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2002年07月01日〜15日

S.S「仮想社会復帰」☆     あや太郎

「先生………先生が開発された〔仮想社会復帰システム〕とは本来どのようなコンセ
プトで作られたものなんでしょうか?」
「あれは二十世紀の末…この国に異常な犯罪が多発した頃でした。人を人とも思わ
ず、人の命を軽んじ、金の為には平気で命を奪い、時には自分の目標を果たすために
平気で人々を危険に晒す……そんな事件が続発したあの時期に、私は〔夢と現実〕の
境界が分からなくなった言わば〔バーチャリティ人間〕が増えてきた事に気づいたん
です。疑似体験ゲームやらシミュレーション装置の弊害でしょうか、虚像と実像の区
別が付かなくなった一部の人々が、社会にとって極めて危険な行動を取りつつありま
した。このままでは世の中の秩序が保てない…平和な小市民の暮らしが危ぶまれる…
そんな素朴な危機感から私は新しい〔リハビリ療法〕の開発に着手したのです」
「それがあの〔仮想社会復帰システム〕だったんですね?」
「そうなんです。それはありとあらゆる電子メディアの悪影響を受け、虚実の見分け
が付かなくなった人間や、ある種の精神障害で社会的に危険な行動を取りがちな人々
を、本格的な社会復帰に先立ち、人間性と社会性を回復させるために行なう精神的な
トレーニングでした」
「つまり、いきなり社会に出ても、なかなか適応できない人々や、精神的に混乱して
しまう人々を〔仮想の社会〕の中でリハビリさせ、充分適応できるようになったとこ
ろで、本当の社会復帰をさせようという訳ですね」
「正にそうです。開発した本人が言うのも何ですが、何度ものテストケースを経て、
大いに自信を持ちました。これで世紀末に頻発したような異常犯罪を激減させられ
る……何より社会に適応できない人々の福音になると確信できたのです。ところ
が…」
「大学側が反対したんですね」
「そうなんです!口幅ったいようだが、大学側の反対は先輩教授たちのヤッカミでし
た。まだ若手助教授だった私の研究成果を妬んだ上での予算打ち切りだったんです。
しかし私は諦めませんでした。直接政府に働きかけようと、ツテを頼り関係省庁に提
案したのです。そして企画は議題に上り、高く評価されました。試験的に実施される
所まで来ていたんです」
「それが…何故、不採用になったんです?」
「予算不足だと言うんですよ。成功すれば社会の秩序と多くの人々の幸せが守れると
いうのに、財政赤字の折りというだけの理由で…!」
「さぞや無念だった事でしょうね」
「それはもう…。だから、だから…」
「あんな過激な行動に出てしまったんですね」
「そうです。大学と大臣官邸を…爆破してしまったんです」
 学者は一瞬絶句した後、すぐまた拳を振り上げ、力強く語りはじめた。
「しかし…私は後悔なんかしていません。あれは社会全体の事を思って鳴らした警鐘
だったんですから。現にあのあと、事の一部始終が世間に知れ渡り、私の仮想社会復
帰システムも再検討を経て、採用実施されたではないですか。そしてもうすでに何人
もの社会不適応者を見事社会復帰させたと聞いています。これでも社会の役に立たな
かったと言えるんでしょうか?」
「ただ…爆破テロの時には犠牲者も出ています。それをどうお考えですか?」
「少数の犠牲者は仕方のない事です。そのお蔭で子々孫々まで世の中が上手く回れ
ば、それは尊い犠牲と言えるでしょう」
「そうですか…。そのお考えはまだ変わってないようですね」
「変わりません。私は学者です。社会全体のために貢献するのが仕事です。だからこ
れからも真理と幸福を追求する仕事に邁進するつもりです」
「これはまだまだ手間取りそうですな。…いやいや、お固い決意で、恐れ入りまし
た。それでは先生、また明日ここでお会いしましょう」
「分かりました。ではまた明日…」
 厳格な表情と堂々たる態度を些かも崩す事なく席を立つと、学者は自分自身が開発
した〔仮想社会復帰システム〕用の小部屋から、病室へと戻っていった。
                  (完)

2002年07月15日23時30分15秒投稿

皆様今日はOTCは薬屋です

昨日、人がワチャワチャと喋っているのを、ぼんやりと
聞いておりました。

【害獣駆除に対する補助金制度】というのがあります。

田畑や山林に出没して農作物を食い荒らしたり
植林したばかりの木を食害したりする鹿とか猪、それを駆除することで
各町から補助金が出るのですわね。
最近は、増えて困っている鹿がその対象なんです。

猟師は趣味と実益(実益の部分は肉であったのですが)
それにもう一つ現金収入が入るわけです。

それで、鹿をとった証拠というものが必要となります
証拠を持っていってそれで現金化するわけですわね。

ある町は鹿の尻尾です。鹿の尻尾を切り取って持っていく
ある町は鹿の前足を一対です。
ある町は鹿の前歯

そこで不正が行われているらしい。知り合いの猟師どおしが
鹿を獲っては、それぞれ尻尾と前足、前歯を交換しているらしいのです。
一頭で三度美味しい・・・
どんな場面においても不正はあるのですわね。

そうそう、話によると、三つの中では前歯を引き抜くのが人間として一番辛いらしい
そう言われればそうかな・・・

2002年07月15日11時55分57秒投稿

S.S☆「聞き耳頭巾」☆     あや太郎

 動物の言葉が理解できたらどんなに素晴らしい事か……そんな憧れを抱いて学者に
なった男がいた。
 動物の言語を読み取ろうとすれば、動物の生態を知り抜き、また音声工学や機械工
学にも通じていなければならない。男は幾つもの分野で猛烈に勉強し、ついにあらゆ
る動物、生物の話し言葉を自動翻訳する装置を開発した。
「あまりたくさんの言葉をキャッチしても聞き分けられないだろうから、先ずはカラ
スと犬あたりから聞いてみるか」
 学者は「聞き耳マシン」と名付けたその翻訳機を背に負い、頭巾代わりのヘッド
フォンを耳にはめると、小鳥やペットたちの集まる公園へとやって来た。
「カ〜…近頃のゴミ袋は破れにくくて困るな〜…」
「中身もシケてるし、不景気だ…カ〜」
 カラスの愚痴もちゃんと聞こえる。
「ワン!…元気ないなぁ、ジョン君よ。どうしたんだ?」
「最近エサを腹一杯食べてないんだ−−ワン」
「あんなに金持ちのご主人なのに、ドッグフードもくれないのか……ワン?」
「ダイエットのために減らされてるんだワン。腹一杯食べさせて、じゅうぶん運動さ
せてくれりゃ良いのにワン!」
 世相を反映するような会話が飛び交っている。
 今度は裏通りを歩きながら「猫」と「鼠」モードで聞き耳マシンを作動した。
「なぁ、頼むよ。お前ら一時で良いから姿を消してくれ。そうでないと俺たち顔が立
たねぇんだよ」
「そんなこと言われたって、俺たちも食いっぱぐれは困るぜ。子供がたくさん居るの
にさ」
「お前さんたちだって貯えぐらいあるだろうさ。あれだけ人間の上前ハネてんだか
ら。またほとぼりが冷めたら裏の倉庫にフリーパスで入れてやるよ。食中毒の時期だ
けでもお前らを追い出しておかないと、俺たちメシの食い上げなんだよ」
「しょうがないねぇ。じゃあここは一番アンタらの顔を立ててやるか。じゃあ皆しば
らく引っ越しだ…チュチューチュー」
 何の会話かと思ったら、飼い猫と鼠の談合らしかった。鼠を食べなくなった猫ども
の間ではこんな裏技がまかり通っているらしい。
「次は昆虫だが、そろそろ鳴きだす頃かな−−」
 空き地に細ぼそと生え残った雑草のそばに腰をおろすと、それでもしぶとく生きる
虫たちのやり取りが聞こえて来た。
「油断のならん世の中だ。近頃は動物や虫の声を聞き分ける機械が研究されているら
しい。我々もうっかり虫の音を出してると人間に腹の内を読まれかねんぞ…チロチロ
チロ」
「まぁ聞かれたってドウというような事は話してないけどな。それでも彼女や彼氏を
口説こうと一所懸命鳴いてるのを聞かれるというのは気恥ずかしいもんだ…リーン
リーン」
「そうだ、そうだ。我々のプライバシーってものを軽視してる。我々だってヒトに聞
かれたくない会話があるんだからな。それに向こうはこちらのやり取りを聞けるけ
ど、こっちは聞けないんだから不公平だよなぁ、ジージージー…」
「全くプライバシー侵害だ。そんな事して科学の進歩だ何だって喜んでるんだから気
楽なもんだよ、ガチャガチャ」
「本当だ、本当だ、いいかげんにスイーッチョン!」
 学者は思わず、スィーッチ・オフにすると、苦笑いしながら聞き耳マシンをしまい
込んだ。
 数日後、学者の元に一通の督促状と通達が届いた。
内容は何と、無断で動物や虫の声を聴いた罪で罰金○○万円也を支払えと来た。
差出人は、全動植物組合とある。ちょっと立ち聞きしたくらいで罰金とは不本意な…
と、学者が抗議の手紙を書きはじめた時、文書の最後の一文が目に入り、手が止まっ
た。
「ちなみに我々動植物組合は…通信傍受法案を廃案にしました」
                  (完)

2002年07月14日22時27分30秒投稿

S.S☆「末っ子」☆     あや太郎

 同級生の女の子が落ち込んだ様子で歩いていたので、友人が尋ねた。
「どうしたんの、ゆう子ちゃん?元気が無いわねぇ」
「うん。最近悩んでるの。何だか家の中で私だけが浮いてるような気がして」
「浮いてるって……兄さんや姉さんたちにイジメられるの?」
「いいえ、イジメられたりなんかしてないわ」
「じゃあ、両親が構ってくれないとか?」
「いいえ、逆なの。物凄く可愛がってくれる」
「じゃあ何が悩みなのさ?」
「その可愛がり方なのよ。私を可愛がってくれるのは嬉しいけど、上の四人はほった
らかしなのよ。まるっきり私ひとりが大切みたいに」
「それは末っ子だからじゃないかなぁ。五人兄弟の末娘ともなれば両親としても可愛
くてしょうがないのよ」
「でもあんなに片寄ってるのはヘンだわ。だから私考えるようになったの。…ひょっ
としたら私だけ特別なんじゃないかって」
「特別って、何が?」
「本当は私…貰い子か捨て子じゃないのかしら」
「貰い子か捨て子?でもそれは反対じゃないの。一人だけイジメられるのなら、そう
いう事もあるかもしれないけど、あなただけ可愛がってもらってるんでしょ?」
「そこなのよ。一人だけ血の繋がってない子だから、その子がイジケないように、親
が気をつかってるんじゃないかしら。そうだとしたら私どうしよう?」
「まだ本当にそうなのか分からないんでしょ。そんなにクヨクヨしなくっても…」
「でも…でももしそうだったら、わたし家族に申し訳なくって家に居られない!」
「そんなに思い詰めないでよ。そこまで悩んでるんなら、役所の戸籍課へ行って調べ
てみたら?」
「そうね。うん、そうしてみる…」
 次の日、また同級生の前に、浮かぬ顔のゆう子が現れた。
「何だか元気ないけど…。ひょっとして戸籍を調べたの?」
「うん」
「それで…?」
「間違いなく…実の親子だったわ」
「じゃあ、なぜそんなに落ち込んでるの?」
「だって、みんなに申し訳なくって…」
「そうね。両親を疑ったりして悪いと思ってるのね」
「いいえ。両親じゃなくて…兄弟に申し訳ないの」
「なぜ兄弟に?」
「四人とも…捨て子だったのよ」
                  (完)

2002年07月13日23時23分24秒投稿

S.S☆「余裕の成せるワザ」☆     あや太郎

「おい、お前−−また親のスネを齧ってるそうだな」
 極道息子を見て、先輩格の友人が小言を言った。
「うん。資金が足りなくてね。貯金を持ち出してやった」
「威張ってる場合か。少しは親孝行しろよ。元気そうでも、お前さんの親はもう年
だ。親孝行したい時には親は無し…ってな。あとで親孝行したいと思っても間に合わ
ないぞ」
「へん。俺はそんな厭味な事はしないよ」
「何で嫌味なんだ?」
「そもそも親孝行をしたいなんて気になるのは、自分の生活が安定して余裕が出来
て、親の事をゆっくり思い出せる境遇になったからさ。それは運に恵まれてユトリが
出来た人間のオゴリだよ。自分が食うや食わずの状態なら、親の事まで考えてられな
いだろう。だから親孝行なんて、成功者の嫌味な道楽、きれい事さ。あぁ、ヤだ、ヤ
だ−−」
「嫌なことを言う奴だ」
 説教する側も呆れるほかなかった。
 その後、親不孝息子のほうもしっかり稼ぐようになり生活のほうも安定してきた。
 それを見て、先輩が久しぶりにこう切りだした。
「さぁ、お前さんも生活に余裕が出来た。これで少しは親孝行する気になったんじゃ
ないかな」
「いいや。そんな事する気はサラサラないよ」
「まだそんなことを…。いったい何故だね?」
「ふん−−−俺は親孝行で余裕を見せびらかすほど嫌味な性格じゃないのさ。成功し
てもしなくても、親に対する態度は変わらない。どうだ、オレって見かけより良い人
間だろう?」
                  (完)

2002年07月11日22時26分52秒投稿

S.S☆「背負(しょ)ってる男」☆     あや太郎

 その男がやって来たのは丁度一年ほど前だった。ある日フラリとこの町に現れ、職
さがしをしていたかと思うと、次々に仕事を増やし朝夕なく働き始めた。
 就職難の折り、珍しい事にも思えたが、仕事の内容を見れば納得が行った。
 飲食店の掃除・皿洗いから出前まで片づけて、普通の店員の半分の給料だというの
だ。その合間に、客の買い物などで小遣いを稼ぎ、店が閉まったあとは夜間の道路工
事、そして深夜過ぎには半分居眠りしながらコンビニの留守番までこなした。
 つまり3Kの仕事や成り手の少ない時間帯のバイトを、安めの給金で引き受けたの
だ。いくら不景気とは言え、そこまですれば仕事は幾らでも転がっている。その後も
男は割りの良いバイトを転々としながら、今では並の管理職の何倍も稼ぐようになっ
ていた。
 無論、身体はボロボロになっていた。痩せこけて青黒い顔は周囲の者も眼を背ける
程だったが、それでも表に出ない仕事が専らなので差し支えは無い。今にも倒れそう
な身体で、男は働きつづけていた。
「もうかなり貯えも出来たんだろう?少しは休んだほうが良いんじゃないか。身体が
続かないよ」
 そんな周囲の声にも、男は淋しそうに笑ってこう答えた。
「カネが要るんだ。仕送りをしてやらないとね」
 家庭の事情ではしょうがない。周囲は心配しながらも重宝な人手を手放そうとはし
なかった。
 そうこうするうち、男の周囲に妙な噂が立ちはじめた。
「夜中に倉庫や店の裏手で、ひとりで仕事をしてる時、何かブツブツ言いながら働い
てるようだ。近所の人が気持ち悪がって…」
「何だろう?念仏でも唱えてるんじゃないだろうな」
「いくら死相が浮くほど働き詰めだからって、そんな事もないだろう」
「近所の手前もあるから、一度様子を見てみようか」
 雇用主たちが連れ立って、夜の仕事場を覗くことにした。
 薄暗い倉庫の奥で、品物の整理や荷造りをしながら、確かに男は何かブツブツ呟い
ていた。
「何を言ってるんだろう…?」
 足音を忍ばせ近づいてみると、こんな声が聞こえてきた。
「ヨシコ…リエ…ミカ−−−待ってろよ。もっと働いて…金を送ってやるからな…」
 どうやら家族の名前らしかった。妻と娘の名前を呟きながら働いているのだろう。
店主たちはホロリとさせられた気分でそっと引き揚げた。
 後日、その男の同僚たちが、やはり「夜の独り言」を聞いたと話題にしていた。
「女の名前が次々出てくるんで、何かと思いましたよ」
「いやぁ、どんな事情があるのか知らないが泣かせる話じゃないか」
 店主も話に加わる。
「家族の名前を呼びながら、それを励みに頑張ってるなんて…。お前たちも少しは見
習ったらどうだ」
「いや、そう言われるとお恥ずかしいですが−−でも、あの名前は誰なんだろう?」
「奥さんと娘さんだろうよ。確か…ヨシコ、リエ、ミカ…と繰り返してたっけ」
「あれ?僕が聞いた時は…ジュリ、ナナ、サヤカ…でしたよ」
「他にも娘が居たんだなぁ。子だくさんだと生活も大変だ。我々が知らないような苦
労をして来たんだろうな」
「店長−−−他にも違う名前を聞いた奴がいるんですよ。アケミ、ケイコ、ジュン
コ、レイナ…とか」
「何だか水商売っぽいが…まぁ、今時の事だ。そういう飛んでる名前の娘もいるんだ
ろう。それにしても、そんなにたくさん家族がいると苦労も並大抵じゃないだろう
な」
「果して家族の名前ですかねぇ?近所の人の話だと、こんな名前を呼びながら泣いて
たらしいですよ。…アンナ、シルビア、ジュリエット、ローズマリー…って」
「うーん…。嫁さんが外国人で、その係累まで面倒をみてるのかもな。いよいよ、
我々の想像を絶する生活苦があったようだ。そうだ−−今夜もう一度、様子を見にゆ
くか?」
 心配と感激と妙な好奇心に惹かれ、一同がこっそり裏手の倉庫を覗きに行くと、例
の如く、男は女たちの名を呼びながら、厳しい深夜の仕事に耐えていた。
「…ヨーコ、メグミ、シノブ、サンドラ、ダイアナ−−−みんな待ってろよ。もうす
ぐ金を貯めて…買い戻してやるからな…!」
 男には、やはり余人の想像を絶した訳ありの人生があったようだ。
                  (完)

2002年07月10日23時02分17秒投稿

S.S☆「ウラシマ太郎」☆     あや太郎

 太郎が漁に出ようと浜辺に出ると、子供らが一匹の子亀をいじめていた。
 あの伝説の浦島太郎の子孫という事もあり、太郎としてはイジメられている亀を見
捨てるわけには行かない。
「こらこら、そんな小さな亀をいじめてどうする。小遣いをやるから放してやれ」
「わーい、また儲かった−−」
 子供らははしゃぎながら亀を放り出すと走り去った。
「しっかりした子供らだ。それに引き換えオレと来たら…」
 実はあちこちに借金をして首が回らなくなっていたのだ。それなのになけなしの小
銭をはたいてしまった。全くウダツの上がらない人間だと、つくづく自分がイヤに
なった。
 しばらく脱力感からボンヤリしていると、海のほうから太郎を呼ぶ声が聞こえてき
た。「もしもし。さきほどは息子を助けて下さって有り難うございました」
「ん?息子と言うと…?」
「ハイ。私はさっきの子亀の親でございます」
 見ると、驚いた事に大きな海亀が一匹、海から顔を出し、こちらに会釈しているで
はないか。
「本当に助かりました。お礼に、あなた様を天の龍宮城へご招待させて頂きます」
「それは光栄な…。しかし天の龍宮というのは何だい?オレのご先祖様は海の底の龍
宮に招かれた事はあったらしいけど」
「ハイ。海の底は環境が悪くなって龍宮にふさわしくありません。そこでこの星を遙
に離れた天の彼方に龍宮城を移したのです」
「それじゃお前さんたちは空の彼方から来たって訳か」
「ハイ。手足から火を吹いて空を飛ぶ力を乙姫様から戴き、卵を産むときだけこの星
の浜辺へ里帰りしておるんです」
「なるほど。めでたく産まれたのがさっきの子亀か。そんな天の龍宮へもいっぺん
行ってみたいもんだが、オレはどうやって行けば良いんだい?」
「それならご心配なく。私の甲羅の上に乗って頂ければ、空をひとっ飛びしてお連れ
します。どうぞお越しくださいな」
「ふむ。でも漁に出ないと明日の米代が…」
 そうも思ったが、コツコツ働いたところで借金は減りそうにない。それならいっそ
トンずらでもしようか−−−太郎は渡りに舟と招待を受ける事にした。
 空飛ぶ亀は太郎を乗せると、光の速度でひとっ飛び−−アッと言う間に宇宙の彼方
の龍宮城へと到着した。
 龍宮城に着くと、少々SF調の乙姫様が出迎え、鯛やヒラメ型の宇宙生物が愛嬌
たっぷりに舞い踊るやら、飲めや歌えの持てなしで時が過ぎるのも忘れさせてくれ
る。
 気がつくと三年ほどの月日が経っていた。
「もう三年が過ぎました。浦島さんもそろそろ故郷へ戻られる頃では?」
 乙姫様が心配顔の迷惑顔で聞いてきた。
「はぁ。それが帰ったところで取り立てを食うばかり…。いやいや、それはこちらの
話なんですが、どうでしょう−−永遠にとは申しません。あと五六年置いてもらえま
せんか?その間、雑用でも下働きでも致しますから」
「まぁ、そうですか…。それじゃお城の床掃除でも−−」
 何とかお情けで居候させてもらえる事になった。
 太郎にはちょっとした魂胆があった。
「それだけの期間置いて貰えれば−−」
 借金返済義務の時効が成立するはずなのだ。その後の帰郷を楽しみに、浦島は目立
たず騒がず慎ましく、天の龍宮でひっそりと数年を過ごした。そしてついに帰郷の日
が来た。「いよいよ、お帰りになる日ですわね。すいぶん長い居つづけでしたけど、
お別れとなると淋しいですわね。これはせめてものお土産−−玉手箱です。でも、い
よいよ困った時以外には開けないでくださいね」
 開ければ白髪のお爺さんだ。そのあたりは先祖の言い伝えで知っている。
「お世話になりました、乙姫様。それではサラバ」
 借金の心配もなくなった今、浦島は颯爽と亀の背に乗り、意気揚々と故郷の漁村へ
立ち戻った。
「さぁ、これでもう借金の取り立ては出来ないはずだ。上手く行けば、もう百年くら
いの月日が過ぎて、知ってる人間さえ居なくなってるかも知れない。そうなりゃ肩身
の狭い思いもしなくて良いし、大きな顔をして生活をやり直せるって訳だ。あぁあ、
痛快だなぁ」 そんな事を呟きながら故郷の景色を眺めていると、思ったより変わり
映えしていない。風景はもちろんの事、立ち並ぶ家々も、舟の様子も、そして何より
歩いている連中の顔ぶれもほとんど変わっていないように見えた。
「ひょっとしたら代替わりして、よく似た子供や孫が歩いてるのかも知れん」
 戸惑っている浦島に、その時ひとりの恰幅の好い男が声をかけた。
「おい、浦島。どこに行ってたんだ。もう一年も利子を払ってもらってねぇぞ。今夜
こそは取り立てにゆくからな。一銭も欠かさず用意しとけよ」
 一番怖い借金取りだった。見たところ、まるで年を取った様子も無い。これでは計
算が違う。
「待ってくれ。八ヵ月って言ったけど−−俺は一年間留守にしてただけか?八年じゃ
ないのか?」
「八年?そんな長い間逃げられたら借金は帳消しになっちまう。それまで見逃しとく
ような俺様じゃねぇよ。ちゃんと耳を揃えて返して貰うぜ。ダハハハ」
「おかしい−−そんな筈はないのに…」
 確かに天の龍宮で八年過ごした筈なのだ。その上に光速で宇宙を飛んだのだから、
「ウラシマ効果」でもっと時差は大きくなっていなければおかしい。自分の時間より
地球時間のほうが遅く進んでいるなんて物理法則に反する。
「待てよ…。そうか−−玉手箱だ!」
 今回は、時間差を感じさせないようにという気配りで、乙姫様が時間操作をしてく
れたのかもしれない。だからあの玉手箱を開ければ「辻褄が合う」のではないだろう
か。
「ご先祖様の時は、自分が年を取って悲惨な結末になってしまったが、今度は周囲の
ほうが時間が進んで、過去は帳消しになるかも…。どっちにしてもこのままじゃ利息
だけ増えた借金地獄だ。いよいよ困った時には玉手箱を開けるべし−−−エイヤ」
 太郎は思い切って玉手箱のフタを開けた。白い煙が出た。そして周囲の景色が見る
見る変わって行った。
「しめた−−思った通りだ」
 しかし玉手箱のデジタル表示を見て、太郎の顔から冷や汗が滲み出た。
−−数字は何千年、何万年後を過ぎ、アッという間に何億年後に達し、まだ進みつづ
けていた。やけに眩しいと思ったら太陽が何倍かに膨らんでいた。地上のありとあら
ゆる物が蒸発し始めていた。
 白い煙と白い光の中で、太郎はめでたく自分の故郷の最期を見届けようとしてい
た。
                  (完)

2002年07月09日23時09分03秒投稿

S.S☆「飛び下り殺人事件」☆     あや太郎

「飛び下りる、飛び下りてやると口癖のように行ってたんですけど、まさか本当に投
身自殺するなんて…」
 とある海岸の自殺の名所から男が一人飛び下りて死亡した。
 崖の上には同行していた妻が気絶しており、意識を取り戻した妻に本署で警察関係
者が事情を聞いていた。
「あの人が落ちてゆくのを見て、余りのショックに気が遠くなりました。確かあの崖
の上に行ったのが二時ごろだったと思いますから…」
 発見された四時過ぎまで、ざっと二時間は失神していた事になる。
「借金やら何やらで、ご主人はだいぶ悩んでいたようですね。それにさっきも知り合
いの方々に聞いたんですが、日頃からよく自殺をほのめかしていたとか」
「ハイ。何かあるたび、死ぬ死ぬと。でも本当は気が弱くて自殺する度胸なんか無い
と思ってました。そんなあの人に愛想が尽きて、別れ話もした事があります」
 これも本当らしい。生活苦と離婚話でいよいよ追い詰められた亭主は、今度こそ
吹っ切れたようにあの世へとジャンプしたのだろうか。
「それでは私、葬儀の事もありますので…」
 やつれた顔で未亡人は帰宅した。
「悲しい話ですねぇ。最後の最後に飛び込む勇気が湧いただなんて」
 若い刑事が言うのを聞きながら、ベテラン刑事はゆっくり首をひねった。
「本当に…自分で飛び込んだのかな」
「えっ、どういう事です?どう見ても、覚悟の上の飛び下り自殺でしょう」
「例えば、保険金が絡んでるって事もある」
「ハァ−−−それは確かに少しはあるようです。まだ詳しくは調べてませんが、ちょ
うど一年前に掛けた生命保険があって、今なら自殺でも保険金は下りるそうです。そ
の保険金で大体今までの借金とローンを返せるようで、未亡人も何とか身軽には成れ
そうですがね」
「身軽になって、ローンの済んだ家が残る訳だ」
「待ってくださいよ。それじゃまるで奥さんが殺したみたいじゃないですか。奥さん
は旦那が飛び下りるのを見て、ショックで気を失ってたんですよ」
「本当に気を失ってたという調べはついてるのか?」
「いや、それは…後になってからじゃ調べ様がないですし…」
「もし本当に意識を失ってたのなら、誰も妻を怪しいとは思わないだろう。その辺に
足跡や指紋が残っていても不思議はないし、もみ合った跡があっても引き止めようと
したと言えば言い訳は立つ。それが狙いだったのかも知れない。すべてはその気絶し
ていたという事実の証明如何だ。何か痕跡が残ってるかも知れん。早速調べなおせ」
 かくして、妻は再び本署へ呼び出された。
「どうして、私が疑われるんですか?」
「旦那さんは、自殺する勇気の無い人だとおっしゃってましたね。調べたところでも
実際そのようです。とてもあれが決意の末の飛び下りだとは思えない。そこで当時あ
の現場に居た奥さんに嫌疑がかかったという訳です」
「そんな…。私は夫の自殺を見て気を失ったんですよ。言わば被害者です」
「保険金で借金も返せて、別れたかった夫とも死別して−−果して本当の被害者です
かね」
「何てひどい事を!まるで計画的に殺したとでもおっしゃってるみたいだわ」
「いや、完全に計画的とは言いません。しかし偶然を待っての計画殺人とは言えるで
しょうな。あの日、車を運転していたのは奥さんだったそうですね。何かと言えば、
死ぬ死ぬと騒ぎだす亭主−−−そんな人間を自殺の名所に連れて行けば必ずそんな狂
言を始める。そして崖っぷちに近づいたご主人を後ろから突き飛ばして、自分は気絶
したフリをした。あとは根気よく誰かが発見してくれるのを待つ…という周到な芝居
だ。そうじゃなかったんですか、奥さん?」
「ど、どこにそんな証拠が?」
「証拠はあります。あなたの身体にね」
「私の身体に?もみ合って怪我をしたとか痣ができたとか言うんですか?私の身体に
は傷一つありませんわ。それは当日の診断結果でも分かるはずです」
「そのとおり。事件直後の検査でも、あなたの身体には、頭から手足の先まで傷や皮
膚の変色はありませんでした」
「それじゃ、何が証拠だと言うんですか?」
 刑事はお茶で喉を潤し、おもむろに答えた。
「傷や変色が無かった事ですよ。−−−だって、あなたは二時間もあの岩場に倒れて
いたはずなんですよ。それも強いショックを受けて崩れ落ちたまま。普通なら二時間
もあんな岩場に寝ていたら身体や手足のあちこちに鬱血が出来る筈です。床ずれの前
兆みたいな物がね。しかもバッタリと倒れた筈だから、何らかの傷があってしかるべ
きなんですよ。それともショックで気絶しながら見事受け身をして、そのあとも無意
識に寝返りを打って、皮膚の鬱血を未然に防いだんですかね?」
「……」
「やはり、奥さんが手を下したんですね?」
「あの人に死んでもらうしかなかったんです」
「どうやら我々の推理は当たらずと言えども遠からずだったようですな」
「でも…一つだけ外れていますわよ」
「ほお。それはどの部分ですか?」
「崖っぷちで、あの人が自殺の狂言をしたという所です」
「そうじゃなかったんですか?」
「行ったでしょ。あの人は気が弱いって。あんな崖っぷちに立ちながら狂言をする度
胸なんて有りはしません。−−そんな勇気があったらねぇ−−−だから私が騙して
崖っぷちへ案内し、一気に突き落としたんです」
「何と、大胆な…」
「それから柵に捕まって落ちない主人を叩き落としました」
「何と…」
「それでもまだ木の枝に掴まっているところを蹴り飛ばして−−」
「これはまた…」
「最後に、枝に引っ掛かった主人のワイシャツをカッターナイフで切り離して…やっ
と一段落です」
「何とまぁ徹底してる事…」
「だって、本当だったんですもの」
「何が本当だったんです?」
「死ぬ死ぬと言ってる人は…なかなか死なないって事」
                  (完)

2002年07月08日23時23分55秒投稿

S.S☆「仕切り屋一代」☆     あや太郎

「わしの命令を聞け。これて良いと言ったら良いんだ!」
 社長の一喝で、また社の企画会議は終了した。
「いつもあの調子だからなぁ。参るよ、社長にも」
「あれなら会議なんか開かなくたって良いんだ。どうせワンマン社長が全部決めちま
うんだから」
「ホント、根っからの仕切り屋だな」
 そんな愚痴を散々耳にした専務が相談役の立場から社長に諫言した。
「社長−−ワンマンにも程がありますぞ。もっと部下たちの意見を聞いたら如何です
か」「皆の意見にも一理はあるんだが、どうも食い足りない。不安が先に立って結局
は自分の意見を採用する事になる。いや、責任を負う者としてはしょうがない決断な
のだよ」
「でも、前回のようにそれでは上手く行かない事もありますよ。あれでは部下が可哀
相です」
「だから−−その時はワシが責任を取ってるではないか。前回も損失を補うために私
財を処分して穴埋めした。無責任だとは言わせんぞ」
「責任感が強いのは分かります。しかしそれでは部下たちも腕の振るい様がありませ
ん。むしろ彼らに責任を負わせて自力でやらせてやって欲しいんですよ」
「うーん−−それではどうにも不安なんだよ。なにせワシは若い頃からずっとそうい
う立場におったからな。戦争中は一個小隊を率いて最前線で戦っておった。部下の命
と作戦の遂行を秤にかけながら命懸けの日々を送ったもんだ。そして自分で事業を興
してからは、つねに会社と社員とその家族を背に負い、決断を繰り返して来た。それ
がワシの道、ワシの宿命なんだよ」
 専務は肩をすくめ、諦め顔で部屋を出た。
 数年後、その頑固社長も天寿を全うした。最後まで現役を通した社長の死に顔には
「責任を全うした」という自信と満足の笑みが浮かんでいた。
 気がつくと、社長は「閻魔の庁」にたどりついていた。
「ここで天国行きか地獄行きか、振り分けられるという訳か。まぁ悪い事をした覚え
もなし、びくびくする事はないか−−」
 興味津々で閻魔様の前に進み出ると、他の亡者たちが一人一人質問を受け、行く先
に向かっていた。
「お前はどっちが良い?ふむ、こっちか。よし、それなら行け。その次の者はどこ
じゃ?ふむ、あちらか。よし、行くが良い。そしてお前らは向こうだな。よし、勝手
に行け」
 何やら、いろいろな世界があるようで、しかもみんな好きな所を選んで落ちつく先
を決めているようだった。
「これは案外、快適な生活が待っているかも知れんな」
 ホッとした気分で閻魔様の前へ歩み出て、自分の希望を述べようとすると、先に閻
魔様から声がかかった。
「待て。お前には選ぶ権利は無い。一番空いている地獄へでも行け」
「えっ!それは何故です?私は娑婆で責任ある立場におり、いろいろと人の為に心を
砕いて参りました。それが何でみんなのように行く先を選べないんです?」
「お前は生きておる間、ずっと指導者の立場におったようだな。そして何やかやと他
人を仕切って来た」
「それは責任ある立場として仕方のない事です。そして私は何が起こってもちゃんと
責任を取って来ました。調べて下さい。私には何ら悔いる所はありません」
「それがイカンのだ。お前は責任を取りすぎたのだ」
「責任を取りすぎた?」
「そうだ。自分の責任はおろか他人の責任まで取ってしまった。その結果、他人の人
生そのものまで割り込んだり横取りしてしまったのだ。他人に指図したり、他人の人
生を左右したり、そして決断や責任まで横取りしてしまうのは最も重い罪なのだ」
「つ、罪だって?」
「そうだ。他人を仕切るほど重い罪はない。例えば、人を殺せば、それは他人の寿
命、人生を勝手に決めてしまった事になる。これを罪だとは思わぬか?」
「い、いや、それは罪でしょうが、私はもっぱら人助けのために、指図したり、決断
したり、命令して来たつもりですぞ」
「それはつまり、他人様を勝手に仕切って来た事にほかならぬ。良いか…おおよそ人
の世で仕切る事ほど重い罪は無い。そしてその罪を犯したものは、罰として死後の世
界で〔仕切られる〕運命が待っておるのだ。さあ、決められた通り地獄に落ちて修行
をしなおせ」「ひぇ〜…ご勘弁ください。ひとに仕切られるのだけはイヤだ〜!…」
 仕切り屋は、本音を一つ吐くと「仕切られ修行の道」へと転げ落ちて行った。
「ふん。大きな声だ。仕切られるのが嫌だから仕切る側に回っていたと、ようやく本
音を吐きよったわい。大体、声高に人に命令したり、仕切ったりする奴にロクなのは
いない。前任の閻魔もそれでクビになったんだからな」
 そう呟くと、閻魔様は静かな低調な猫なで声で、押し寄せる亡者たちに応対してい
た。                  (完)

2002年07月07日22時54分52秒投稿

S.S☆「一番好きな人」☆     あや太郎

「わたしが一番好きな人は−−お父さんよ」
 令嬢はそう答えた。
「やっぱり…」
 彼女がファザコンである事を再三聞かされていた彼だったが、やはりそれはこたえ
る一言だった。
「でもキミ−−−父親と恋人は別だよ。一緒になればきっと変わるさ」
「いいえ。一緒になったって変わりはしないわ。だってお父さんは世界一立派な方な
んだもの。あれだけの商才と教養と地位を持った上に、人格も立派だわ。そして何よ
り、私を誰より可愛がって下さったもの」
「それは、僕だってこれから負けないほどキミを大切にしてゆくよ」
「そんな簡単に追いつくはずがないじゃない。だって、私が生まれてから二十年以上
もの間、何より誰より私を慈しんで下さったのよ。付き合ってまだ数年のあなたとは
比べようが無いわ」
「でもそれじゃ…」
 いつまで経っても追いつかない計算になる。落ち込む彼氏に、しかし令嬢は優しく
語りかけた。
「でも二人が結婚するのは不可能じゃないわ。お父様はそんな事に反対するような堅
苦しい方じゃないし、あなたさえ覚悟して下されば、二人は一緒になれるのよ」
「えっ…どうすれば良いと言うんだ?」
「あなたが…二番目という立場で我慢して下さりさえすれば、いつでも結婚できる
わ。何度も言ったように、私が一番好きなのはお父さんなの。そしてあなたは二番目
に好きな人なのよ。それでも良ければ結婚しましょう」
「う〜ん−−−二番目に好き、か…」
 純真な青年にはやはり辛い言葉だった。親と夫とは違う…とは言いながらも、ハッ
キリ二番目と念を押されると結婚する意味が分からなくなってくる。いや、むしろ
「財産目当て」と勘繰られるかも知れない。そんな欲の無い青年だけに迷いは深刻
だった。
「しばらく考えさせてくれ」
 そして数日後、彼はようやく令嬢に返答をした。
「仕方がない。僕にはキミしかいないんだ。二番目に甘んじるのは情けないが、その
条件を受け入れよう。これは僕の苦渋の決断だ。内心ジクジたるものがあるのは確か
だが、キミを失う事には耐えられそうにない。結婚しよう」
「ありがとう、あなた。わたし本当に嬉しいわ。何より嬉しかったのは、あなたが時
間をかけて悩んでくれた事よ。だって、もし財産目当ての人だったら、きっと迷わず
にすぐOKしたはずだわ。でも、あなたは迷ってくれた。真剣に私の事だけを考えて
くれた。それが何より嬉しいの。これで私も迷いなくあなたの妻になれるわ」
そんな事とは知らなかった彼だが、彼女が単刀直入に本意を明かしてくれたのが却っ
て嬉しかった。彼女の肩を抱き寄せながら、彼がポツリと言った。
「でも辛い話だなぁ。絶対一番になれない夫だなんて」
 自嘲気味に笑う彼に、しかし彼女は悪びれる様子もなくこう答えた。
「そんな事ないわよ。お父様が亡くなった後は、あなたが一番好きな人になるじゃな
いの」
「そ、そんな、縁起でもない…」
−−それに、いつの事になるのやら…−−
 彼は驚いたような複雑な顔で苦笑するほかなかった。
 間もなく二人は結婚し、そのうち子供も生まれた。
 そして、孫の顔を見てあんなに喜んでいた父親も長年の持病が元で呆気なく逝って
しまった。さぞや娘は悲しむだろうと思いきや、むしろ気丈に葬儀一切を取り仕切っ
て周囲と婿を安心させた。
「驚いたよ。キミがこんなに芯の強い人だとは。あんなに愛してたお父さんが亡く
なったというのに、しっかりやってくれている。やはり子供が出来ると女は強くなれ
るのかなぁ」
「私も驚いてるの。こんなにすっきり気持ちを切り換えられるなんて。でも何より、
これであなたを一番好きな人だと思えるその嬉しさが私を支えてくれていると思う
わ」
「そうか。いや、それは光栄な気分だなぁ」
 複雑な気もするが、それでも夫は嬉しかった。今度こそは自分が一番なのだ。
「そして…この子が世界で二番目に好きな人よ」
 息子を愛しげに抱き上げる妻を見て、夫はまた複雑な気分になった。
「もし自分が居なくなったら、その途端に彼女の眼には…」
 もう息子しか映らなくなるのだろう。
 しかも、その息子に「一番」の座を譲ってやろうと思えば、おちおち長生きもして
いられない。
「一番目になる事は、二番目に甘んじるより辛い事なのかも知れない−−」
 晴れて一番になっても悩みは解決しない事にようやく夫は気がついた。
                  (完)

2002年07月06日23時46分26秒投稿

S.S☆「女子プロ」☆     あや太郎

 飲み屋のテレビにプロゴルフの結果が映っていた。
「…以上の成績で、優勝は○○ミチコ、二位は××カオリ、そして△△アツコが三位
に着けました」
 しかし飲み客の視線はその成績よりも、グリーン上を闊歩する彼女らの姿に吸いつ
けられていた。
「それにしても、女子プロゴルファーってのは…特徴的だねぇ」
「何が特徴的だって言うんだい?」
「あの体型だよ。何でみんなあんなに…恰幅が良いんだろうな」
「そう言やそうだなぁ」
「まさか運動不足で贅肉つけてるんじゃないだろうに」
「そりゃそうさ。若い頃からずいぶん鍛えてるはずだ。ゴルフに必要な筋肉を付けた
結果が、あれなんだろうな」
「でも、ああいう体型じゃない選手もたまには居るぜ」
「まぁね。でもやっぱり力のある選手は…ああいうタイプだなぁ」
「何で、ああいう体型が多いんだろう?」
「たぶん、他に女子のプロスポーツが少ないからじゃないか」
「なぜ、プロスポーツの種類が少ないと、ああなるんだい」
「だからさ 力のある子が集中しちまうんじゃないのかな」
「何だか煮え切らない言い方だな。要するに何が言いたいんだい?」
「あんたこそ何を言わせたいんだ?ハッキリ言えよ」
「じゃあ、一緒に言おうか。一、二の、三−−」
−−−相撲界が無いからだ−−−
 そのあとはちょっぴり酒が旨くなったという。
                  (完)

2002年07月04日22時53分04秒投稿

加美の神様! 志鷹見鷹八鷹(シタカミタカヤッタカ)〜またの名を。青芝ファックで〜す。

いやぁ〜。久し振りの投稿で緊張しますが、付いてきて下さい!
それにしても、時代は変わりましたね?
葉書職人している頃は、ネタ書きは木曜日と決めており朝から晩まで
仕事もそっちのけでドンドコに投稿しておりましたが、今ではインターネットですからね、
何か此れって不思議ですよね?自分の書いたものが当時はラジオより音声として
聴覚情報として皆さんに、この場合、不特定多数にばら蒔かれていたのに
今では、視覚情報として特定の人がそれも読みながら情報を検索して、おもろいのか?
おもろないのか?リアルに反応も判らないので、小生も困りますが当時の皆さん上岡氏が
読んでいると思い感じてください!エッ?感じられない?不感症の方もそう言わずパソコンの前で
『シタカ!チャチャチャ!』『ミタカ!チャチャチャ!』 ワールドカップ並みの応援頼むよ!
おるかおらぬか判らんが、雀雀もサポート頼むよ!
今回は私の近況報告をしたいと思います。
現在のファック君はドンドコで鍛えられた文筆力が認められ、番組終了と同時に
イタリアの一部リーグセリエA”ペルージャ”から書いてみないかとオファーを頂き。
チームのグループ傘下、イタリア煮込みうどん協会日本支部で広報の仕事をしており
毎日、小生が書いた原稿〜煮込みうどん大サービス!!380円旨い!来れば〜ぁ。
を書いているんじゃ。凄いやろ?先日のW杯で来日したイタリアチームのペペロッチ〜ナとか?
フランシスコザビエル?とかナンシー関?にも食べて頂いてんやぞ!?エッ?よわからんてか?
ワシもよう判らんけど、凄い事なんやぞ!あ〜た。
煮込みうどん食べた御陰で見てみろ!イタリア代表は韓国に負け腰砕け!ほれみたことか!
煮込みうどんを馬鹿にする奴は煮込みうどんに泣く!エッ?それではアカンてか?
アカンこと無い!煮込みうどんだけに腰が甘かったかな?イタリア代表?
こんな感じでいいですか?某大正区民さん。
ファック君のシュールなネタは此れから発表するとして、今日の所は此れくらいにしといたる。
今から第二弾、夏の限定煮込みうどんまつり!の原稿、”流し煮込みうどん”のノボリ書かな
あかんので、此れにて失礼致します。原稿依頼待ってるよ!
イタリア煮こみうどん協会日本支部の”志鷹豪次”と検索したらプロフィール出るからね。
それではこれにてオイトコ節にカツオ節。   
                          こんなんでいい? 某大正区民さん?

2002年07月04日12時20分45秒投稿

S.S☆「起死回生」−−「カンフル剤」☆     あや太郎

 乙平は口惜しくてしょうがなかった。
 ここ一番で負けたのだ。
「クソ〜、あの審判め!あそこでセーフとさえ言ってくれりゃ…」
 草野球で惜敗したのだった。
 最終回、一点リードされた場面で、自分が同点のタイムリー・ヒットを打った…は
ずだったのだが、ホームベース上のクロスプレーに無情にも審判の判定はアウト−−
−そのままゲームセットとなってしまった。
「確かに際どいタイミングだったよ。しかしどうせならセーフにしてくれたら良いの
にさ。そのほうが盛り上がるじゃないか。同点なら相手に不利な判定という訳でもな
いだろうしさ。もう少しシャレの分かる判定が出来なかったのかよ」
 理不尽だが、どこか分かるような愚痴を吐きながら酒をあおる。
 たかが草野球ではあったが、この試合に勝てば大きな「冠」付きの全国大会に出ら
れたのだ。地元の新聞にも連日大きな観戦記事が載っていた。
「あれをセーフに取ってくれてたら〔甲野乙平、劇的同点打!〕の見出しぐらいは付
いたんだ。それにチームだって勢い付いて、サヨナラに持ち込んでたかも…」
 カモやタラのレバーがポロポロこぼれ落ちる。
「日頃、頭の上がらんカミさんにも少しは大きな顔が出来るし、子供らが大きくなっ
た時には、劇的な全国優勝の新聞記事を見せてやれたかもしれんのに…」
 地方予選からいきなり全国へと夢は馳せた。
「もうイイ年だし、野球にかまけるのも今年限りか…。あぁあ、つくづくツイてない
人生だなぁ。ここぞと言う時に良い所を見せられないんだから…」
 思えば試合前からゲンの悪い事があった。
−−−球場前に出ていた占い師に、運試しのつもりで勝ち負けを見てもらったとこ
ろ、こんなご託宣があったのだ。
「良い事があるな。…但し試合には負ける。そのあとで良い事がありそうだ」
「肝心の所で勝てなくてどうするってんだ…」
 我ながら勝負弱い所がある。自分の不運を嘆きながら乙平は酔いつぶれた。
 それでも心機一転、翌日から乙平は仕事ひと筋の日々を歩みはじめた。
 怖い妻との約束通り、草野球からは引退し、家族のために働く事にしたのだ。
 時間的にも肉体的にも余裕が出来た分、仕事も順調で、生活も着実に向上し、家庭
内も円満という結構な境遇となった。
「順風満帆ってとこか」
 これもすべて野球大会で敗れ、見切りをつけて以降のことだ。
 そんな時、フトあの占い師の言葉を思い出した。
「試合には負けるが、きっと良い事がある」
 どうやら占いは当たっていたらしい。しかし乙平はそれを嬉しいとも思わなかっ
た。
 順調な暮らしの中で、何かまだ空しいものがあったのだ。それは野球への未練…そ
して、あの地方予選で勝てなかった悔いだ。
「勝ってたって、どうせ野球は引退してたはずだ。もう若くはなかったし、生活にも
追われる。それなら…どうせなら…勝たしてくれたって良いじゃないか!ちょっと恰
好いい思い出と共に野球をやめ、大きくなった子供らにも自慢してやれる。そのほう
がやっぱり幸せだよ。あぁあ、やっぱり勝ちたかったなぁ。あの審判の野郎め。セー
フと言ってくれりゃ良かったのに…」
 やはりまだ腹の底に、あの時の恨みがくすぶっているようだった。
 乙平は軽く酒をあおり、ひとつ首を振ると苦笑した。忙しく充実した日々の暮らし
の中でも、まだあの思い出がホロ苦かった。
 五十才に近づき、いよいよ仕事が充実していたある日、乙平は突然の頭痛を覚え、
間もなく意識を失った。脳溢血だった。救急車で病院へ運ばれた時には昏睡状態とな
り、医師たちが難しい顔で家族に囁きかけた。
「この数時間が山です。ここで目を覚ましてくれれば助かりますが、意識が戻らなけ
れば…」
 そのまま帰らぬ人となる。
「あなた…目を覚まして」
「お父さん…頑張って!」
 そんな家族の声も聞こえぬまま、乙平は深い眠りに落ちていった。
 その深い深い眠りの底で、乙平の消え入りそうな意識に、妙な声が聞こえて来た。
「アウト!」
 何だかイヤな感慨を伴う声だった。
「何?…アウトだって?」
 重い頭を持ち上げるように乙平の意識が微かに反応した。
「セーフだろう?…あのタイミングはホームインだ」
 ふと見ると、あの時の審判の顔が冷淡に睨み返していた。
「アウト−−アウト!」
「まだそんなこと言ってやがるのか。セーフだったらセーフだ!」
「アウトだったらアウトだ!」
「えーい、この分からず屋め。どこに目を付けてやがる……この野郎!」
 思わず立ち上がり、審判を殴りつけた−−と思った瞬間、乙平は目を覚ましてい
た。
「あっ…ここは…どこ…?」
「意識が戻った!これで大丈夫だ−−」
 病室に小さな歓声が沸き上がり、家族たちが涙声で話しかけてくるのが分かった。
「あの憎たらしい審判のお蔭か…」
 ひょっとすると占い師の言った「良い事」とは今回の事だったのかも知れない。
 全国大会に出るよりももっと感動的な歓声がベッドの周りにさんざめいていた。
                  (完)

2002年07月04日00時06分18秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

うちのテレビに頼みもせんのに映ってた〈.J-SKYSPORTS-2〉。
マンションが契約してるケーブルテレビなんですな。
WWEプロレス、カーレース、その他春夏秋冬各種スポーツ色んな番組があります。
プロ野球もやってる事はやってます。
但しベイスターズ・スワローズ・ドラゴンズ・ブルーウェーブ中心の、ほとんど刺身
のツマだけ盛り付けたよぉなもんですけどね。
が、中心はやっぱりサッカーですな。
スペインの〈リーガエスパニョーラ〉イタリアの〈セリエA〉が中心。
週1回アルゼンチン、時々Jリーグ、たまにポルトガル。
従って今回のワールドカップにも見覚え聞き覚えのある選手が沢山出場していて、結
構楽しめましたな。

先月の中頃、チャンネルを合わせてみると囲碁の対局をやってました。
現在サッカーはオフやしワールドカップの放映権も持って無いしで、スポーツだけで
は番組表が埋まらんのやろぉ。
以前からナインボールとかスヌーカーとかダンスとかの試合もやってたんで、ここは
ひとつ囲碁も格闘技なんて超拡大解釈して放映してるんやなっと思ぉたんです。
違ぉてました。
正味〈囲碁・将棋チャンネル〉に変わってました。
他局がつまらん時、観たい番組と番組の間を埋める時の一時退避場所的役割を担ぉて
たこのチャンネル。
なんでやのん?
なんで囲碁・将棋やのん?
羽生善治くらいしか知らん私にこれをどぉせぇっちゅうのん?

けどまてよ。
何の興味も無かったサッカーが、観てるうちにそこそこ面白いと思うよぉになった。
その伝で行くと興味が湧く可能性も無いとは言えん。
ひょっと嵌ってしもぉて碁会所とか将棋クラブに入り浸りになったりして…。
ん〜、それはそれで将来的にちょっとええ趣味になるかも。
しばらく観てみよぉっと。

2002年07月03日12時32分33秒投稿

S.S☆「てめぇら…!」☆     あや太郎

 地球上の探査に来たエイリアン一行は、日本の江戸時代に潜入していた。
「良いな。我々が地球人でないとバレたら探査は中止だ。あくまでも正体を知られぬ
ように。そしてこの星の文明文化に影響を与えないように。それが宇宙連邦の協約だ
からな。くれぐれも気をつけてくれたまえ」
 チョンマゲの町人姿に身をやつしたエイリアンたちは、目立たぬように日本橋界隈
の人込みの中に紛れ込んだ。
 すると、間もなく人の流れが急に止まった。
「はて、どうしたんだ?」
 どうやら前方の人込みで何かモメ事があったらしい。
「どうかお助け下さい。お情けを…」
「何をぬかす。刀の鞘を蹴飛ばしおって。刀は武士の魂−−それを足蹴にされたと
あっては許されん。手打ちに致す。そこに控えろ!」
 派手な羽織ハカマ姿の旗本崩れが数人、ニヤニヤしながら親子連れをいたぶってい
た。「決して悪気はございません。いえ、むしろ私共は避けようとしたのでございま
すが、そちらのお武家様がたが、突然よろけて来られて…」
「うるさい。言い訳は許さんぞ。どうしても詫びたいというのなら−−その娘に酌で
もしてもらおうか。あの舟宿でひと晩じっくりとな」
「そ、それだけはお許し下さい。娘には何の罪もございません」
「やかましい。誰に罪があろうと関係ない。邪魔をする奴はこうだ−−−!」
 何と侍の一人がいきなり剣を抜き切りつけた。父親らしき老人が血まみれになりな
がら崩れ落ちる。
「お父っつぁん!…」
「医者だ、医者だ−−」
 しかし親にすがり付く娘を旗本どもは無理やり引き立ててゆく。
「さぁ、来い。酌だ、酌だ−−ガハハハハ」
 止めようとする町人たちがつぎつぎ突き飛ばされる。江戸一番の目抜き通りは正に
修羅場と化した。
「何と凄惨な場面に出くわしたものだ…」
 エイリアンたちが囁きあっていると、その時また一人、派手な着流し姿の武士が割
り込んできた。
「おうおうおう−−−−何をやってるんだよ、お前さんたちは?」
「何だ、こいつは?手出しすると捨ておかんぞ」
 旗本の一人がまた切りかかった。しかしそれを軽々と蹴散らし、着流しの侍はいつ
の間にか、正義の剣を抜き放っていた。
「口で言っても分からねぇなら、叩っ切るほかねぇか」
「う、うるさい…。邪魔をすると…こうだぞ!」
 何と旗本崩れどもは人込みの子供を捕まえ、白刃を突きつけた。
 しかしその時にはもう正義の侍の小刀が飛んでいた。
 泣いている子供を引き寄せると、その周囲を旗本どもが取り囲んだ。
「や、やってしまえ!子供も娘も一緒だ!」
 ここで、ついにキレた正義の武士が決め台詞を吐いた。
「てめぇら−−−人間じゃねぇや!」
 見物客の間から、ワッと歓声が上がった途端、エイリアンたちは血相を変えて逃げ
だしていた。
「イカン−−地球人でないのがバレたらしい…」
                  (完)

2002年07月02日22時26分06秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

6月29日 豊中市立伝統芸能館「落語本舗 こごろう堂」

出し物

●「青菜」      桂 雀五郎
●「煮売屋」     桂 こごろう
●「宿替え」     桂 つく枝
●「くっしゃみ講釈」 桂 こごろう

ひょっとしてあれが前触れやったのか?という出来事が1席目にありました。
「煮売屋」の前に「東の旅・発端」の導入部「大阪離れてはや玉造…」。
言わば助走ですな。
当然ここには張り扇小拍子の‘叩き’がパタタパタタと入ります。
ところが、こごろうさんはこれが未経験。
上方の噺家さんは皆が皆これから始めるもんやとばっかり思ぉてたんですけど、師匠
の南光さんが「別にせいでもええ」と言わはったんやそぉです。
一門の考え方ですからそれはそれでええと思いますな。
叩きが出来ずして噺家にあらずっちゅうほどのもんや無いとは思います。
従って今回のが初演。
なんともギクシャクした…と言うよりまったく出来て無い。
調子をとる筈が却って言葉の邪魔してる状態。
その所為か途中で忘れてしもぉて楽屋に尋ねたりして…。
まぁ、ここが本編やありませんからね。
悪戦苦闘の後の「煮売屋」はすっすと運んで下りはりました。

さて、2席目は「くっしゃみ講釈」。
この噺のハイライトは、講釈師後藤一山がくしゃみに苦しみながら語る下り。
ここで事件は起こっちゃったのさ。
それも選りに選って講釈後半のテンポに乗った見せ場で。
何となく見台を叩くリズムが合ぉてないし所作もぎこちないなぁと思ぉてましたら、
出て来ん、言葉が、台詞が。
「あれ?どないしたんかな?あれ?どないしょ。ちょっと待って下さいね。あれ?」
楽屋に助けを乞うたりしはったんですけど、なんせ場面が場面。
ちゃんとした状況説明とか順を追ぉた台詞回しや無い、言わば演者さんのアドリブが
物を言う処です。
例え楽屋にこれを得意ネタにしたはる人が居たはっても、その次の台詞はこぉこぉで
…とは言えんでしょぉな。
私もなんとか思い出して言うたげよぉとしたんですけど、これやでっちゅう言葉に特
定出来んかった。
もぉこれは場面そのものをやり直すしか無い。
が、完全にパニクってるこごろうさんは焦ったら焦るだけはまり込む泥沼状態。
とてもの事にそんな余裕はありません。
「えー、本日は半札とは思いますが丸札を…。」
ギャグ言う顔も強張って、涙目になり掛けてます。
こんな場合客も辛い。
どないぞして演者さんを助けてやりたいし自らもこの雰囲気から逃れたい。
会場全体がどないしょ状態の中、やがてこごろうさんが言いました。
「こんな事ですんで今日のお代はお返しします。すんません。」
が、そこはこごろうさんの為に集まった少人数の会です。
「そんなんええよ。」
「楽しませてもろぉたで。」
の声と共に拍手が沸き起こってようやく空気が動きました。
それなら、というんで約束を2つ。
次回のこの会で再度「くっしゃみ講釈」をやる。
今日の客は無料で入場してもらう。
わぁ得した…て、違うの!
ひとつ狂うたら何処までも連鎖してしまう怖さ。
此処まで思い知った日はおそらく無かったでしょぉな。
こごろうさんには苦かったやろぉけど良薬やと思わにゃね。

と言う事で、他の演者さんの感想が吹っ飛んでしまいました。
それを思い出しつつ掻き集めて…。
つく枝さんの「宿替え」は、転居先で釘を打つ場面から始まって落ちまで。
この噺は枝雀さんのがあまりに印象が強烈。
枝雀さんは、隣家の仏壇に突き出した釘の先を見て
「こんまりましたねぇ。毎日ここまで箒掛けに来にゃならん…。」
落ちまで行かずにここで切ります。
この後、隣家の人が
「お宅には他に男手はおまへんのかいな。」
「うちにはわたいと嫁はんと子供と親父…。」
「なんや、親父さんがいてまんのか。
 けど、根っから姿見まへんな。」
「あ…あんたがそない言うてくれたさかい思い出したわ。
 前の家の二階に寝かしたまま忘れて来た。」
「親を忘れる人があるかいな。」
「親くらいなんでんねん。
 わたいなんか酒飲んだら我を忘れます。」
類似品の多いイージーな落ち。
別に悪ぅ無いけどね。

雀五郎さんの「青菜」。
座敷に上がるよぉ勧められた植木屋、遠慮して縁先の石(沓脱?)に腰掛けますな。
ここで旦さんがもてなしの料理と酒を縁側まで運ぶ所作が有りました。
今まで一番数聴いたであろぉ噺のひとつですけど、この趣向は初めて。
見た目に反して?なかなか行き届いた心配りですな。
柳陰、鯉の洗、青菜と勧められるごとに付いて来る〈大名…〉は無し。
実際柳陰というのは然程高級な飲みもんでは無かったと聞きます。
ただ、作る為に手間暇人手が掛かるし、冷やす為の深い井戸が家の中に必要。
長家みたいに屋外の井戸やったら冷える前に徳利ごと無くなりますからな。
そんな余裕のある家は御大家、という訳。
この辺り、端的にきっちり表現したはりました。
「鯉も洗にしたらしゃもじですくうか?」
も抜いたはったんですけどね。
これは生かしといて欲しかったなぁ。

松竹座の芝居に出演したはったこごろうさん。
パンフレットに出番と出番の間に屋上で稽古したとありました。
けど、結果を出せなんだのは誠に残念。
私が考えるに、やっぱり手と口の連動に問題が合ったのや無いか。
見台を叩く手が自然にリズミカルに動かんもんで、神経がそっちに行ってしもぉた。
その結果、連なって出て来る筈の言葉が出て来んよぉになった。
んで、頭の中が真っ白若しくは真っ赤になってアジャパァ…と…。
おそらくこんなとこでしょぉな。
頭でネタはくれても叩きの稽古までは出来ませんわな。
やっぱりトレーニングとして「東の旅発端」はやっとくべきでした。
先人の言葉に嘘は無い…とも言い切れませんがね。

2002年07月02日13時02分07秒投稿

S.S☆「サヨナラ麻薬」☆     あや太郎

「我々はついにこの世界から、ありとあらゆる麻薬を追放する瞬間を迎えようとして
おります。この度の徹底的な取り締まりと完璧な捜索の結果、世界中に存在したすべ
ての麻薬性薬物とその種子を漏れなく回収し、一か所に集積する事に成功したので
す。間もなくその薬物一切が目の前から永遠に消滅しようとしています。
 思えば長い長い麻薬との闘いでした。一方では医薬品として欠かせなかったため、
どうしても完全廃棄できなかったこの種の薬物も、新しい麻酔薬や神経治療の発達
で、ついに完全無用となり、今回めでたく完全廃棄の運びとなりました。これで我々
人類は半永久的に麻薬中毒と縁が切れる事でしょう。それでは中央廃棄場に集められ
た薬物と種子に点火される瞬間をご覧ください。皆さん、これこそ地上の麻薬すべて
が焼却される瞬間です…」
 無数の火炎放射器から強力な炎を浴びせられ、麻薬の山はたちまちメラメラと燃え
上がった。そして、その炎よりも強力な麻薬の「煙」が焼却場一杯に立ち込めると、
思いもかけぬ事態が発生した。
 うっとりと麻薬に酔い、すっかり開放的な気分になってしまった係官たちがラリっ
て暴れて焼却場の窓や扉を開け放ち、麻薬の煙を「世間」にぶち撒いてしまったの
だ。
 濃い〜煙は地上を覆い、大方の人類がラリって痺れて散々ハメを外したあと、一同
は何とか正気に戻った。しかしそのあとに残った落花狼藉の跡、無残に荒廃した文
明、そして羞恥心に打ちひしがれる文明人社会−−。
「もうこの空しさを打ち消すには…麻薬しかない!」
 しかしその時、もうすべての麻薬は地上から蒸発し跡形もなかった。
「く、くるしい〜…。薬をくれ〜…」
 今こそ麻薬が必要という時に、人類の手にはもう何の手だても残されていなかっ
た。
                  (完)

2002年07月01日23時25分00秒投稿

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