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2002年06月16日〜30日

S.S☆「役者魂」☆     あや太郎

 齢(よわい)百才に達しようという役者がいた。
無論、名優と称されている。国民を代表する役者とも呼ばれていた。各芸術賞から有
りとあらゆる肩書も与えられた。もう他に同年代の大物はいない。誰が何と言おう
と…いや、もう誰も何も言えない大御所となっていた。
 そんな大御所に恐れ多くもインタビューがなされた。
「先生−−これまでの演劇活動を振り返られて、どのようなご感想をお持ちですか
?」
「いやぁ、何ちゅうかね−−−従来からある大役はもうすべて演じてしまったという
感じですな」
「じゃあ、もう役者として大満足なさってるという訳ですね」
「いやいや、とんでもない。どの芝居も、満足の行く所もあれば、満足の行かない所
もある。終点のないのがこの世界の仕事ですからな」
「ではこれからもまだなさりたい仕事があるという事ですか」
「その通り。今まで演じた芝居をもう一度すべてやり直し、更に完成されたものにす
るのが私の仕事だと心得ております」
「いやぁ、衰えぬ気力と意欲に圧倒されてしまいます。つまりそれがライフワークと
言うわけですね?」
「いやいや。これまでの仕事を完成させた暁には−−また新しい芝居、新しい役に挑
みたいと思っております。そしてその新作をまた何度も演じて、更に完成度の高いも
のにして行く−−いやぁ、まだまだやらねばならん仕事は山ほどありますなぁ、ハハ
ハハハ」
 その時、テレビ桟敷のあちこちからこんなタメ息が聞こえてきた。
「そんなに観たくないよ…」
                  (完)

2002年06月30日23時06分52秒投稿

S.S☆「カッコウ」☆     あや太郎

 一羽のカッコウがホトトギスの巣を窺っていた。
 言うまでもない−−「托卵」をするためである。
 卵を暖めていたホトトギスの親鳥がホンの一瞬巣を離れた−−その隙にカッコウは
素早く巣に飛び乗ると、電光石火の早業で自分の卵を産み落とした。あとはホトトギ
スが自分の「子孫」と間違えて孵化させ養育してくれるはずだ。
 カッコウがまたソツのない身のこなしで巣を立ち去ると、戻ってきたホトトギスは
案の定、カッコウの卵を自分の卵と混同し、暖めはじめた。
 間もなく次々とヒナが孵った。そして幾日も経たぬ間に、成長の早いカッコウのヒ
ナはホトトギスのヒナたちを圧倒し、餌を独り占めするようになった。
 ホトトギスの親鳥は何とか他のヒナたちにも食べさせようとするのだが、一回り大
きなカッコウのヒナはそれを許さない。やせ衰えて行く実の子供たちを、ホトトギス
は悲しそうに見つめるほかなかった。
 ある日、親鳥が餌を取り、巣に戻ってみると、巣には何と一羽のヒナだけしかいな
かった。無論あの大きなヒナ鳥である。他のヒナたちは遙か木の下に追い落とされ、
すでに息絶えていた。誰が殺したのだろうか?
 頭上には、猛禽の鳶が、ピーヒョロヒョロと舞い飛んでいた。
 カッコウのヒナは、あの鳶が悪いのだと言う顔で空を見上げた。
 親鳥も悲しげに空の鳶を見上げるほかなかった。
 間もなくホトトギスの親は、巣の引っ越しを始めた。
 鳶や鷹に襲われないための用心である。
 もう自分と同じ大きさにまで育った一羽だけのヒナを、カッコウに押しつけられた
子供だとも気づかぬまま、親鳥は大切そうに一本の大木のウロへと運んでいった。
 親子が何とかくぐれるほどの小さな入口だった。
 ホトトギスは残されたヒナをこの安全な場所で育てる事にした。
 雨の日も風の日も親鳥はせっせとヒナに餌を運びつづけた。お蔭でヒナはすくすく
と育ち、もはや親鳥を追い越すほどに大きくなっていた。
 巣立ちの時が来た。
 ホトトギスはもうヒナに餌をやらなくなった。ヒナが自ら巣を飛びだし、一人前の
成鳥になるための儀式だった。
 しかしヒナはいつまでたっても巣穴の外に出てこなかった。
 出ようとしないのではなく、出られないのだ。
−−親鳥よりも大きくなったカッコウのヒナにはもうこの巣穴の入口は通り抜けられ
ないのだった。
 頭と首だけ出して、もがいている若鳥を見ながら、ホトトギスは静かな眼差しで、
こう言っているようだった。
「さぁ、頑張りなさい。ちゃんと出られるはずよ−−−本当にホトトギスの子なら」
                  (完)

2002年06月29日23時35分54秒投稿

  僭越ながら 私事ですが、
 春先に思いがけず チョイとした小金を手に入れて
 とりあえず 貯金しておったんですわ、、、。

 今までの鬱屈不満を この時とばかりに金にモノ言わせて
 ブイブイいわしてやったんですけどね、、、。

 ところがどっこいぎっちょんちょん
 「良い事は永くは続かない、悪い事はまとめてやって来る」
 の 諺どおり
 あっ!という間に その貯金を使い果たしてスッカラカン。

 そろそろ街金の世話になりそうな今日この頃、、、。
 辛いの〜 あ〜ぁ〜、ヨコヤマ〜 生きぃ〜よ〜。

 尼信の含み笑いが聞こえて来るのだ。(明石・メリケン粉)

2002年06月28日15時06分15秒投稿

S.S☆「スーパーモデル」☆     あや太郎

 スーパーモデルを夢見る少女がいた。
 美形でプロポーションも抜群だったが、身長だけが足らない。
 165センチ−−日本人としてはかなりの長身なのだが、世界的なスーパーモデル
になるにはまだ不十分なのだ。
「あと10センチ−−いえ、せめて5センチ高かったら…」
 彼女はおなかを壊すほど牛乳を飲み、カルシウムを取り、背の伸びそうなスポーツ
にも取り組み、最後には身長を伸ばすための器具や薬にも頼ってみたが、ついに1セ
ンチの成長も叶わなかった。
「もうダメ…!」
 絶望した少女は早まった事に、自らの命を絶ってしまった。
−−−−−−−−−
「腰を抜かしましたよ。何度ドアを叩いても返事が無いから、お巡りさんに来ても
らって中へ入ってみたら、変わり果てた姿に…」
 管理人が、遺族に説明していた。
「じゃあ娘は…あの鴨居から首を…」
 涙声で両親が確認した。
「ハイ。発見されるまでにだいぶ時間がたってたんで−−もう足の先が床に届くぐら
い伸びきってましたよ」
 言ってから、残酷な説明だったと管理人が反省していると、親がポツリと述懐し
た。
「あんなに高い鴨居から床まで届くなんて−−生きてるうちに、それだけ伸びて欲し
かった…」
                  (完)

2002年06月27日23時10分19秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

トゥルルルルル カシャ

「もしもし…」
「♪もっしもっしぃベンチで囁くおっふたぁりぃさん〜かぁ。」
「もしもし…」
「♪もっしもっしぃベンチで囁くおっふたぁりぃさん〜かぁ。」
「もしもし…」
「♪もっしもっしぃベンチで囁く…なんべん唄わすねん?」
「あなたが勝手に唄ぉてるんでしょぉが。えー、こちら大○…。」
「ラケット。」
「そぉじゃなくって、大○…。」
「青火が…。」
「聞け!」
「怒らいでもええでしょぉ。余裕の無い人やな。」
「今なんと仰った?余裕?
 ええ、ええ、ええ、ええ、確かに私には余裕なんてありませんよ。
 家に帰ったら七つ頭に5人の子供、腑抜けのリストラ亭主、口だけ達者な糞姑。
 そんなん抱えて朝から晩まであくせく働くだけの生活にそんなもんありませんよ。
 そやからどやっちゅうの?
 あなたにお金貸してくれとでも言うた?え?言うたの?
 ふん、客や思ぉてえっらそぉに。
 私かてね、こんな安い時給+交通費でこき使われたいこと無いわよ。
 せやけどね、今時この程度のパートでもなかなか無いのよ。
 探すの大変なんよ。
 分かる?分からへんわよね。
 あなたみたいに人生ついでに息してるお気楽人間なんかには分からへんわよね。
 なんやのん、人の気ぃも知らんと皆ワールドカップワールドカップて楽しそぉに。
 私なんかAカップでもずり上がるわよ。放っといてよ。
 ワールドカップがなんやのん。
 経済効果は何処行ったのん?
 私のとこには来ぉへんのん?
 夢と希望をありがとう?
 けっ!
 どぉせこれ終わったら、また生ぬぅるいJリーグちんたらちんたらやりよるねん。
 ほんで一遍付いた客が離れていくねん。
 へへぇん、報いじゃざまぁみろ。
 あぁむしゃくしゃする!
 こんな生活もぉ嫌!
 なんかパァッと派手な事したい!
 そぉや、こんなんどぉ?
 新築首相官邸にバキュームカーで突っ込む。
 こら旅客機より怖いわ、きゃっきゃっきゃっ♪
 どいつもこいつも道連れじゃぁ!うぇぇぇぇぇん。」
「あ、あの…なんや分からんけど謝ります。落ち着いて…気ぃ静めて…。」
「グスグスグスン…いえ、こちらこそつい私事に囚われて取り乱してしまいまして…
 チーン…失礼しました。
 では最初から。こちら大○ホームショッピング…。」
「家は要りません。」
「おのれはどぉでも命のやり取りを…。」
「じょ、冗談ですがな。
 ほんま余裕の…いや、やめとこ。リピーターになってる場合や無い。
 で、何の御用?」
「ちゃんとお聞き。
 えー、この度は当ショッピングの御利用誠にありがとうございます。
 御注文の〈サツマ芋のウズラ焼き甘酢あん〉…きゃぁ胸悪ぅ
 〈鹿の子染めトランクス100枚組〉…きゃぁ趣味悪ぅ
 〈沈没宝船大柄タオルシーツ〉…きゃぁ験悪ぅ
 は明後日お届け予定でございます。」
「いちいち感想述べなさんな。
 あ、それから不在の時は宅配ボックスにお願いしますね。」
「はぁはぁ…宅配ボックスねぇ…。
 えー私共は創業以来信用第一をモットーと致しておりまして例えお客様の御要望で
 ありましても確実にお手元に届きかねる可能性がほんの僅かでもございます場合は
 拒否権を発動するしきたりになっておりましてその辺りの心尽くしが今だに潰れも
 せずのうのうと…いやいや…あっちを泣かしこっちを蹴倒し…違うのよ…えー…健
 全な経営状態を保っておる秘けつであると、ま、かよぉに思う次第でございます。
 従って、そのよぉな箱に品物を置き去りにしてはいさよぉならなんて事ぁ出来るこ
 っちゃねぇってんだべらぼぉめ。」
「何もんじゃ、あんたは。
 ははぁん、さては宅配ボックス知らんな?
 大きな段ボール箱かなんかイメージしてるな?」
「分かる?」
「分かるっちゅうねん。
 ちゃんとした保管システムやっちゅうねん。」
「ふぅ〜ん、それやったらそんでええやんか?
 そんなん知らいでもええもぉん。
 所詮パートやもぉん。」
「あ、開き直りよった。
 あんたね、パートと言えども通販関係に従事してるんでしょ?
 これくらい知ってないといかんのと違うかえ?
 嘘でも天下の大○がこんな基本的な事も教えて無いやなんて。
 いったいお宅の教育はどぉなってんねん?きょういく…。
「いいえ、今日は参りません。
 お届けは明後日でございます。」

ガチャ プープープープープー

大○百貨店通販関係各位。
宅配ボックスってなに?てな電話を掛けて来ないよぉにしましょぉ。
あ、そぉそぉK鉄さんもね。

2002年06月25日16時36分47秒投稿

S.S☆「審査員」☆     あや太郎

 審査員長の古賀良一は困っていた。
 いつものようにこの歌謡コンテストで公平な審査が出来るかどうか悩んでいたの
だ。
「参ったなぁ。どうも今日は冷静に聴く自信がない」
 リハーサルのあと、急にそんな不安が襲ってきた。
 別に深い理由がある訳ではなかった。誰かがコネで不正な審査を依頼してきた訳で
もないし、賄賂や付け届けがあった訳でもない。第一それほどの権威や損得の絡んだ
イベントではないのだ。
 毎週、某テレビ局で開かれる、たかだか三十分のコンテスト番組で、しかも参加す
るのは素人ばかりである。賞金という程の物も出ないし、優勝したからと言っても、
一部の幸運な例外を除いてはプロ・デビューできる特典も設けられてない。
 ならば一体何を悩んでいるのか?それは出場者の中に一人、気になる少女がいたか
らだ。無論、縁故がある訳ではない。全くの初対面である。少なくとも向こうはこち
らの顔など知ることもできない。なぜなら彼女は幼い頃から全盲だったからだ。
 リハーサルでいつものように、五人の出場者のステージを見た。板前の青年、ト
ラック運転手、主婦、学生……これまたいつものようなメンバーだった。そしてその
少女もありふれた専門学校生であった。針灸マッサージの診療所で見習いをしながら
勉強をしているらしい。何も珍しい話ではない。
「憐れみを掛けているとしたら我ながら失礼な態度だ」
 音楽界の大御所として君臨し、幅広い信頼を集めてきた古賀は自分を厳しく律する
人間であった。だから、眼の不自由な少女が歌っているというだけで点数を甘くして
しまうというような事は許されない。
 しかしそれでもその少女が気になった。小柄で痩せぎすで顔色も余り良くない。
 何か不幸な生い立ちや貧しい暮らしぶりを連想させて心が痛むのだ。出身地もたま
たま古賀の故郷と隣接する県の過疎地帯だった。これという就職先もないだろう…苦
労しているのではないかと自分が上京し苦学していた頃の事をフト思い返してしま
う。
 歌はそこそこ上手かった。ずば抜けているという程ではないが今回の出場者の中で
は一二を争う歌唱力ではないだろうか……いや、その採点すらも公正なものかどうか
自信がなかった。
「明らかに自分は肩入れしている…」
 古賀は頭を一つブルッと振り、冷静さを取り戻そうと努めた。
 間もなく番組の本番となり、出場者たちの歌唱が始まった。つぎつぎに様々に、エ
ントリー曲が歌い上げられて行く。カラオケの登場以来ずいぶんとレベルも上がった
ものだ。下手と言えるような素人歌手は一人もいなかった。
「こんなに粒揃いなら、だれが優勝してもおかしくはないか…」
 また妙な気の緩みが、誘惑が心の隅に沸き上がりかけた。
「いや、イカンイカン。肩入れする事こそ失礼なのだ。公平な審査こそが礼儀なのだ
から」
 また首を振り、静かにステージを見つめ直した。
 五番目にあの少女が登場した。司会者がさり気なく彼女の手を取り舞台中央まてエ
スコートする。簡単な紹介だけ。余計な事を言わないのが良い。古賀も先入観を振り
払えるような気がして安心した。
 少女の歌が始まった。リハーサルの時より上手いような気がした。
 故郷を歌った懐かしい歌だった。
 たぶんよく似ているであろう素朴な田園風景が古賀の脳裏を流れた。
 何もない農村の、何の実も付けない草や木の一本一本が風に吹かれて輝いていた。
「良く歌ってるじゃないか」
 そう思った。しかしプロの音楽家は常に自分の耳を疑わねばならない。
「本当に上手いのだろうか?感情に流されてるんじゃないだろうか?」
 同じ山深い故郷、儚げで可憐な姿、そして少女の境遇−−。流されそうな気持ちを
もう一度引き締める。それが審査員長の義務だと自分に言い聞かせた。
 精一杯、冷静に聞き通したと思ったところで、歌唱が終わり、CMを挟んで審査結
果の発表と続いてゆく。
 他の審査員の採点を集計すると、三人が同点で並んでいた。あの少女も入ってい
た。
 あとは審査員長の得点次第だ。何も緊張する必要はない。いつもなら自分の琴線を
くすぐった歌唱に点数を与え、淡々と発表するだけの事なのだ。
 だが緊張した。誰に遠慮も要らないのに堅くなっていた。
 なぜ音楽界の大ベテランが今更こんな採点一つで冷や汗を流し、胃の痛みを覚えね
ばならないのだ。無論それは義務感だった。責任感だった。潔癖を旨とする彼の生き
方から来るものだった。
「先生、どうされたんですか?」
 ディレクターが驚いたように訊いた。採点表に記入する手が震えていたのだ。
「い、いや−−なかなか難しい審査だね」
 慌てて他の審査員の様子を伺ったが、みな素知らぬ顔でステージだけを見ていた。
「良かった…」
 そう思った自分が不思議だった。別に不正を働いている訳でもないのに何故か緊張
は続いていた。
 ハッと我に返ったのはファンファーレが鳴った時だった。
「さぁ、審査結果の発表です。今週の優勝者はどなたでしょう−−?」
 聞き慣れたドラムロールが鳴り、審査員長が立ち上がる。
 手には採点表が一枚……持つ手と共に震えていた。
…さぁ、発表だ…
 そして採点表には、まだ結論は書き込まれていなかった。
 古賀も同点の出場者たちに同じずつの点数を振り分けていた。取り合えずそう記入
する事しかできなかったのだ。
…最後の最後に決めよう…
 結果発表のその瞬間に、心の底から沸き上がった本音…天の声…を聞こうと思った
のだ。もう一度、決着の付いていない採点表を見た。天の声は聞こえて来なかった。
 心の思うままに決めろという事だろう−−−もうそう開き直るほかなかった。
 そして審査員長は発表した。
「優勝は……!」
 自然に口から少女の名前が出た。
 客席が少しどよめいた。そしてすぐに静まり返った。
 優勝楯を受け取った少女が感激の涙を流していた。そしてアンコールの歌唱が始
まった。またあの可憐な故郷の歌が聞こえてきた。
「自分は公正な審査をしたのだろうか?周囲の反応はどうなのだろうか?」
 審査員長の責任感がまた古賀の緊張感を煽った。
 そっと審査員たちを見た。みな素知らぬ顔でステージを見ていた。
「客席は…?」
 見回すと、みな何事もなかったようにステージを見ていた。
 古賀は安心して眼を閉じた。…歌声が聞こえる。故郷の風景がよみがえる。少女の
幸せを願う気持ちが胸のなかに溢れた。
「もう…構わないだろう」
 古賀は心置きなく感慨に耽った。静かに静かに涙を流した。
 もう会場の様子も見えなくなった古賀の周囲で、静かに静かに同じ涙が流れてい
た。
                  (完)

2002年06月24日22時56分34秒投稿

S.S☆「最後の名演」☆     あや太郎

 スタジオで殺人事件が起きた。被害者は監督である。刺殺だった。
 缶詰状態のスタジオでは撮影関係者以外の犯行は考えられない。
 特に日頃監督からイビられていた俳優たちに容疑がかかった。
「主役の男優も女優もあの監督をかなり嫌ってたみたいだ。しかし権力者なので出演
要請を断れなかったらしい」
「わき役連中はもっと監督からイビられてたみたいですよ。愛の鞭という名のシゴキ
でね」
「しかし妙な事に、監督が刺し殺された時、出演者も撮影スタッフも全員楽屋に居た
らしい。つまり全員にアリバイがあるって事だ」
「じゃあ、全員がグルになってるんじゃ?」
「いや、カメラマンや脚本家は根っからの監督派で、役者を売る事はあっても庇う事
はないって評判なんだよ。だから皆で口裏合わせて監督をグサリ…という可能性は無
さそうだ」
「じゃあ一体誰が実行犯なんです?その時、監督は全くの一人で撮影スタジオに居た
んですか?」
「厳密に言うと全くの一人きりじゃない。映画に使う犬と赤ん坊がそばに居た。揺り
籃の赤ん坊をあやしたり犬の相手をして気分転換してたらしい」
「犬か…。犬じゃ刃物は使えないし、ましてや赤ん坊となると…」
「ところが一つ問題点が見つかった。その赤ん坊の居所が分からないんだ」
「行方不明になったんですか?さては犯人が誘拐した?」
「いや、そうじゃなくて身元が分からないんだ。実は前もって用意していた赤ん坊が
居て親と一緒に来てたんだが、何と親子そろってスタジオの外の倉庫へ放り込まれて
いた。
つまり、あの撮影現場に居た赤ん坊役が一体誰だったのか分からないという次第なん
だ」「何と…。知らない内に赤ん坊が入れ代わってたという訳ですか。一体何のため
に…?いや、とにかくスリ替えた奴が犯人に違いない」
「それがまた誰か見当がつかないんだ。赤ん坊の母親はその子をスタジオ入りさせた
後、一旦子供を連れて控室に戻ったところを麻酔薬で眠らされたらしい。その後、監
督は赤ん坊をあやしている内、殺害された訳だが、さて誰が犯人で、いかに犯行を…
という訳だ」「なるほどねぇ…」
 しばらく考え込んでいた若い刑事が大胆な発想にたどり着いた。
「その揺籃に何か細工はなかったですか?」
「何…揺籃に?」
 二人は現場に戻り揺籃を調べた。
「どうやら…中に人間が一人収まるだけのスペースがあったようだな」
「小柄なら大人でも入れますね。ひょっとすると、犯人はそこに潜んで、赤ん坊のカ
ゲから監督を?」
「あり得るな。もう一度出演者を洗ってみよう。当日出ていなかった者も含めてだ」
 犯行当日、たまたま非番だった出演者の一人が容疑者として取り調べを受け、間も
なく素直に犯行を自供した。地味だが渋い脇役との評価を得ている中堅俳優だった。
今回も、撮影場の周囲を、ある時は初老の男、ある時は警備員、またある時は赤ん坊
の母親に扮して行き来し、最後にあの揺籃に忍んで、監督が独りになるのを狙ったと
いう。
「いくら熱演しても、あの監督は認めてくれなかった。だから恨みを込めて殺したん
だ」 犯行動機も大体予想どおりのものだった。
「それで、具体的にどんな形で手を下したんだね?…あの揺籃の中に隠れていたら監
督の動きも分かりにくいし、いきなり揺籃から飛びだして襲いかかるのも手間が掛
かって、逃げられる可能性が高い。監督は身体も大きいし、体力もあるから格闘に
なったら小柄なキミは苦戦するはずだ。ならば一体どうやって監督を刺殺したのか…
それが分からない」
「油断させて、いきなりグサッとやったんですよ」
「だから、どんな形でグサリと…?」
「赤ん坊に近づいて、あやそうとした所を、布団の中に隠していたナイフでグサリ…
ですよ。いや、日頃は何かにつけてケチばかり付ける監督でしたがね、最後だけは私
を認めてくれましたよ」
「最期に認めてくれただって?」
「ええ、そうなんです。胸を刺されて、苦しい息の下で、それでもニヤリと笑いなが
ら、名演技だと褒めてくれましたよ。…赤ん坊に化けた私を見ながらね…」
 自供を終えた俳優の目から悔悟の涙がこぼれた。
                  (完)

2002年06月23日23時22分32秒投稿

S.S☆「お化粧」☆     あや太郎

「それでは本日の投書コーナーです。六十五才の男性の方からいただきました。
……今朝、電車に乗った時の事、今風の短いスカートを履いた女子高生とおぼしき子
が乗り込んできて、座るや否や手提げのカバンを開け、有ろうことか化粧品を取り出
すとその場でお化粧を始めたではないですか。車内はかなり混雑もしており、化粧品
の匂いも気になりますし、何より高校生が人前で堂々とお化粧を始めるなど、家庭で
どのような躾けをしているのか思いやられました。こんな風では、とても世間に出て
通用すまい。もし自分がこの子の親なら、とても恥ずかしくて世間に出せないだろ
う…などと他人事ならず心配しておりますと、次の駅でもう一人似たような年格好の
女生徒らしき子が乗り込んで来て、また化粧を始めました。こんな行儀の悪い事が最
近の流行りとは嘆かわしい。いっそ注意してヤメさせようかと口を開きそうになった
瞬間、二人が会話を始め、その声を聞いて私は愕然としました。それは間違いなく男
の声と口調だったのです。何と私が目撃したものは、行儀の悪い女子高生ではなく、
女装と化粧に凝っている男子学生だったのです。会話の中では、最近こういう事が流
行っていて、どこでどういう制服や化粧品が手に入り、どんなメイクが主流になりつ
つある…というような話題が次々に登場し、呆然と立ち尽くす私の耳を空しく通りす
ぎて行きました。思えばファッションがどうの髪や肌の色がどうのという時代ではな
くなってしまったようです。一つ余分に駅をやり過ごしてしまったあと、私はようや
く我に返り、改めて現実を噛みしめました。定年退職して数年、すっかり私は世間で
通用しない人間になってしまっていたのです。私は潔く決意しました。もはや自分自
身を世間に出すわけには行かない。これからは自宅に籠もり閉門蟄居の生活を送ろう
と。それにしても世の中は変わってゆくものです。そして自分は変わらないもので
す…トホホホホ…。
……お便り、有り難うございました。しかし投書主の方、あまり気を落とさないで下
さいね。年寄りの冷や水に気づかれただけでもまだマシです。世間にはそれに気づい
ていない人のほうが圧倒的に多いのですから…」
                  (完)

2002年06月22日23時14分58秒投稿

S.S☆「天使の弟子」☆     あや太郎

 気がつけば、地球上には天使が飛び交うようになっていた。
 政治、経済、科学技術、物質文明が行き詰まり、人々の心から自然に発せられたS
OSが天に届いたのだろうか…世界各地でありとあらゆる人のもとへ、本当に困窮し
た時には必ず空から天使が舞い降り、これまたありとあらゆる奇跡を起こしてくれ
た。
 無論、心悪しき者や損得勘定で救いを求める者なら天使は見向きもしない。ひたす
ら貧しき者、弱い立場の者、心優しい故に不遇な者だけを選び、神の許より舞い降り
ては次々と奇跡を行なった。そんな頼もしく麗しい天使の行ないに人々は感謝し感動
し、褒め讃え憧れ、そして中には天使に弟子入りしたいと思う者まで現れた。
「天使よ…どうぞ私をあなたの弟子にして下さい。もし成れるものなら私も修行を積
み、いつかは天使になって世のため人のために働きたいと切に願っております」
 一人の青年が天使の前に歩み出た。
「殊勝な心掛けです。しかし天使に成ろうと思えば人間を辞めねばならない。人間で
ある事を捨て、すべてを神と人類のために捧げねばならないが、それでも良いのです
か?」
「つまり仙人や世捨て人のようになるという事ですね。それでも構いません。すべて
の淋しさに耐え、神と人のために仕える覚悟はできています」
「それは奇特な事です。でも神と人のために仕えるのなら何も天使にならなくても可
能なはずです。何故そんなに我々天使のようになりたいのですか?」
「ハイ。先ずあなたたちの美しいお姿に憧れました。そしてもちろん困窮する人々を
助けるという麗しい行為にも」
「見た目への憧れだけではこのお勤めはできませんよ。奇跡を行ない悩み苦しむ人々
を救うという仕事は苦労ばかり多くて報いの少ないものです。決して生易しい仕事で
はないのですよ」
「もちろん分かっています。でも弟子入りさせて下さい。そして天使に成れるよう導
いて下さい!」
「あなたの熱意には負けました。それでは私たちについてお出でなさい」
 かくして、天使志望の青年はめでたく弟子入りを許された。
 そのあとは延々と続く弟子生活……天使の指令を受け、衆生に施すべきあらゆる奇
跡の準備お膳立てに汗する月日が続いた。しかし折角の奇跡が起きても、そこは裏方
の悲しさ…青年にスポットライトの当たる筈もない。
「あぁ、やり甲斐のない事おびただしい…」
 ぼちぼち弟子生活にも嫌気が差して来たころ、師匠の天使がポックリ逝った。
「これまでよく師匠に仕えてきた。滅多にない事だが、これまでの精勤に免じて特別
にお前を新人の天使に任命しよう。謹んで受けるように」
 長年の願いが叶った青年は狂気乱舞し、いそいそと天使の仕事に着任した。
「これで直接人々のために尽くす事ができる。堂々と人前にも出られるし、やっと脚
光を浴びることができるというものだ」
 根は良いのだが少々目立ちたがりの青年天使は、これまでにも増して仕事に励ん
だ。
 しかし間もなく新前天使は日々の暮らしにまた空しさを感じ始めた。数々の奇跡を
起こし、多くの人に感謝され、存分に仕事をしているはずなのだが、何かしら満たさ
れないものがあったのだ。浮かない顔の新任天使に先輩たちが声をかけた。
「どうしたんだ、新人さん。夢が叶って天使の勤めをできるようになったのに何故そ
んな落ち込んでるんだい?」
「ハイ。それが…どんなに華々しい奇跡を起こしても、どんなに良い仕事をしても、
どん
なに人々から感謝されても、充実感が無いんです。考えてみると 僕がこなして来た

事はみーんな神様の指示された通りにやってるだけなんですよね」
「それりゃそうだよ。我々天使は文字通り天の使い…つまり神様に遣わされたエー
ジェントなんだからな。神様の言うとおりに働くのが当たり前じゃないか」
「それに気がつかなかったんです。以前は、あんな奇跡を起こして、あんなに鮮やか
に人々を救うなんて何と気持ちの良いことだろうと憧れてたんですけどね、実際に手
を染めてみると、神様が人々の声を聞き、判断を下し、指令を出し、我々がそれを実
行する…それだけの仕事だったんですよね。しかもこの世の現実も、それを超越した
あらゆる奇跡も、すべては神様が造られた宇宙の法則に則った物じゃないですか。つ
まり我々は神様の手や指の先…いや、使い捨ての将棋の駒でしかないと気づいてし
まったんですよ」
「そうか。今頃それに気づくとは手抜かりだな。天使は一度始めると神様が決めた寿
命が尽きるまでは辞められない。人間のような自由さは無いんだ。だから辛くてもこ
の仕事を続ける外にない。それにしても人間世界から見ると、天使はずいぶんカッコ
良く見えてたんだなぁ。実際に成ってみると、天使の辛さが分かったろう?」
「ハイ、身にしみて分かりました。天使の〔使〕の字が、〔使いっ走り〕の意味だっ
たって事が」
                  (完)

2002年06月20日22時37分20秒投稿

S.S☆「完璧なるアリバイ」☆     あや太郎

 スーツ姿の些か厳めしい男性が夕暮れの繁華街を歩いていた。
 すると開店前のナイトクラブ風の店から二人の男が取っ組み合いながら飛びだして
きた。
「この野郎…いつも因縁ばかり付けやがって…」
「何が因縁だ…汚い手を使って乗っ取ったくせに…」
「人聞きの悪いことを言うな…借金も返せない甲斐性なしが…」
「お前が、インチキな書き換えをしたからだ…この詐欺師め…」
 おおよその関係が分かりそうな二人だった。
「まぁまぁ、あんたたち−−こんな往来でみっともない…」
「あっ、これは刑事さん。先日はどうも…」
 一方の男が、ハッとしたように挨拶した。もう一方の店主らしい男は、プイと横を
向きそのまま店のなかに戻って行ってしまった。
「先日って…?以前にも会った事がありましたかね?」
「いや、こないだもアイツとこうやってモメてる時に仲裁に入ってくれたじゃないで
すか、刑事さんが」
「いや、そうだったかなぁ…。まぁこのへんにはよく飲みに来るし、こっちも酔って
て覚えてるような、覚えてないような…」
「ヤだなぁ…。あの時はさんざん説教したくせに。それにしても腹の立つ店主だ。い
えね…あの時もお話ししましたけどね、ちょっと金を借りたら、その借用書を良いよ
うに書き直して、気がついたら店を乗っ取られちまって…」
 延々と愚痴話が続く。
「えーい、どう考えてもムカっ腹の立つ。もう一度乗り込んで張り倒してやる…」
 また店に入ろうとしている。
「お待ちなさいったら。喧嘩したってドウにもなる訳じゃなし−−家へ帰って冷静に
なったほうが良いですよ。さぁさ、送りましょう…」
 酒の入っている男を、あっちへ立ち寄り、こっちへ迷いしながら三十分ほどもかけ
て家まで送り届けた。
「まぁ、話を聞いてくださいよ。本当にひどい奴なんだ…」
 またさっきの「乗っ取られ話」を延々と始めた。いかつい顔に似ず気の好い聞き手
は、また三十分近くも付き合わされ、その後ようやく出てきたお茶とお菓子で、結局
一時間ほども捕まってしまった。
 ようやく帰ろうとした時、入れ違いに警官が数名やってきた。
「ナイトクラブの店主が殺害されました。ついては事情をお聞きしたい…」
 当家の主人は警官と共にパトカーの中へ消えた。
−−−−−−−−−−−−−
「俺にはアリバイがあるんだ。あの時間帯はずっと刑事さんと一緒に居て、愚痴を聞
いてもらったり、お茶を飲んだりしてたんだからな。あの店主を殺すチャンスなんか
無いさ。ウソだと思うなら、あの刑事さんに聞いてくれ」
 翌日の取り調べでも男は同じように犯行を否認していた。まぁ確かに被害者の死亡
推定時刻はあの一両時間に限定され、その間、男はずっとあの「刑事」と一緒にいた
のだから、これほど強いアリバイは無いはずだった。
「動機だけで逮捕されちゃかなわねぇよ。早くあの刑事さんを呼んで証明してもらっ
てくれよ」
 その時、あの「刑事」が取調室に入ってきた。
「容疑者のアリバイは確かだ。私が保証する。あの店の前で喧嘩していた時刻から死
体が発見されるまで、彼は現場に居なかった」
「そうでしょう、刑事さん?だって、刑事さんと一緒に居たんだから、これほど確か
なアリバイはありませんよ。これこそ完璧なアリバイってもんだ」
 容疑者は大きく胸を張った。
「そうだ。正に完璧なアリバイだな−−−双子の共犯者でも居ない限りはね」
「双子?フン…そんなもん、俺には居ないよ。調べりゃすぐに分かるさ」
 薄ら笑いを浮かべながら、男は椅子の背に悠然と凭れた。
「いや、キミの双子じゃない。 被害者の双子さ」
「ゲッ…。被害者の?そ、それが事件とどんな関係が…?」
「死亡推定時刻には幅がある。キミが店主らしき男と喧嘩してた時刻の少し前に、本
物の店主が死んでいた可能性も大いにあるって事だ。つまり双子の兄弟を店主に見せ
かけて狂言喧嘩をしたって訳だな」
「ふ、ふん…兄弟にそんな事ができるのかねぇ」
「抜け目のない兄貴とは違って、ウダツの上がらない弟だったらしい。しかし唯一の
身内だから、兄貴が居なくなれば、あの店を継げる訳だ。それをダシに口説けば共犯
になりかねんな。まぁ指名手配で捕まれば、そのあたりも吐いてくれるだろう。あん
まり賢い奴じゃないようだからな」
 容疑者の顔が青ざめ、やがて諦めの色に変わった。
「参った。降参するよ。あのロクでなしの弟をたらし込んで、完璧なアリバイを作ろ
うとしたんだ。誰か顔見知りが通りかかるのを待って喧嘩の真似をしてな」
「やはりそうか。それにしても危ない所だったな。刑事がアリバイ工作に使われたと
したら面子も面目も丸潰れになるところだった」
「チクショー、もう少しだったのに。ここまで来れば絶対上手く行くと思ったんだ
が…。何であの双子のトリックが分かっちまったんだ?」
「いや、全くの偶然さ。実は俺も双子だったんだよ」
「えっ、刑事さんが双子?」
「そうさ。つまりお前さんがアリバイの道具に使った男は俺じゃなくて双子の弟だっ
たんだ。事件のあと、弟から一部始終を聞いてピンと来たもんでね…調べてみたら、
案の定、ガイ者には双子の兄弟が居た。そこから推理したって訳さ」
「ゲッ…何て事だ…。あれは刑事さんじゃなくて、弟?−−でも、話が出来すぎだ
ぜ。双子の兄弟が揃って刑事だなんて」
「いや、弟は刑事じゃない。普通の会社員さ」
「会社員?でも、それならおかしいじゃないか。俺が刑事さんって呼んでも、妙な顔
一つしなかったぜ」
「刑事さん…か。そりゃ無理ないな。あいつは俺の弟だからな」
「どういう事だ?」
「これから拘置所で暇を持て余すだろうから、あとでゆっくり考えてみなよ。一つだ
けヒントをやろう。俺が双子の兄貴で、あいつは弟だ」
「それで?」
「兄の俺の名前は…敬一っていうんだよ」
「……」
                  (完)

2002年06月19日21時52分12秒投稿

S.S☆「放送禁止惑星」☆     あや太郎

 人類が気楽に宇宙旅行できるようになってから、もう数世紀たっていた。
 幾多の宙域を巡り、幾多の惑星に降り、また幾多の異星人にも出会い、地球人類の
宇宙旅行熱はますます高まっていた。
 ワープ航法や超光速飛行の発達で、すでに探査の手は他の島宇宙まで伸びようとし
ていたが、一般市民が観光気分で宇宙旅行できる範囲はやはりまだ銀河系内に留まっ
ていた。 この次はどこに旅しようか?−−−そんな思いで今地球人が最も楽しみに
しているのは宇宙旅行の穴場紹介番組であった。
 当然、各旅行会社も各放送局も、新たな観光スポット探しに躍起となっていたが、
もう「近場」の観光惑星はあらかた出尽くしていた。
 そんな時「銀河の秘境」と呼ばれてきた宙域へついに探査の手が入った。
 暗黒星雲に囲まれ、知的生命も少なくて、なかなか情報が掴めなかった一角であ
る。
「ついに、あの秘境へ探査衛星のテレビカメラが入ろうとしております。今宵は開発
前のまだ初々しい惑星の姿を七万光年同時中継でご覧いただきます。さぁ、暗黒物
質…ダークマターをかき分け、我が局の探検船が近づいて行きます。ぼんやりと星の
姿が浮かび上がって参りました。秘境の惑星には何が待っているのでしょう?手つか
ずの自然、風光明媚な地形、奇想天外な新生物、あるいは美味なる食べ物、秘湯の露
天風呂…我々が求めて止まぬ素晴らしい観光スポットに満ち満ちている惑星かも知れ
ません。おぉ、その全景がかなりハッキリと見えて参りました。どうやら星全体がピ
ンク色がかっているようです。
何やら溢れるような生命力を連想させます。そして周辺には火山活動による黒い噴煙
が無数に立ちのぼり、地表には活発な地殻変動を表す大きな亀裂が……(ザー…)。
アッ、ここで突然画面が途切れました。これはどうした事か?…何と、太陽系連邦局
の検閲が入ったようです。何という暴挙でしょう。言論と映像表現の自由を踏みにじ
る行為です。憲法違反だ〜!…」
 電波を中継していた連邦局には早速抗議の電話、通信が殺到していた。
「局長−−−轟々の非難です。このままで大丈夫でしょうか?」
「仕方あるまい。いくら何でも、このままの画像を流す訳には行かないじゃないか。
特に地球方面にはね」
「でも言論・表現の自由は保証されてますし、どうやって言い訳を?」
「取りあえずは、開発が加速すると自然環境が破壊される…とでもゴマかしておこ
う」
「いずれ、この映像が漏れて出た場合には、つるし上げられますよ」
「かも知れない。しかし、よくやった…という味方もいるはずだ」
「まぁ保守的な人はね。但し大勢はもう自由化の方向ですからね。やはりあとから見
れば笑い物にされてしまうかも知れませんね」
「それは時代の流れだから仕方ない。我々としては〔現代人〕の尺度で、この絵を放
送中止に決定したんだから、まぁ後世の人間も理解してくれるんじゃないかな」
「それなら良いんですけどね。しかし、確かに見れば見るほど悩ましい画像ではあり
ますね。どうにもモヤモヤしてる…」
「そうなんだ。どうしてもこの図を地球に送るとなると…」
 ピンク色に染められた大地には、無数に走る亀裂が光の加減で、常に一本だけ中央
部分を縦断しているように映し出されていた。そしてこれも無数に点在する火山か
ら、黒っぽい噴煙が立ちのぼっている。噴煙は上空で霧散して消えてゆくように見え
るため、横方向から見る惑星の周辺部分にだけ揺らめいて見える。ピンクの大地の亀
裂と、周辺を包むように揺らめく何条もの黒い筋−−−。
「見るほうもモヤモヤしてくると思ってね」
 行政官の判断は常に保守的かつ慎重でなければならないのだった。
                  (完)

2002年06月18日23時06分07秒投稿

S.S☆「めぐみ」☆     あや太郎

 めぐみは二十歳になった。子供の頃には身体が弱く、入退院を繰り返して家族を心
配させてものだ。それがすっかり健康になって無事成人式を迎えた。家族の喜びはひ
としおだったが、本人は少し浮かない気持ちだった。
 実は、誰よりも自分を可愛がってくれた祖母が寝込んでいたのだ。
 祖母は若いころ中国から日本へ渡ってきた華僑だった。だから「めぐみ」も本当は
「恵む」という漢字の中国語読みが本名だ。ただ日本育ちなので知り合いも家族も今
はみんな「めぐみ」と呼び習わしていた。
 ただ一人、「めぐみ」の事を中国読みで呼ぶのは祖母だった。祖母は何年暮らして
も日本語が覚えられなかったのだ。ところが何故か、恵の言う事だけは理解してくれ
た。
 幼い頃、熱にうなされてうわ言を言う恵の言葉を、祖母だけはちゃんと聞き分けて
いたという。それほど孫娘の事を可愛がってくれたのだ。
 その祖母が今、年老い、寿命尽きようとしている。もう意識もほとんど無いのに、
やはり「恵」の名前だけを呼び続けていた。そして間もなく、祖母は天に召された。
 祖母の最後の言葉は、悲しいことに恵には聞き取れなかった。中国語だったから
だ。
「一年たって、一周忌が来たら、恵に会いに来る−−夢枕に立つって言ってたんだ
よ」
 中国語の解る両親がそう通訳してくれた。
 間もなく、恵は中国語の勉強を始めた。一年たって、亡き祖母が夢枕に立っても言
葉が分からなくては余りにももどかしい。生まれて初めて学ぶ母国語に戸惑いながら
も、恵は一所懸命、語学教室に通い、少しずつ言葉を覚えていった。
 そんなある夜−− 祖母が亡くなってからちょうど半年目、予定より早く、何と
祖母が
夢枕に立った。
「恵や−−会いに来たよ」
「おばあちゃん…」
 日本語なのか中国語なのか…それも意識しないくらい二人は延々と語り合い、また
良く理解し合えた。
「不思議だわ。どうしてこんなに話している事が分かり合えるのかしら。やっぱりこ
れは夢なの?」「いいえ、夢じゃないわ。本当に私の魂が話しかけているのよ。二人
の言葉が通じ合うようになったのは、あなたが中国の言葉を勉強してくれたからよ」
「でも私の中国語はまだまだ未熟だし、こんなに良く通じるなんて不思議だわ。それ
におばあちゃんと話せるのは一周忌の頃だと聞いてたのに、こんなに早く…」
「ほほほほ。それはね、こっちの世界で私も…日本語教室に通っていたからよ」
                  (完)

2002年06月17日22時52分38秒投稿

S.S☆「ドラキュラ」☆     あや太郎

 青白い顔の男が病院を訪ねた。足取りがフラフラしている。
「すいません……1lほど輸血して下さい」
「いきなり何ですか?ちゃんと検査してからでないと…」
「いや、普通の検査をしても分からないと思います。なにせ特異体質ですから」
「と言いますと?」
「実は私、ドラキュラなんです。最近、血が足りないもんで、明らかに栄養失調…い
や、貧血状態なんです。早いめに1lほど…」
「たとえドラキュラでも、一応採血して結果を見ないとねぇ…」
「じれったいなぁ…。この顔を見れば分かるでしょう?青白くて血の気のない−−」
「と言ってもドラキュラですからねぇ−−青白いのはいつもの事でしょう?」
「まぁそりゃそうなんだが…。あぁ、そんな言い合いしてる間にも、また目眩でフラ
フラして来た。手遅れになったらどうするんですか。早く輸血を−−」
「それより何故最近血を吸ってないんです?何故輸血が必要になったんです?」
「実は近頃、消化不良気味なんですよ。吸った血がなかなか消化吸収できないんで、
これはイカン−−緊急に輸血せねばと」
「ほぉ、そりゃ深刻ですな。何故、消化不良なんでしょう?悪い血でも吸ったんです
か?」「いや、特に変わった血液は吸ってません。むしろ用心のために、なるべく栄
養剤を飲んだり栄養点滴をして補ってたんですが、気がついたらひどい消化不良
で…」
「元来、血液は消化しにくい性質の物ですからね。反対に消化吸収しやすい栄養剤な
んかを飲んでると身体が慣れてしまって、ますます血液を消化しきれなくなって来た
んじゃないですかね」
「やはりそうか…。じゃあ、また人間から生の血液を吸って、胃腸を鍛えなきゃダメ
だな。よし、体力が戻ったら、また全うな吸血鬼に戻ろう」
「じゃあ、今日のところは我々が集めた血液で補っておくとしますか−−」
 それにしても「ヤワな」吸血鬼が増えたもんだ。これでは絶滅する日も遠くはない
だろう。あとは我々の天下だ−−そうホクソ笑みながら、蚊の医師はドラキュラの細
い腕に針を突き刺した。
                  (完)

2002年06月17日00時01分52秒投稿

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