過去のドンドコ掲示板
2002年05月01日〜15日

S.S☆「魔法使い今昔」☆     あや太郎

 何も持っていない手の平からトランプ・カードが忽然と現れては消え、消えては現
れる。続いては真っ赤なスカーフの中から花が鳩がステッキが鉄球が現れ、その布切
れの周囲を浮遊しては姿を消す。そしてもう一度、種も仕掛けも無い事を確認させた
スカーフを思い切りよく投げ捨てると、そこには数人の美女がまた忽然と現れた。
 手品とイルージョンを組み合わせた現代のマジックは正に何でもござれの夢と不可
思議の世界だ。
 そんな人気マジシャンの一人が舞台を下りて来ると、劇場の支配人に案内され、芸
能記者がインタビューに訪れた。
「いやぁ、乗ってるじゃないですか。これだけ新ネタ開発に凌ぎを削る時代に、よく
それだけ次々と新しいトリックを考え出せるもんだ。ネタ切れにはならないのかな
?」
「あぁ、苦労は絶えないけど、お客さんが喜んでくれるのを見るのが楽しみでね。何
とか新しい技を編み出すのさ」
「今日も新しい趣向が盛り込まれてたね。あのボーリングの玉が以前より軽々と飛び
回ってたし、最後に出てくる女の子も一人から三人に増えてた。まぁ一人だけならス
カーフのカゲに隠れて舞台に出てくる事もできるだろうけど、三人も同時なんてのは
信じられないな。一体どんなトリックなんだい?」
「それは言うまでもない事だが…企業秘密さ。また使い古しになったら教えて上げる
よ」「ハハハ、そうだったね。マジシャンが種を明かしちゃ上がったりだ。じゃあま
た次のステージを楽しみにしてるよ。また工夫して新しいマジックを見せてくれ」
「あぁ、無い知恵を搾って考えだすよ。またな−−」
 記者が帰ると、話を聞いていた古顔の支配人が、ニヤニヤしながらマジシャンに
そっと話しかけてきた。
「知恵を搾って工夫してか…。ほんとは気楽な商売なのにな」
「シッ!滅多なこと言うなよ。誰か聞いてたらどうするんだ」
「誰も居やしないよ。長年の付き合いの俺たちだけさ」
「それなら良いけどさ。万が一、種を見破られたら、業界から干されちまうからね」
「まぁ、その心配も要らないだろうさ。なにせ昔と違って我々も仕事がやり易くなっ
て来た。我々の仲間が今や業界の半分ぐらいを占めるようになってるからな」
「そうだったな。思えば昔は大変だった。ちょっと変わった事をやれば、すぐに悪魔
だ魔女だって裁判にかけられ、火炙りになったりしてたんだからな。それが今は良い
時代になったもんだ。教育とテクノロジーの発達のおかけで、ほとんど何でも有り、
何でもオーケーのご時世になったもんな」
「そうだぜ。本当に科学者たちに感謝しなくちゃイケないな。これだけ科学技術が色
んな事を実現してしまうと、もう民衆は何が目の前で繰り広げられても驚かない。
きっとどこかにタネがあるはずだと気楽に解釈してくれるようになったからな。お蔭
で俺たちも、自分たちの能力をフルに発揮できるって訳だ」
「正にその通りだ。持てる力を思う存分出して不思議な技を見せられる。見るほうも
昔と違って何を見せても無邪気に素直に楽しんでくれる。何か種のあるパフォーマン
スだと信じてね」
「考えりゃ、ほんとにタネがあるかどうかなんて大した問題じゃないよな。大切なの
はいかに楽しくて、いかに安全かという点さ。その点、我々は先祖代々お客さんたち
に良い出し物を見せようと能力を磨いて来たんだからな。もう悪魔や妖怪と一緒にさ
れる時代じゃなくなった。俺はもう引退して興行主になっちまったが、あんたたち現
役はどんどん新しいマジックを開発して活躍してくれよ」
「いやいや、むしろあんまり新しい技を連発しないように気を付けなくちゃ。不思議
な事をやって見せるのは楽だが、あまり楽をしちゃイケない。世間が混乱するかも知
れないからね」
「そうだったな。宇宙の法則に反する事をするのは楽だが、ギリギリの所で、いかに
もタネが有るように見せるのはそれなりの苦労が要るもんだ。そうか−−我々の工夫
は、いかに自制するかだったな」
「そうさ。自制と自重が大切だ。そしてあんまり現実離れしてないマジックを見せて
客に楽しんでもらう。そうしないと何が現実で何が夢か分からなくなってしまうから
な。これからも大いに慎み深く演じて行こう。それが我々魔法使いの生きる道でもあ
るんだからね……」
                  (完)

2002年05月15日23時20分20秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

まいどおおきに、近鉄通販お買得商品。

●お助けベルト「食べすぎ注意報」
食べ過ぎてお腹が膨れるとベルトが引っ張られて振動、お腹を引っ込めると止まる。
「あ、震えてる。私食べ過ぎたんやわ。」
しばらくして
「あ、止まった。もぉ食べてもええんやわ。」
膨れたりへっこんだり膨れたりへっこんだり膨れたりへっこんだり…。
腹筋効果を自然に促すんですと。
荒縄とか鉄条網でもええと思うけどね。
効果が一目で分かるメモリ付き。
嫌がらせか?

●バラ柄「ビッグプルオーバー」
言うなれば着丈の短いアッパッパ。
大きなバラの模様が斬新です。
スタイルのええモデルが着てるとゆったりとして風通しが良さそぉで実に涼し気。
正面から思わぬ強い風受けて体の線が露呈したりして…むふ♪…ええもんですなぁ。
けど、このビッグっちゅうのが曲者。
実はこの商品着てる人見たんです。
お腹に食い込む「食べすぎ注意報」の警告も何のその、飽食の限りを尽くしといて
「そない食べて無いのになんで痩せへんのやろ。」
なんて呟いてるよぉな、どあつかましいほど豊満なおばちゃんでした。
この人思ぉたんでしょぉな。
「ビッグやねんから私が着てもきっとゆとりたっぷりなんやわ。」
間違ぉてますよ、あなた。
このビッグは決してビッグサイズのビッグやありません。
ファッション的要素のビッグですよ。
頼むでぇ。
すれ違ぉてしまうまで風吹くなよぉ。
わ、吹いた。
布がへっぱりついて…ほとんど風呂敷被った西瓜やがな。
バラがキャベツに見えるがな。
日々より良き明日のファッションを望んで已まない私の清廉な心が呟きました。
あぁ〜あ、鶴亀鶴亀。

2002年05月14日14時10分09秒投稿

S.S☆「出稼ぎ立国」☆     あや太郎

「日本の少子化は進む一方だ。人口は着実に減り国力は衰える。この国の将来は一体
どうすれば良いんだ?」
「心配は要らない。出稼ぎ立国に成り、建て直せば良いさ」
「何、出稼ぎ立国だって?今更海外へ出稼ぎに行ってどうするというんだ?第一、働
きに行こうにも人間の数が足りないんだぞ」
「いや、こちらから出稼ぎに行くんじゃない。出稼ぎの外人を大量導入するんだ。ど
んどん無制限に入国させても構わない」
「そんな事したら、外人に職場を奪われる。給料の払いだけで国家の経済は破綻して
しまうぞ」
「そんな甘い扱いはしない。安い給料で、劣悪な環境で、3Kの仕事をどんどんやら
せるんだ。少々安くても、仕事がキツくても、日本の賃金レベルなら幾らでも働きに
やって来る。それをタコ部屋に入れてコキ使う。……戦前の強制労働のようにね」
「それは人道的な問題になるだろう?」
「いや、そんな心配はない。そういう条件でも文句は言わないという一札を入れさせ
る。承知の上でコキ使い、幾多の犠牲者を出しながら働いてもらう。その代わり、我
慢して働き続け、生き残った者には無条件で日本国籍を与える。こうすれば発展途上
国からまだまだ働き手がやって来るはずだ。これで日本の将来は安泰だよ」
「何故安泰だなんて言えるんだ?」
「考えてみたまえ。生き残るのは我慢強い生命力の強い者ばかりだ。それが日本人と
なり将来の国家を支えてくれるんだ。そんな逞しい〔子孫〕に満ち溢れた国家に何の
不安があると言うんだね。いざと言う時にも彼らは国の為に闘ってくれるはずだ。な
にせ、そこまで苦労して日本人になったのだからね……」
                  (完)

2002年05月13日22時27分46秒投稿

S.S☆「忘れ物」☆     あや太郎

 日本プロ野球界のスーパースターで現在は名門〔買い占めジャンジャンス〕の監督
を勤める長芝茂郎の心配は息子の凡太郎であった。
 彼の後を継ぐようにプロ野球界に入り、父親以上の活躍を期待された凡太郎だった
が、やはり父親の壁は厚く、これという活躍も出来ないまま先年、現役を去った。
 もう三十才も過ぎ、これという再就職先も無い息子に心を痛めていた長芝だった
が、凡太郎の明るいキャラクターを見込まれ、芸能界の仕事も決まり、同時に意中の
人との結婚も決まって、父親としても肩の荷がおりた思いだった。
 その結婚披露宴に今しも超人気者・長芝監督が姿を現し、長年親交のある放送マン
・徳川光衛門のインタビューを受けようとしていた。
「長芝さんと言えば、数々のエピソートに彩られた我らのスーパースターですが、中
でも有名なのは本日の新郎の凡太郎君にまつわる逸話ですねぇ。確かあれは凡太郎君
がまだ三才の頃でしたか、球場へ連れてきて試合を見せたあと、家に帰ると彼がいな
い。よく考えると、彼を球場に置き忘れていたというウソのような話なんですが、監
督……あれは実話なんですか?」
「うーん、いわゆる一つの…トゥルー・ストーリーですね。うっかり置き忘れて来た
んですね。わたしとした事が、ちょっとしたミステイクですね。ハハハハ」
「私としたことが…と言うより、監督ならではのミステイクだと思うんですが、今度
は新郎の凡太郎君にも伺ってみましょう。この偉大な父の後を継いでプロ球界に身を
投じた訳なんですが、プレッシャーも大きくて、さぞや大変だったでしょうねぇ?」
「はい。残念ながら僕は父親のような活躍は出来ませんでしたが、僕の子供は隔世遺
伝で優秀な素質を受け継ぐと思うんで、きっと大選手になってお祖父ちゃん孝行をし
てくれると思います」
「これはご謙遜を。でも微笑ましいご挨拶ですねぇ。なかなかシャレた息子さんじゃ
ないですか、長芝監督。……おや、何で首をひねってらっしゃるんですか?」
「うーん。何で息子がプロ球界でイマイチだったのかと思案してたんですけど
ね……」
「そんな事はもうイイじゃないですか。シャレなんですから」
「何か大切な事を見落としているような気がしましてね、うーん……」
「いや、そんな深刻に言われちゃ困りますよ。折角のめでたい席なんだし…」
「あっ、思い出した!なぜ凡太郎が私みたいに活躍出来なかったのか分かりました
よ」
「何を思い出したと言うんですか、監督?」
「あれは確か息子が三才の時でした」
「その話はもう出ましたよ」
「彼を球場に置き忘れた事があるんですけどね」
「それも有名だったら……」
「その時、どーもミステイクがあったようなんですよ」
「だから、何があったと言うんです?」
「息子を迎えに行った時にね……どーも違う子を連れて帰ったような気がしまして
ね」
「絶句…」
「そう言えば、元々の凡太郎はこんな顔かたちじゃなかったなぁ。ハハハハ、わたし
とした事が失敗失敗。いやぁ、ゴメンね、凡太郎。勝手に連れて帰ったりして。どう
やらキミは本当の凡太郎じゃなかったみたいだよ、ん」
「えっ?じゃあ僕は…凡二郎なの?」
「どうもそうみたいだねぇ、凡太郎の凡二郎。…あ、そうだ……テレビを見てるかも
知れない本当の凡太郎君!キミもうちに来て、いっぺん野球をやってみないかね?今
度は素質を発揮してきっと良い選手になると思うよぉ。その暁には、我が買い占め
ジャンジャンズに入団して活躍してくれたまえ。いやぁ、楽しみだねぇ、ムフフフ
フ…」
                  (完)

2002年05月12日21時32分37秒投稿

S.S☆「寝たきりワクチン」☆     あや太郎

 年老いたあと寝たきり生活に陥った時の備えに、若いうちから「寝たきり状態」を
疑似体験し、老後に備えるという医療制度が導入された。何種類かの薬で一時的に
色々な寝たきり状態を経験できるというのだが、いくら将来の寝たきり生活が心配と
は言え、わざわざそんなシンドイ体験をしようという者はいない。そこへ酔狂で冒険
好きな青年が一人、体験入門して来た。
「僕は軍隊の訓練から山伏の修行まで様々な体験を積んできました。わざわざそんな
辛い目に遭おうなんて物好きな奴だとも言われますが、何事も経験です。いざと言う
とき脅えたり落ち込んだりしない為にも若い元気な内に苦しい体験をしておくのは悪
くないと思っているんです。そんな訳で、今回の体験入門にも参加する事にしたとい
う次第です」
「それはなかなかに殊勝な心掛けですよ。でも激しい、厳しいと言っても、訓練や修
行は能動的で前向きな苦しさです。それに引き換え病気や老化の体験は、積極的に
打って出るという事のできない、ただひたすら耐えるだけの苦しさです。また大きく
性質の異なる世界ですが、それでも経験されてみますか?」
「望むところです。これまでの試練はハッキリ言ってスポーツ感覚でしたからね。何
もかも自由にならない試練を経験しておかないと、本当の忍耐は身に付かない。それ
にこの経験が老後にも役立つんだから一挙両得です。どうかテストに参加させてくだ
さい」
「そこまでの心構えがあるのなら良いでしょう。それでは実験スケジュールをお知ら
せします……」
 この「寝たきり実験」の全過程は一年に及び、数ヵ月間隔で三種類のワクチンを順
次投与し、3パターンの「寝たきり状態」をそれぞれ一ヵ月ずつ体験するらしい。第
一のワクチンは全身に痛みが出て身体の自由が奪われる効果があり、第二のワクチン
は全身麻痺を引き起こし、第三のものは運動神経が自在に動かないという症状を生じ
させる。そして、ワクチンの効果は一ヵ月で切れ、後遺症は残らないという。
「他にも筋肉の力が衰えて行くタイプ、心肺機能が衰弱して動けなくなるタイプなど
色々あるんですが、あまり一度に体験すると本当に健康を害する危険があるので、取
り敢えず一年間3パターンの寝たきり生活を体験してもらいましょう。それでは第一
のワクチンを接種しますよ……」
 青年の身体に間もなく様々な痛みが現れ始めた。先ず関節など身体の節々が痛く歩
いたり力仕事をしたりできなくなった。
 食事をするにもお碗が持ちにくい。箸を持つ手が曲げ伸ばしのたびに痛み、涙が出
た。「無理をせずに食事の介助を受けて下さい。それも大切な体験ですから」
 何日目かにそう言われて、人に食べさせてもらう事にした。当初は苦痛が減らせる
と安心したが、食べさせてもらうのも案外楽ではなかった。好きな物から好きな分だ
け好きなタイミングで食べさせてくれるヘルパーは居ないのだ。また無理をして自力
で食べると、激痛で涙が出た。排泄や入浴などは更に心身を消耗させるものだった。
「アッと言う間に一ヵ月が過ぎましたね」
 最初のワクチンがようやく切れて来た頃に医者が問いかけた。
「アッと言う間にですって?とんでもない。一ヵ月が一年にも二年にも感じました
よ」
 げっそりと痩せてしまった被験者が苦笑で答えた。
「苦痛の時間は長いですからねぇ。かなり参った様子ですな」
「実際、時計が止まってるかと感じました。夜も苦痛で良く眠れないし、動けないか
ら運動不足で眠気も起こらない。睡眠薬を飲むと胃が痛くて又眠れない……もう悪循
環の極致ですよ。激しいトレーニングで身体を痛めつけた経験は豊富なんですが、取
れない痛み、回復しない疲れというのは人を絶望的にしますね」
「この経験を活かして、看護や介助の受け方も学んで下さい。又いつか役に立つ事も
ありますよ。それではまた体力が回復したら第二の体験に参加して下さい」
 根性のある青年はそれでも懲りずに数カ月後、第二のワクチンを頸椎に接種しても
らった。身体は見る間に動かなくなり、間もなく痛みや暑さ寒さすら感じなくなって
しまった。
「痛みの心配は無いでしょうが、決して楽ではないですから油断しないでください
よ」「覚悟の上です」
 首から上は動くようにしてもらったので口を利いたり物を咀嚼したりは出きるの
だ。もしもう少し頸椎の上のほうに処置すれば目玉以外は動かせず、人工呼吸器なし
では生きられなくなる。それでも排泄はひと月間、自力では出来ないという苦しい条
件での生活だった。
「それでも痛みがないだけマシか。食事も今度は割り切って完全介助だ。我慢は出来
そうだが……それにしても不味いもんだ。…床ずれが出来た。一定間隔で寝返りを打
たせてもらっても、完全には防げないんだなぁ。ひと月だけだから慣れる間が無い
分、あちこち悪い箇所が増えてる。あぁ、苦痛は無くても四六時中息苦しい!そりゃ
そうだ、人間らしい動きが出来ないまま生きつづけてるんだからな。生殺しだ。しま
いには生きているのか死んでいるのかさえ分からなくなるかも……。あぁ、ヤだヤ
だ。早く薬が切れてくれ!ひと月すれば元に戻るのが分かってても、こんなに苦しい
のは何故なんだ?それに、本当に俺の身体は動くようになるのか?もしこのまま麻痺
したままだったら……あ〜!考えただけで気が狂う!」
 幸い発狂する前に、ワクチンの効果は消滅した。
「身体は痩せてないみたいですが、精神的には前回より参ったようですね」
「身体も参ってますよ。筋力は衰えてるし床ずれが痛くって……」
「それはすぐに回復しますよ。ところで大丈夫ですか?また数カ月後、第三の実験に
臨む気力は残ってますか」
「ここまで来たら意地でもやり抜きますよ。まぁ、また参ってしまうでしょうけど
ね…」 果して数カ月後、公約通り青年はまた実験室にやって来た。第三のワクチン
を投与され、また違う身体の不自由さが始まった。
「今度は特に痛みが出る訳でもなく、身体が麻痺する訳でもないんですが、運動神経
が思うように働かなくなります。手足もほぼ二分の一の確率で思い通りに曲げ伸ばし
できたり、反対方向に動いたりするので怪我をしやすい点に注意して下さい」
 なるほど、まともに立ち上がるのも歩くのも大変だった。あちこちにぶつけて打ち
身や擦り傷だらけだ。やり直しの利く動作はまだ良いが、転んだり危険物に近づいた
時は大怪我をしかねない。かつて激しい運動や厳しい訓練で、そういう怪我には慣れ
ているつもりだったが、予想できない身体の動きはやはり恐怖だった。慣れれば少し
はマシな暮らしが出来そうな気もしたが、ワクチンの効果はひと月限りだ。到底この
身体を使いこなせるまでにはなれないだろう。食事だって、自分で食べても食べさせ
てもらっても、ちゃんと呑み込める確率は二回に一回だ。咳き込むだけで疲れてしま
う食事と、なかなか通じない言語障害に悩まされながらも、何とかひと月を乗り切っ
た。
「今回は期間が限られてるんで却って焦りました。慣れ始めた頃には、もう元の身体
に戻ってしまって、勘が狂ったままですよ」
 まだたどたどしい言葉で話す青年に医師もニコやかに答えた。
「障害の度合いや生活の不便さは、どのケースも余り変わらないはずなんですが、さ
すがに慣れて来たのか、今回は割合スムーズにこなせたようでしたね」
「いや、精神的にはかなり辛かったですよ。何をするにしてもジレったい事ばかりで
ね。何とか全過程だけは終えようと、意地だけで頑張ってたようなものです」
「まぁ確かに若くて体力があって我慢強いあなただから出来た事かも知れませんな。
ところで、この寝たきり体験を終了した感想はどうですか?老後の役に立ちそうです
か?」
「いや、正直なところ、却って老後への恐怖心が高まったかも知れません。老化や怪
我や病気で本当にあんな寝たきり状態を余儀なくされた場合、今度は逃げられません
からね。本当に耐えられるか……ましてやそんな生活をエンジョイできる所まで行け
るかどうか、とても自信がありません。むしろ絶望するのが早まるかも知れないと感
じました」
「それだけの苦痛を感じたのだから、寝たきり病人の気持ちは理解できたのではない
ですか?」
「いえ、それも理想論ですね。却って分からなくなった部分もあります。よくこんな
境遇を我慢して生きているなと、むしろ疑問さえ感じました。あれはどう考えても人
間の幸せに結びつくような境遇ではないと感じましたから」
「単刀直入な感想ですね。正直な気持ちだと思いますよ」
「でもこんな事を言ってしまうと、苦痛ばかりが印象に残って、何も得る所が無かっ
た……何だか一年もかけて体験した事が無駄だったような気がして空しくなってしま
います。協力して貰ったスタッフにも却って申し訳ないような気分ですよ」
「そんな事はありません。この実験的な体験の成果は大いに上がったんですよ。なぜ
なら、あなたはイヤと言うほど不自由な暮らしの苦痛を味わったでしょう?」
「はい、その通りです」
「と言うことは逆に、健康な暮らしの歓びを改めて知った事になりますよね」
「ええ。身体が自由に動くという事は快適で幸福な事です。もうそれだけで生きてい
る歓びを満喫できるほど……」
 青年はハッと気がついた。この体験コースは老後の為の備えではなく、健康な
「今」を満喫する為のものだったのだと。
                  (完)

2002年05月11日23時01分23秒投稿

 今日は会員番号245番です。
 夜のお菓子 うなぎパイを、いただきました。なんともいえない名前です、書いて
あることがいい、「うなぎパイは・・・ フレッシュバターを豊富に入れたパイに、
浜名湖名産のうなぎの粉、夜の調味料ガーリックを配合し日本茶にも、コーヒー、紅
茶にも合い、あなたの暮しに微笑みのひとときを与えるお菓子です。」
 なかなかおいしいお菓子ですが、夜のお菓子と名前をつけたところが、いいんでしょ
うね。
 ここのお店は、ほかにもいろんなものを、作っていて(ローズマリー)なんて名前
のお菓子なんかも作っています、ローズマリーと、聞くとノック先生を、思い出しま
すね。今どないしてはるんでしょうね。
 昔、ドンドコに、ここのお菓子をおくったことが、あるんですが。放送でなんにも
いわれなかったんですが、わりとお礼なんか、きっちりいってる番組やったんですけ
れどね、お菓子が、3人のところまでとどかなっかたかもしれませんね。大石さんリ
スナーのこときらいやったから。

2002年05月11日12時50分57秒投稿

S.S☆「姉妹提携」☆     あや太郎

 寄る年波には勝てず病に倒れ、療養を余儀なくされた爺さんがいた。
「何だ、この病院のメシは〜。不味くて食えん!……何だ、この介護は?下手くそで
我慢ならん!……何だ、この退屈な生活は?面白い設備は無いのか!……不便だ!息
苦しい!部屋が狭い!他の患者がうるさい!メシが遅い!消灯が早い!何から何まで
成っちょらーん!」
 八つ当たりされて憔悴気味の家族の所へ医師と看護婦がやって来た。やがて一同は
部屋の外へ出てヒソヒソ話を始める。
「どうやら、かなりヒドイ状態ですね」
「ハイ。うちのお爺さん、だんだん聞き分けが無くなって来たようで…」
「もう普通の病院では手に負えないかも知れません。いっそ余所へ移って頂きましょ
うか?」
「余所と言いますと……老人ボケの専門病院ですか?」
「いや、それもあれだけ口うるさい患者では手に負えんでしょう。もっと精神的なケ
アの充実した施設のほうが良いのではないでしょうか」
「とおっしゃいますと、どんな施設です?」
「ほら……近頃有名になってきたあの団体ですよ」
「あぁ……未来スペースとかいう不老不死を売りにした組織ですね」
「そうです。ミイラになって未来を生きよう…という宣伝文句の団体です。あそこな
ら、もう病気も死も心配しなくて良くなるみたいですし、いっそあそこにすべてを任
されては?」
「でも入会料が高いんでしょう?」
「いや、近頃は世間の眼もあって、かなり安くなってるようですし、ミイラになって
からの世話も良心的になって来てるそうですよ。下手な老人病院より手厚く介護して
くれるかも知れませんから、普通の療養生活に馴染めないお年寄りにはむしろ幸せな
環境かもしれません。ここにパンフレットがありますから、是非とも検討なさって下
さい」
「分かりました。親戚一同とも相談して前向きに検討します」
「善は急げと言いますから、一刻も早いほうが良いでしょう。お爺さんご自身の苦し
みを和らげるためにもね」
 医師が立ち去ったあと、家族と看護婦たちは開いたままのドアからまた病室へと
戻ってきた。
「お爺ちゃん。不便で苦しい思いをさせてごめんなさいね。もうすぐ楽に過ごせる所
へ連れてって上げるからね」
 家族がしんみり告げると、お爺さんは未だかつて見せたことのない笑顔で動きにく
いはずの手足をピンシャンと動かした。
「何を言うとる。わしゃこんなに元気になったよ。この病院は居心地が良くてリハビ
リも楽しくて楽しくて……ナハナハナハ」
 妙に元気で素直になった老患者を残し、家族が病室から出てくると医師がニコやか
に出迎えた。
「どうやら効果はあったようですな。ああいう患者には治療やリハビリよりショック
療法のほうが効くようですね」
「本当ですわ。怪しげなカルト教団さまさまです。それではこれからもよろしくお願
いします」
「お任せください」
 自信たっぷりに医師が頷いた。
 もしまた「我がままの発作」が出たら今度こそ本当にカルト教団へ送り込んでしま
えば良いのだ。
「ただ、うちと姉妹提携をしてる事だけは知られちゃ困るがね」
 寺や葬儀社と共にカルト教団まで味方に付けて、病院業界はもう恐いもの無しだっ
た。
                  (完)

2002年05月10日23時21分14秒投稿

下駄屋の喜六

先日来られたお客さんは40代後半ぐらいの女性。2歳ぐらいの男のお孫さんを連れ
てきてはります。ほんでこのヤングおばあちゃん、頭にウルトラマンのお面を乗せて
はるのです。そして、お孫さんに話しかける時はそのお面を顔に付けて喋る。ちょっ
と奇異な感じで、ボクはおやっというような顔をしてたんでしょうな。そのお客さん
のいわく「この子ね、ウルトラマンの面を付けて喋らんことには言う事を聞いてくれ
へんのです」。

プッと笑ってしまいました。

2002年05月09日23時06分09秒投稿

S.S☆「微熱」☆     あや太郎

「先生、たいへんです!」
「どうした?」
「患者がまた微熱状態です」
「微熱ぐらいなら心配ないだろう。特に深刻な容体ではなかったしな」
 −−−−−−−−
「先生。やはり微熱が続いてます。大丈夫でしょうか」
「心配性だね、キミも。どれぐらいの微熱なんだい?」
「五度三分にも成ってます」
「何、五度三分?それは微熱じゃなくてかなりの熱じゃないか。ちょっと診てみよ
う。……おっ、これはイカン。全身が土気色になってる。身体も冷たくなってる
し……何と心臓が停止しているじゃないか!早く蘇生措置をせねば……。一体いつか
らこんな状態だったんだね、キミ!」
「微熱が始まった頃からです」
「微熱が?そんな筈はない。心臓が止まれば微熱どころじゃないだろう」
「でも本当なんです。ずっと体温は…十度以下の微熱だったんです」
「おや……?」
                  (完)

2002年05月09日22時51分55秒投稿

今日は、亀虫ぷっぷです。

トリイホール 「古今亭志ん朝 追善公演」

5月2日 二日目 「米朝・文紅 二人会」

出し物

●「みかん屋」  桂 しん吉
●「八五郎坊主」 桂 千朝
●「天神山」   桂 文紅

     中 入

●「座談 若き日の志ん朝」
●「お笑い手品」 桂 朝太郎
●「質屋蔵」   桂 米朝

ほんまに久し振りの文紅さんは古稀。
年とらはった。
喜寿の米朝師匠の方が若ぉ見えました。
「天神山」で、へんちきの源助を訪ねて来た幽霊が言います。
「昼間のお礼に参りました。」
「お礼でっか?それやったらわざわざ来てくれいでもメールでよかったのに。」
まだまだお元気。

米朝師匠の「質屋蔵」。
ラス前、旦さんが蔵の中を覗く場面。
小柳(?)繻子の帯と柳紋(?)の羽織の相撲の後に、近所の稽古屋から預かった揃
いの浴衣が深川を踊るという趣向が入ってました。
目を瞑った無表情な顔で中身の無い浴衣の所作をしたはりましたけど、これはなかな
か表現が難しい。
旦さんが番頭に語る話中話の最後。
やむを得ず繻子の帯を質に置いた病床の姉が妹に言います。
「あんたに形見ひとつ残してやれん。思えば恨めしいあの質屋の糞ったれ。」
人間国宝が〈糞ったれ〉て…。

  ▼   ▼   ▼

5月3日 三日目 「春團治・仁鶴 二人会」

出し物

●「七度狐」    桂 春菜
●「ちりとてちん」 笑福亭 仁勇
●「向う付け」   笑福亭 仁鶴

     中 入

●「座談 二人会の思い出」
●「女放談」    内海 英華
●「お玉牛」    桂 春團治

「向う付け」は、高校の時仁鶴さんの高座で聴いたのが初めてでした。
それこそ発声を忘れるくらい笑いましたな。
それ故か私の中にあるこの噺の原点というか基準点は当時の仁鶴さんなんですな。
残念乍ら往年の迫力には及びません。
もぉちょっと弾けはってもええのにね。

  ▼   ▼   ▼

5月5日 千穐楽 「ざこば・南光 二人会」

出し物

●「つる」    桂 こごろう
●「うなぎ屋」  桂 喜丸
●「ざこ八」   桂 南光

     中 入

●「座談 上方から見た江戸前」
●「ちはやふる」 矢崎 滋
●「厩火事」   桂 ざこば

○でお馴染み、矢崎 滋さんは大の志ん朝ファン。
自身の会を持ってる位のアマチュア落語家でもあります。
ざこばさんと小米朝さんの知り合いという事もあってこの場へ登場。
「ちはやふる」は言葉を現代風に変えてました。
そこそこ笑えて…んなもんかな。

ざこばさんの「厩火事」。
年下の亭主に嫌われる事を恐れる年増のお咲さん。
本心を確かめたい一心からわざと転んで亭主の大事な茶碗を割ります。
「しゃぁないがな。茶碗はまた買ぉたらええ。
 それより怪我せなんだか?」
「あんた、茶碗より私の事心配してくれるのん?」
「当たり前やないかい。お前に怪我でもされてみぃ。
 明日から遊んでて飲まれへん。」
この後お咲さんがどぉ思ぉたのか気になりますね。
ぐうたらしながらも側に居ててくれる…おそらく喜んだでしょぉな。
松竹新喜劇の〈銀のかんざし〉も然り。
やっぱり髪結いの亭主に限りますなぁ。

  ▼   ▼   ▼

東京では一切追善興行を行いません。
志ん朝師匠は当然の事乍ら興行関係・マスコミ関係とのつながりが広いし深い。
なもんで、あっちでやってこっちでやらんという訳にはいかん。
そんな混乱を避けるために志ん朝夫人が決めはったんやそぉです。
で、この会が唯一の追善興行となりました。
もちろん夫人公認です。
関係者共々ちょこっと自慢。

ほとんどの東京の噺家さんは大阪に来るのを嫌がります。
が、志ん朝師匠はほんまに大阪を愛してくれた人。
あれ程の名人大看板であるにも拘らず、欠かさず年に幾度かはこっちで会を開いてく
れたはりました。
大阪に媚びる事無くまた偉振る訳でも無い。
江戸前の芸を淡々と披露するのみ。
聴く方は只只酔わされます。
言語文化の違いなんぞ目じゃねぇや。

落語協会の大幹部という立場が原因になったという人もいたはります。
屋台骨を支えにゃならん責任感が命を縮めた。
もしこれがほんまやったら…すべてでは無いにしても…純粋に自らの芸に殉じた枝雀
さんはまだ幸せやったのかもしれませんな。
なんとまぁ無責任な言葉。

上方の噺家さんに与えた影響もかなり大きいもんがありますな。
芸の上の事は言うに及ばずその人間性に引き付けられた人は多いと聞きます。
こっちで会が催された時には楽屋が噺家で満員になるそぉです。
殆ど素人のファンやがな。
ここら談志師匠とえらい違いです。
ざこばさんが
「志ん朝師匠は言わば自然に東京と大阪の掛け橋になってくれはった。
 談志師匠もそぉいう動きしてはるんやけど、もぉひとつしっくり行ってない。」
南光さんは
「どちらの噺も好きなんやけど、談志師匠の人間とは付き合いたくない。」
ニンと言うのか持ち味と言うのか…。

春團治師匠は共演することでファイトを掻き立てられはったそぉな。
六代目との親交を引き継いだ仁鶴さんは二人会を20年。
想いも一入でしょぉな。
「物言いから酒の飲み方ゴルフスウィングまで立居振舞いすべて…
 持ったはる空気そのものが江戸前の噺家。」
故人を評しての言葉に納得。

もぉ生の志ん朝噺に接する事は無いのか…と、改めて実感。
いみじくも文紅さんが言わはりました。
「60台70台の志ん朝・枝雀を観たかった。」
ほんま、そぉですなぁ。

5日間座談の司会を勤めた小米朝さん。
これがまとまるもんも散らかすという見事な不手際。
米朝師匠に怒られ、仁鶴さんに嗜められ、ざこばさんに罵倒され、5日なんか見かね
た南光さんが仕切ったはりました。
しゃぁないか、こんなキャラやからね。
誠に愛すべき天然ボケの華でありますな。

2002年05月09日15時33分42秒投稿

S.S☆「2000年問題」−2☆     あや太郎

「……3,2,1……ハッピー・ニュー・ミレニアム!……」
 コンピュータの誤作動を懸念しながら、人類が西暦2000年を迎えた瞬間、幸い
地上では一つとしてコンピュータの誤作動事故は起きなかった。しかし……
「おかしい……ヘンだ……どうなってるんだ?」
 何と至るところで原因不明の大異変と大変動が起きていた。
「ク、クルマが一台も見えない!」
「正月の交通規制か?いや、バイクも電車も走ってない」
「高速道路も無くなってる。線路はあるが…走ってるのは汽車だ!」
「高層ビルも姿を消した。代わりに昔ながらの低い建物ばかりが並んでる」
「誰か当局へ問い合わせろ……あっ、ケイタイが無い」
「こっちもだ。誰も持ってない。ラジオもテレビも消えちまった」
「そう言うお前の服装もヘンだぞ。何だか爺さんの時代の服みたいだ」
「お前らこそ似合いもしない着物姿じゃないか。晴れ着を着てきたのか?」
「いいえ。私たち着物なんか着たことないわ。着付けだって出来ないもの」
「一体どうなってるんだ?……あっ、お巡りさーん」
「わしは巡査ではない。帝国軍人である。ロシアとの戦争が近づいておるというこの
時期に夜中に何を騒いでおるか。監獄へぶち込むぞ!」
「何がどうなってるの?ひょっとしたら俺たち明治時代にでも戻ったのか?」
「そう言われてみると、何だか自分も明治の人間みたいな気がしてきた」
「そうだ……もうすぐ日露戦争だ。いざ闘わん……戦闘準備!……」
 大混乱する世情を目の当たりにしたところで、ガバッと起き上がった。
「あぁ…夢か。冷や汗が出たよ。最近コンピュータの誤作動が気になってたんで、こ
んな夢を見たんだなぁ。シミュレーションした時、誤作動事故の最悪のパターンが印
象に残ってたようだ。いやぁ、夢で良かったよ。それにしても厄介な事をしてしまっ
たもんだ。ニンゲンどもの年号に合わせ、コンピュータをセットしたばかりに、こん
な事で気をもむとは……。しかし念のためにもう一度チェックしておこう……あっ、
しまった。寝過ごしてる間に誤作動が起きてるよ……!」
 宇宙を運行する神様の「コンピュータ」は恐れていた通り、地球上の時間を一九0
0年に逆戻りさせていた。
                  (完)

2002年05月08日22時52分45秒投稿

S.S☆「2000年問題」−1☆     あや太郎

 地球上が二十世紀の末年を筒がなく迎え、いわゆる「2000年問題」をクリアし
てホッとしていた頃、天界では宇宙創造の神が頭を悩ませていた。
「困った……。やはり解決策が見つからん。このままでは地球にも混乱が起きかね
ん」
 神様の目の前では、ちょっとばかり地球より遅れた暦を天界のコンピューターが刻
んでいた。
「各国の元号や暦に合わせて、地球の運命をコントロールして来たんだが、いろんな
年号を使い分けるのが煩わしいので〔西暦〕に統一したのが拙かった。前回の時には
999から1000に移り変わったんで、誤作動も無かったし、次のミレニアムの時
は気をつけようと心しておったんだが、なにせ千年も先の事じゃったから、いくら神
の身でも忘れる事はあるわさ。それにしても迂闊じゃったなぁ……コンピューターの
日にち計算をひと桁省略しておいたのは……」
 どうやら神様のコンピューターでは下三桁で年月日をインプットして来たらしい。
「まぁ、しょうがないわい。誤作動して何か不都合が出たら、その時に手直ししよ
う。しばらく昼寝でもして様子を見るか……」
 神様がゴロリと寝ころんでホンの数日居眠りしている間に、天界のコンピュータは
ついに「ミレニアム」移行の瞬間を迎えた。
 地球文明は、案の定一変した。
「なぜ急にこんな不便な暮らしになっちまったんだろうな?」
「確かに不便だが、まぁそれも良いじゃないか。何だかのんびりして良い感じだよ」
 西暦1000年の暮らしも人類にとってまんざらでもなかったらしい。
 地球方面からよほどの抗議や祈りの声が聞こえてこない限り、神様の眠りは当分醒
めそうになかった。
                  (完)

2002年05月07日23時36分44秒投稿

S.S☆「鑑定!」☆     あや太郎

 世間にはますます精神や情緒の不安定から来る犯罪や事件が増加していた。
 関係当局も何か劇的で効果的な対策を迫られる事となった。
「そもそも、この国では神経科や精神科に偏見を持ちすぎだ。もっと早く検診を受け
治療を施せば簡単に治るケースのほうが多いというのに」
「正にお国柄と言わざるを得ません。そういう方面の病院に通ったというだけで白眼
視してしまう国民性に問題があるんですから」
「と言って、国民ばかりを馬鹿にしてる訳にも行かない。何か打開策を打ち出さねば
大きな社会不安を引き起こしかねない状況だ。諸君……何か名案はないものか?」
「いっそ精神鑑定を義務づけてみたらどうでしょうか。国民全員にです」
「何…強制的に精神鑑定を!…これはかなりの抵抗を受けそうだぞ」
「もう小学校の段階から全生徒が習慣的に受けるようにすれば受け入れられるんじゃ
ないでしょうか」
「そうだなぁ。それも心理テスト・ゲームや相性診断の体裁でやれば子供や若者には
受けるかもしれない。しかし問題は大人や年寄りだ。会社の健康診断に紛れ込ませて
も、やはり抵抗感は生まれるんじゃないか?つまらない所だけ妙な勘が働く国民性だ
からな」
「それなら良い手があります。子供から大人まで楽しめて…特に年配者に有効な啓蒙
の方法が」
「それは何かね?…ふむふむ…それは素晴らしい!よし、それで行こう。早速実施し
よう…」
 かくして関係当局が隠れスポンサーとなり、啓蒙用のテレビ番組が始まった。
「開運 何でも精神鑑定団!」
                  (完)

2002年05月07日00時37分46秒投稿

S.S☆「破防法」☆     あや太郎

 ある日、各宗教各宗派にわたり、めぼしい宗教家、指導者が国会へと招集された。
「先日のカルト教団による大量殺人テロに関しては皆さんご承知の通りです。海外の
例を見ても、この種のカルト集団は凶悪でしかも根強い。国民の不安も考慮し、この
教団の復活だけは何とか阻止したいのです。そこで我が政府は〔破壊防止法〕及び
〔教団解体法〕を準備する事に決定した次第です」
 無論、宗教家たちから轟々の非難が起きた。これでは信教の自由が揺るがされる。
「静粛に願います。あくまでもこの二法案は準備されたという段階です。つまり一定
の条件が満たされ、当面の危険が回避されれば、白紙撤回されるのです」
「それは、どのような条件の下で…?」
 宗教界の長老が聞き返した。
「あのカルト教団を…自主的に解散させる事です。そして自主解散を説得するのは外
でもないあなたがた宗教家の皆さんという事になります」
「あの連中は…人を殺せば皆天国へ行ける…という無茶な教義の集団ですぞ。何で私
たちがあんなテロ集団のために…?」
 問い返しながらも宗教家たちは知っていた。あれは特殊なカルト教団の偶発事件で
はない。すべての宗教が歴史的に経験し、潜在的に具えている危険性なのだ。
「ご存じのように、今や国民の多くが既成の宗教や教団に対して、同様な不安を抱い
ています。このままでは政府が手を出す前に、国民による宗教叩きが始まってしまう
でしょう。そこで、宗教の汚名返上、名誉挽回のためにも、宗教界各位の努力により
何とかあの教団の残党を解散、改宗に導いてもらいたいのです。それさえ実現できれ
ば、破壊防止法など一連の法案は半永久的に凍結します」
 政府は露骨にも既成の宗教界とあのテロ教団を「対決」させる作戦に出た。
 しかし世間の逆風に打ちのめされていた宗教界はもはや退くことを許されなかっ
た。
「やってみましょう。あの教団の信者たちを説得してみようではありませんか」
 各宗派から名うての説法師、著名な心理学者がカルト教団のもとへ派遣された。
 しかし残党信者たちは手ごわく、なかなか説得に屈しない。
「何度も言っているように、あなた方の教祖が行なった事は非人道的です。それ一つ
見ても皆さんはこの教団を捨てるべきだ」
「非人道的で結構。我々と教祖様はすでに人間世界を越えている。もはや人の道にこ
だわる必要はない」
「人間世界を越えてると言うのなら…早くあの世へ行っちまえ〜!」
 名だたる宗教家たちもついに根負けして諦め顔となった。しかしこのままではこの
国の宗教界が崩壊する。タメ息まじりに長老が呟いた。
「仕方がない。説得できないという事は我々の負けた」
「先生……負けを認めるんですか!」
「致し方ない。そして負けたからには彼らの軍門に下ろう。我々もこれからはあのカ
ルト教団の教理に従おうではないか!」
 一瞬戸惑った宗教家たちも、その語気の強さにすべてを悟った。
 間もなく例のカルト教団の信者が次々と拉致誘拐され、後日とある山中で全員の死
体が発見された。
 〔天国へ急ぐ者、ここに眠る〕
 そんなまがまがしいメッセージだけが残され、実行犯たちの正体は杳として知れな
かった。
「しかし長老……これで良かったのでしょうか?」
「止むを得まい。皆が救われる道はこれしか無かったのだからな」
「公安当局も実行犯は我々だと勘づいてるはずですが…」
「ふむ。しかし執拗な捜索はすまい。あの教団さえ無くなれば政府は気が済むのだ。
それに破防法もお流れになった事だし、今回は御目こぼしという事で一件落着するだ
ろう」
「やり方はともあれ、これであの忌まわしきカルト教の教義もこの世から消える訳で
すね。その点だけはホッとしました」
「いやいや、消えはせん。何しろ我々があの教義を受け継いだのだからな。しかしそ
れを知られては困る。今度は我々が迫害をされかねん。だから今後は皆、隠れカルト
教徒として生きて行くのだ。またあの教団のようなテロ集団が現れた時の為にも。良
いな?」
 それが神仏の御心なら…と一同は神妙に頷いた。
                  (完)

2002年05月05日21時54分32秒投稿

S.S☆「美の地動説」☆     あや太郎

 宇宙の辺境に浮かぶ大型ステーションには、一獲千金を夢見る無数の種族がたむろ
していた。
「よくもこれだけ色んな顔・形が集まったもんだ。もう何が基準か分からねえなぁ」
「遺伝的に似通った種族、まるでかけ離れた種族、縁もユカリも無い種族、コミュニ
ケーションも取れない種族、それから生き物か何だか分からない種族…」
「シッ!そんなこと言うと種族差別になるぜ。ここは銀河の多種族地帯だからな。み
んな認め合って行かなきゃ駄目なんだ。…少なくとも表向きはな」
 クックックッと一同が笑った。不思議と含み笑いは宇宙共通なのだ。
「じゃあ一度、親睦を兼ねて、銀河の美人コンテストでもやってみようか?どんな顔
ぶれが優勝するか見モノだぞ」
「そもそも何が美人の基準になるんだろうな。先ず眼は二つの場合が多いが、四つ、
六つってのもある。たまには三つもあるし、縦横三つずつのマルチ複眼もあるしな」
「あれが一番よく見えるって話だ。鼻は一つのが多いが、長さと穴の数は様々だな」
「レンコン型の鼻なんかバランスは良いけどなぁ。地球型の審査員には受けが悪そう
だ。それから口は顔面に大体一つだが、これも大きさや形や、歯の数や開閉角度がず
いぶん違うし…顔だけでも美醜を決めるのは並大抵じゃないよ」
「顔で善し悪しを決めるどころか、顔が無い場合だってあるからな。胴体にめり込ん
でるタイプや、手足の先に顔のパーツが一つずつ分散してるケースなんか、比べるの
が悩ましいだろう」
「そうなると、顔より心が基準って事になるかも知れない。知性の高い種族、心根の
優しい生命体って事にね」
「それでは詰まらんよ。外見より内面を見ろって言うなら、美人コンテストなんか最
初から要らないや」
「ふーむ、企画倒れか…。種族が違えば顔、形も違う。やっぱり普遍的な美人の基準
なんてありそうにないな」
 その時、後方から一人の老人が現れ出て、こう言った。
「いや、そんな事はない。美人の基準は存在する」
「何だ、ガリレオ爺さんじゃないか。良い年して好きだねぇ。あんたまだそんな事を
言ってるのかい」
「真理は常に真理だ。美人の基準は厳然と存在する」
「まだこんなこと言ってるよ。種族も好き嫌いも千差万別なんだから、そんな共通の
基準なんて有りゃしないよ。それに今時そんな発言すると、あの連中が……あっ、来
た!」
「お爺さん、また戯言を喋ってるのね。時代錯誤のミスコンを、しかも多種族地帯の
真ん真ん中で堂々とぶち上げるだなんて良い度胸だわ。さぁ、こっちへいらっしゃ
い。こってりと思想教育をして上げるから…」
 宇宙ミスコン反対同盟の「女性たち」が、老いぼれのガリレオ爺さんをぐいぐいと
引き立てて行く。他の男どもも気の毒がりながら、怖くて手を出せない。そして引き
ずられて行く爺さんだけが、せめてもの抵抗を試みていた。
「それでも…美人とブスは存在する!」
 そう……反ミスコン運動とミスコン反対者の在る限り、美人とブスは存在するに違
いないのだ。
                  (完)

2002年05月04日21時41分45秒投稿

S.S☆「コピーの果て」☆     あや太郎

 地球を飛び立った視察団は、遙か銀河の隅に位置するクローン人間ばかりの星に到
着した。
 ここでは数千年前から出産・育児などの煩わしい手間を省き、一部の優秀な「種」
から子孫を作る社会システムが確立していた。
 長年にわたり少子化に悩む地球人類としても大いに参考とすべく視察訪問したとい
う訳だ。
「しかし、こうやって見る限り、あまり同じ顔・形の人達ばかりではないようです
な。全く違うタイプの人も多いようだし」
「それは元になっている〔種〕が多いからですよ。最初は百万の単位でクローン種を
選定し、それぞれ何万の単位で増殖させてみました。その中から、有能な人材や眉目
秀麗な素質を振るい落とし、厳選に厳選を重ねて約一万種に絞ったという訳です。そ
れでも種の種類が一万あれば、滅多に同じ顔形には出会いませんよ」
「そうですねぇ。地球人だって原型は案外少ないのかも知れない。似たような顔は世
界中に居ますからな。それでクローン中心の社会や文明に何か弊害はありませんか
?」
 ここが気掛かりの知りたい所だ。
「いえ、特にありませんよ。突然変異で大きく変化しすぎたクローンは培養初期の段
階で排除されますしね。おおむね初代の良いところだけを受け継いでここまで来てい
ると言われています」
「その初代たちの姿というのはどんな風だったんですか?一度見てみたいもんです
ね」
「それが資料館の奥の院に保管されているらしいんですが、ほとんど誰も見たことが
ないんですよ」
「ほぉ、それは意外な話だ。本来なら肖像画や彫刻にして飾っておきたいところなの
に」「はい。そんな国民運動が起きた事もあるんですが、奥の院の管理者たちが門外
不出にこだわってましてね…」
 そう言われると、奥の院というのがやけに気になる。説明や資料文献では、別に宗
教的な意味合いはないらしい。むしろ古い映像資料などの保存状態が悪いので責任逃
れに公開を渋っているのでは…という見解が専らだった。
「やっぱり気になるなぁ……その奥の院ってのが」
「別に彼らのご先祖様を見たところで参考になるとも思えませんけどね」
「第一、クローンなんだから瓜二つか、そうでなくても似たり寄ったりでしょう」
「でも見せてくれないとなると、やはり見たいもんだ」
「何とか手は無いかね?…裏ルートでさ」
 魚心あれば水心……たとえ宇宙の彼方の文明でも、その気になれば手づるというの
はあるもので、視察団は希少品などを引き換えに何とか奥の院までたどり着いた。
「まぁ、部外者だし、はるばる遠方から来られたのだから、特別にお見せしますか」
 白髪、白髭の長老らしき人物が地球からの視察団のため、ついに門戸を開いた。
 そこには、なるほど現在この星に住む人々と似たような顔が並んでいた。しかしど
こか違うのだ。微妙に違うのだ。
「こう言っては失礼だが……ご先祖たちのほうが…みな立派に見えますねぇ?」
 立派と言えば無難だが、ハッキリ言うと「美醜」の点で差があるのだった。
「分かりますか。他の種族の方々から見ても、やはり現在の我々より、大昔の原型の
ほうが美男、美女に見える……それこそが門外不出の理由なのですよ」
「じゃあ美男美女が減っていると…?」
「我々はクローンですから、二代目、三代目…何十代目と細胞を受け継いでも根本的
には変わりません。大方は似たり寄ったりなんです。しかし何百世代もクローンを続
けると、やはり少しずつ微妙な差異やズレが出てきます。そして我々は後悔し始めた
のです。悔やまれるのは、初代のモデルたちが美男美女ばかりだったという事です」
「ほぉ…。なぜそれが悔やまれるんですか?」
「恐ろしい、皮肉な事ですが、美男美女は少し顔の造作が狂いだすと、とんでもない
ブス不男になりがちなんですよ。美男美女に近い分だけ、僅かの違いがやたらに大き
く見える。それでもそういう顔ばかり見て暮らしていると慣れてしまって、現代人は
それなりに自分たちの顔に納得できるようです。だがひとたび、この原型を見て、現
代人と見比べると、実際以上にその差が歴然として来るんです。いや、外見だけでは
なく、能力的にもその傾向が見られます。もしこの事実を世間に知らせれば我々の生
命力には悪影響がでるかも知れない。そこで我々の先人はこの原型モデルたちの肖像
を非公開に決めたのです。現代人たちが自信を失わないようにね。本物を見せさえし
なければ、ニセ物の悲哀は感じずに済みますからな」
「そんな悩みが出てくるんですか。いやぁ、参考になりました。我々地球人も以て銘
すべしですな」
 約束通り奥の院で見た事をクローンたちに話す事もなく、地球からの視察団は帰途
に着いた。
「そうか…。クローンは言わばコピーやダビングみたいなもんだからなぁ。やはり回
数を重ねると劣化して行くんですね」
「そう言えば、街なかで見た現代の住人たちも皆どこか陰が薄いような気がした。一
種のノイズやコピー・ミスが増えてるんじゃないですか」
「怖い話だが、そうかも知れない。知らぬ間にどんどん劣化して影が薄くなって、文
明が衰退して行くという訳だ」
「そう思って見てると、あの星自体も影が薄くなってますよ。ボンヤリと弱々しく
ね」
「なるほど。劣化する種族か。確かに過去やご先祖様を振り返れない文明というのは
寂しいもんだねぇ。それに比べると、過去を懐かしく振り返れる我々地球人は幸せか
も知れない。事ある毎に、昔は良かったなぁ…って言えるんだから」
「全くですね。やいこしいクローン技術なんかの無かった時代のほうが幸せだったか
も知れませんよ」
「あぁあ…昔は良かったなぁ。さぁ、早く故郷の地球へ帰るとするか…」
 地球人はまだ「種の劣化」は始まっていないかも知れないが、ひょっとすると「種
の老化」はかなり進んでいるようであった。
                  (完)

2002年05月03日21時47分51秒投稿

こんにちは、会員番号245番です。
 ここへやっと来ることが、できました。
 今気にいってるコマーシャルは、うーーーん。ないな。なんかいまいちおもしろく
ない。沢口靖子のは、気にいってました。やっぱり美人はいいなー。サラ金の宣伝が
多いのは、恐いですね。
 今日神戸は、サッカーでもりあがっていますが、うちの家からウィングスタジアム
まで、自転車で20分です。うちの親戚は、ウィングスタジアムの、東側で商売をし
ていますが、全然経済効果がないと言ってました。大きい試合があるときは、店をし
めることが多いそうです。午後2時から、交通規制が始まり、通行証がないと車が乗
り入れが、できなくなりました。知り合いのご主人は、市川選手の家庭教師をしてた
そうです、応援にいきはるそうです、私はサッカーに興味がないので、なんとも思い
ません。そこが、おもしろいのかわからないのです。野球、マラソン、テニス、みん
なわかりませんが。ずーっと、ヘリコプターが飛んでいます。取材でしょうね。震災
の時をおもいだしますね。

2002年05月02日20時24分40秒投稿

毎度、丸浜です。
5月から市のやってるスポーツジムに通う事にしたンやけど、申し込みに写真が要
る。
わざわざ撮るのも面倒やし、、と3月に免許更新した時の顔写真を貼ってある用紙か
ら剥がして使った。
入会のの手続きの時に後2枚写真が要りますって言われた。
そんなに更新の時の写真無いやんか?!
デジカメで撮ってプリントアウトするのも大層やし、、
そこらの写真で間にあわそ、誰の写真持って行こかな?

2002年05月02日13時27分31秒投稿

S.S☆「檻の中」☆     あや太郎

 男が目覚めると、何と檻の中に居た。
 しかもこれが初めてではないような気がした。
「何度も何度も閉じ込められた事があるような…そんな感じだが…」
 頭が痛い。何かの薬を嗅がされたみたいだ。恐らく鎮静剤のような物だろう。その
副作用でなかなか記憶がハッキリしないらしい。
「そうだ……あいつらに捕まってるんだ」
 獣のような声を思い出した。ライオンか何かが吠えるような声でいつも話しかけて
くるあのエイリアンたちだ。姿や形も無論地球人とは違う。言い様のない不気味な姿
だ。しかし言葉だけは何とか通じる。通訳係の何人かが達者な地球語を喋るのだ。か
なり以前から地球に降り立ち、地球の言葉を習得していたらしい。
「チクショー……密かに地球侵略を狙ってたんだな。あの大爆発だって、あいつらの
仕組んだ事に違いない」
 「大爆発」は一年ほど前に起きた。各国政府の発表では、世界中の原子炉がつぎつ
ぎ連鎖爆発を起こし、成層圏を死の灰が覆った。
「あのあと、急にUFO…つまりエイリアンどもの宇宙船が飛び回りだしたんだ」
 どこに隠れていたのか、それまで文字通り「未確認飛行物体」だった異星人達の乗
り物が公然と姿を現しはじめ、地上は大混乱となった。
「そのどさくさに紛れて、俺は予てから計画してた銀行のあの大金庫を破ろうと乗り
込んだ。銀行員も警備員もほとんど居なかったんで、仕事は順調に運んだんだ。とこ
ろが金を持って逃げ出そうとした時に、電子ロックが働いて分厚い金庫の扉が閉まっ
ちまった。中に閉じ込められて、ついに飢え死にかという頃、たまたまやって来たあ
のエイリアンどもに捕まったという訳だ。あとはこのガラス張りの檻の中に閉じ込め
られて、逃げだすた
びに鎮静剤を打ってはまた放り込む そんな繰り返しだ。チクショー、こんな事して

れない…。早く逃げ出して人類の仲間と連絡をとらなくちゃ…」
 男は「檻」に施錠された電子ロックに手さぐりと勘だけで挑んだ。
 何日たっても開かない。しかし時間を忘れるほど頭のなかは逃げだす事で一杯だっ
た。 そしてひと月以上たった頃、男はようやくロックの解除に成功した。ついに
「檻」から抜け出せたのだ。あとはこの収容所の外へ…娑婆へと脱出するのだ。
 各部屋のロックも厳重だった。地球人の生き残りたちと戦ってでもいるのだろう
か…警備兵がいないのを幸いに、男はまた何日もの時間をかけ一つ一つロックを外し
て行く。
 運良くどのセクションにも水と食料があり、トイレと風呂も探せばすぐ見つかっ
た。
 迷路のような通路を幾つもくぐり、何ヵ月もの時間をかけて、男はついに外部と出
入りする扉にたどり着いた。さすがに最後のロックは厳重を極めた。驚異的な情熱と
執念で、男は最大の難関に挑んだ。そして何と数週間のち、男はついに扉を破り、地
下基地らしき施設から懐かしい地上へと抜け出したのだった。
「やったぞ!ついにやった。これで仲間と連絡が取れる…」
 しかしその地上の光景は惨憺たるものだった。死の灰まじりの黒っぽい雪が降り積
もり息苦しい風が吹き、空は紫色の不気味な雲に覆われ、日差しは乏しく、人っ子一
人いない荒涼たる廃墟だけが見えた。
「遅かったか…。それにしても何てひどい事になってしまったんだ。全部あのエイリ
アンどもがやったのか…?!」
 そう叫んだ時、少し男の記憶が蘇ってきた。
「待てよ…。この光景は何度か見ている。つまり、俺が逃げだすたびに見てる光景
だ。
そうだ、地球は…!人間は…!」
 呆然と立ち尽くす男の頭上から、その時またあの「檻」が降りてきた。ガラス張り
の透き通った檻が…
「制限時間だ。これ以上、汚染された大気を吸うと危険なのでシェルターに回収す
る」
「そうは行かん!早く仲間の所へ行かなくちゃ…」
「仲間?もう仲間はいないのだ。なにせお前は唯一の生き残り地球人なんだから」
「あぁ〜、それを言わないでくれ!」
「すまない。そうだったな。あの大爆発も自分たちが起こした事故が原因で、その結
果この星の文明が滅びてしまったという事実も、思い出すには辛すぎるしな」
「あぁ〜…それも言わないでくれ〜。とうとう思い出してしまったじゃないか…!」
 悲痛な男の嘆きに、エイリアンたちも暫し声がなかった。
「この質問も何度か繰り返して来たんだろうな…。お前たちはどうして事故が広がる
前にこの地球を助けてくれなかったんだ?」
「我々宇宙を旅する者は、発展途上の生物に干渉してはイケないという規律を持って
いるんだ。だから救ってやる事は出来なかった」
「それなら何故オレの事も放っておいてくれないんだ?」
「だから言っただろう…。発展途上の生物には干渉しないって。だがもう地球にはお
前一人だ。これから繁栄する可能性は無い。だから最後の一人を保護…」
「あぁ、もう言わないでくれ!自分が最後の一人だと思うと空しくて気が狂いそうに
なる
んだ。頼む またあの鎮静剤を打ってくれ。そしてすべてを忘れさせてくれ!」
 男は希望通り、記憶を曖昧にする鎮静剤を注入され、おとなしく元の檻の中へ戻っ
ていった。生き残るために?標本になるために?最後の地球人として誇り高く滅びる
ために? また何ヵ月かが経ち、微かに過去の記憶が戻り始める頃、男はまた「希
望」を取り戻し決死の脱出を図るのであった。
                  (完)

2002年05月01日21時59分24秒投稿

NTTの51歳以上いったん解雇についてのニューを見てたら、「怒髪天をつく」と
いうプラカードを持った労働組合の人が写ってました。

 そのおじさんの頭には、怒髪がありませんでした。

                                 淀川のへり
くつ屋

2002年05月01日18時32分57秒投稿

【end of file】