
 ある時はアフリカに、またある時はアジア、アメリカ、オーストラリアに−−いず
れも忽然と現れ、忽然と姿を消すのだ。
 また出で立ちが意外だった。部分的ながら衣服を付け、ヘルメットのような物をか
ぶり、何と機械らしき物まで携帯しているではないか。
 それは一部の学者が想像していた「知性ある恐竜」らしかった。
 恐竜は大抵数匹で出現した。計器類とおぼしき小さな機械で暫く周辺を調べると人
間に被害を及ぼすこともなく煙のように姿を消した。一種の「物質転送」をしている
としたら人間よりも遙に進んだ科学技術だ。第一彼らはどこから来たのか?
 当初は宇宙人・異星人かとも思われた。さては地球侵略の下準備かと。
 いずれにしても何とか恐竜達とコンタクトを取らねばならない。人類の技術を結集
し、ありとあらゆるコミュニケーションが試みられた。その苦労が実ったものか、あ
る時、恐竜たちはフト人類に気がついた。
「何だ−−何かチョロチョロしてると思ったら、お前たちも知能を持ってたのか?」
 些か失敬な挨拶だったが、ともかく恐竜たちは人類との交信に応じてくれた。それ
は知的生物らしく、充分温厚で友好的なものだった。
 彼らが語るところによると、何と彼らは一億年前の地球から時間旅行をして来た研
究者だった。つまり彼らの時代から一億年後の地球がどう変貌を遂げているか見てみ
ようと冒険の旅に出たのである。
「科学の進歩で大抵の事はできるようになったが、タイムマシーンは未だ試作段階
で、乗るのにに勇気が要る」
 そりゃそうだろうと、人類はまた一目置いてしまった。
「それにしても驚いたよ−−−億年後の世界は何もかもスケールが小さくなっちまっ
て」

「それはどういう点ですか?」
 自動翻訳機を通じて人類側が訊いた。
「いや、ニンゲンだけじゃなくって、すべての生き物が小さくなってるよ。例えば昆
虫なんかひどいもんだ。昔は一メートルくらいのトンボやカブトムシが居たのに、今はこん
なにちっぽけになっちゃった。鳥だって翼竜に比べたら貧相なもんだし、知的生物に
関しても…」 人間を見下ろしながらそう言いかけて、恐竜たちは気まずそうに咳を
した。
「とにかく、これほど全てにおいて小型化しているという事はやはり自然環境が厳し
くなっているという事だろう。我々恐竜族も将来を考えねばならないようだ」
 それだけを言い残し、恐竜たちはまた一億年前の世界に帰っていった。
 人類の大半が一つの事を心配していた。それは恐竜たちが「現状」を見聞したあ
と、地球環境を改造したり、歴史を変えるような試みをするのではないかという懸念
だった。
 なにせタイムマシーンを発明するほどの科学力を持った知的種族だ。何万年も掛け
れば出来ない事はなかろう。そしてもしそんな大変革が有れば、無論今の地球と人類
はまるで違ったものになってしまう…。
 しかし何年たってもこの地球上に、大きな変動は起きなかった。そして六千万年ほ
ど前に恐竜が滅びたという化石の状況も別段変化は無かった。
 という事は−−恐竜達は何もしなかったという事だろうか?それとも絶大なる科学
力で地球を脱出し、広い宇宙のどこかに移住したのだろうか?人類は遙かな太古の世
界と宇宙の果てに思いを馳せた。
 −−古代中国の遺跡から、巨大な「竜」とおぼしき化石が数体発掘されたのはその
何年か後の事だった。そして不思議な事に、古代から伝わる「龍の絵」には龍の乗る
仙人ではなく、乗り物にまたがる龍の姿が描かれるようになっていた。
                  (完)

2002年09月27日23時30分13秒投稿

S.S☆「メビウス」☆     あや太郎

 銀河の辺境に珍妙なる星を発見した。
「蜂の巣星」と名付けられたその惑星は文字通り地表の至るところに六角形の穴があ
り、蜂の巣そのものの形状をしていた。いや、形だけではない。現にその「穴」を巣
にする巨大蜂のような生物が惑星表面をびっしり覆うように棲息しているのだ。
 シロナガス鯨ほどもある巨体の蜂たちは透き通った巨大な羽を震わせるように羽ば
たかせ、空気もほとんど無いこの星の周辺を飛び回っていた。
 大きさ以外は、実に地球の蜂によく似ている。尻の針まで同じだ。
 実際我々が送り込んだ探査船もその巨大な針でひと突きにされ、あえなくオシャカ
になった。
 文明や知性があるのかどうか−−コミュニケーションの方法も見つからぬまま我々
はこの星の小さな衛星に観測基地を作り、蜂の巣星の観察を始めることにした。
 先ず疑問だったのは、彼らの餌であった。空気も水も、もちろん緑もほとんどない
この星に花畑は無い。なのに彼らはどこへともなく飛んでゆくと、またどこからとも
なく戻ってきて、その手足には蜜や花粉らしき餌を付けている。
 どうやら他の惑星まで飛んで行くようだ。そうなると、どんな方法で飛んでいるの
かが疑問だが、これも一種の衝撃波を発して推進力に変えているらしいという事ぐら
いしか分からなかった。
 まぁ宇宙は広い。いろんな生態の生き物がいるものだ。
 そんなこんなで蜂の巣星の観察を続けているうち、我々の眼に興味深い光景が飛び
込んできた。六角形の巣穴が集まっている辺りに、どこからともなくヨロヨロと一匹
の見慣れぬ蜂が飛んで来るや、他の蜂たちがその周囲に群がって来た。どうもその様
子は久しぶりに帰ってきた仲間を迎える歓迎会の雰囲気だった。
 すると間もなくその帰還した蜂が巣の上でダンスのような仕種を始めた。
 あっちへ歩いたり、こっちへ歩いたり−−数字の「8」の字を描くように…。
 それは地球の蜂族にも見られる「8の字ダンス」らしかった。
 という事は、今まで行っていた場所の方向と距離を現しているのかも知れない。
我々は必死でそのダンスの観察と分析を試みた。彼らにどれくらいの知性があるの
か。また言葉のようなものがあるのか。それは即ち我々と「会話」できる可能性を探
る事なのだ。
 我々はズーム映像を凝視しながら、ありとあらゆる分析を試みた。
 しかしその8の字ダンスから、具体的な数字や意味を読み取る事は出来なかった。
 落胆する我々の目の前で、巨大蜂たちの歓迎会は延々と続いていた。帰ってきた蜂
を英雄のように歓迎する仲間たちの様子を見ていると。確かに彼らには感情も知性も
あるような気がした。しかしそれを正確に読み取るのに我々はまだ経験不足のようで
あった。
 また英雄の蜂が8の字を踊った。他の蜂たちも興奮で身体を震わせながらその踊り
を真似した。あの8の字に果してどんな深い意味が隠されているのか−−−それを知
る前に、我々は未練を残して、この星系を去った。
「そうか−−宇宙はやっぱり無限だったのか」
 若い蜂たちが興奮気味に叫んだ。
「そうさ。宇宙はどこまで飛んで行っても果てしが無かったよ」
 蜂の英雄は、また何度も何度も無限大の踊り…メビウスダンスを披露していた。
                  (完)

2002年09月25日23時00分37秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

先日NHK教育「世界大自然紀行」でグリーンランドのイヌイットを扱ぉてました。
先祖がモンゴロイドなんで日本人によぉ似てますな。
カメラ前に人々が集まったとこなんか、懐かしいスナップ見てるみたい。
中にはサングラスにアクセサリーチャラチャラのお兄さん達もおりますがね。
ここらが現代。

北極圏の短い夏、彼等はアザラシ猟に精出します。
漕ぎ手とハンターがボートに乗り、流氷の上で休んでるのを探します。
が、なんぼ本場や言うてもそこいら中にアザラシがゴロゴロ転がってるわけや無い。
チャンスはそぉそぉありませんな。
獲物を発見したらそぉっと50m程に接近。
照準スコープ付きライフルで頭部を狙います。
一度逃げたアザラシは同じとこには戻らん。
必ず一発で仕留めにゃなりません。

見事な腕前ですな。

肉は食用、内蔵は不足勝ちな野菜を補うビタミン源、毛皮は用途多彩。
彼等の生活にとってアザラシは必要欠くべからざるもんなんですな。

昨今話題のタマちゃん。
存在意義はグリーンランドとはかなり違います。
自然との良い関係を壊さざるを得ん身の因果を僅かでも救うてくれる…かも知れん…
よぉな気ぃがする…みたいな錯覚を覚えたい人々の為の癒し系アザラシですな。

アゴヒゲアザラシの成体は体長2.5m体重200kg。
仲間内では最大やそぉです。
タマちゃんは生後1年位。
そんな巨漢に成長するまで居着いたりしてね。
そぉなったらマスコミやなんかが言いますな。
「一匹ではかわいそぉ。ぜひお相手を…。」
自治体も折角手に入った売りもんというんで積極的に推進します。
どっかの世話焼き共が我も我もと現われますな。
「私の知り合いなんやけどね。
 逢うだけ逢ぉてみはったら?
 あぁ…そぉ?
 ほな写真だけでも…。」
「明朗会計、優良印。
 決してがっかりさせまへん。
 騙されたと思ぉてどぉです?社長!」
「…兄ちゃん…内緒やけどな…ええ子ぉいてまっせ。」
「ぜひともうちの娘と番いに…。」
んな事ぁねぇだろ。
最終的にハレムになったりしてね。
カルガモもおちおちしてられんな。
あぁおぞまし…。

2002年09月25日13時32分47秒投稿

S.S☆「捨て犬−2」☆     あや太郎

「引っ越し荷物も運んじゃったし・・・いよいよ行っちゃうのね、ケイコ」
「うん。明日からは都会の生活が始まるわ」
「以前から街へ出たがってたし、夢がかなうのは友達としても嬉しいけど、やっぱり
淋しくしなっちゃうなぁ」
「また遊びに来れば良いじゃないの。親が残してくれた家と土地を売ったお蔭で、立
派なマンションも買えたし、幾らでも泊まっていったら良いのよ」
「有り難う。でも、すぐに私がお邪魔できないような同居人が出来たりして?」
「ふふふ。それも都会に出て行く理由の一つだもんね。だってこの辺じゃ目ぼしい男
性も見つからないし」
「ちょっとカッコいい子や仕事の出来る人は都会に行っちゃってるしね。あーあ、私
も何とか田舎を抜け出さなきゃ…」
「早く出てきなさいよ。私が白馬の王子様に出会う前に」
「まぁ、呆れた。夢見る夢子なんだから。……あっ、表に停めてあるのが例の車ね。
真っ赤なスポーツカー」
「奮発して買ったポルシェよ。やっぱり一級品の王子様を捕まえようと思ったら、女
のほうも見栄を張らなきゃね」
「勝負かけてるわねぇ。よし…私も負けずに格好良く都会へ出て行くか・・・家の金
持ち出して」
「それくらいの冒険しても良いかもよ。お互い勝負所ギリギリなんだから」
「まぁ、焦っちゃうわ。…それにしてもガランとしちゃって淋しい家…。家具だけ
じゃなくてワンちゃんも見かけないわね。あんなに可愛がってたのに、どうしたの
?」
「ジローは同級の山田君とこに押し付けてきたのよ。落ち着いたら引き取りに来ま
すって誤魔化して」
「じゃあ、もう飼わない気?」
「都心のマンションでしょ。動物は置けないのよ。だから可哀想だけど、残してゆく
ことにしたの」
「まぁ、ひどい。それに山田君はあんまり動物好きじゃなかったはずよ。ちゃんと面
倒見てくれるかしら」
「運を天に任すってとこかな。無理に都会に連れてったって最後は処分に困って保険
所行きがオチだし、田舎のほうが何とか暮らせるんじゃないのかしら、ふふふ」
「冷たいわねぇ。もう都会の王子様の事で頭が一杯って感じね」
「そりゃそうよ。ワンちゃんじゃ王子様には代えられないもの。さぁ、ポルシェの試
運転しながら、いさ゛都会へ!」
「カッコいいなぁ。私もちょっと街までお供させもらおうかな…」
 友達同士、足の向くまま田舎家を出立すると、舗装の無い山道に砂煙が舞い上がっ
た。
「おい、ジロー。カッコ良い車だなぁ。街の金持ちが乗ってるのかなぁ」
「そうだろうな。羨ましい暮らしだなぁ」
「それに比べ、俺達は野良犬になりかけの身の上だ。新しい飼い主にも馴染めない
し」
「しょうがないよ。相性ってもんがあるからな。それに僕にはケイコさんっていう本
当のご主人様が居るからね。よく夢に見るんだ。…あんなカッコいいスポーツカーに
乗って颯爽と迎えに来てくれる優しいご主人様の姿を……」
  ――――完―――

2002年09月23日23時49分22秒投稿

S.S☆「捨て犬−1」☆     あや太郎

「あぁ、怖かった…」
「どうしたんだい?」
「野良犬が追っかけて来たのよ。噛まれるかと思ったわ」
「そりゃ危ない。病気を持ってるかも知れないし、気をつけなきゃ」
「怪我させられて、狂犬病まで移されちゃたまらないわ。ここらは野良犬が多いか
ら」
「捨て犬の溜まり場なんだ。住宅事情が悪いからね」
「何だか物騒ね。ホント、怖いわぁ」
「まだ町の一部だから良いよ。もっと怖いのは、これが社会全体の
問題になることだな」
「社会全体って?」
「犬や猫や色んなペットを今の調子で人間が捨て続けると、その数が増えるだけじゃ
ない。捨てられた動物達の恨みが積もり積もって、いずれ人間に復讐を始めるかも知
れない。その時が本当に恐ろしい時さ」
「何だかSFホラー映画みたい。何だか捨てられたペットが怪物に見えてくるわ…」
  − − −
「あぁ、怖かった…・もう少しで大怪我するとこだった」
「どうしたんだい、若い衆」
「うん。さっき公園で餌を漁ってたら、昔の飼い主に似た女の人が居たんで、もしや
と思って近づいていったら、悲鳴をあげて、石や棒を投げつけるんだよ、当たったら
大怪我するとこだった。あぁ、危ない……」
「そりゃあ、噛まれると思ったんだろうな」
「どうして?ボクは歯を剥いたり唸り声を上げたりなんかしてないのに」
「人間の側に、ペットを捨てたっていう後ろめたさがあるからさ。だかに、どこかで
仕返しされるっていう妄想が拭えないんだ。可愛い子犬や子猫を見てもビクビしてし
まう。不幸な話さ」
「そうなのか…。でもそう考えると人間って怖いねぇ。その時々の都合で可愛がった
り警戒したり、ペットにしたり敵視したりするんだから」
「すべては身勝手な被害妄想と行き過ぎた猜疑心から来るんだろうな。そして何より
怖いのは、捨てられても捨てられても、飼い主の事を忘れきれずに、また迎えに果て
くれるんじゃないかと待ちわびてる……そんなペット達が居ることを忘れている人間
たちの心さ」
  ―――完―――

2002年09月22日22時27分49秒投稿

S.S☆「お白州にて」☆     あや太郎

「東海屋、表を上げい」
「ハハー…」
「その方、大店の主を装い、日夜押し込み強盗を働いていたと調べがついておるが、
左様相違ないか?」
「とんでもない。私はまっとうな商人。そんな恐ろしい事はした事がありません」
「その方の手下どもも捕まり自白しておるぞ。神妙に白状せよ」
「してない事を白状する訳には参りません。何か確かな手証でもございますので?」
「いや、それは…」
 実は物証がなかった。
「それに、今回の押し込み一味のカシラは丸坊主頭と言うではございませんか。私は
このようにちゃんと髷(まげ)を結っております。せめて坊主頭と証明してから…」
「ならば、その髪を引っ張ってみようか」
「その前に−−−当方は尾張大納言様ご用達の店。その点、ご配慮下さいますよう」
 髷を掴むなどはこの時代に在って屈辱的な仕様−−迂闊な真似はするなよと威嚇し
ているのだ。
「ふーむ…」
 奉行も考え込んでしまったが、何やら一計を案じた。
「分かった。今日の調べはこれまでとする。また調査の上、追って沙汰する。帰って
よろしい」
 どうだ…と言わんばかりの笑顔で東海屋が立ち上がり背を向けた途端、奉行の鋭い
声が響いた。
「待て、東海屋!」
 東海屋がギョッとして振り向くと−−
「ほぉれ−−−マゲが後ろ前になっておるぞ」
                  (完)

2002年09月20日23時15分33秒投稿

S.S☆「清純派」☆     あや太郎

 映画大作がクランクインし、ヒロインに抜擢されて一躍話題になった清純派女優が
制作スタッフともども完成披露会見に列席した。
 フラッシュライトを浴びながら女優が登場すると、早くも後ろのスクリーンに作品
のメイキング映像が映し出された。今様にテンポの良い演出である。
「世間の注目を受けながらの撮影で、大変だったでしょう?」
 画面と彼女を交互に見ながら、司会役の映画解説者がにこやかに訊いた。
「ハイ、夢中で何が何やら分からないうちにクランクアップしていました」
「なるほど、忙しいので却って疲れる間がなかったのかも知れませんね。全編を通じ
て最も印象的なシーンといいますと、どのあたりでしょう?」
「はい、やはりヒーローとの出会いのシーンです」
「と言いますと、ちょっと話題になっている際どいシーンですね?」
 紳士風だった解説者も一瞬ニヤケながら訊く。
 暴漢に襲われている所をヒーローに救われ、そのあとラヴシーンという下りなのだ
が…「でも、気がついたら終わっていたという感じで、細かい事までは…」
「本当ですかぁ?かなり激しい場面だって聞きましたよぉ?」
 背後のスクリーン上ではその暴行シーンが始まっていた。
「これは凄い−−泥まみれになって、あの巨漢の悪役に押さえつけられたりして…」
「本当に夢中でしたので、良く覚えてはいないんです」
「なかなかヒーローが出てきませんねぇ。おっ…これは凄い。服を破られて胸もあら
わじゃないですか!これは予告編にも無いシーンだ」
「ハイ、ちょっとした手違いで、揉み合いになってる内に…。本編ではカットされて
ると思います」
「これは得をしました。ふむ、まだ暴行シーンが続いている。あっ、何と下着まで破
られた。しなやかなヒップラインが…」
「これも手違いで−−本編ではカットされてます」
「そりゃそうでしょう。清純派女優にこんな場面は似合わない。まだヒーローが助け
に来ませんね。おおっ…何と暴行していた悪役が本気になった。全裸のあなたの上に
乗ってますよ?」
「ハイ、ちょっと勢いが付きすぎて…。私も改めて見て驚いてます」
「おおっ、おおっ…それどころじゃない。これはどう見ても本番だ。おいおい、無茶
するなよ。こんなの写して良いんですか?」
「本当に驚きました」
「ここでやっとヒーロー登場か…。悪漢を引き離して、ようやく救い出した−−。こ
んな手遅れのヒーロー、知らないよ」
「ハイ、着替えに手間取って、本番に遅れたんだそうです」
「本当に、本番に間に合わなかったようですな。でもこんな事までやっちゃって、あ
なたのイメージはどうなるんですか?」
「大丈夫だと思いますわ。公開の時にはカットされてますから」
「絶句…」
                  (完)

2002年09月19日23時18分16秒投稿

S.S☆「スーパーマン」☆     あや太郎

 世界屈指の大都市・メトロポリス。そこに林立する高層ビルの間を一人の男が飛び
回っていた。言わずと知れたスーパーマンだ。今日も難事件を解決し、現場から飛び
去ろうとしていた時、一人の科学者が呼び止めた。
「スーパーマン−−ひとつだけ教えて欲しい事がある。お願いだ」
「はて、何だろうか?」
「あなたが空を飛べるその秘密を教えてくれまいか。見たところ推進装置は付けてな
いし、念力で飛んでいる訳でも無さそうだ。一体どんな原理で飛んでいるんだね?」
 純粋に学問的な興味らしい。
「おっしゃる通り、ジェット噴射でもなければ念力でもない。単なる肉体のパワー−
−−つまり筋肉の力でエイヤっと飛び上がるだけなんだよ。あとはこのマントで上手
く風に乗ったり方向転換するぐらいさ」
「何と…。筋力だけで空を飛んでいると言うのか?そりゃ短い距離ならジャンプして
ある程度は飛んで行けるんだろうが、地球を一周したり、途中でカーブを切ったり…
そこまで出来るなんて到底信じられない」
「信じられないかも知れない。しかし身体のパワーで飛んでるとしか言いようがない
ね。それでは失礼…」
 スーパーマンは例の如く軽く助走すると、力強く大地を蹴って鮮やかに空へ向け飛
び上がって行った。
「不思議だ…。どうにも物理法則に叶っていないような気がする…」
 科学者が悩んでいると、どうした事か今飛び去ったばかりのスーパーマンが舞い
戻って来て、降り立つなり言った。
「忘れてたよ。ジャンプと風のほかにもうひとつコツがあった」
「そうだろう?どんな方法なのか教えてくれ」
「飛び立つ時、思い切り大地を蹴るんだが…その時、反動で地球が逆方向に回転する
んだ。その分、距離を稼げるという訳さ」
 唖然とする科学者を残し、またスーパーマンは力強く大地を蹴って飛び去った。
                  (完)

2002年09月18日23時32分21秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

9月14日 TORII HALL「第四次 雀三郎みなみ亭」

出し物

●「延陽伯」     桂 雀太
●「くっしゃみ講釈」 桂 雀五郎
●「元祖神だのみ」  桂 雀三郎

 中入

●「田楽喰い」    桂 雀喜
●「天王寺詣り」   桂 雀三郎

トップバッターの雀太さんは、荒削りの段階迄も到達してない原木の状態。
その中に一点の灯りが…見えんな。
後々良ぉなる人は、大概なんかしらあるもんなんですけどね。
今暫くは半端な受けより噺をきっちり演じる事の方が大事なんやないでしょぉかね。

最初に聴いた時に仄かな灯りがちらっと見えた雀五郎さん。
が、この日の「くっしゃみ講釈」はもぉひとつでした。
何時も最低一箇所は爆笑させてくれはるのにね。
第一くしゃみが出来てないんですな。
文字で書いたよぉな、とでも言いますか。
この噺の核が不出来ではどぉしょぉもない。
クライマックスの苦しみ乍らの講談の場面も然程盛り上がらん内にさっさと通過。
言葉とくしゃみの境がはっきりし過ぎなんですな。
もっと両者が混然とならんければいけません。
実際どんな具合になるか、一遍トンガラシ焼べて経験しはらんとね。
何にしても全体的に乗り切れて無い感じでしたな。
先月で(内弟子を?)卒業しはったそぉです。
いずれ御自分の会も持たはるでしょぉ。
先々のお楽しみが増えたとしときます。

という訳で、テンションアップせん中に登場しはった雀さん。
「元祖神だのみ」の枕は、世の中期待通りの結果にならん事があるという内容。
落語の場合も然り。
思ぉた程面白ぉない時もある…と。
やっぱり前の二人を気にしたはるんですな。
この噺は輝けるシリーズ一作目。
17年前、85年9月12日初演やそぉです。
神さんという、存在を確認しよぉの無いもんをベースにしてる処が味噌ですな。
テーマに持続力が有ります。
社会の形態は変わっても、おそらく人類は永遠にこれと手ぇ切れんでしょぉからな。
言わば、人の弱味に付け込んだ小佐田センセの戦略的勝利。
ん〜、やっぱりただもんやないな。

お得意の「天王寺詣り」。
そぉ言えば、もぉじきお彼岸ですな。
四天王寺さんも書き入れ時で賑やかな事でしょぉ。
常々彼岸中にいっぺん寄してもらわんならんと思ぉてるんですけどね。
それが悲願じゃ…て、どぉ?この夏枯れ的駄洒落。
やつがれも夏枯れ…もぉええっちゅうに。

雀喜さんの「田楽喰い」は基本的な運び。
大抵演者さん独自の工夫が一つ二つ入ってるもんですけどね。
遊びが不足してた点が不満ですけど、お弟子さんの中では一番良かった。
弟二人をカヴァーして取りの師匠に渡さはりました。
さすが長男。

2002年09月18日14時32分02秒投稿

S.S☆「肖像権」☆     あや太郎

 南極の地下に、謎のトンネルが見つかった。
 探検隊が、その果てしもなく伸びる地下トンネルに入って行くと、地の底に巨大な
空間が広がっていた。しかも何とその中には世界中のありとあらゆる寺院、教会など
宗教的な建築物がぎっしりと立ち並んでいる。それは正に聖地の集合体と言えるもの
であった。
「こんな所に何故こんな遺跡が…?」
 一同が驚いていると、その建物の中からちょろちょろと人が顔を出したり姿を現し
たりしている。しかもそのほとんどがかなりの年寄りだった。
「人が住んでいるのか?どうも地底人ではなさそうだが−−−皆さんは一体どういう
民族なんですか?」
「民族?民族と言われても困るな。敢えて言うなら…神族かのぉ」
「神族!…という事は、みんな神様だとおっしゃるんですか?」
「そうじゃよ。ここは世界中の神様の吹き溜まり−−まぁ、姥捨て山みたいな所
じゃ」
 ヘラヘラヘラと他の神様も一緒に笑った。
「姥捨て山だなんて−−」
 捨てる神というのは聞いたことがあるが−−
「まぁこうして隠居所もあって生活には困っとらんがの、ハハハハ」
 そう言われると、地下の底に並ぶ建物はどれも金ぴかで、神々の服装もなかなかに
豪奢である。
「やはり神通力で造られたんですか?」
「いや、信者たちからのお布施や寄附金じゃよ。老後に備えて昔からコツコツ貯めて
おったんじゃ。宗教法人の制度があるお陰でずいぶん助かっとるよ」
 微笑ましいと言えなくもないが、探検隊の中の信心深い面々はちょっと腹が立って
来る。
「お布施や寄附金を使ってるだなんて−−幻滅しましたよ。そういうお金は信者や弱
者のために使うものだと思っていたのに、あまりにも打算的で失望を禁じえない」
「何を甘っちょろい事を言っとる。流行り廃りの激しい世界で、そんなきれいごとを
言ってたら、わしらこそ安心して暮らせん。それよりここへ見学に来たのなら拝観料
を戴くよ。泊まるのなら宿泊費は一万円から…」
「あぁあ、ヤだヤだ!夢も何もありゃしない。人類何千年の夢がぜんぶ壊れてしま
う。神様は言わば人間の理想なんだから、もっと自覚を持ってくださいよ」
「まだ青臭い事を言っちょるな。第一、我々が人間の理想だ手本だというのなら、昔
の神々のイメージを心に刻み、大切に守り続けたら良いではないか。いつまでもわし
ら任せにせず、自分らで理想を構築せよ」
 筋が通っている反論にちょっとビビったが、探検隊も負けてはいられない。
「そ、そんなこと言ったって、こんなに堕落した姿を見てしまったら、もう何を信じ
たら良いか分からなくなりますよ。昔みたいに怒りの神だ、戦いの神だと突っ張って
いてくれたほうが有り難みがあったのに…」
 これには神々のほうも内心ジクジたるものがあったらしい。
「隠居してからそう言われても辛いもんだ。それじゃどうかね−−我々の若いころの
あの毅然としたイメージを再現して永久保存しておくというのは。それなら老化する
事も堕落する事もないから、永遠の理想像として心の支えになるだろうが」
 何やらヘンな妥協案だが、まぁそれぐらいしか無いかという気もする。
「でも、それだと一部の神様は不都合なんじゃないですか。ほら、偶像崇拝を禁ずる
宗教があるじゃないですか。ああいう神様の信者はどうしたらイイんですか」
「ああ、それならもう大丈夫。期限切れだから。造ってくれてもバチは当たらんよう
になっとる。あれは我々の羽振りが良かった頃に、物真似をされるとたまらんから禁
止したものじゃ。つまり肖像権じゃよ。もうその肖像権の期限も切れた。今更誰も文
句は言わんから、せめて偶像の理想像でも造って励みにしてくれ。それにしても懐か
しいのぉ…我々が突っ張っておった時代か…」
                  (完)

2002年09月18日00時05分28秒投稿

S.S☆「しまった!」☆     あや太郎

 スーパージャンボ001便はLA空港を飛び立ち、早くもハワイ上空に差しかかっ
ていた。
「現在速度、時速2000マイル−−−順調に航行中」
 音速の三倍近い速度で飛ぶ二十一世紀の巨大旅客機は、三千人以上の乗客を乗せ、
一時間後にはもう小笠原上空を通過していた。
「スーパージャンボ001、順調に飛行中。三十分後には新成田空港に到着の予定」
「了解。こちらは多少天候の乱れ有り。注意されたし」
 新成田の管制塔にはいつもながらの緊張感が漂う。もう第一号機が飛んでから何年
にもなるスーパージャンボ機だが、あの高速と千人以上の乗客の安全を思うと、何回
受け入れても肩に力が入ってしまう。
「ボーソー半島が見えて来た。もう目と鼻の先だ。おい、例のヤツ頼むよ」
 陽気なアメリカ人機長が指を鳴らすと、スチュワーデスが熱いコーヒーを運んでき
た。 しかし半島の姿は間もなく霧と雲に消えた。関東近辺はかなり天候が悪いらし
い。
「ところが、いくら悪天候でもへっちゃらなのさ」
 口笛まじりで機長が計器をチェックする。全天候型の巨大ハイテク機は暴風雨や雷
を物ともせず、スイスイ飛びつづける。
「こんなひどい天気でも何の苦労も無しなんだから、人間思いのマシーンだぜ」
 今度は火の点いてないパイプをくわえながら計器類をチェックする。風の影響を受
けようが気圧に翻弄されようが、ハイテク機は自動的に微調整し、苦もなく元のコー
スに戻してしまう。かくしてスーパージャンボは厚い雲間を抜け、悠然と新成田の上
空に姿を現した。
「異状も無ければ、遅れも無し。管制塔−−着陸態勢に入ります」
「了解。最後の最後まで慎重に」
「もうこれ以上慎重にしようがないぜ。おや…どうかしたのか、マイク」
 パーサーがちょっと苦笑しながらコックピットに入って来た。
「いや、さっき雲の中でちょっと揺れたろう?あれで客の一部が怖がってるのさ」
「手のかかる客だ。よし、一丁ご挨拶しとくか−−」
 機長はサービス精神を発揮してマイクに向かった。
「さきほどは寝過ごすお客様が無いように少々揺らしましたが、もう空港は目の前で
す。すべて順調、異状なし。何のご心配もありません。あとは楽しい日本旅行をお楽
しみ下さい。それでは−−−あっ、しまった!」
 客席がどよめき、悲鳴が上がった。傍受した管制塔からはすかさず消防車と救急車
が飛びだす。
−−何が起きたんだ?−−
 一同が固唾を飲んでいると−−
「しまった−−−コーヒーが冷えちまったよ」
 001便が着陸した直後、駆けつけた救急車は、心臓発作を起こした何十人かの乗
客を搬送するのにてんてこ舞いだった。
                  (完)

2002年09月16日23時58分08秒投稿

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