過去のドンドコ掲示板
2002年09月01日〜15日

S.S☆「最期っ屁」☆     あや太郎

 現金輸送車が襲われ、ジュラルミンのケース数個に入った数億円の現金が強奪され
た。しかし警備会社と警察の捜索本部にはなぜか余裕の空気が漂っていた。
「けが人も出なかった事だし、現金ケースを奪われただけなら御の字ですな」
「むしろ理想的とも言えるような現金強奪ですよ。我々が開発した警備システムのテ
ストケースにも成りますからねぇ、開発部長」
「いやぁ、警備システムなんて大げさな物じゃないんですがね」
 開発を担当した研究者が照れた。
「単にあの匂い物質と噴霧器を仕込んだだけの事なんですから」
「強烈なんでしょうねぇ…その匂いというのは」
「そりゃあいわゆるイタチの最期っ屁と同じ成分ですから、あれをぶっかけられたら
タマらりませんよ。ケースを無理やり開けたら、あのガスが吹き出し、犯人と札束を
匂いで汚染してしまいますから、お札はちょっと使えないでしょうし、身体の匂いも
一週間やそこらは抜けない筈です」
「そりゃあ強力な防犯システムだ。匂いがきっかけになって犯人逮捕も早まるだろう
し、何より犯人を殺傷しないのが良いですな」
「いや、実はまだ初めての試みなので、不慣れな点があります。例の〔匂いの素〕の
分量も、効果が無いと困るので、かなり多めに入れておいたんですよ。さぞかし犯人
もクサイ思いをしてると思います」
「鼻が曲がって悶絶してるかも知れませんよ、ハハハハ」
 その時、犯人を発見したというパトカーから連絡が入った。
「只今、犯人を追跡中。物凄いニオイをばら蒔きながら国道○○号線を南へ南へ…捜
査本部の方向へ向かっています。…ついに捜査本部前まで来てしまいました。あっ、
車を下りてそちらの建物に入って行きます。…物凄いニオイだ。我々もうっかりとは
近づけません。…あ、とうとう対策本部室に飛び込んだ!皆さーん、大丈夫です
かぁ…」
                  (完)

2002年09月15日00時33分44秒投稿

S.S☆「謎の車」☆     あや太郎

 現金輸送車が襲われた。
 賊は警備員、運転手を皆殺しにし、逃亡した。
「犯行に使われた車は「QQの1234」−−見かけた方は至急通報下さい」
 テレビ、ラジオがひっきりなしに呼びかける。
 間もなく、車は検問にかかった。しかし凶悪な賊たちは銃撃戦の末、警官数名を殺
傷し非常線を突破してしまった。
「QQの1234のクリーム色ワゴン車は、多数の犠牲者を出しながら依然逃走中で
す。皆さん、お気を付けください  」
 郊外の国道で轢き逃げ事故が続いた。追跡したパトカーにはまた銃弾が−−あの強
盗犯に違いなかった。
「ナンバーQQ−1234に気を付けて下さい。見かけた方は至急通報を−−!」
 警察無線も放送電波も連呼を続ける。あちこちに痕跡を残し姿を見せながらも犯人
どもは度胸と運の良さでなかなかお縄にならない。
「QQ−1234はまだ頑張ってるのかな?」
 不謹慎なファンまで出る始末だ。
 今また某所の検問を破り、あざ笑うように犯人の車がさらなる逃走を始めた時、そ
の進路に忽然と一台の車が現れた。
 避けようと犯人が急カーブを切った途端、車は道路脇の土手へ転落、強盗どもは呆
気なくお縄となった。
「ちくしょう…あんな車さえ横切らなけりゃ…」
 悔しがる犯人をよそに、警察関係者たちは首をひねっていた。確かに車が進路妨害
したまでは目撃したのだが、その車の姿がまた忽然と消えていたのだ。
 後日。検問所のビデオカメラがその車の映像を捉えていた事が分かった。
「これが公開されたお手柄の車の映像です。心当たりの方はお申し出ください。警察
から感謝状間違いなしですが、おや?」
 ニュースキャスターは自分の目を疑った。何とその車車にはナンバーがなかった。
「続報が入りました。犯人が使っていたワゴン車のナンバーは、スクラップ置場に捨
てられてあった事故車から盗まれた物と判明しました。するとあの幻の車はひょっと
したら…?」
 それはどうやら自分に掛けられた濡れ衣を晴らすために化けて出た本家「QQ−1
234」らしかった。しかしそれを口に出す訳にも行かず、キャスターは苦し紛れの
コメントで締めくくった。
「尚、金一封は、交通遺児と捨てられた可哀相な車たちのために使われる模様で
す…」
                  (完)

2002年09月13日23時37分56秒投稿

S.S☆「蜂に刺されて」☆     あや太郎

「父さん。父さんはなぜそんなに身体が大きいの?」
「これはね…むかし蜂に刺されて、身体が腫れたんだよ」
「父さんはお顔も大きいけど、どうしてなの?」
「これもね、蜂に刺されて大きくなったんだよ」
「父さん−−父さんはお鼻も大きいけど、どうして大きくなったの?」
「だから言ってるだろ−−−むかし蜂に刺されて大きくなっちゃったのさ」
「父さんは鼻の穴も大きいね。これも蜂に刺されたの?」
「なに、鼻の穴?これは−−−これは、大きな蜂に刺された跡なんだよ」
                  (完)

2002年09月12日23時14分53秒投稿

S.S☆「病気のネズミ」☆     あや太郎

 とある国で、大統領選挙が行われていた。対立候補の支持率は正に国民を二分し、
ついに二人はテレビの討論番組で対決する運びとなった。
「では懸案の防衛費問題についておふた方のご意見をお聞きしましょう、どうぞ」
 司会進行役に促されて、先ず一人目の候補が口を開いた。
「私は、公約通り防衛費を大幅に削減します。我が国にそんな無駄遣いをする余裕は
ありませんから」
 極めて簡潔な見解だった。
 もう一人の候補は反対意見の持ち主である。
「私は、防衛費の増額は止むを得ないと考えています。我が国のように大国に挟まれ
た中規模の国家はやはり常に他国の侵略に備えねばなりません」
「ほーるほど−−しかし我が国の規模では、周囲の大国に対抗する軍事力を持つのは
無理じゃないですか。所詮ムダな抵抗という気もしますよ」
 司会者がクールに反問した。
「全面戦争では勝てっこありません。しかし抵抗する戦力が少しでも有るのと、まる
で無いのとでは大きな違いがあります。いわゆる針ネズミ理論ですよ、…本気で闘え
ば、針ネズミはライオンや虎には勝てっこありません。しかし虎やライオンのほうも
針で少しは傷つく訳ですから、よほど必要に迫られていない限りは襲って来ません。
たとえ僅かな抵抗力でも、それは充分防衛力や抑止力として働くのですよ」
 現実派の意見はかなりの説得力で視聴者を引きつけた。司会者はまた冷やかに、一
人目の候補者へ矛先を向けた。
「どうですか?−−この針ネズミ理論に対してご意見は?」
「実に無駄な出費ですな」
「おや…防衛費はやはり無駄遣いですか?」
「私なら、そんな無駄ガネを使わず、むしろ楽して遊んで、国家を侵略から守ってみ
せますよ」
「そんな虫のいい話があれば言ってみろ!」
 怒る二人目の候補を制して司会者がクールに聞き返した。
「実際、そんな旨い話があるんですか?」
「ありますな。先ず防衛費を廃止して、それで海外の商品を買い、なるべく働かずに
ローンや借金を作れるだけ作って、目一杯遊び暮らす−−−これが最も合理的な国家
防衛策ですよ」
「乱暴な事を…。そんな乱れた暮らしを奨励して、なぜ国家を侵略から守れるんです
か」「考えてもみなさい。よその国が侵略するという事は、その国から奪うべき物が
あるという事でしょう。逆に何も奪う物がなくて、ただ怠け者の国民だけがいる国な
ら、誰も侵略しようとは思いませんわな。下手すると借金の肩代わりまでさせられか
ねん。国民は気楽に遊んで暮らし、カネや食料はよその国に任せ、しかも大国は怖く
てウッカリ侵略もできん−−−これが私の〔病気ネズミ理論〕です」
「絵空事だ〜!」
「やってみない事には分からんでしょうが。しかも−−−軍事費を増やす方向にひと
たび進めば二度と再びそんな美味しい暮らしを経験するチャンスはありませんぞ。今
が唯一のチャンスではないですかな?」
 かくして、病気ネズミ理論の候補者は「唯一のチャンス」を活かし圧勝した。
                  (完)

2002年09月11日22時58分52秒投稿

S.S☆「風と太陽」☆     あや太郎

 一人の旅人が歩いていた。しかし一つ妙な事があった。日によって旅人の髪形と髪
の色が時々変わるのだ。それを空から眺めながら、風と太陽が囁き合った。
「あれはきっと…カツラだな」
「いや、植毛や増毛もあるぞ」
「いや、あんなに毎日ヘアスタイルを変えられるのはカツラしかない。一度正体を暴
いてやろう」
 風は向かい風となって、激しく旅人に吹きつけた。
 しかし旅人はしっかりと頭を押さえ、髪の毛はビクともしない。
「それでは吹き飛ばそうという意図が見え見えだ。旅人も意地になって髪の毛を押さ
えるから効果がない。どれ、わしが試してみようじゃないか」
 太陽は暖かい日差しを旅人に注ぎ、かぶり物を脱ぎやすくしてやった。
 しかし旅人はやはり用心深く、汗ばむほどの暖かさでも一向に髪形を変えようとは
しない。こうなれば太陽も意地だ。今度は少々暑い夏の日差しを浴びせかけてみた。
しかし依怙地な旅人はまだ我慢の子で、大汗をかきながらも脱ごうとはしない。
 かくなる上は仕方ない−−太陽は最大出力で炎のような陽光を浴びせ、旅人の頭を
照らした。ついに髪の毛に火がついて、さすがの旅人も大慌てで、カツラを脱ぎ捨て
た。
「苦労したカイがあった。やはりあれはかぶり物だったな」
「しかし愛想の無い中途半端な頭じゃのぉ。こうして暴いてみても大して面白い物で
はないわい」
「見ない内のほうが面白かったのぉ」
 そんな二人を忌ま忌ましげに見上げながら旅人が言った。
「あたりまえだ。秘すればハゲと言うではないか」
                  (完)

2002年09月10日22時23分07秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

相変わりませずお詫びと訂正。

9月9日投稿「ほんまち南光亭・ぞろぞろ」の感想文。
〈故・橘の円都師〉は〈故・橘ノ円都師〉の誤りです。
ごめん。
また、文中〈お経〉とあるのは〈念仏〉ですな。
「〈お経〉はおかしいやろ。
 気ぃ付かんかったのかえ?
 書き乍ら変やなとは思ぉた?
 ほな、一遍調べてから送ったらどないやねん。
 最近物忘れがひどいとか思い出したいもんが出て来んとか言うてる癖に。
 大体お前は昔からそぉいう奴っちゃ。
 俺は付き合い長いさかいよぉ知っとる。
 小心もんの割には、ま、ええかぁ…で済ませるっちゅうとこがある。
 早ぉ言うたらええ加減やねんな。
 世間舐めとるんやな。
 そんなこっちゃ何れ誰にも相手にされんよぉになってしまうぞ。
 侘びしぃい寂しぃい惨めぇな人生送らにゃならんぞ。
 ちゃんと焼いてもらえんぞ。
 ええ?分かっとるのか?
 こら、よそ見すな。
 わ・か・っと・る・の・かっちゅうてるねん!
 なんや、その目ぇは。
 その不貞腐れた態度はなんや。
 ははぁ、ひょっとしたら怒ってるな?
 けっ!一丁前に…。
 お前みたいな奴にそんな権利があるか、この社会不適応者。
 無駄に長い事息しやがって。
 お前なんかさっさと人生店仕舞いしてしまえ。
 それが世の為人の為じゃ、アホボケカスラッパ空気…おい、何処行くねん?
 まだ話は終わっとらんのやぞ。
 なんか持って来よったな…なんや?…わっ!包丁やないか!
 そ、そ、そ、それで俺を刺そぉっちゅうのか?
 ま、ま、ま、まって下さい今暫し。
 話せば分かる何事も。
 武力の行使はいけません。
 俺もちょっと言い過ぎた。
 反省してますねぇあなた。
 それもこれもお前の将来案じて…あぁ!た、助けてくれぇ!
 南無阿弥陀仏ぅぅぅぅ。」

2002年09月10日13時31分16秒投稿

S.S☆「桂馬を取れ」☆     あや太郎

 初めて将棋クラブに出掛けた。
 元々好きだったのだが、定年を迎え、暇が出来た今、ようやく行く気になった。
「将棋道場」と名付けられたクラブは、昼間という事もあって年配者ばかりだった。
大半は私より年上のようだ。それなりに自信のある私は、余りよぼよぼした年寄りは
避け、比較的カクシャクとした指し手を探した。
 禿頭、白髪頭の中に一人、黒々とした髪の人がいた。聞いてみるとかなりの腕前ら
しい。私は早速、手ほどきを受ける事にした。
「坂田三吉、端歩を突いた〜…」
 陽気な人で手を進めるごとに何かコメントする。私が飛車で横の歩を取ると、やは
りすかさず−−
「横歩、三年の患い」と来た。
「これが流行りのひねり飛車」と飛車を引くと−−
「一歩の得で、小商い」と歩を取っている。
 速攻を狙って桂馬を跳ねると−−
「桂馬の高飛び、歩の餌食」
 見かけはまだ若々しいが、結構年を食っているのかも知れない。
「千里の道も一歩(いっぷ)から」と、こちらも歩を補充していたら、敵が大駒を動
かしてきた。
「かくなる上は…馬、か」
 なるほど、角が成れば馬に違いない。
「それではこちらも…似て飛成るは龍」と下手な洒落を返してみる。
「玉の早逃げ、八手の得…じゃ」と、王将を避難させる。
 ところが逃げた方向には、さっき高飛びした桂馬が待っていたのだ。
「桂馬が成り込んで…王手ですよ」
 もう洒落を言っている場合ではない。勝負は俄然終盤に差しかかった。
「ふーむ−−成り桂の王手か…」
 取るほか無いのだが、妙に考え込んでいる。
「どうしたんだよ、早く取りなよ」
 観戦していた仲間が急かした。
「ちょっと待て。金で取るか銀で取るか、はたまた玉自らお出ましになるか…」
「王様の頭に成り金か−−どうも形勢は不利だな。何で取っても同じようなもんだ。
早く取っちゃいなよ、その邪魔っけな桂をさ」
 友人が冷やかす。
「いや、これは簡単にゃ取れない」
「どうしてだよ。どうしてその頭のケイが取れないんだよ?」
「長年かぶり慣れてるもんでな」
 そういう将棋指しの生え際が汗のせいか、ちょっぴりズレていた。
                  (完)

2002年09月09日23時13分22秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

9月6日 御堂会館同朋会館 「ほんまち南光亭」

出し物

●「ろくろ首」    桂 ひろば
●「おごろもち盗人」 桂 こごろう
●「千両みかん」   桂 南光

  中 入

●「つぼ算」     桂 喜丸
●「ぞろぞろ」    桂 南光

べかこ時代から数えて75回目。
初めの頃は毎月ネタ下ろししたはったそぉです。
無茶しますな。
今年は6月に芝居があったりしてほぼ1年振りの会となりました。
打ち出しの時に南光さんが
「今年もぉ一回やります。」
けど、会場出口でマネージャーさんが女性のお客さんに言うたはりました。
「今年中は無理ですねぇ。」
当然乍らこっちの方が信用出来ますな。
また来年。

今回のネタ下しは「ぞろぞろ」。
タイトルは知ってました。
内容についてはこの日聴いて
「あぁそぉそぉ、こんな噺やった。」
と、思い出した程度。
その昔、故・橘の円都師がやったはったらしい。
あんまり面白ぉなかった…て、いらん事言いなさんな。
その円都師から受け継いだのが故・歌之助さん。
遂に途絶えたか…と思いきや、なんと、こごろうさんが継いだはった。
南光さんが稽古つけてくれとなんぼ頼んでも断らはったそぉですな。
そら嫌やろぉね。
相手は自分より腕のある人なんやからね。
因に来月には九雀さんがやらはります。
なんや、他にもいたはるやんか。

お参りする人も稀な〈あかてぬぐい稲荷〉。
その側に老夫婦が営む万屋がありますな。
荒物中心に色んなもんを扱ぉてます。
が、肝心のお稲荷さんが衰退一途の状態では商いの方も推して知るべし。
商品と言えば、たわしやなんかがひとつふたつ。
入り口に吊るしたままの草鞋が一足。
ある日、爺さんがぼやきますな。
「儂ゃ毎日欠かさず稲荷に手ぇ合わしてる。
 そやのになんでこない御利益が無いのやろ。」
それを聞いた婆さんが語って聞かせます。 
日々幾度と無く〈南無阿弥陀仏〉を唱える信心深いお婆さんと、神仏なんぞなぁんと
も思わん因業な金貸しのお婆さんがおった。
前者は安らかな最期を迎え、後者は地震で家の下敷きになって死んだ。
閻魔の前に引き出されたふたり。
信心深いお婆さんは毎日唱えて山程になったお経を差し出しますな。
結果は地獄行きとなります。
対してもぉ片方のお婆さんはわずか一つだけ。
が、こちらは極楽へ。
なぁ〜んでか!
夥しい量のお経も、鬼共がそれを篩(ふるい)に掛けると尽く落ちてしもぉた。
つまり、どれだけ数を重ねよぉが単なる習慣・口癖のよぉな実の入って無いもんと、
たった一つでも崩れる家の下敷きになる寸前に我が身の罪業を悔いて出た〈南無阿弥
陀仏〉とでは値打が違う、という訳。
「お爺さんが毎日手ぇ合わしてるのも、気ぃの入ったない信心やないか。」
婆さんの鋭い洞察に目覚めた爺さん。
「そぉかもしれん。よし、今日は気ぃ入れてお参りしてこぉ。」
本心から祈願して帰って来ます。
やがて降り始めた雨の中を一人の男が草鞋を買いに飛び込んで来ますな。
一足だけぶら下がってる草鞋を抜き取ると銭を置いて出て行きます。
間を置かず、別の男がまた草鞋を買いに来ます。
「すまんこって…今売り切れたとこで。」
「なんや、この草鞋売らんのかえ?」
見ると、さっきと同じ場所に草鞋が一足吊り下がってますな。
いえいえ…と言うて売ります。
「歳はとりとぉないわい。二足を一足と見間違ぉてたんやな。」
するとまた一人、また一人と草鞋を買いに来ます。
そして、売れても売れてもそこにあります。
「婆さん見てみ。
 抜き取ってもすぐに上からぞろぞろと草鞋が下りて来るがな。」
ふたりはよぉやくこれが稲荷の御利益やと気付きますな。
筋向いに同じく流行らん床屋があります。
何時もの景色とは違ぉて次々客が訪れる万屋。
不思議な事に、皆が皆草鞋しか買わんのですな。
しかも一足の草鞋が後から後から現われて無くならん。
爺さんに話を聞いて
「それやったら俺も…。」
半分脅しに掛けるよぉな真剣なお参りを済ませて帰ってみると、なんと店の前には大
勢の客が待ってます。
喜び勇んで客の髭をあたる床屋。
が、剃った後から髭がぞろぞろ…。

おそらく元は民話かなんかでしょぉな。
面白い噺です。
南光一門のネタに育つかもしれませんな。
九雀さんにも合うと思いますけどね。
〈あかてぬぐい稲荷〉は実際に存在するそぉですな。
この〈あか〉は〈赤〉か〈垢〉か…。
謂れは幾つかあるよぉですけど、面倒なんで書きません。
知りたい人は勝手に知りなさい。

「千両みかん」は出来るだけコンパクトに…という姿勢が見えました。
番頭が八百屋を訪れるシーンは最初の一軒だけ。
みかん問屋での経緯の説明は、主人が聞く仕草でのみ表現。
確かにこの辺りには重複する部分がありますからな。
テンポは良ぉなりました。
ただ、鶏屋での磔の話をカットしたはったのは勿体無い気がします。

こごろうさんの「おごろもち盗人」、喜丸さんの「つぼ算」は力通り。
それぞれ手慣れたネタで安心してられました。

ひろばさんの「ろくろ首」。
相変わらず客席はシーン。
掴みに工夫の後がチラッと見えたよぉな…。
工夫やとしたらですけどけどね。

2002年09月09日17時25分08秒投稿

S.S☆「生き過ぎ」☆     あや太郎

 とある昼下がり、私は不意の待ち時間を潰すため、公園のベンチで一服していた。
 手持ちぶさたなものである。暇つぶしの用意もしていなかったので僅かな時間が退
屈でしょうがない。ゆっくり休もうというほど疲れてもいないし、妙な気分のもの
だ。
 隣のベンチにもアクビをしている年寄りが一人座っていた。そのアクビが移ったの
を切っかけに何か話しかけてみることにした。
「不意の待ち時間が出来ましてね−−これも手持ちぶさたなもんですね」
「そうでしょうな。退屈な時というのはやたら長いものです」
「楽しい時や忙しい時は、いくら時間があっても足りないぐらいなのにね」
「充実してる時は、アッと言う間に時間が過ぎるが、退屈な時や苦しい時はいつまで
経っても時が過ぎない−−長く生きてみて良く分かりましたわい」
「不躾ですが、今までの人生は長かったですか?それとも短かったですか?」
「残念ながら…長かったですな。お恥ずかしい話だが、凡そ出来の良い人生ではな
かったので、人一倍長く感じますよ。七十年ほど生きただけなのに、その倍ぐらい生
きてるような…くたびれた年寄りですわい、ハハハハハ」
 余裕とも侘しさとも取れる笑いで老人が答えた。
「確かに、仕事が充実してる時は、しんどいながらも時間が早く過ぎるような気がし
ますが、イヤな仕事をさせられてる時は、時間がちっとも過ぎて行かない−−上手く
行かないもんですねぇ」
「全くその通りですな。だからワシも良く思うんですわ−−時が早く過ぎて行く人生
のほうが幸せだとな。つまり一生がアッと言う間に終わる人は幸せって事ですよ」
「でもそれだと物足りないでしょう。多少は楽しくてもアッと言う間に終わっちまっ
たら淋しいですよ」
「だが、長くて長くて、いつ果てるとも知れぬ人生よりはずっと幸せですよ。一番良
いのは楽しい事が多くてアッという間に終わる人生。次に良いのがほどほどに幸せ
で、ほどほどに不幸で、ほどほどに長い人生。最悪は長くて苦しい人生」
「長くて、楽しい事ばかりっていう人生は無いですかね」
「それは絶対矛盾ですな。楽しい時間はアッと言う間に過ぎるという法則がある限
り、それは無理というもんですわ、ハハハハ」
 なるほど、さすがは年の功だ。それが人生という物かも知れない。
「歳を経ると良いもんですね。そちら様ぐらいになると人生を達観されている」
「いやいや、そんな穏やかな心境ではないですよ。あちこち病気を抱えていながら、
なかなか死なない厄介な年寄りですからな、毎日が長くてね。死ぬことより、死ねな
い事が怖くなってくるもんですよ」
「そんなに日々が長く感じられるものですか?」
「感じますなぁ。いつまで人生が続くのかと思うとうんざりしますよ。実際いつに
なったら終わりが来るものやら。ひょっとしたら、私が生きてる間には終わらないの
かも知れませんなぁ、ハハハハ…」
                  (完)

2002年09月08日23時20分57秒投稿

たかさごの穴子

今日は、我が街の市議会議員選挙の投票日でした。
私も午前中に母と一緒に近くの小学校まで投票に行ってきました。
そこで、私は投票を終えて、向こうは今から投票にという同級生ファミリーに出会い
ました。
でも、選挙っていうシチュエーション…何か普通の会話をするのも憚られる雰囲気
で、彼の方から「おはよう」と言ってくれたので、私も「おはよう」とだけ返しまし
た。

ところで、同級生の彼のファミリーと書きましたが、同級生の彼・彼の奥さま・彼の
息子さん・そしてそして彼の息子さんのお嫁さんです。
男性にしては結婚が早かった彼の息子さんも、それ以上に結婚が早かったのです。
息子さんにはまだ子どもさんはいないと思うのですが……彼がおじいちゃんになる日
も近いのでしょうね。
彼と私は小・中学校が一緒だったのですが、小学校の頃からモテモテだった彼。今も
当時の面影のままカッコイイ人です。
でもすぐに「おじいちゃん」になるのかぁ〜〜(しみじみ)。

こっちは、まだ今から恋愛しようとしてるのに…(えっ?荒唐無稽なこと言うてる?
私…)

2002年09月08日12時11分24秒投稿

替え歌コーナー     あや太郎

先ずは平井賢も歌っている『大きな古時計』です……
♪大きな ノックの 古ロセン
  おじいさんの くせに〜〜、
百年 休まず、悪さをしてた、
 困りものの ロセン。
♪府知事選に 勝った時から
  ブレーキが 外れて〜〜、
 後は もう 止まらない
  あのビョーキ〜〜。
♪選挙の時には……セクハラセクハラ、
  謹慎してても……ゴソゴソゴソ……
 今も きっと やっている、
  あのローセーン〜〜。

続きましては、もっと危ない爆発物を
 「島原の子守唄」で……
♪あれま、びっくり、びーっくり、
  ヒビだらけ〜の シュラウド〜〜。
 東電だーけーで〜〜は、
あるま〜い〜が〜〜。

オマケは日ハムです・・・
 桜田淳子「私の青い鳥」でーーー
♪オオコソ どこへ……クック、ク・ビ?
  わやくちゃ 創業者〜〜。
  故意にする 事にしちゃ、セコ過ぎる〜〜。
 そよ風 吹けば……クンククンクン。
  燻製の香です〜〜。
   どんな肉 使っても、よう分らん〜〜。
 「どうぞ 逃げないで、日ハム・ファン」
   減ったら困るほど、たくさん観客 居たっけ? 
  も〜とも〜と、も〜とも〜と、
   閑古鳥〜〜。

(代書:穴子 相変わらずお見事です〜)

2002年09月07日23時13分21秒投稿

S.S☆「犯人の特徴」☆     あや太郎

 ワイドショーもたけなわの昼下がり、臨時ニュースが一本、飛び込んできた。
「…市内、中央区の××銀行に強盗が押し入り、現金数千万円を奪って逃走中です。
犯人の特徴は中肉中背、サングラスを掛けており髪の毛は…金髪!」
 他のコメンテイターたちも色めきたった。
「金髪って事は…外国人ですかね?」
「いや、近頃の事だから染めてるかも知れないし、変装のカツラかも…」
「それにしても目立つ恰好ですねぇ。…と言う事は、逆にサングラスとカツラを取っ
たら、目印が無くなる訳ですか」
「逃走に乗り物は使ってないんですか?」
「バイクで逃走した模様ですが−−−おっ、バイクは近辺で乗り捨てられてあったそ
うです。そのあと、自転車で逃走する金髪、サングラスの男が目撃されています」
「おや…恰好は同じですね」
「いや、油断はなりませんよ。似たような恰好をした仲間が陽動作戦を取っているか
も知れないから」
「続報です−−−川べりに自転車と現金を詰め込んでいたバッグが捨ててあったそう
です。そして現場からは金髪にサングラスの男が逃走するのを…」
「これはやはり怪しい。どう見てもオトリを使っている。犯人は違うルートで逃げて
いるのでは?」
「そうかも知れませんね。ただ、このオトリを捕まえれば犯人逮捕につながります。
警察は両面から追っているものとみられます。…お、また続報です。現金入りのバッ
グを持った男が海辺の倉庫に逃げ込み、鍵をかけて籠城している模様です」
「馬鹿ですねぇ−−−倉庫になんか立てこもっても時間の問題なのに」
「いや、ここでもまた身代わりと入れ代わっているかも知れませんよ」
「しかし、男は突入した警察官に取り押さえられ、あっさりと逮捕さた模様です」
「怪しい。果してオトリなのか、またはオトリのオトリなのか…」
「真犯人が分かるまで予断は許されません。まだ皆さんの近くに真犯人が潜伏してい
るかも知れませんから、視聴者の方々もご注意を」
「あっ、続報が入りました。−−バッグには強奪された金が入っており、一件落着で
す。尚、髪の毛は染めたもので極フツーの日本人のようです」
「なーんだ−−それなら何でそんな派手な恰好をしてたんだ?てっきり捜査を巻くた
めの陽動作戦だと思ったのに…」
「また続報なんですが、犯人は…これだと目立たないだろうと思ったんだそうです」
「なるほど−−それが今のファッションか…」
 コメンテイターのお歴々がそれに気づいた事が、この事件の教訓であった。
                  (完)

2002年09月05日23時02分18秒投稿

S.S☆「火の玉」☆     あや太郎

 とある病院でまた怪奇現象が話題になっていた。
 夜な夜な病室に「火の玉」のような物が出るというのだ。
 例の如く、その病室で死んだ患者の霊魂では…と、まことしやかな噂が立つ。
 放ってもおけず病院側は大学の研究室に調査を依頼した。
 物理、化学、異常気象の専門家が病室に張りつく。するとその目の前を、確かに何
か白い影がフワフワと横切って行った。
「何か…見えてる事は確かだな」
「一回しか飛ばなかったのでデータが足らないが明日は採取を試みてみよう」
 次の夜、またしても火の玉らしき白い影が忽然と宙に現れ、フワフワ彷徨ってい
た。しかし捕虫網での採取は空振りに終わった。
「網では引っ掛からないようだ。実体は無いのかも」
「いや、何かのガスという可能性もある」
 翌晩は掃除機を改造した吸引装置で迫った。ふわふわと浮いている火の玉を吸い込
もうと必死で追ったが、火の玉は逃げるでもなく、まるで立体映像のようにすり抜け
てしまった。「文字通り掴み所がない。撮影したデータをもう一度吟味してみよう」
 それは確かに「火の玉」のイメージではあった。
 しかし「火」というには少々輝きが弱いし、炎の揺らめきも見られない。ぼんやり
光っている白い影といったところだった。
「火力の弱い火の玉かな?」
「火の玉に火力なんてあるのかね」
「もし心霊現象だとしたら燃料は要らないだろうな」
「影の薄い魂って事か?」
「どうも学問的な仮説じゃないねぇ」
 その後も十日近く観察と調査は続いたが、何の進展も無い。火の玉らしき物は相変
わらず毎夜一回ずつ現れ、薄ぼんやりと輝いて、ふわふわと消えるだけだった。
「影の薄い人の霊魂かな?」
「電池切れの小型UFOかも」
「新種の妖怪じゃ…」
 好き勝手な事を言っている学者たちに病院関係者がムッとして言った。
「いいかげんにして下さいよ。もう少し真面目に原因究明をしてもらわないと困る」
 しかし学者たちは苦笑しながら答えた。
「そんな事でも言ってないと、こんな退屈な調査、やる気が続きませんよ」
「退屈な調査とは心外な。病院にとっては大問題ですぞ、患者も安心して治療に専念
できない」
「だって、これだけ毎晩そばに居たって何ともない−−つまり人畜無害な火の玉なん
ですよ。危険な測定結果は何も出ていないし、こんな火の玉、出ても出なくても影響
ないじゃないですか。それにむしろ有効な使い道がありますよ。もし治療ミスでも
あった時は…幽霊のせいにすれば良いじゃないですか」
「なーるほど−−」
 かくして謎の火の玉はこの病院の名物としてその後も何となく出つづけたという。
                  (完)
2002年09月04日23時23分48秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

8月31日 ワッハ上方演芸ホール「吉朝・千朝サマージャンボ落語会」

出し物  

●「十徳」   桂 まん我
●「遊山船」  桂 吉朝
●「高津の富」 桂 千朝
 
 中 入

●「江戸荒物」 桂 千朝
●「深山隠れ」 桂 吉朝

豪華顔合わせにも拘らず、入っても3分の2程度やったこの会。
今回はなんと超満員。
吉朝さんが
「我々もよぉやく売れて来ましたか。」
ひょっとしたら向いのNGKが一杯やったのかな?
なんにしても結構な事ですな。

「深山隠れ」は珍しい噺。
米朝師匠と無気味な露の五郎さんでしか聴いた事ありません。
荒唐無稽なストーリー展開が楽しいですな。
「爺は山へ柴刈りに、婆は川へ洗濯に。」
これは必ず枕で振っておかにゃなりません。
でないと、落ちがそこいらを勝手にふわふわ遊泳しますからな。
それでも〈しょぉ〜もない〉と言われかねん代物。
落ちの後で吉朝さんが
「申し訳ございません。」
そこに行き着く迄の段取が結構長いんで、ここでは説明しません。
おそらく〈なぁ〜んや〉で仕舞いやろぉしね。
機会があったらぜひお聴き下さい。
ほんま、笑いまっせ、阿呆らしゅうて…。

お手のもんの「遊山船」。
喜六が橋の上から川面の様子を覗く場面で、思わず出た咽を絞るよぉな感嘆の声。
「そんな南光みたいな声で…。」
こんなくすぐりは嬉しいですな。
清八が稽古屋の船に声を掛けます。
「さっても綺麗な碇の浴衣(模様)。」
「風が吹いても流れんよぉに。」
これが、本来の形。
吉朝さんは
「川に落ちても流れんよぉに。」
言葉の上では〈風が吹いても〉の方が綺麗です。
〈川に落ちても〉ではあまりにイージー。
けど、声を掛けられた方は間髪容れぬ即興性を要求されてる訳ですから、目の前にあ
る〈川〉を持って来る方が自然ですわな。
移動する船と見送る橋の上。
ほん僅かな接点で交わされる言葉遊びですからな。
深い意味とか大向こう唸らす表現は不可能でありまた不必要。
という解釈やと思います…たぶん。
下げ前、喜六がかみさんに無理矢理引っ張り出させた碇の浴衣。
思いっきり汚れてますな。
「なんや、染みだらけやな。イカリだけにソースの染み…。」
こんなんもありました。

千朝さんの2席は、共に今年3月29日の「千朝落語を聴く会」での出し物。
枕を含めてほぼ同じ構成でした。

「高津の富」。
安定感に切れ味がプラスされてとっても美味。
言う事おまへん。
そぉそぉ、最近あのオーバーな手の動きが少のぉなって来ましたな。
噺によるんでしょぉか?
はたまた、腕が上がらんよぉになってきはったんやろぉか?

今回も炭屋の親っさんが登場せんかった「江戸荒物」。
普通、最初に訪れる近所の人と江戸っ子との間に登場します。
やっぱり煩わしいと思ぉたはるのかな?
江戸っ子との対比として面白い存在やと思いますけどね。
まぁ確かに、江戸っ子と女子衆で緩急は出来てますわな。
テンポ良ぉ運びたいのやったら、省いた方がええ場面かも知れません。
けど、あの〈獣め!〉は惜しい。

まん我さんはキャリアの割には上手い人。
が、現状それが邪魔してるよぉな処もありますな。
お楽しみはもぉ少々先に持ち越しという事で…。

後ろの席のカップル。
ほんまに可笑しけりゃ何処で笑ぉていただいても結構ですけどね。
そないのべつ幕無しにだらだらと笑えるか?
しかも、ここっちゅうとこでは反応無し。
「ちょっと笑い過ぎかな?」
やて。
まぁ、怒ってるよりはええとしといたろ。

2002年09月04日13時09分55秒投稿

S.S☆「楽して貧乏」☆     あや太郎

 人気絶頂の女性グループが居た。
 出す曲はコンスタントに売れ、CMからドラマまで好調である。
 今日も今日とて芸能記者がインタビューに訪れていた。
「これだけ売れると、みんなガッポリ儲けてるんだろうねぇ?」
 ありきたりのゲスっぽい質問で切り出した。
「給料制だからそんなに貰えないんですよ」
 リーダーがあっけらかんと答えた。
「じゃあ貯金はまだ余り無いの?」
「私なんかぜーんぜん。ちょっと着る物に使ったら、もう残金ゼロだもの」
 愛嬌のあるサブ・リーダーが言った。
「他の二人も同じなのかな?」
「うん。あれだけ働いてるのにね。ピンハネされてるのかなぁ?」
「私は、歌ったり踊ったりできるだけで幸せよ」
 キャーキャー笑い合って屈託が無い。
「でも貯金が無いってのは不安じゃないかい。こんなこと言っちゃ何だけど…」
 人気は水物、いつまでも売れているとは限らない。
「他の人達はどうしてるのかなぁ。先輩たちはみんなしっかり蓄えてるのかしら」
「いや、売れてる間に貯金できる人なんて少ないようだよ。落ち目になった時には一
文なしなんてザラだからね」
「ヤだぁ−−こんなに忙しい思いして働いてるのに大したお金も貯められないなん
て」
「でも、これだけ働いてるのに、現に私たちは貧乏してるんだから、やっぱり儲から
ない仕事なのよ」
「悲しいなぁ。それじゃ仕事が無くなったら、いよいよ大変ねぇ」
 心配する彼女たちに、記者が気をきかせたつもりでこう言った。
「そんな事もないよ。だって今は、死ぬほど働いて貧乏なんだろう?」
「ええ、そうよ」
「売れなくなったら仕事はしないで良いんだから…楽(ラク)して貧乏できるじゃな
いか」                  
(完)

2002年09月03日23時52分28秒投稿

S.S☆「バーチャル愛人」☆     あや太郎

 男が自分の書斎で、愛人とイチャイチャしていた。今夜は妻が同窓生たちと海外旅
行に出掛けたところだ。亭主としては安心して遊べる貴重なチャンスだったのだ
が……
「あなた……何をしてらっしゃるの!」
 何とした事か、書斎のドアが開き、妻が仁王立ちになっていた。
 キャッと叫んで愛人は裸のまま中庭へ飛び出し、そのまま裏門から逃げだしてし
まった。
「お、お前……旅行に行ってたんじゃなかったのか?」
「何言ってんのよ。台風で飛行機が飛べないってニュースも見てないのね。その間
に、女の子を連れ込んで浮気してるだなんて!」
「いや、待て。何も怒る事は無い」
「まぁ、なんて厚かましい。どういう神経なの?」
「そりゃ、僕が本当の愛人を作って遊んでたんなら怒りを買って当然だ。しかし今キ
ミが見たのは生身の人間じゃない。コンピュータが作りだした映像なんだぜ」
「コンピュータの映像ですって?」
「そうなんだよ。今流行りのバーチャル愛人さ。近頃は画像技術も進んで三次元立体
映像ともなると実にリアルだ。いや、キミが本物と見間違えたのも無理はない。そん
な虚像と遊んだだけで、そこまで怒られるとは心外だよ。いや、確かに趣味が良いか
どうかは別の問題だし、キミがどうしてもヤメろと言えばヤメても良いんだがね」
 男は驚くほどの平静さで、そう答えた。
「信じられない話だわ。だって、裸であなたのそばに寝そべっていた女が、私の顔を
見て、叫び声を上げながら逃げだしたのよ。いつもゲームをやってるそのパソコンが
作った映像が、そんな自由自在に動き回れるのかしら?」
「そこらは技術の進歩だな。ウソだと思ったら彼女の足跡でも調べてみなよ。女がい
た痕跡なんかどこにも無いと思うよ」
 なるほど、遺留品も無いし、毛髪の類も俄には見つからない。外は台風の雨足が激
しく、足跡も何も調べようがなかった。
「でも……匂いは隠せないわよ。微かだけど女の子の匂いが残っているわ」
「それは…合成臭だよ。コンピュータが作って、このスピーカーから音と一緒に流す
んだ。どうだい、近頃のバーチャル・ゲームはリアルになったろう?」
「怪しいとは思うけど……本当にそんなリアルなゲーム、あるの?」
「有るさ。現にキミは今さっき見たじゃないか」
「そうお?じゃあ、もう一度、その映像を見せて頂戴よ」
 機械音痴の奥様でも、再生機能ぐらいは知っていた。
「えっ、もう一度?いや、あの、同じ映像は無理だよ。だって、今逃げて行っちゃっ
たろう。もうコンピュータには残ってないんだ」
「あら、メモリーには残ってるんじゃないの?」
 メモリー機能まで知っていた。
「い、いや、昔の機械はそういう機能があったんだ。しかし今のはリアルになってて
ね。特にゲームの場合は一度失敗すると、映像も作品も消えてしまうんだ。それを再
現しようとすると、また最初からやり直さなければならない。僕の場合だって、ここ
まで来るのに半年近く掛けたんだからね。もう一度やり直すなんて大変さ、ナハハハ
ハ」
「それじゃもう一度半年でも一年でも掛けて再現してよ。そうすれば信じて上げるか
ら。もし再現できなかったら、全部ウソだったって事になるから、婿養子のあなたに
はさっさと出ていってもらうわよ。じゃあ私は改めて旅行に行って来るわね。フ
ン……!」
 バタンとドアが閉まった。
「しめしめ…」
 妻がまた外出して行く気配を確かめて、亭主がニンマリした。するとそこへ……
「あのぅ……奥さん、出ていったの?」
 何と、さっき逃げだした愛人が、中庭から室内を覗き込んでいた。生け垣のカゲに
隠れていたらしい。
「あぁ、キミか。もう心配ないよ。安心して入りなさい」
「でもほんとに大丈夫?また気が変わって戻ってきたら…」
「戻るも何も、スイッチを切ったらもう出てこないさ。今のは本当の妻じゃない。
バーチャル本妻なんだよ」
「えっ、バーチャル本妻?…って事は合成の映像なの?」
「そうさ。普通に浮気してるだけじゃ刺激が足りないと思ってね。たまには妻が乗り
込んで来る場面があったほうがスリリングで良いじゃないか」
「まぁ、あなたって凝り性なのねぇ。そんなシャレた人だったなんて、ますます好き
になっちゃった」
「喜んでくれると嬉しいねぇ。さぁ、これを刺激にもう一度燃えるとするか!」
「あら、こんな時にまた?…でも、そんな元気あるの?」
「駄目なら……バーチャル息子を使うさ、ヒヒヒヒ」
 バーチャルのお蔭で、亭主の第二の青春はバラ色のようである。
                  (完)

2002年09月02日22時44分45秒投稿

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