過去のドンドコ掲示板
2002年07月16日〜31日

S.S☆「自分に勝った男」☆     あや太郎

 隆志は夢に魘されていた。
 身の毛もよだつ悪夢…というほどのものではないが、不快感を覚える後味の悪い夢
が連夜のように続いた。それは「口論」している夢だった。
 口論の相手は一定していない。日ごろから気の合わない人間も居れば、仲良く付き
合っている友人や同僚も居る。ときには見も知らぬ人間も登場して、次から次へと言
いがかりをつけてくるのだ。
 口論のテーマは概ね隆志の嫌いな事、特に余り思い出したくないような自身の欠点
や過去の汚点、恥、屈辱に関してであった。つまり人の弱みばかり突いてくるのであ
る。
 そんな事を毎夜毎夜やられては、なるほど堪ったものではない。
「自分が避けている自身の難点や罪の意識と向き合えってことか?」
 案外生真面目な隆志はそう考えて、夢見る度、真摯に議論を試みた時期もあった。
 しかし忍耐にも限度がある。夢の中の「敵」は何度語り尽くしても、時には頭を下
げて謝っても、繰り返し蒸し返し、イヤな思い出や、どうしても直らない欠点を突い
ては嘲り笑う。しつこく、悪趣味で、どう見ても無益な口論としか思えなかった。
「もうキレちゃったぞ〜」
 隆志は、今後夢の中で口論を吹っかけてきた論敵は問答無用で叩きのめしてやるこ
とに決めた。
 そもそもは自分の記憶から出てきた有象無象の連中である。何をどう料理したって
遠慮は要らない。それどころか、このままでは自分の意識を侵され、自己の尊厳を犯
されかねないではないか。
「まさか、誰かが呪いを掛けてる訳でもないだろうし」
 テレパシーか何かで人の夢に潜り込んで来ている可能性も無いではないが、仮にそ
の場合でも、これは一種の不法進入であるからして、そんな雑音や邪念をどんなに痛
めつけたところで文句を言われる筋合いは無い。
 そんな風に早々と結論を出して、高志は喧嘩腰で眠りに着いた。
 早速、見知らぬ文化人風の男が嫌味な笑いを浮かべて現れた。
「ほほぉ、今日は喧嘩腰だね。立場が拙くなると暴力に訴える・・・良くない事だ
よ。そういうのを野蛮人って言う・・・」
「ヤカましい〜〜!今夜は手加減なしだ・・・」 
 ボカスカと文化人を殴り倒す。最初、平気な顔を装っていた論敵の顔が間もなく歪
み、悲鳴と共に姿を消した。
 続いて、昔から気の合わない親戚の叔母があらわれた。
「まぁ、なんて乱暴なことをするんでしょ、この子は。気が小さい子ほどそんなこと
するんですよ。もっと落ち着きなさい。早く身を固めたほうが良いわね。私が良い縁
談をを持ってきて上げるから、一刻も早く・・・」
「やかましい〜〜このクソ婆ぁ〜〜!」
 夢の中なのだ。女でも親戚でも後腐れは無い。積年の恨みも込めて思い切り叩きの
めした。
「きゃああああ・・・助けて〜〜」
 叔母も呆気なく消えた。
「手荒いことをするな。キミはそういう所がイカン。もっと目上の者を尊敬・・・」
「引っ込んでろ〜〜!」
 張り倒したら木っ端微塵になった。口やかましい学生時代の担任だった。
「耳の痛い話でも謙虚に聞き、悔い改めなさい。神の声に耳を傾けなさい。汝の天国
は苦い言葉の向こう側に・・・」
「ペテン師野郎〜〜!」
 たまたま説教を聞く羽目になった宗教家が奈落の底に落ちていった。
確か、人類は二十一世紀が来る前に滅びると予言していた。今ごろは本当に奈落の底
で暮らしている事だろう。
 そのあとも身近な人間や気に食わない上司などがチラホチと現れては消えていっ
た。
最早,強力に抵抗する者はいない。簡単な残務整理であった。
「もう居ないだろう…」
 そう思ったとき、白いスーツにシルクハットをかぶった男がぼんやりと現れた。
 にこやかで口論する気配は無い。案の定、明るい口調でこんな宣言をした。
「おめでとうございます〜。あなたは見事、自分に勝たれました。自分の中のイヤな
記憶や辛い思い出、おおよそ苦手で不快なものをことごとく打破され、これで天下晴
れて自由の身になられたのです。もうこれからは悪夢に魘されたりノイローゼに陥っ
たりする事はないでしょう!」
「そういうお前は何者なんだ?」
「私ですか?私は…言わば遺伝子の一部です。ニンゲンの脳味噌の働きを時折チッェ
クする機能を持った遺伝子信号なのです。ちょうどコンピュータが、自分自身の故障
やウイルスをチェックし、自動的に排除する機能を持っているように、適宜、夢の中
などにあらわれてお助けする任を負っております。今あなたの脳はすっかりクリーニ
ングされ、快調そのものです。これで当分、嫌な夢を見ることはないでしょう」
「当分?すると、またいつか見ることになるのか?」
「そりゃまた何年かすれば嫌な記憶も増えますからね。特に何か悪事を働いたときな
んかは後悔の念が残りますから、またこの種の夢を見て徹底チェックいたしましょ
う」
「よけいなお世話だ〜〜!」
 それまでの勢いもあって、隆志はシルクハットの男を思い切り叩きのめした。
「アーレ‐…何をなさいます・・・」
 男は哀れな悲鳴を残して何故か遠くのゴミ箱の中へと飛び込んでいった。
 目が覚めてみると、隆志は気分爽快だった
 いろんなストレスが解消された気がしたる
「しかし、また今日から新しいストレスが溜まるんだろうな」
 独りごちながら愛用のパソコンを開き、仕事を始めた。
 何気なく「削除したデータ」の欄を見直すと、ゴミ箱の中にどこかで見た男の姿が
在った。その男は貧相なシルクハットを振り回しながら、小さな「ふき出し」の中で
こう叫んでいた。
 
・ ・・・
・ ・・・・

「おめでとうございます〜〜!」
 シルクハットの伊達男が何故かマイクを持って飛び出してきた。
「あなたはすべてのコンプレックスやストレスを克服されました。これで晴れて悩み
の無い自由な精神を取り戻された訳です〜〜」
「ほぉ…。そう言うお前さんは誰なんだ?」
「私ですか?あなたの夢の中に出てくるんですから、もちろんあなたの一部・・・他
でもない、あなたの遺伝子情報の一部ですよ」
「あーむ。一体それが何で突然飛び出てきたんだ?今まで出会った事もなければ、そ
の兆候もなかったように思うが…」
「そりゃそうでよ。私は一生に一度しか出てきません。すべてが終わったときに初め
て登場するんですから」
「まるでパチンコの打ち止めみたいだな…。待てよ・・・すべてが終わっただと?イ
ヤな予感がする…。まさか俺の人生が終わったとでも言うんじゃないだろうな!」
「そうですよ。悩みも何も無くなって、精神が完全なる自由を手に入れる時・・・そ
れは心が肉体を捨て、魂になって天に昇る時に他なりません。私は天国への水先案内
人です。さぁ、私とともにめでたく昇天いたしましょ〜〜」
「縁起でもない。俺はまだ若いんだ。お前なんかとあの世へ行けるか!お前だけで
イッちまえ〜〜!」
 ボカーン!
「アーレー〜〜…」
 シルクハットの男は思わぬ反撃に遭い、他愛も無く遥か遠くへと叩き出されてし
まったた。
  − − − −
「イタタタタ・・・」
「おっ、何だ、あんたは?シルクハットに蝶ネクタイとは今時じゃないな。芸人さん
かい?」
 伊達男はこれまでの経緯を説明した。
「・・・という訳で私はここにいるんですけどね」
「夢の中の登場人物が現実世界に居るという事は・・・その隆志って人はどこにいる
訳?」
「さぁ、永久に夢の中かも知れませんねぇ。何てったって、私はアラーム機能も担当
してましてね。私が居ない限り、彼は起きられないんですよ」
「それでその隆志さんはどこで寝てる訳?」
「さぁ、それもねぇ…。なにせ私は現実世界の地理に疎いもので…」
 隆志なる人物を見つけ出すのは至難の業と言う。
「見つけられるまで、彼が生きていれば良いのだが…」
救急隊員たちし小首を傾げるほか無かった。
−−−−− 完 −−−−−

2002年07月31日23時30分19秒投稿

S.S☆「鬼の洞穴」☆     あや太郎

「ここが隠れた名所、鬼の洞穴でございまーす。昔、この島へ落ち延びてきた落人が
持ち寄った金銀財宝をこの洞穴の中の何処かに隠したという言い伝えがあり、のちに
何人もの人間が盗掘に入りましたが、入ると必ず鬼が姿を見せ、追い返されてしまっ
たという伝説の洞穴でございまーす。ところが不思議なことに心の綺麗な者や子供が
入っても鬼は姿を現しません。そこで昔の人々は、この洞穴が人間の心を写す鏡であ
り、心の中がそのまま鬼の姿となって表れるのだと語り継いでおりまーす。皆様方
も、心の美しさに自信が得ありの方は試しに一度、入ってみてくださーい」
 今は鉄柵の扉が付けられた洞穴を指し示しながら、ガイドが説明した。
 観光客の間からはクスクスと笑い声が漏れる。
「どうだい、僕らもいっぺん覗いてみようか。結婚を決める前にお互いの心を確かめ
合うってのはどうかな」
「良いかもね。でも私の心の中が分かって怖くなったら?」
「それも良いじゃないか。結婚後の予行演習としてさ」
「まぁ・・・ひとを鬼嫁みたいに。それにあなただって、自分の過去が写る鏡だった
ら、困るんじゃないの?」
「大丈夫だよ。数ある過去も何とか清算しておいたからね」
「まあ、背負ってる…」
 のんびり過ごそうと、離れ小島に遊びに来たカップルだったが、なにせ「隠れ名
所」以外、これと言った見ものも無い。退屈に負けて、例の洞穴見物を実行する事に
した。
 それは間近に見ると、ますますちっぽけでありふれたホラ穴だった。
「隠れ名所と言うにふさわしいな。隠さなくても人目から隠れちゃいそうだ」
「それに、もともと財宝を隠した場所なんでしょ。いよいよ隠れた穴場ね」
「とても面白いものがあるとは思えないけど、折角来たんだから覗いてみるか…」
 宿屋の亭主から借りたカギで鉄柵の扉を開けようとすると、何故かもうカギは外れ
ていた。
「何のためのカギだよ。錆びて壊れてるのかな」
「もともと掛かってなかったんじゃないの。島の人が出入りしやすいように」
「いよいよ、お宝は眠ってない事に決定だな。さぁ、入ってみるか…」
 それでも暗がりの中へ踏み込むのは不気味だった。二人は無意識に息を殺し、足音
を忍ばせて奥へと進んだ。
 まだ暗がりに目が慣れない内、二人の目にボンヤリとした灯りが見えた。そしてそ
の前方に誰かの後姿があった。
 思わず息を呑んだとき、向こうもハッとしたように振り返った。その顔の辺りがピ
カリと光った。
「キャー!」と彼女が叫んだ。彼氏も身動きできない。
そんな二人の前を、ウォ〜〜!…唸りながら、何かが駆け抜けていった。
それは鬼と呼ぶには些か貧相な作業服を着た初老の男だった。
「おおお、鬼だ〜〜」
洞穴を飛び出すや、ヘッドランプを付けた盗掘者は悲鳴を上げて走り去った。
「あぁ、びっくりした。こそ泥じゃないの」
 彼女のほうが盗掘男よりも先に冷めていた。
 宿に戻ってから駐在所に知らせておいたら、半日も経たぬ内に犯人は捕まったとい
う連絡があった。
「常習犯ですよ.と言うよりビョーキかな。もう盗むような物は無いって言い聞かせ
ても、また暫くすると、それを忘れて、また盗掘にくる。暇な爺様でね」
 叱ってオシマイ、というところらしい。
「それは良いけど、でも失礼しちゃうわねぇ。私達を見て『鬼』だなんて。そんなセ
コイこそ泥に鬼扱いされたくないわ」
「まぁまぁ怒りなさんな。後ろめたい事をしてるから、誰でも鬼に見えるのさ。悪者
にとっては正義の味方こそ『鬼』だからね」
「そうか、そういう風に考えれば腹も立たないわね」
 ようやく彼女の気がおさまったのを見て、ホッとしたのか、彼氏も余計なコメント
を付け加えた。
「それに、あの時、キミはスッピンだったしな」
「そう来る?…じゃあ二人で暮らし始めたら楽しみにしときなさい。帰るのが遅いと
きは必ず、正義の味方の顔をして上げるから!」
とんだ薮蛇で、二人の家庭は鬼の洞穴になりそうな気配であった。
  −−−− 完? −−−−

2002年07月30日22時56分40秒投稿

S.S☆「装甲車椅子」☆     あや太郎

 慎野重太郎も寄る年波には勝てず、体力の衰えを痛感する今日この頃であった。
「いつしか八十代も半ばを過ぎて…もうすぐ米寿か。仕事に追われて、年齢も忘れて
おったわい」
 人一倍働いただけあって、慎野はひとかどの財産家になっていた。
 そしてこの長寿。…それだけでも幸運な人生なのだが、やはり富豪にも寂しい一面
はあった。
「何から何まで望むのは厚かましすぎるが……家庭運だけは無かったなぁ」
 二度結婚したが妻は早死に、子宝にも恵まれなかったのだ。
「頼もしい後継ぎとまでは言わないが、せめて何人か肉親のいる老後が欲しかった
な」
 しかし現実には、家族は居ない。無論家政婦や警備員は雇っているが、肉親ではな
い悲しさ、いざという時に親身になって心配してくれるか、あるいは自分のほうが
「信頼」できるか。
「生まれたときも一人、死ぬときも一人だ。今更心細がっても仕方ないさ」
 自分の身は自分で守るもの―――現実主義者の重太郎は、せめてボケるまでは、自
らの身と、財産と豪邸を自力で守って行こうと決心した。
 護身用重装備車椅子。
―――これが重太郎の秘密兵器だった。
 足腰も腕力も弱り、移動にはもう何年か前から電動式の車椅子を使用していたのだ
が、心配なのはやはり不測の事態…特に財産家の本能・習性として犯罪に巻き込まれ
る恐れであった。
 屋外だけでなく、ひと気の無い豪邸内も大いに不安がある。
 そこでこの車椅子には詰め込めるだけの護身用具を搭載した。
 先ず前方には電気ショックで敵を倒す「スタンガン」の発射装置を左右の肘掛の下
にそれぞれ一門ずつ装備した。車椅子の大型バッテリーから放たれる瞬間一万ボルト
の電圧で、前方からの襲撃には、これで充分対処できるだろう。
 そして後ろには、些か古めかしいが一種の槍のような切っ先鋭い鉄パイプが何本か
飛び出すように仕組んだ。本当を言えば、防弾装置の背凭れから自動小銃でも突き出
し、背後から迫る暴漢どもを蜂の巣にすれば安心なのだが、銃火器の所持が禁止され
ているこの国では致しかたない。
 代わりに小型の槍のようなモノで敵を突っついて退散させようと言う計算であっ
た。
「ピストルでもぶっ放せたら安心なんだがなぁ」
 大袈裟なようだが決して金持ちゆえの被害妄想とは言い切れない。身体がいう事を
利かないようになると、やはり暴力に対しては敏感になるものだ。もし中途半端に敵
を刺激して反撃を食らったら抵抗の術も無い、護身するなら、出来るだけ徹底した策
を取るに限るのだ。
 そんな重装備車椅子を試運転していると、近所の者が言った。
「大きな車椅子ですねぇ。エンジンが大きいんですか?時速何キロぐらいまで…?」
「いやぁ、頑丈に作っただけなんですよ。やたら嵩張っちまいましてね」
 嵩張る筈の装甲車仕立てである。前方にも横にも、いざとなれば防弾カバーが張り
出す。しかもそれなりの武器も装備して、緊急連絡装置もアンテナも積んで、バッテ
リーが大きくなればモーターも大きくなって・・・電動車椅子はついに標準の5、6
倍ほど……三百キロ余りの重量に肥大化してしまった。費用も軽く何千万の単位であ
る。
「高くついちまったが、命を守るためと思えば安いもんだ」
 何億円も使って警備員を増やしても、命を懸けて自分のために身体を張ってくれる
者が何人いるだろう。それを思えば絶対的に忠実な護身マシーンのほうが頼りになる
というものだ。
 新味もあってか、重太郎翁は連日広大な庭で車椅子のテスト運転を繰り返してい
た。
 ちょっとした「戦車」を乗り回している気分で、心ひそかにハシャいでもいた。
 乗れば乗るほど、その力強いモーター音に酔いしれる。家族によって満たされな
かった頼もしさ、心強さを、何十年かぶりに味わっている心持だった。
 僅かな不安は前後の護身兵器がちゃんと働くかどうかだった。なにせ気安くテスト
する訳には行かない。後片付けも面倒だし、近所の住人はもちろん邸内で働く者たち
にも、なるたけ「秘密兵器」の事は知られたくない。秘密にしていてこそ護身機能を
最大限に発揮できるのだ。そのためには敵より先ず味方からである。
「それに、いつ誰に魔が差して、良からぬ企みに走らんとも限らん」
 最後は苦労人ゆえの慎重さと猜疑心とが、ものを言った。
 もうそろそろ街に乗り出してみようかと考え始めた重太郎は、車用の鉄扉の安全装
置を外させ、手元の開閉用のリモコン・スイッチを確認した。
 気か゛向けば、いつでも鉄扉をあけ、外を走ってみようという訳である。
 そんな時、背凭れに内蔵されたラジオが物騒なニュースを伝えていた。
「・・・先日来、○○区××町に出没し、住民を恐怖に陥れている切り取り強盗の
懸命の捜査が続いておりますが、地元では本日の祭りに備え、これまで以上の警戒態
勢を強いて住民の安全を云々・・・」
「そんな事件が起きてたっけ…」
 そう言えば、よく似顔絵が紹介されていた。ヒゲ面で熊の様な大男らしい。
「すっかり忘れてたわい」
 オモチャの試運転に夢中で、すっかり世情に疎くなっていた。
 これはオチオチ出歩くのも物騒だ。そんな事を思っていると、家政婦が揉み手しな
がら精一杯の愛想で近づいてきた。
「あのぅ、旦那様。この後、一時間ほど出かけても宜しいでしょうか。商店街のパ
レードにウチの孫がピーターパンの扮装で出してもらえるもんで、ぜひ見にいってや
りたいと思いまして…」
「あぁ、良いよ。ゆっくり見てきなさい」
 以前なら「契約時間中なのに」という渋い顔で色よい返事は出さなかったもんだ
が、頼もしい装甲車椅子という相棒が出来てから、何にやら気が大きくなったよう
だ。
しかし家政婦を気前よく送り出してから、イヤな事に気がついた。祭日のきょうは警
備会社も休みだったのだ。これも以前なら他の会社に臨時派遣を要請していたものだ
が、万事に於いて、どこか御気楽になっている自分がいた。
「わしとした事が迂闊な話だが・・・まぁ何とかなるだろう」
外にさえ出なければ・・・と、また暫く庭の中を重量戦車で走り回ってみたが、広い
庭に一人ぼっちと思うと再び不安が込み上げてきた。
「むしろ、外のほうが安全かも知れんな」
 祭りの賑わいと、いつも以上の警備体制―――今日は人出の多い街中のほうが、ひ
と気の無い庭園より心強く思えた。
「よし。外出できる準備はしてあるんだから、本日をもって路上デビューの日とすべ
し」
 裏庭から表門へ向けトコトコと車椅子を走らせる。重さのためスピードはあまり出
ない。僅かな距離が妙に遠く感じられた。
 植え込みが茂る中庭を過ぎれば、すぐ表門の鉄扉が見える。待ち遠しい思いで池を
めぐり最後のカーブを切ろうとしたとき、心臓に悪い物音を聞いた。
ガサガサッ・・・
後ろで茂みの枝葉が騒いだのだ。
犬も猫も嫌いなので飼っていない。そんなに大きな鳥も来ない。
「誰かいるのか?」
 声を掛けようとしたが声が出なかった。
 車椅子をクルリと反転させ。音の方向を振り返った。
 ガサッ・・・
 悪い夢か…幻覚か…そう信じたいような光景が目の前にあった。
 人一倍大きな身体のヒゲ面が迷彩服を着て、サバイバル・ナイフを握り、立ってい
た。紛れもない、指名手配中の切り取り強盗が例の似顔絵そのままの顔で登場してし
まった。
「ヒヒヒヒ…」
 表情を変えず笑った男は何も言わずにナイフを振りかざし歩み寄ってきた。
 もう車椅子の老人に出来る事は一つだった。
 ガシャッ!・・・という音と共にスタンガンが射出された。しかし敏捷な男は素早
く交わした。しかも間の抜けたことに、左右のスタンガンを同時に発射してしまっ
た。二の矢は継げない。良かったのは、すぐさま老人が方向転換した事だった。
残る武器は背凭れの中だけ・・・しかし暴漢のほうは相手が逃げ出したと勝手に判断
した。油断したのかヒゲ面がニヤリと笑った。そして余裕たっぷりに背後から老人に
襲い掛かろうとした。その「余裕」の分だけ、老人のスイッチングが間に合った。
正に暴漢のサバイバル・ナイフが頭越しに老人を襲ったとき、残るすべての武器が四
方八方に突き出していた。
 カシャカシャカシャ!・・・
テストのときより鈍い音がした。
「失敗か?」
 パワーか゛足りず、撃退に失敗したかと思った音の鈍さは、しかし「命中」した結
果だった。重太郎の目の前に大きなナイフがぶら下がり、ドスンと股間に落ちてき
た。縮み上がっていたせいか、幸い怪我は無かった。
そして生暖かいシャワーが降り注いだ。振り向いた。観なくても光景を見てしまっ
た。
重太郎の肩越しに口を開け白目を剥いた暴漢の顔があった。「槍」は男の喉笛を突き
ぬけ後頭部から飛び出しているらしかった。
他の小槍も何本か、胸、腹、腕を貫いているようだった。
熊のような男の頚動脈から血潮が噴き出し、さらに老人の頭と肩を塗らした。
「ゲ〜〜ッ…ウエ〜〜ッ…!」
血生臭さに何度かエヅキながら、繁太郎老人は車椅子を発進しようとした。
なかなか動かない。暴漢の巨体を引きずっていたからだ。
慌てて「槍」の解除ボタンを押す。本来なら全部引っ込むはずなのだが、深々と刺
さった槍はとても収納できそうになかった。
「オエ〜〜ッ!…」
今度は本当に吐いてしまった。また車椅子を発進させジグザグに奔走した。何とか
「死体」を振り払いたかった。しかし「男」は容易に「取れ」なかった。恨めしそう
な顔で背後霊のように重太郎の背中で血にまみれていた。
「そうだ。緊急呼び出しが有った」
発信装置はまだ車椅子には内蔵していないので邸内に戻らねばならない。
芝生のスロープを登り、段差の無いサンルームを目指す。しかし重量オーバーの車椅
子は途中で車輪を空回りさせた。
 家政婦はいつになったら戻ってくるか分からない。
「とても待てん!ゆっくり観て来いなんて言うんじゃなかった」
 後悔先に立たぬ事ばかりだ。
「そうだ・・・外に出たほうが早いぞ」
 門扉は開けられる。しかもスロープの下方だから重い車体でも問題ない。
 思い立つが早いか、重太郎翁は車椅子を反転させ、門扉に向かった。
 少し加速が付きすぎた。また重いのを忘れていた。
車椅子は経験の無い速度で滑降した。
「あわわわわ・・・!」
必死にリモコンを探り鉄扉を開ける。
激突寸前で門が開き、車椅子はめでたく路上に滑りでた。
すぐに向かいの側溝が迫った。慌ててカーブを切る。前輪が礎石にぶつかりひん曲
がった。ブレーキもよく効いていない。
「イカン…。門を出たら坂道だった・・・」
 すっかり忘れていた。そもそも思い出す余裕など無かったが…。
 加速を抑えようと、ジグザグ運転をしながら下り勾配の道を走り続けた。
 あっと言う間に大通りまで来た。人が多い。仮装パレードが始まっていた。
 そこへ老人の大型車椅子が滑り込んできた。
 折れた前輪と壊れたブレーキで、車体か゛大きく左右に揺れる。
 背凭れの後ろで暴漢の死体が器用に踊った。
「まぁ、凄い趣向だわ。あの血まみれ男、とってもリアル〜」
「ふむ。あの爺さん、なかなか洒落っ気があるなぁ」
「死人のカンカン踊りという訳か。まるで落語じゃわい」
「それにしても血生臭いねぇ。魚の血か何か、ぶっかけたのかな?」
「スポンサーは魚屋さん?…でも作り物とは思えないわね、あの死体」
「おい・・・これ本物の血みたいだぜ。人間もた゛!」
 休みを返上して特別警戒に回っていた警官達にもパレードの賑わいが聞こえてき
た。
「きゃあああああ……」
「ウオ〜〜ッ…!」
 ・・・・・・・・
「今日はずいぶん盛り上がってるなぁ。これなら一所懸命警備してる甲斐があったっ
てもんだ」
―――――完――――――

2002年07月29日22時46分33秒投稿

S.S☆「桜の咲かせ所」☆     あや太郎

 下手人(げしゅにん)どもは、まだシラを切り続けていた。
「これだけの証拠、証人が揃っても、まだ濡れ衣と言い張るつもりか?」
「無論でございますとも、お奉行様。証拠と申せば状況証拠ばかり、証人は子供や身
分の低い者どもの戯言ばかり。何より私どもがそのような悪事に手を染めるわけがご
ざいません。私も仏の善兵衛と呼ばれる一端(いっぱし)の分限者でございますぞ。
そんな汚い金儲けをせずとも悠々と暮らして行けますものを、何が悲しゅて割の合わ
ぬ抜け荷など。言いがかりでございましょう。濡れ衣でございます。私を追い落とそ
うとする商売敵どもの妬みから出た陰謀でございます。もしそんないい加減な証拠や
証言を信じて私を罪に陥れるような事がありましたらも天下のお奉行様は大恥をかく
ことになりまするぞ。何より私の後ろには大目付の○○様がついていて下さいます。
お奉行の御為にも、このような理不尽なお裁きはおやめになったほうが宜しいので
は、と?ホホホホホ」
ここで、ついに奉行もキレるかと思いきや、まだ根気よくこう聞きただした。
「それでは本当に覚えはないのだな?」
「はい、一切記憶にございません」
「船着場での大立ち回りも抜け荷とは無関係と申すか?」
「巻き込まれただけでございます」
「では、彫り物をした遊び人はどうじゃ?」
「あれは、とんでもないならず者。本当の下手人はあの男でございましょう」
「犠牲になった者たちの事を思っても、知らぬ存ぜぬとと言い張るか?」
「私どもには関わりなき事でございますな」
 居並ぶ与力、同心たちはすでに苛立ち、気がハヤっているのにも関わらずお奉行様
はまだ尋問を繰り返した。
「ふーむ。それでは本当に……本当に、事件とは無関係だと申すのだな?」
「はい、その通りでございます!」
 容疑者達が轟然と胸を張ったその時、ようやくお奉行は立ち上がり、いつものよう
に片肌を脱いだ。そこにはもちろん江戸の名物・桜吹雪の彫り物が・・・そして罪人
どもは顔面蒼白…。
「おうおうおう・・・言わせておけばノラリクラリと眠たい御託を並べやがって。し
らばっくれるのもいい加減にしやがれ。てめぇらの悪事は、この桜吹雪がお見通しな
んでぇ!」
 平伏し恐れ入る下手人どもを尻目に、裁きを終えたお奉行様は颯爽とお白州に背を
向けた。しかし控えの間では部下の与力、同心たちが何やら不満げな顔で待ち受けて
いた。
「お奉行・・・いつもながらの名裁きではございますが、一つお願いがございます。
何卒も少し早い目に決着を付けるように計らっては頂けませんか?あれだけ証拠が揃
い、下手人は白々しくトボケ、しかもお奉行には決め手の桜吹雪がございますもの
を、なぜにそこまで長々と吟味を引っ張らねばならぬのでしょうか。お付き合いさせ
て頂いている我々も些かジリジリして、身体に応えますぞ。それにご用向き繁多の折
でもあり何とかもう少し早く結論を出していただくようにお願い奉りまする〜〜」
 たっての懇願に奉行も折れるかと思いきや、その答えはまた意外なものだった。
「いや、それは出来ん。慎重の上にも慎重を期して、確認の上にも確認を重ねて,初
めて決済できるのじゃ。そのほうたちも、肩を凝らせながら付き合ってくれい」
「いえ、殿。慎重に裁くのは無論のこと座ございます。何も性急に処理して欲しいわ
けではないのですが、ただもう充分すぎるほど証拠が揃って申し開きできない所まで
来ていても白々しくトボケるという今回のような裁きの際ぐらいは、もっと早々と
『切り札』を出して一件落着させても良いのでは、と」
「そこよ、そこだ…難しいのは。白黒の決着はほとんど着いておる。あとは自白を引
き出すばかり。そんな時、この彫り物を見せるのが段取りだが、とことんシラを切る
厚顔無恥な悪人には効果があっても、反省しかけている者には果たして効果があるも
のやら。早い目に非を認め、正直に白状した場合には、たとえ少しでも罪を軽くして
やりたい。重い罪を課すばかりが裁きではないからのぉ。そこで念には念を入れ、と
ことん心意を聞き質してから裁きを付けるという訳だ。であるから、皆の者も気の疲
れるお白州に根気良く付き合うてくれい。頼んだぞ」
 なるほど、さすがは名奉行、このような深謀遠慮があったとは、と一同感心するば
かりであった。
 これで本当に一件落着。奥の間に戻って独りくつろぐお奉行も思わず本音の独り言
を呟いた。
「罪を軽くする機会を与えるため、か。我ながら上手く言い逃れたものだ。実際は、
わし自身の体面上、慎重に確認せざるを得んのだよ。なにせ、こちらが片肌脱いで、
彫り物を見せかけてる時、もし容疑者が気を変え、正直に罪を認めたら、わしゃどう
なる?この彫り物を出したり引っ込めたりせねばならぬではないか。雨の日の提灯で
もあるまいに。
…いや、待てよ。これが本当の「花ちょうちん」か。ナハハハハ」
豪放なお奉行様にもそれなりの悩みがあるのであった。
―――――――完―――――――

2002年07月28日22時30分33秒投稿

S.S☆「盗聴犯」☆     あや太郎

 よく当たるという評判の霊能者がひつそりと暮らしていた。
 看板は上げてないのに、相談客はひっきりなしに来る。
 心の悩みを一目で見抜き、その悩みに的確な答えを与える・・・そんな評判と実績
がいつしか口コミで広がったのだった。
 悩みを見抜き、的確な助言をする・・・それもそのはず、この霊能者は何と本物の
神様その人だったのだ。余りに乱れ捻じ曲がり、現在にも将来にも不安を持て余して
いる人間どもに、例え僅かでも心の平穏を与えようと「お忍び」で、暇を見つけては
地上に降り、悩める者たちの相談役を務めていたのだった。
 しかし実を言うと、この行為は神様法違反であった。これが公になると現在の職務
を失う羽目になる。神様の担当は宇宙のこの領域…つまり銀河系数千億の星々であっ
た。ンムそんな責任ある身としては、まさかの時の備えもしてはいるのであるが…。
 ある日、怪しい目つきをした男が、付き人らしき者を従えて、悩みの相談に立ち
寄った。
「あのぅ…先生は人の心が読めるって本当ですか?」
「まぁそうだな。それでなければ心を癒す事はできまいて」
「じゃあ、僕の心も読めるのかなぁ?」
 何やら馬鹿にした物言いである。さてはマスコミか何かの取材かも知れない。
「読みたくもないが…読めるであろうな」
 鮮やかに「読む」必要はないが、まるで読めないとなると何を言われるか分からな
い。
 悩みの相談を続けるどころか、ワイドショーで叩かれて「神様界」にまで知れ渡る
かも。
「じゃあ、僕の出身地と家族構成と趣味を当てて下さい。キミは、はい、これを…」
 付き人らしき男に封筒を渡した。前もって正解を書いたものらしい。
「さぁ、当てられるかなぁ?こないだ見てもらったイタコの婆さんは、ローマ字で書
いたら読めなかったもんねぇ」
 ナメるにもほどがある。神様もちょっとキレた。
「それでは、しっかりと読んで進ぜよう」
 相談客の出身地、学歴、両親、親戚、妻子、趣味と事細かに読み上げた。
「うわっ…スンゲ〜〜。ぜんぶ読んじゃったよ。大当たり〜〜。先生は本物の霊能者
だね」
 こんな奴に褒められてもしょうがないのだが、神様も多少の溜飲は下がった。
「じゃあ、本当に本当に人の心を読めるんだね?誰の心でも、いつでも、どんな
場合でも読めちゃうのかい?」
「まぁな。ちょっと精神を集中すれば心の奥の奥までお見通しじゃ。試しに、お前さ
んが今日ここへ何の目的で来たのかも読んで進ぜようかな」
「ヒヤ〜〜、読まれちゃ困るよ。だから、その前に言っちゃおう。実は先生を逮捕に
来たんですよ」
「な、なに?逮捕だと?」
「そうですよ。ほら、盗聴防止法というのがあるでしょう?それに続いて、人の心の
中を読むのを禁止する。『読心禁止法』というのが施行されましてね。本当に心が読
める人や霊能者は刑務所行きになるんですよ。先生がもしニセ物の霊能者なら問題な
かったんですけどねぇ。幸か不幸か本物だったもので、お気の毒ですが逮捕させて頂
きます。さぁ、キミたち、入りたまえ」
 言うや否や、付き人や待合室の面々が私服を脱ぎ警官の制服姿で、奥の間へ踏み込
んできた。手には警察手帳やら手錠やら逮捕礼状が・・・。
「ま、まってくれ。わしゃ決して怪しい者じゃない」
 と言っても身分は明かしにくい。それでも警察沙汰になれば、この情報化時代のこ
と、宇宙の隅々まで、この区域の神様逮捕というスキャンダルが広まってしまう。
「さぁ、ジタバタするな。無駄な抵抗はよせ」
「もはやこれまでか。望まぬ事だが、この上は最後の手段しかない…」
 神様か゛両手の指で印を結び何か呪文のようなモノを唱え始めたその時・・・
「お邪魔しま〜〜っス」
 何と、脳天気な声と共に、派手な服装をした男が大きなプラカードを押し立てて飛
び込んで来たではないか。
「おっとビックリ・カメラでーす。驚かせてスミマセーン」
 室内の雰囲気が一気にほぐれ、居合わせた面々の顔に笑いが溢れた。
 ・・・ただ神様一人を除いて。
「まことに失礼しました。真面目な霊能者の先生を引っ掛けてしまい申し訳ありませ
ん。でも真面目な方ほど驚いて頂く値打ちがあると言うもんで、視聴者の皆さん方も
きっと大喜びしていると思いますです、ハイ」
「フーッ…。シャレであったか。やれやれ…」
そう言う神様の顔はまだ蒼白で脂汗を浮かべている。
「おや、これはずいぶん驚かせてしまったようで…。もしご都合が悪ければ放送は控
えさせてもらいますが、如何いたしましょう?」
「いや、それは別に良いのだ。ただ、危ないところだったのでな」
「はぁ?危ない所とは?」
「もう少しでこのホシを……いやいや、このコシが抜けるところであったよ。ダハハ
ハハハ」
 一同か゛爆笑に包まれているその脇で、神様はそっと地球爆破の安全装置をセット
し直していた。
  ――――――完―――――

2002年07月27日23時15分50秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

7月23日 TORII HALL「雀三郎みなみ亭」

出し物

●「御祝儀(子ほめ)」 桂 雀太
●「時うどん」     桂 雀五郎
●「蛇含草」      桂 雀三郎
●「次の御曜日」    桂 宗助
●「へっつい幽霊」   桂 雀三郎

時節柄暑苦しい噺「蛇含草」の導入部。
褌にジンベを羽織っただけの姿で座敷に座り込んだ主人公。
雀さんは語り乍ら手拭いを出してなにやら手元で広げてます。
汗を拭く仕草でも入れるのかな?と思ぉてたら、やっぱりそぉでした。
但し、褌の前垂れに見立てて…。
とすると越中やな。
誠に端的な性格付けでは有りますな。

「へっつい幽霊」。
暑さ惚け故か、落ちが定かでないんですな。
へっついから現われた幽霊が脳天の熊五郎に丁半博打で負けます。
折半した金を貰ぉた作治郎。
「もぉ出てきまへんやろぉな?」
熊はん。
「相手は幽霊。出て来とぉてもお足がおまへん。」
こんなんやったかなぁ?
なんせ‘お足’が絡んでたのははっきりしてるんですけどね。
確認の為にテープを探したら六代目の分が1本あっただけでした。
雀さんのとは違うし、しかも、何べん聞き直してもよぉ分からん。
推察もできん位やから私の知識外の表現なんでしょぉな。
うぅ〜、気持ち悪い〜情けない〜。
近々どなたぞやらんかなぁ?

「次の御曜日」の御白州の場面。
権力の象徴である奉行は緊張材料ですな。
それが已む無くとは言え発せざるを得ん奇声によって瞬時にして緩和。
その落差の大きさが笑わせます。
被告人天王寺屋藤吉に対する尋問。
「かたぎ屋佐兵衛娘いと頭の上にて…」
躊躇しながらも思い切って声に出してみる奉行。
静まり返った空間に、自身想像した以上の大きさで響く‘アァァ!’。
思わず目玉だけ素早く左右に動かして周りの反応を確認します。
「…と…申した憶えが有ろぉ!」
役目柄とは言え、将軍家のめがねに適ぉて任じられし奉行職たる者が、権威ある裁き
の場で、しかも満座の中で奇声を発するなどもってのほか。
この恥辱が一生付いて廻らねば良いが。
然りとていい加減な処理でこの場を逃れてしまうのも如何なものか。
それこそ当職分に有るまじき所行ではないか。
幸い罪の黒白は明白な様子。
よし!ここはひとつ綺麗に鮮やかにさっさと裁いてしまおぉっと。
執拗に罪科を認めさせよぉとする奉行。
対して飽くまで否認する藤吉。
お互い奇声を連発するうち、段々奉行の声が掠れていきます。
そして遂に
「一同の者、次の御曜日を待て。
 奉行、咽が痛ぉなったわい。」
ここの順番・表現は演者さんによって多少異なりますけどね。
この場面は、奉行の物言い物腰が重厚であればある程笑いは大きい。
宗助さんはもぉ少々重目の雰囲気でもええよぉな気がします。
それと声の掠れていくプロセスが後一段階か二段階欲しかったですな。
ひょっとしたら時間の関係やったかも知れませんが。
冒頭、旦さんの小言にごてくさ口答えしながら食事する常吉。
宗助さんは、ものを入れたまま喋る口元まで米朝師匠そっくり。
見事な形体模写ですな。

雀五郎さんの「時うどん」。
喜六に袖を引っ張られたまま、体を反対に捩りながらなおも食べ続ける清八。
後のうどんが三筋程泳いでるだけの状態を協調する表現になっていて面白い。
三玉位入って無いとあない長い事食べてられんと思いますけどね。

これが初高座の雀太さん。
丸坊主で高校球児みたい。
前半は噛んだり順番間違ぉたりで、何時空中分解するかハラハラしましたな。
言葉のついでにほんまに噛んでしもぉたんしょぉか、歯に血が…。
後半はちょっと落ち着いて大過無く軟着陸。
顔面を紅潮させての熱演デビュー、まずはおめでとさん。

〈第三次雀三郎みなみ亭〉はこの日が最終回でした。
残念。
来月から〈第四次雀三郎みなみ亭〉が始まります。
喜ばしい。
看板が書き替わるという事は内容に変化が有るという事。
お弟子さんも増えたんで一門会形式にしはるそぉです。
若い人に語る機会を増やしてやろぉという親心ですな。
一門で固めたら出費が小そぉて済むメリットも、ま、ちょっとは考えはったかな?
師匠に似合わず見た目シュッとしたはる長男の雀喜さん。
不思議な味わい、次男の雀五郎さん。
まだ何もんとも分からん末っ子雀太さん。
そして雀さんが2席で計5席の盛り沢山。
期待しましょ。

2002年07月26日17時48分28秒投稿

元姫路市民です。
千日前にあるワッハ上方資料館は年間賃貸料が約3億円に対し売り上げが5千万円と大赤字。オープン当初は一日千人以上やったのが今は百人くらいとのこと。
僕も二回行きましたが一日百人くらいでちょうど施設が堪能できると思います。
客の回転を早くするには演芸ライブラリーに早送り機能をつける。漫才番組のだいたいが特番やコンクールの録画なので見たい漫才師が出るまでに1時間くらいかかります。
とりあえず今ある影像を全部DVDに残して見たいもんだけ見れるようにしてほしいです。
あと資料もどんどん増やして行く。放送されてから三ヵ月たてば解禁というふうにしてくれれば見逃しても見られる。
ただこの二つをすると入場料がかなり上がるでしょうが。

2002年07月26日01時15分39秒投稿

S.S☆「献ケツのススメ」☆     あや太郎

「ねぇ、キミたち・・・ケンケツに協力してくれませんか?」
「献血?ちょっと怖いわぁ。わたし低血圧だし、時々貧血も起こすし、針刺すの痛い
だろうし・・・」
「それは血を提供する献血でしょう?僕たちが呼びかけてるのは皮下脂肪なんかの贅
肉を提供してもらう献肉…俗称『献ケツ』なんですよ」
「贅肉を寄付する献肉?それなら、なぜ献ケツなんて云うのかしら…。まぁ、そんな
事より、贅肉を提供して何にするんですか?」
「人間の皮下脂肪、中性脂肪が高カロリーのエネルギーになる事が分かったんです
よ。ちょっと精製すれば、無公害の液体燃料として使えるんです。資源不足と大気汚
染が今世紀の大きなテーマですからね。皆さんに新燃料の原料を提供して頂き、先ず
は安くて無公害というイメージを確立しようという国家プロジェクトなんです。どう
ぞ人類の未来のためにご協力お願いします」
「まぁ、原料は余るほど有るから、そんな貢献なら、したいところなんですけど、一
体どんな風に取り出したら良いのかしら?」
「美容整形の手法と同じですよ。皮下脂肪を吸い出すだけなんですよ」
「吸い出すのか…?何だか大変そう。お金も掛かりそうだし…」
「ちょっと痛そうだし身体にも負担があるんじゃないの?もし簡単に出来るのなら協
力しても良いけどね」
「それならご心配なく。最新の技術を使ってますから。先ず好きな所の贅肉を薬で溶
かし、それを注射で吸い取るだけなんです。痛みも疲れも後遺症もありません。もち
ろん費用は一切関係当局の負担ですから全くの無料。どうでしょう・・・ご協力いた
だけるでしょうか?」
「じゃあ・・・先ず私が試しにヤッてみようかしら」
「いえ、私が実験台になるわ。一番にお願いします」
「あのぅ…定員や締め切りは無いんでしょうね?」
「はい。何人でも何回でもOKです。長期的な計画ですので」
「じゃあ、やっぱり私から・・・私が先よ・・・回数券頂戴〜〜!」
 かくして「献肉運動」は予想以上の大ブームとなった。
「まぁ、あなた、ウエストがスッキリしちゃって。『献腹』したの?」
「そうよ。今年三回目。あなたもお尻が小さくなったような気がする…」
「正統派の『献ケツ』よ。やっぱりこれが一番流行ってるみたい」
「年五回までって言ってたけど、みんな偽名を使ってまで行ってるわよ」
「わたしも半年で、実は六回目。ちょっと行きすぎかなぁ。でも癖になるのよねぇ。
何てったって、幾ら食べても太っても、献ケツすれば元に戻ると思うと、また食べ
ちゃうしさ。いよいよ献肉と縁が切れなく成っちゃうわ」
「外食産業やお菓子屋さんが儲かってしょうがないそうよ。景気対策にもなったし、
エネルギー対策にもなってるし、私達も肥満の心配をしなくて良くなったし、ほんと
に一挙両得の大発明だったわねぇ」
「ホント、ホント。お互いスリムな体型のまま、大いに食生活を楽しみましょう、ほ
ほほほほ」
 100キロと98キロの主婦たちは朗らかに話しながら狭い歩道を無理やりにすれ
違って行った。
「おい、見ろよ。関取同士の会話だよ。どうなっちゃったんだよ、女たちの体型は」
「嘆かわしいったら有りゃしない。ダイエットなんて言葉が存在した頃が懐かしい
よ」
「しかし恐ろしいもんだなぁ。男のほうも段々慣れてきて,最近はあれぐらいのを見
ても驚かなくなって来た」
「いつのまにか、これが普通になって行くのかなぁ」
 今や「スリム」の基準は百キロを境に決まるようになり、エネルギー問題と食生活
に革命をもたらした「献肉運動」は世の女性の美意識まで大きく変革させてしまった
ようだ。
 全く無意識の内に・・・いや、ひょっとしたら、彼女らは「意識的に」美の基準を
捻じ曲げたのかも知れないのだが…。
―――――完―――――

2002年07月25日23時47分32秒投稿

たかさごの穴子

車を運転される方なら、所謂「自動車専用道路」を走られたことがあるかも知れませ
んね。
昨日、友人の運転する車の助手席に座って、地元の○○○バイパスを走行しておりま
したところ、急にノロノロ運転になり、果ては停滞してしまいました。
「何?急にノロノロになったね」
「事故やろか?」
と話し合ってるうちに、後ろのほうから、けたたましいサイレンの音が…。
「事故やな…」
パトカーが3〜4台、道路公団(?)の黄色い車、大小で4〜5台も通り抜けて行き
ました。
「結構、大きい事故みたいやね」

車の中はクーラーがかかっているとは言え、暑さ真っ盛りの午後2時30分頃でした。
ノロノロ、イライラ…、あっつぃぃぃぃちゅうねん!
前を行くトラックのお兄さんはクーラーが無いのか団扇でパタパタ…。
「脱水症状になるで…気の毒に」
などと、おしゃべり出来るだけでも、同乗者が居て良かった。
そうこうしていると、前方上空にヘリコプターが旋回し始めました。
交通情報の取材と事故の取材だろうと思い、ラジオをつけますと…交通情報のお嬢さ
んの声が、
『○○○バイパス東行きで起きました、車8台の関係する事故の影響で……22kmの渋
滞……』

「あっちゃー!事故渋滞っちゅう奴の真っ直中にハマリ込んでしまったんやね」
「またたくまに22kmの渋滞て…すごいねー」

やっと料金所が迫って来たところで、事故車の残骸が見えて来ました。トラック2台
が横向いてて、乗用車2台は大破しておりました。
「良い方に考えたら、渋滞の中に居るぐらいの時間に出て来て良かったと思っておこ
う」
「そうやんな、もう少し早かったら事故に巻き込まれてたかも知れんもんね」
「それにしても、私らの車を掻き分けて行くんやから、行きがけの駄賃とばかりに、
情報提供しながら走って欲しいなぁ、おまわりさんには」
「たまに、路側帯からも迫って来たしなぁ…そんなフェイントかけるんやったら、事
故の状況でも放送しながら走ってもらわな!一流芸人とは言えまへんで!兵庫県警は
ん!」
おばチャン二人連れですと、口は渋滞しないようです…。

結局、20分、全走行時間合わせても30分で着く所に3時間弱かかって、たどり着きま
した。
あーしんどかった!行かなんだらよかった!(と思ってるやろなぁ…運転してた友
達)

追伸:次の日の新聞によりますと、重軽傷者は出たけれど、死亡事故では無かったよ
うです。あの大破した車の残骸を見てるので、てっきり…と思っていましたが、良
かった…のか?

2002年07月25日14時41分07秒投稿

S.S☆「暴走族対策」☆     あや太郎

「また暴走族が走ってる…。この国道沿いはひどいもんだ。昼間からこんな調子です
か?」
「昼間はまだ良いんですよ。夜になるとバイクの数も増えるし、周囲は静かだし、そ
の騒音たるや凄まじいもんです」
「警察もお手上げ状態だとか。不眠症やノイローゼで引っ越す住人も少なくないそう
ですね。あなたも相当我慢なさってるんてじょ?」
「いや、最近は余り気にならなくなりました。夜もぐっすり眠れるように成りました
しね」
「やはり耳栓でもお使いで?」
「いや、耳栓どころか防音工事をしてもあまり効果はありませんでしたよ。むしろ開
き直って騒音に身を任せてます。むしろ今はこのほうが熟睡できるようになりました
な」
「ほぉ…、そりゃ豪気だ。でもその腹の中では、暴走族への恨みを募らせてるんじゃ
ないんですか。いつか空気銃でも買って狙撃してやろうとか?」
「ハハハハ。最初は真剣にそう思いましたがね、今は逆ですな。むしろ恨んだり憎ん
だりしないようになりました。それが熟睡の原因かも知れません。恨みや憎しみで
カッカしてると眠れるものも眠れなくなりますから」
「何と、人間の出来たお方だ。あの喧しい迷惑な暴走族にすら、憎む気持ちを捨てる
だなんて。一体どんな修行をすれば、そんな心境になれるんです?同じ被害者として
コツを教えてもらいたいもんです。どうやれば、人を恨む心を無くす事が出来るんで
すか?」
「それは…人一倍、人を憎み、人を恨む事ですよ」
「禅問答みたいですな。ど、どういう事です?」
「ここだけの話ですが・・・ある日、ふと気づいたんですよ。あの騒音を何かに活用
できないものかと」
「騒音芸術にでも作り変えましたか?」
「そんな芸術家じゃありませんよ。でも案外文学的なやり方かもしれない」
「と言いますと?」
「これでもかこれでもか…というようなあのバイクの排気音、タイヤの軋み音、連中
の嬌声・・・あれを、リンチに使ってみたんですよ」
「リンチとは物騒な。でも、どんな風に?」
「長い人生には自分にとってイヤや奴、憎い奴というのがたくさん居ます。また世間
を見回してもテレビを観てても気に食わない文化人やムカつく評論家なんてのが居る
もんです」
「掃いて捨てるほど居ますなぁ」
「そういう連中の顔を思い浮かべるんです。そして暴走族の目の前に引きずり出すん
ですよ。すると暴走族の連中はバイクで取り囲んでイタブり始めます。囃し立て
怯えさせ、ついにはバイクや車を突っかけ、跳ね飛ばしたり引き倒したり。しまいに
はタイヤを軋ませ、イヤや奴らを轢き潰して行く。エンジン音と嬌声が高まり、衝突
音や軋し音がヒステリックに鳴り響くたび、私にとってイヤな連中、憎い連中、ムカ
つく連中が、轢き潰され、トドメを刺されて行く訳です。…そんな想像をしている
と、もうバイクの騒音なんか苦になりせんな。騒音の度にイヤな顔が一つ又一つと消
えて行くんですから。最近はそんなストレス解消をしてくれる暴走族に親近感すら覚
えるようになりましたよ。さぁ、彼らが走りやすいように道路の掃除にでも出かけよ
うかな。…今夜もグッスリ眠れそうだ・・・」
  ―――――完―――――

2002年07月24日23時11分12秒投稿

下駄屋の喜六

時々我が店に買い物に来られるFさんの奥さんが、プリプリと怒ってはります。2,3
年前に近所にできた焼き肉屋「N大門」で韓国冷麺を注文したところ、中にチャバネ
ゴキブリの成虫が入っていたんです。しかも、半分ほど食べてから底に沈んでいるの
を発見したらしい。哀れチャバネゴキブリ、丼鉢内の麺の下にてキュウリを枕に土左
衛門、末期の水は冷麺ス−プ。Fさん、その夜は胃痙攣が治まらず、一週間ほど胃の
調子が悪かったとか。これは多分に精神的なものでしょう。

一応は店員に抗議をしたけれど、「新しいものに換えましょか?」と間延びした返事
で、アホらしくなって帰宅したそうです。集団食中毒でも出れば保健所の厳しいお咎
めがあるのでしょうが、ゴキブリが入っていたという程度では営業停止にまでは到ら
ない。しかし人の口に戸は立てられず、さほど親しくもないFさんがボクに喋るほど
やから、このゴキブリ事件はあまねく近辺に知れ渡っているはずであります。「N大
門」はいつまで持ちこたえるものやら・・・

似たような経験を二度しました。一度目は学生のころに彼女とデ−トをしてミナミの
とある喫茶店に入って注文したミックスサンド。鼻くその付着した太い鼻毛が入って
おりました。ウェッとなったけれども彼女との楽しい雰囲気を壊したくなく、彼女に
は理由を告げずに一口も食べなかった。二度目は家族で行ったファミレス「Rホス
ト」、野菜サラダに体長4cmほどもある丸々と太った青虫が体を横たえておった。覚
えている人がいるかどうか、この件はドンドコに投稿したことがありました。

どちらの場合もそれほど腹が立つこともなかったけれど、ゴキブリはいかんね。外食
して、器の中にゴキブリが入っていたらどうするかな。切れるかな、暴れるかな。ご
同輩、皆様方ならどうなされます?

2002年07月24日18時07分58秒投稿

S.S☆「善人・悪人」☆     あや太郎

「伊勢屋・・・首尾のほうは如何であった」
「ハイ、思惑通り、まんまと越後屋から三千両を絞り取ってやりました」
「それは重畳。無論かどわかした事は露見しておらんだろうな」
「言うまでもございません。両替商で潤っておる越後屋の放蕩息子を誘い出し、あち
こちの遊郭で遊ばせている間に、人質として身代金を巻き上げ、適当な頃に息子を家
へ返した訳ですから、血を流す事もなく、痛んだのは越後屋の財布だけという寸法
で」
「また脅迫状の文面がシャレておるわ。…因業金貸しに制裁を加えるため、息子の命
と引き換えに三千両を貰い受ける。そのカネは貧しい町人どもに分け与える事とする
・・・町の天狗より、とあったそうじゃな。何が制裁の、施しの、じゃ。元はと言え
ば、我々が越後屋から借りた計二千両也を誤魔化すための企みではないか。それを懲
らしめや人助けのために行うと宣まうのだから厚かましい話だ」
「いえいえ、どうせヤルのなら格好よくやらねばと。また世間に持て囃されれば、探
索方の手も緩もうというもの」
「そこまで計算しておるのか。伊勢屋…そちもワルよのぉ?」
「いや、こんな悪巧みを唆したお殿様こそ正真正銘のワルでございましょう」
「こやつ、申しおったな・・・ムハハハハ」
「ホホホホホホ…」
「ところで、三千両の内、そちが手にしたニ千両はどのように処分したのじゃ?」
「はい、あれは私と殿様の借金返済に、そっくり越後屋へ返しました」
「何、全部返したとな?それは何をする。それでは、そちの儲けが無いではないか」
「は、はぁ。しかし借りたものは借りたものとしてちゃんと清算しておかねば、我々
の信用が無くなりますし…」
「そうか。なるほど、冷静な判断であった。何かタダ働きのような気もするが、先ず
は無難であろう」
「それで、殿様のほうは、上納金の千両を何につかわれたのでございますか?」
「あのカネか?あれは・・・脅迫状の公約どおり、貧しい者達に分け与えるよう取り
計らったのじゃが」
「えっ!お殿様も正直に施しを…?何とまあ、我々には一文も残っておらぬ訳です
か」
「のぉ、伊勢屋。そちもワシも…中途半端なワルよのぉ…」
―――――完―――

2002年07月23日23時32分38秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

1998年(平成10年)10月13日火曜日の朝刊が出て来ました。
古新聞(けったいな言葉)を読むのは結構楽しいもんですな。

●「金融機能早期健全化法案」成立へ。
 なんと虚しい響きやこと。
 故・小渕首相と当時民主党代表であった管氏が握手してますな。
 こんなん連れてやってまんねん。
 苦労しまっせ。
 そら儂が言うのやがな。
 ははぁ〜しゃいならぁ。

●和歌山の毒物混入カレー保険金殺人事件。
 この年の七月やったんですなぁ。
 連日テレビに例のあの笑顔が登場してました。
 容疑者宅の周りに絶えん見物人の写真。
 皆噂してるんでしょぉね。
 小声でね。
 ヒ素ヒ素とね。 

●イチロー5年連続首位打者。
●ジャイアンツ松井初タイトル、本塁打・打点2冠王。
●日本シリーズは権藤ベイスターズ対東尾ライオンズ。
 なんと地味やったこと。
●タイガース52勝83敗勝率0.385で最下位。
 なんと派手やったこと。
●坪井新人最高打率0.314で新人賞。
 明日の光明期待の星も怪我と監督に躓いて…。
●新庄0.222で35選手中最下位。
 メジャーリーグでも同じよぉな数字。
 見よ!この安定感溢れる低空飛行。
 落ちても怪我が小そぉて済む。
 環境への順応性はイチロークラス。
 ひょっとして草野球でもこんなもんかも…。

比べて現在の誌面。
文字が大きくなって行間が詰まった。
カラー面が増えた。
凶悪事件が増えた。
政界関係に報道され得るニュースソースが増えた。
企業犯罪も言うに及ばず。
世の中は確実に悪ぅなってる印象。

そぉそぉ、古新聞にこんな広告が載ってました。
「夜、ミルクを飲んだひとは、よく眠れる。
 牛乳に含まれるカルシウム等はイライラ、不安を鎮めます。
 国産牛乳を使った、普通牛乳をどうぞ。
 全国牛乳普及協会 都道府県牛乳普及協会」
3年後、同じ誌面同じスペースにお詫び広告が載ろぉとは…。
普通の牛乳やったら後のイライラ、不安は無かったやろぉにねぇ。
なんです?Y印さん。
一寸先は闇やった?
そない短いはずはないでしょぉ?
もっと遠くから見えてたはずでしょぉ?
ちゃんと見てたらの話やけどね。

2002年07月23日16時59分33秒投稿

S.S☆「真の味方」☆     あや太郎

「日本人は味方だと思っていたのに…!」
 今回の報復攻撃について国際的な批判が相次いだとき、その国民が嘆いて言った。
「まるで我々が怒りに身を任せ、復讐心だけでテロリストの国を攻撃したように言う
が、決してそんな野蛮な行為ではない。国際的なテロ組織を倒すために已む無く行っ
ている正義の行動だったのだ」
「そうはおっしゃるが、一般市民も巻き込まれて多数犠牲者が出てましたよ」
「あれは…誤爆によるものだ。偶発的な不幸である。元を正せば、あのテロ政権に責
任がある」
「でも、結局お宅のほうの被害者と同じ数の犠牲者が出た時点で、攻撃を打ち切った
ようですが…?」
「それはいよいよ偶然だ。相手の政権が完全に崩壊した時点で攻撃を中止しただけの
こと。犠牲者を最小限に食い止めようという我が国の努力こそ評価されるべきだ。…
まぁ仮に今回の報復に、復讐の意味があったとしても、そこはそれ、相身互い・・・
お宅らだってサムライの国なんだから、似たような慣習があっただろう。『武士の情
け』の精神ははどこへ行ったんだ?」
「サムライは、お宅らが大砲ぶっ放したお蔭で居なくなっちゃいましたよ」
「ふーむ・・・今思えば惜しいことをしたな」
「改めて、一連のテロ事件の意味を考えてみると、やはり貧しい国々が富める国を狙
うという構図ですよねぇ。とすると、独り勝ちで世界経済を牛耳ってる国が狙われる
のは予想できたはずですが…?」
「独り勝ちになったのは偶然の出来事だ。日本だって世界中のカネを掻き集めてし
まった時期があったじゃないか。先進国同士だから分かるだろう?豊かさは努力と工
夫と勤勉さから生まれる。豊かになれないからって、他の国を恨んだり僻んだりする
のは間違いだ。自分の思い通りにならないから他所の国々に攻撃を仕掛けるなんて
持っての外ではないか。平和国家なら異論は無いだろう」
「日本も平和でしたよぉ・・・鎖国を破られるまでは」
「ヤな言い方だな。何が言いたいんだ?」
「折角よその国と闘わずに済む国家体制を作ってたのに、誰かさんが無理やり門をこ
じ開けちゃったから…」
「国際化させてやったんだから恨まれる筋合いじゃないだろう」
「しかも国際化を押し付けた理由が・・・捕鯨の為だったなんて」
「ああ〜〜、言うな〜〜。武士の情けじゃあ。過去の汚点に触れるとは何て嫌味な奴
らだ。日本は味方だと思ってたのに…!」
「味方だなんて思ってないくせに。…現に、国際化してアジアの大国になると、今度
は経済封鎖して戦争に追い込んだのはお宅でしょ。最初から封鎖したままにしとけば
穏やかだったのに。封鎖するのか開国させるのかハッキリさせてよ」
「ああ言や、こう言う・・・そんな国に育てた覚えは無い!…原爆落とした後は、
ちょっとヤリ過ぎたかな…と思って影に日向に援助してやったじゃないか。その恩を
忘れたのか?」
「忘れてやしませんよ。だから戦後は、影になり…影になり…影にばーっかり回って
援助交際して来たじゃないですか。何のために使ってるカネか知らないけど」
「その捨て台詞が余計なんだ!全くもって癇に障る。我が国の傘の下に入って、ぬく
ぬくと暮らしておるくせに、何と言う増長ぶり。肝心の時に味方に成らんで何の役に
立つんだ」
「あんまり役には立ちませんよぉ。もうそろそろ縁を切りましょうか?」
「何たる雑言!お前らがそんなこと言える立場か。我が国の腰巾着みたいにペッタラ
コンと食っついて、何かというと泣きついてくる癖に。思い上がりも甚だしい。そう
いう性根なら、いつでも縁を切ってやる。出て行きさらせ〜〜!…しかしそのあと、
どうやって行くつもりなんだ?」
「もちろん、また鎖国し直して、伝統文化を復活させます」
「そんな時代錯誤の国になって、何をしようってんだ?」
「例えば・・・伝統的な習慣…仇討ち制度を復活させて、美風にします。そして武士
の誉れだ、人権尊重の証だ、社会悪を撲滅する正義の行為だと褒めそやします」
「う〜〜ん・・・やっぱり日本は味方であったか!」
   ―――――完―――――

2002年07月22日23時19分53秒投稿

S.S☆「双子」☆     あや太郎

 京子が細ぼそと営んでいる酒場に、彼がやって来たのは、まだほんの十日前の事
だった。
 それが今は京子と一人息子の運命を左右するような大きな存在になっていた。
「この仕事が終わったら必ずこの店に戻ってくる。その時、答えを聞かせてくれ。子
供と一緒に俺と暮らすかどうか。俺の住む町まで付いてきてくれるかどうかをね」
 彼は全国を渡り歩く「販売員」だった。車一台に商品と簡単な家財道具だけを積ん
で、あちこち実演販売をしながら商売をしていた。
「十年続けて、やっと小さな店を持てるメドが立った。君達さえ良ければ、家族とし
て新しい生活を始めないか」
 流行らない場末の飲み屋で食いつないでいた京子には悪い話とは思えなかった。
 もともとは警官の妻だったのだが、暴力団の抗争に巻き込まれ、夫は三十前の若さ
で殺されてしまった。そのあと慰労金や生命保険などで実家の居酒屋を改築し、亡夫
の忘れ形見である息子を女手一つで育ててきたのだ。しかし決して客商売が得意でな
い子連れの未亡人が、不景気な当節、水商売を続けていくのは凡そ先の見込みの薄い
話だった。
 そんな時、彼がフラリと店を訪れた。青い顔をしていた。
旅の疲れに風邪をこじらせて歩くのも辛そうだった。
一杯のビールも飲まないうちに、彼は高熱で倒れこんだ。
裏手の部屋に寝かし、気がつけば徹夜で看病していた。
何やら誠実そうで慎ましい、自分に似た苦労人の匂いがしたたのだ。
三日ほど熱に魘され、一週間後にようやく彼は起き上がれるようになった。
「生まれ変わったような気分だなぁ」
 熱が引いた後の安心感と爽快感が、そう感じさせたのだろうか。
 そして何故か引き込まれるように看護を続けてきた京子も何かしら新しい人生が始
まるような気がした。
 十日目・・・明日から残りの仕事に出るというその夜、二人は自然の流れのままに
結ばれた。いや、例えそんな瞬間が無くても彼はプロポーズの約束を残して仕事に
戻っていったに違いない。最早京子にも、幼い一人息子にも、あの旅の販売員は新し
い人生の水先案内人に見えていた。
 数日後の彼の再訪を楽しみに、京子が店の切り盛りをしていると、知り合いの警察
関係者が飛び込んできた。
「大変だよ。あんたの亭主を殺した組員が判ったんだ。抗争の最中だったから最初は
誰がヤッたのか情報が入り乱れてたんだが、最近、若い組員の自供が出揃って、直接
手を下した奴が割れたんだ。影の若頭と呼ばれてた奴でね、高飛び先から戻って組の
中でも出世してるらしい。これが手配書だよ…」
重要参考人として並んでいる顔ぶれの中で、その男は不敵に笑っていた。
「あっ、この人…!」
 他でもない―――さっき旅立ったばかりの彼に瓜二つであった、
「あんた、知ってるのかい?」
「い、いえ。芸能人の誰かに似てるかなって・・・」
「そうなのか。なにせ、あんたにとっては仇だ。いや、逆に言いがかりでもつけてく
るかも知れん。万が一、ヤツが飲みに来たら、気づかれないように警察へ知らせな
よ」
 分かりました・・・と上の空で答えながら、京子は長い長い数日を過ごした。
 「彼」が戻ってくると約束した日が来た。京子の心は違う意味で動揺していた。
単に顔が似てるだけの、他人の空似かもしれないではないか。
しかし、もし同一人物だったら・・・?
「夫の仇と深い仲になったことに成る」
 余りにも恐ろしい誤算だった。もう淡い恋愛気分や将来の夢など心の片隅に引っ込
んでしまった。
「おーい、捕まったぞ〜〜。影の若頭だ!」
麻薬ルートで別件逮捕して、昔の殺しの件を徹底的に追及される事になったという。
 小さな町は、時ならぬ大捕り物に沸いていた。
「パトカーに向かってるぞ・・・おっ、手錠も顔も隠さない・・・さすが若き大物だ
な・・・いや、単なる強がりさ」
 色んな観測、憶測が波のように寄せては退いた。
 京子は我知らず車道に飛び出していた。
 日ごろ野次馬精神など見せる事の無い引っ込み思案な性質なのに、今回ばかりはや
はり自分の目で確かめずにはおれなかった。
「似てる…。いえ、どう見ても同じ人だ…」
 短い口ひげを蓄えていた。しかし「彼」も病に倒れたあと、ヒゲと髪は伸ばしたま
ま出かけた、少し手入れすればあんな口ひげになるはずだ。
「やっぱり・・・私は大変な過ちを・・・!」
 知らないこととは言え、殺された亭主の、その仇に身を任せてしまった罪を誰より
許せないのは自分だった。
 店へ戻ると京子は奥の間の押入れから、一本の匕首を取り出した。
 女一人で生きて行く境遇に成ってから、いざと言うときに身を守るため、あるいは
恥辱を晴らすために常備していたものだった。
「もし、あの人が戻ってこなかったら・・・」
 子供を残して死ぬのは忍びないが、どうしても妥協できない一線がそこにはあっ
た。
 日が暮れる頃になっても、旅の販売員は戻ってこなかった。
 何度目か、匕首の刃を半分引き抜いてはまた鞘に収めた。
 もう店じまいも近いという頃に、何故か夜更かししていた息子が外に飛び出し、騒
ぎ出した。
「母さん・・・あの小父ちゃんが帰ってきたよ!」
 裸足のまま飛び出した冷たい車道で、京子はゆっくりと走り寄ってくるあの街頭販
売車を確かに見つけた。
「いやぁ、遅くなっちゃって済まなかったねぇ。意外に売れ行きが良くて、こんな時
間まで頑張っちゃったよ」
 ニコニコ顔の販売員は車を降りながら、あの若頭と同じ顔で、しかし比べようも無
い柔和な表情で、京子と子供を抱き寄せた。
 「彼」には双子の兄弟が居たという。家が貧しく、自分のほうは生まれてすぐ養子
に出された。ここも貧しい家で、苦労しながら色んな仕事を転々とし、ようやく小さ
な店を持てるようになったという。もう一方の兄弟は消息も知れない。新聞であの容
疑者の顔写真を見ても、似ているかなぁという感想しか返ってこなかった。
 京子はもちろん兄弟が誰かなど、確かめる気も無かった。むしろ完全に忘れ去って
しまいたい思いだった。たとえ、亡き者にされた夫の殺害者だったとしても。
 三人は「彼」の地元に同道し、家族として暮らし始めた。
 過去のことなど綺麗サッパリ忘れて、いつまでも幸せな家庭を作る…事が出来れば
よかったのだが、そう上手くは行かなかった。
 先ず、新郎が見かけによらず博打好きだった。その借金を返済する為に養父母の財
産を食いつぶし、夜逃げ同然に全国を逃げながら行き当たりバッタリの商売をしてい
た事も後に分かった。そして、ようやく持った自分の店も借金を積み重ねて建てた物
らしかった。
 借金は減るどころか博打に手を出し、増えていった。
 とうとう京子は風俗の店に沈められる破目となった。
 それでも足りずに「彼」は麻薬の密売に手を出した。
 手を切れない暴力団にそそのかされたのだ。
 思春期の息子もいつしかチンピラの真似事をはじめ、危ない仕事を手伝わされてい
た。
「もう駄目だわ…」
 元はといえば、先の見込みの薄い境遇に嫌気が差して、安易な幸せを求めた自分に
も責任があった。
「きっとバチが当たったのね」
亡き夫の面影が浮かんでは消えた。
毎日死ぬことばかり考えるようになった頃、何故か彼女の生活は好転していた。
水商売とも縁が切れ、息子も学校に戻って真面目に進学を目指すようになった。
いつの間にか組員に取り込まれていた「彼」が何と「若頭」に出世していたのだ。
どんな汚い仕事をしているのかは分からない。しかし夢見ていた豊かな暮らしを実現
できた今に京子は満足感すら覚え始めていた。
運命の不思議さを思いながら、京子はあの時ちらりと見た夫の仇…あの若頭の顔を思
い出した。
「やっぱり、二人は双子だったんじゃないかしら」
そんな思いが日々確信に変わりつつあった。
あの「若頭」は結局証拠不十分で殺人の罪を免れ、麻薬取引の微罪で短期の刑を務め
あげたあと、また裏の世界で暗躍しているという。
「別々に暮らしたって、境遇が違ったって、遺伝子が同じなら・・・」
 犯罪の世界で成功する才能は共通性があるのかも知れない。
 目の前で悠然と葉巻をくゆらすこちらの若頭をしみじみと眺めながら、京子はまた
抗争の中で殺害された夫の事を思い出した。
「可哀想な人…」
せめて息子にだけは強運の持ち主になって欲しい。
やはりヤラれるよりは、ヤルほうがマシではないか。
それが今の京子の実感であった。
――――――完―――――――

2002年07月20日23時01分33秒投稿

S.S☆「騒音に耐えにし者たち」☆     あや太郎

「近年の音楽や音響効果、電子音などは言わば騒音の一種であります。例えば、静か
なクラシック音楽などを流しながら凍らせた氷は綺麗な結晶構造を形成し、透明度だ
けでなく、スケート用のリンクとしても実に滑り心地が良いのですが、対照的に喧し
いハードロックなどを流しながら氷結させると、結晶構造が無秩序となり、時には気
泡や濁りやひび割れが入ってスケート競技などの使用に耐えないほどです。…皆さ
ん、これは単に『氷』だけの問題ではないのです。氷の元になる水が濁ったり液体が
攪拌されたりするという事は、他でもない、我々人間の身体が心配されるのです。言
うまでも無く人間の身体は、その大部分が水分で構成されています。最も大切な脳細
胞でさえ七割から八割は水分で成り立っているのです。これら体内の水分や、あらゆ
る分泌液が、騒々しい音楽などを聴くうち、知らず知らず、震動させられ、掻き混ぜ
られ、分子レベルで破壊されているとしたら、何と恐ろしいことではありませんか。
 して見るに、近年の社会的混乱、暴力と異常犯罪の増加、そして精神文化の荒廃、
得体の知れぬ将来への不安―――――これらすべてと騒々しくも喧しい音楽や音響生
活とが無関係であるとは到底思えないのであります。よって私はここに、より静か
な、美しい叙情的な音楽を聴くという情操教育と生活習慣の普及を提唱する次第であ
ります!」
 何となく情緒不安定の時代だったのだろう。
 世間の暇人達はまんまと「得体の知れぬ不安」に乗せられ、いわゆる「静かな情操
的文化」に熱を入れ始め、喧しい音楽や騒音にドップリ浸っていた面々はアンダーグ
ラウンドの世界で少々肩身の狭い生活を強いられる事となった。そんなある日、この
地球上を予想外の天変地異が襲った。
「ぎゃあああ・・・耳鳴りが、眩暈が〜〜…」
「頭が割れそうだ・・・助けてくれ〜〜・・・コトッ」
 突如、人類を致命的な「頭痛」が襲ったのだ。
 調査の結果、何と太陽風に乗ってやって来る核融合反応の「衝撃波」が原因である
事がわかった。その衝撃波を受けた地表の岩盤と深部のマントル層が振動し、共鳴
し、人間の知覚神経を直撃する「波動」を生み出してしまったのだ。
「なにせ、地球全体が音叉となり、それが引き起こす振動波ですから、止める手立て
もありませんし、逃げ場もありません」
 むしろ閑静な場所に住んでいる者ほど抵抗力が弱く、すでに大半が心身崩壊の末期
状態という惨状であった。
「恐らく太古の恐竜絶滅や、生物層の大規模な交代劇も、同様な原因で起きたのでは
ないかと・・・」
 学者達の解説も今となっては空しい手遅れな事後報告となっていた。
「それで・・・人類は生き残れるのでしょうか?」
 防音室でインタビューする報道マンの顔も、ここまでに受けた振動波の影響で真っ
青に変色していた。
「全滅という事は無いでしょう。先ず難聴の人は、肉体的に軽い変調を来たすだけだ
と思われます。それから逆に調節機能の優れた強靭な鼓膜の持ち主も、この危機は脱
するでしょう。しかしごく普通の、ごく静かで、ごく牧歌的な生活をしていた人びと
は残念ながら耐え切れそうにありません」
「特に、近年、叙情的な音楽にばかり浸っていた皆さんは・・・」
 視聴者、聴取者の間から、静かで叙情的な悲鳴が上がった。
 しかし無情にも事態は予測どおり推移して、大半の人類は死滅し、予想通り生き
残ったのは騒音まみれの中で生きてきた都会人とロック世代だけだった。
「だから言ったんだ、耳も鍛えなきゃ駄目だって。自然界にだって不自然な事件は付
き物なんだから、鍛えておかなきゃあ。情緒が何たらって言う前に、先ずタフでない
とな。さぁ、静かな音楽だ、静かな環境だってウルサク言ってた奴らは全滅しちまっ
た。これからは俺達の時代だぜ。みんな、張り切って行こうか〜〜」
 かくして、新時代の到来を祝う、より以上に騒々しいコンサートが各地で賑々しく
催された。
 なるほど古い世代が滅びても、またすぐ新しくてタフな世代が出てくるものだ。
これからの世代が以前より、たくましいものになる事は間違いないであろう。
・・・それが住み良い世界であるかどうかは別にして……。
―――――――完―――――

2002年07月19日23時09分39秒投稿

S.S☆「跡形も無く」☆     あや太郎

 和尚が檀家へ寄進を求めに行くと、大店の主は例の如く冷たい顔で出迎えた。
「また寄進かね。何年か前に寺を改築したばかりじゃないか。まだ直す所があるのか
?それとも愛人でも囲ってカネに困ったのか?」
「いやいや、そんな甲斐性はありません。ご存知のようにウチの寺では生活の苦しい
家庭の子供らを預かったり、無料の塾みたいなものを開いたりしてますもんでな。そ
の設備費や教材費に困窮して、こうやって檀家を回っておる訳でしてな」
「ケッ、人助けか。この世知辛い時代にそんな事やめときなよ。放っときゃ政府や役
所が何とかするよ。選挙も近いし、福祉にも大盤振る舞いしてくれる頃だぜ」
「なかなかそう甘くはないのですわ。寺の金目の物を売り払って経費に充てとるよう
な次第で、もうこうやって大きな檀家の皆さんにお助け願うほか無いような有様で
なぁ」
 そこまで言われても、店の主は冷ややかだった。
「まぁウチも古い付き合いだから今までは仕方なく寄進や寄付をして来たがね、実の
ところ、もうヤメようと思ってるんだよ。来世の功徳?よしてくれよ。それでなくて
も私や神仏なんぞ信じてない身だ。陰でこっそり世間のために、とか、来世のため
に、なんて柄じゃない。そんな金が有ったら、今生限りの人生に遣って、パーッと楽
しく余生を送りたいんだよ。死後の世界?そんなもん有るもんかね。人間、死んだら
それまでさ。あの世も来世も、何の跡形もあるもんか。和尚さんに楯突く気はないけ
どね、もう柄にも無い慈善活動なんて真っ平だ。これから寄付、寄進の類は一切しな
いから、そう思っておくれ。それじゃ愛想なしで悪いけど、さようなら。寄進なら他
所へ行っとくれ!」
 悪評高い因業店主はいよいよ不信心な刹那主義者になっていた。
 失望して帰路に着く和尚だったが、路地の陰で、その大店の奥方が声を掛けた。
「和尚様、申し訳ありません。うちの人、ますます我がままになって、自分が遊ぶこ
としか考えておりません。あのぅ、些少ですが、これをご寄進に…」
 幾ばくかのカネを包んで渡してくれた。
「いつも有難うございます。お蔭様で、子供達も救われましょう」
 信心深く心優しい女将さんは、いつも陰ながら助成してくれた。
「それに比べて、あの強欲親父…」
 仏に仕える身としては言いたくはないが、それでもやはり恨み言が口をついた。
 ひたすら女将さんの健勝を祈りつつ、和尚はまた次の檀家へと重い足を運んでいっ
た。
 しかし世の中、上手く行かないものである。
 数年後、あの優しい女将さんが急逝したのだ。
 心労、気苦労が絶えなかったと言う。あの亭主に殺されたようなものだ。
 一方も亭主のほうは意気盛んで、これからいよいよ羽を伸ばして遊びほうけるつも
りらしい。里帰り中の急死だった事もあり、女将さんの弔いは実家のほうで慎ましく
執り行われた。気を落とす様子も無い亭主を横目に、和尚は苦々しい思いで遠くから
女将さんの冥福を祈るよりなかった。
 しかし不公平はいつまでも続かないものである。
 元気に遊びほうけていた亭主も一年後、ポックリと急逝した。
「何やら溜飲が下がった思いじゃ。いやいや、仏に仕える身ゆえ、ウソでもこのよう
な事を考えてはイカンな」
 愛人の家で倒れたとか、河豚に当たったとか、世間体もあって死因は曖昧なまま
だったが、亡妻と命日も近いという配慮で、当家では後継ぎ達が両親の遺影を飾り、
合同供養の体裁で告別式が行われることとなった。
 檀家の事とて、件の貧乏和尚も重々しく列席した。
 親戚、知人代表が弔辞を述べる。
 みな亡き店主の悪評は知り抜いているのだが、そこは商売関係の参列ゆえ無難な挨
拶しか聞こえてこない。同じ理由で先年亡くなった妻の事もほとんど触れる者はな
かった。
因業店主への弔辞やお追従が続くほどに、和尚も些かキレかけていた。
「あんなロクでもない奴への悔やみばかりとは・・・」
 いくら仏に仕える身とは言え、憤懣やるかたない。
 そしてついに法主の立場を離れ、一個人に戻った。
「筋違いながら、私からも一言、お許し願います」
 形ばかりの弔辞に飽き飽きしていた参列者たちにも反対する者はなかった。
「先ず、一周忌を迎えられました奥様には,事あるごとに寄付、寄進をいただき、多
くの子供達が救われました。この事をご霊前にご報告し、心より感謝させて頂きま
す。そして、このほど亡くなられた当家の当主殿におかせられましては・・・」
 和尚の言葉が一瞬途切れた。
 …あの不信心者の遊び人めが!…
和尚の心が周囲に伝わったかのように、一同がその顔を振り仰ぐ。
そして和尚の口から、快い手向けの言葉が発せられた。
「跡形も無く、消えちまえ〜〜!」
  ――――――完―――――――

2002年07月18日23時06分06秒投稿

S.S☆「メガネ」☆     あや太郎

「おい、わしのメガネを知らんか?」
「イヤですわ、お父さん。頭の上ですよ」
  ――――――
「おい、わしのカツラ、知らんか?」
「イヤですわ、お父さん。頭の上じゃないですか」
  ―――――――
「おい、わしの蝶ネクタイ、知らんか?」
「ヤだわ、お父さん。頭の上にのってるじゃないですか」
「何を言う。これはリボンだ」
「きゃああああ…」
 ――――完――――

2002年07月17日23時36分59秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

ヴィデオで松竹座公演「弥次喜多」観ました。
遠藤太津朗、曽我廼家文童の御両人の存在感。
流石ほんまもんの役者さんですな。
遠藤さんの悪家老なんか年期が違うっちゅう感じでした。
噺家連では茶屋のおかねばあさんの千朝さん、忍者の雀三郎さん、ひとり本格時代劇
にはまったはった団朝さん。
それぞれがいかにもそれぞれらしい演技振り。
千朝さんの‘お腰チラ’は爆笑もんでしたな。

前田美波里が〈喜六弥八〉を〈喜六清八〉と言い間違ぉたのはなぜ?
美味しいとこ取りの「宿屋仇」はちょっと辛い。
物語性に欠ける故でしょぉか、全体がだらだらいちびり過ぎてざこばさんのアドリブ
も然程活きて無かった。
これを活かそぉとするならば周りにもぉ少々きっちりした芝居が必要ですわな。
本書き屋さんに‘緊張の緩和’理論を思い起こして頂きたかった。
例えば「忠臣蔵」ならば話自体が緊張材料ですから、どない曲げよぉが何をくっ付け
よぉが根本の本筋から外れる事は有りません。
そこまで変えたら別の話になってしまいますからな。

その点で今回のよぉな新しい芝居は…なんです?
番組冒頭で関純子が言うてた?
お馴染みの弥次喜多道中を新解釈?
そらあんさん、なんぼなんでも解釈が過ぎまっせ。
山田浅右衛門でも万歳しまっせ。

あぁほんま良かった、観に行かいで…。

2002年07月17日13時47分48秒投稿

S.S☆「母に捧げる詩(うた)」☆     あや太郎

「新人文芸大賞……本年の詩文部門の大賞は……石川卓也さんです〜」
「あ、ありがとうございます。全く素人同然の僕がこんな晴れがましい文学賞をいた
だけるなんて、本当に夢のようです」
「いやぁ、それもこれも、石川さんの叙情溢れる作品の賜物ですよ。わたしも拝見さ
せていただきましたが、途中から泣けて泣けて弱りました。先年お亡くなりになった
お母様を偲ぶ心情が切々と伝わってきて、近年稀に見る感動的な詩文でしたよ」
「ハイ。マザコンと言われるかも知れませんが、僕にとって一番大切な人はお母さん
でしたし、今もその気持ちは変わりません。その母を、ろくに親孝行もできないうち
に亡くしてみると、あとに残るのはただ後悔の念と、母への思慕…クククク…」
「泣かないでくださいよ。聞いてる私たちも泣けてしまうじゃありませんか。ところ
で今までにも詩や小説はたくさん書いていらっしゃったんですか?」
「いえ、学生時代に書いて以来なんです。今回もそんな気はなかったのに、ある日あ
る時、フト思い立ち、気がついたらあの作品が出来上がっていたんです。きっと、亡
き母が書かせてくれたんだと信じています」
「これはまた感動的なエピソードです。これ以上泣かせないでくださいね、石川さ
ん。会場からもすすり泣く声が聞こえます。さて、新人作家の登竜門と言われるこの
大きな賞を獲得したご感想をもう一度」
「ハイ。この賞状を見るたびに亡き母を思い出し、感動で胸が打ち震えます」
「そして、この喜びを誰よりも先に伝えたいのは誰ですか?」
「ハイ、もちろん…それは母です!あぁ母が生きてたら、〔亡き母に捧げる詩〕を見
せたかった!」
「見せられる訳ないだろ…」
                  (完)

2002年07月16日23時06分28秒投稿

【end of file】